無限と問題児   作:蛇龍好き

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サブタイトル良いの思いつかなんだ。
自己解釈要素あり。


〝ゆめ〟と〝あくむ〟と可能性

〝サウザンドアイズ〟―――白夜叉の私室。

無限王から観戦許可を貰った白夜叉は、ギフトゲーム〝ディフェンスバトル〟の一部始終を空間に開いた〝孔〟から見て唖然としていた。

何だ………アレは?

理解不能、といった調子だった。

〝フォレス・ガロ〟のリーダー、ガルド=ガスパー。

あれに与えた恩恵(ギフト)は疑似神格ではなかったのか?

〝インフィニティ〟という聞いたことのない恩恵。

いやそも、〝インフィニティ〟―――〝無限〟を権能として使用することはできないはず。

理由は簡単だ、〝無限〟を与えた者は誰であろうと〝全能領域(第三桁)〟級の力を得てしまうからだ。

身も蓋もない事を言ってしまえば、〝最下層(第七桁)〟の者ですら〝全能領域〟級の力を得られるということになる。

まあ尤も―――〝無限〟の霊格に自身の肉体が耐えられればの話だがの。

流石に〝全権領域(第二桁)〟は幾ら〝無限〟の霊格を手にしても、〝全能の逆説(オムニポテント・パラドックス)〟によって霊格が封印されるから無理だの。

〝全権領域〟に至るには、全ての権能をその身に収めるか。

私のような、生まれた時から存在する宇宙真理(ブラフマン)そのものか。

〝全権領域〟の者で、原初の星(わたし)と同世代の世界龍(あやつ)、そして〝サウザンドアイズ〟の旗印にもなっておる、私を天と地に解体した創世と終末の双女神のあやつら二人の四人は特に別格の存在だの。

それは兎も角。

無限王(あやつ)は〝無限〟を与えたのではなく、別の恩恵を与えているのは間違いないだろう。

〝インフィニティ解放〟の合図も、無限王(あやつ)がガルドに元々与えていた『何か』を解放する為のものか。

その『何か』については、全く心当たりがない。

だがあの身体能力は―――あの小僧もとい逆廻十六夜が無限王(あやつ)と力試しをしている際に見せたものと酷似している。

そしてその力をガルドだけでなく、あの小娘もとい春日部耀も使っていた。

無限王(あやつ)から力を借りた、とか言っていたがまさか昨日の段階で与えていたというのか?

もう一つ、無限王(あやつ)が造ったあの恩恵………〝無限の指輪(エターナル・リング)〟だったか。

あれは〝純血の龍種〟のデフォルト機能の一部である〝無から有を生み出す能力〟らしいが、これも恐らく別の恩恵だろう。

そも、そんな恩恵は造れないはずだ。

造れてしまっては、最強種の力の一部を誰もが振るえてしまうチート恩恵になってしまうからの。

………無限龍よ、おんしは一体何者なんだ?

白夜叉は真剣な表情で、黒い立方体から元の姿に戻っていた無限王を〝孔〟から覗き見る。

 

「無限王様は一体全体彼らに何をしたんですかね?あの戦いはどう考えても最下層のものではありませんよ!」

 

「そうだな、ラミア。だが私達では無限王の力を測ることはできないぞ」

 

「それは十二分理解していますよ、姉上。今でも、私にかけられた詩人達の呪いをどうやって封印しているのか見当もつきませんし」

 

「………?それはどういう意味なんだ?」

 

「そうですね。無限王様は『ラミアちゃんはどうしたい?』って聞いてきたので、私は『元の姿に戻りたい』って答えました」

 

「………ふむ。それでどうなったんだ?」

 

「はい。そしたら私の全身を眩い光が包み込んで、その輝きに思わず目を閉じたのですが………次に目を開けた時には、私の望んだ通りに―――〝元の姿〟に戻っていました!」

 

「なっ………!?」

 

まるで魔法みたいな出来事を語ったラミアに、愕然とするレティシア。

詩人の力に干渉することは〝全能領域〟の者であっても容易ではない。

それを容易く行えるということは無限王は―――

 

「あ、でも無限王様はこう仰っていました。『これはラミアちゃんが望んだ〝ゆめ〟がかつて見ていた〝あくむ〟を上書きしてるんだよ。でもそれが解けてしまったら君は再び〝あくむ〟を見ることになる。だから気を付けてね』と。どういう意味なんでしょうね?」

 

「………そうだな。私にもさっぱりだ」

 

〝ゆめ〟とか〝あくむ〟とかは恐らく別の意味を表しているのだろうが、敢えて他の言い方をしてるのは、無限王は意図的に何かを隠しているのかもしれない。

〝ゆめ〟はラミアの望んだ〝元の姿に戻る〟ことで。

〝あくむ〟は〝詩人達の呪いをかけられたラミア〟を指すはず。

そして〝ゆめ〟と〝あくむ〟は対極に位置した表現と取れる。

………ラミアの望んだ通りになった?

望み通りの結果が齎される恩恵。

そんなものがこの箱庭に存在していいのか?

仮にあったとして、そんなものを使用していいのか?

………いや、そんなことは私にとってはどうでもいい。

彼女の干渉がなければ、こうして最愛の妹に、ラミアとの再会を果たすことも出来なかったのだから。

三年前に、金糸雀達が箱庭を追放されたことを無限王の口から知らされた時は、この世の終わりかと思い絶望した。

詩人の力に対抗するには、同じ詩人の協力が必要だった。

その力を持つ金糸雀を失って、ラミアを取り戻すことなど不可能、二度と叶わないものだと諦めていた。

だが違った。

二百年前に既に、無限王の手によってラミアは救い出されていたのだからな。

それから今日まで、ずっと見守ってくれていたのだから気恥ずかしい。

恐らく私が〝ペルセウス〟に買い取られてからも、無限王の力でラミアに………ッ。

………そ、そういえばラミアは私のファンとか言ってたな昔。

…………………………、。

い、いや、実の妹が実の姉である私にそんなス、スト………ストーカー行為を働くわけない………よな?

ふと私の腕の中に収まるラミアを見つめる。

ラミアが私の視線に気づいて小首を傾げた。

 

「姉上?どうかしましたか?」

 

「………いや、なんでもない」

 

「???」

 

い、言えるわけない!

わ、私に〝ストーカー行為してないか?〟なんて!

よ、よし!この件は保留にしとこう!うん、そうしよう!

私はラミアの頭を優しく撫でながら思考を放棄した。

 

「………本当に仲が良いの、あやつら」

 

仲睦まじい吸血鬼姉妹を横目で見て、彼女達に聞こえないくらい小さな声で呟く白夜叉。

そして会話の内容に聞き耳を立てていた白夜叉は考え込む。

無限王(あやつ)がラミアを救った方法が、〝ゆめ〟を〝あくむ〟に上書きした、とな?

対象の〝ゆめ〟を叶え齎す恩恵。

………うむ、分からん!

そんな出鱈目な恩恵、聞いたことも見たこともないわい。

だが………この出鱈目な恩恵もまた万能ではないように思えるの。

それは、〝ゆめ〟が解けてしまうという点だ。

………もしや無限王(あやつ)が正体を隠していることと関係しているのか?

正体を知られるか、能力を知られるか。

その二つのどちらか、或いは両方看破されることで無限王(あやつ)は力を失い〝ゆめ〟が解けるということか?

だとするならば、やはり無限王(あやつ)の正体を突き止めねばならんの。

この推測が正しければ、私のこの行為はレティシアとラミアの仲を裂くことになる。

再びレティシアを地獄に突き落とすような結果になるだろう。

だがもし、無限王(あやつ)が箱庭の脅威になる可能性があるのならば、早めに対処せねばならない。

もう二度と、あのような愚行を繰り返さない為にも。

私はこの箱庭の都市(世界)が大好きだ。

故にこそ、この箱庭の都市(世界)を守る為ならば手段は選ばない。

仮令(たとえ)その選択が、外界を見捨てるようなことであってもな。

 

 

 

 

 

〝フォレス・ガロ〟―――本拠地。

ギフトゲーム〝ディフェンスバトル〟を終えると、参加者の飛鳥・耀・ジンと観戦者の十六夜、観戦兼審判者の黒ウサギは黒い立方体の中から地上へと跳ばされた。

そして黒い立方体だったものは形を変えて、真っ黒い少女もとい無限王の姿となり、飛鳥達の下へ降り立って、

 

「やあ君達。ゲームクリアおめでとう!」

 

「おめでとう、ではないわよ無限王さん!?」

 

「ん?」

 

「ん?でもないよ、ウーちゃん!」

 

「………?」

 

「小首を傾げてとぼけるのもなしだぜ、無限王サマ?」

 

「……………」

 

「黙りも許さないのですよ、無限王様!」

 

「さ、流石に僕も先程のギフトゲームには文句を言いたいです!」

 

女性陣+ジンの怒りの籠ったような目と、ニヤニヤするものの目が笑ってない十六夜が無限王に視線を向ける。

無限王は何故自分が責められるのか分からないといった調子で小首を傾げた。

 

「………私の用意したゲーム、そんなにつまらなかったの?」

 

「つまらなかったわけではないわ。だけれど貴女、あの外道を強くし過ぎよ!そのせいで死にかけたじゃない!」

 

「私も、あの外道に力一杯ぶん殴られて死ぬ程痛かった」

 

「僕も、あの時飛鳥さん達が死んでしまうのではないかと気が気じゃありませんでしたよ!」

 

「あー、うん。たしかにガルド君を強くし過ぎた件で君達の命を脅かしてしまったことには謝るよー」

 

謝る気ゼロである。

無限王のその態度に、飛鳥達三人は蟀谷に青筋を立てる。

しかし無限王はスッと目を細めて言った。

 

「だけどさ君達。何処の傘下のコミュニティに喧嘩を売ったのか、覚えてる?」

 

「………?外道の背後にいる魔王のこと?」

 

「そう。その魔王は箱庭上層の〝全能領域〟に席を置く強力な存在だよー………さっきの私が強くし過ぎたガルド君とは比べ物にならないくらい遥かに、ね?」

 

「「「―――――っ!!?」」」

 

その話を聞いて、飛鳥達三人は戦慄した。

さっきの外道より更に………?

そのことを知っては勝てる気がしない。

飛鳥達のその反応に、無限王は意地悪く笑い続ける。

 

「そんな魔王の傘下に喧嘩を売ったんだし、〝全能領域〟を相手に勝てる気満々なんだなあーと思ってね、ガルド君を思い切って強くしてみたけど………あの程度にすらやられてたから吃驚(びっくり)したよー。いやー、無知って怖いね!」

 

「「「……………、」」」

 

図星を突かれて言い返せない飛鳥達。

言い方が一々癇に触るが。

すると意外な人物が無限王を睨み付け、

 

「さっきの虎男の力があの程度だと?」

 

「ん?どうして君が怒るのかな十六夜君?」

 

「ハッ、何とぼけてやがるんだよ。あの虎男の力―――俺並みにしたのはすぐに見抜けてんだよ」

 

「え?」

 

十六夜の言葉に驚く黒ウサギ。

たしかに十六夜さんの身体能力に匹敵するとは思っていましたが、そういうことだったのですか!?

無限王は「ふうん?」と満足気に笑って二度三度と頷いた。

 

「マーベラス、大正解だよ十六夜君。やっぱり君は聡いねー。そうだよ、ガルド君の力は十六夜君級にして耀ちゃん達を試したんだよー」

 

「よ、耀ちゃん………?」

 

無限王にちゃん付けされて困惑する耀。

そんな耀ちゃんをスルーして無限王が続ける。

 

「最初は飛鳥ちゃんの力、〝疑似神格〟級にしようかなーと思ったけど………鋭い十六夜君に読まれるだろうと思って変更したんだ。魔王の力がどれくらいかを経験してもらうのも兼ねてるけどね」

 

「俺も最初はそうくると踏んでたぜ。流石に俺並みにするとは思わなかったが」

 

「本当にぃ?」

 

「あん?」

 

「君なら〝みっちり〟の意味を理解して更に裏の手を使ってくると予想してたんじゃないの?」

 

無限王がニヤニヤと笑いながら十六夜を見つめる。

十六夜は観念したように肩を竦めて苦笑し、

 

「………まあ、俺並みにしてくることも予想はしていたさ。だが春日部という無限王の友達が参加者にいるから、流石にこれはないかもしれないと切り捨てたんだよ」

 

「へえ?流石は()()()()()()()()()君だねー、お優しいことで」

 

「―――ッ!?テメェ、何でその事を知って!?」

 

「え?本当にそうなの!?それは意外だなー」

 

「………あ?」

 

「ん?どうしたの、十六夜君?」

 

「………いや、なんでもねえよ」

 

「………ふうん?まあ、いいや」

 

無限王は意味深な笑みを浮かべて十六夜から離れた。

十六夜は、不可解とばかりに無限王を睨み付ける。

本当に知らないなら、〝面倒味の良い〟って言うはずだが、〝年長者〟まで言ったんだ、間違いなく無限王(こいつ)は俺の事を知ってる。

………まさか、金糸雀の死も………?

そう思った瞬間―――

 

 

『―――そんなに警戒しなくても大丈夫だよ十六夜君♪君が黒ウサちゃんに隠している事をバラすような真似はしないからさ♪』

 

 

……………っ!?

 

 

『アハハ、驚いてるね十六夜君。どうして私の声が、君の脳内に直接響いているのか意味不明でしょ?』

 

 

当たり前だクソッタレ!てかいきなり脳内に直接話しかけてくるなよ流石の俺でも吃驚したぞコラ。

 

 

『ごめんごめん、そう怒らないでよ十六夜君。黒ウサちゃんのウサ耳は超高性能だからこういう方法を取るしかなかったんだよ』

 

 

………まあいい。んで、金糸雀の死もアンタは知ってたんだな。

 

 

『勿論!十六夜君はカナちゃん達の希望であり―――私にとっても君はキボウなのだよー十六夜君だけに』

 

 

くだらねえオヤジギャグかますなクソトカゲ。俺が金糸雀やアンタの希望?そいつはどういう意味だ?

 

 

『フッフッフッ、それはまだ秘密なのだよ。時が来たらちゃんと教えてあげるから、今は私が用意する試練を乗り越えつつ箱庭の世界を堪能したまえ!』

 

 

ふうん?後で教えてくれるならいいや。アンタに言われるまでもなく俺は俺で箱庭ライフを堪能するつもりだからよ。てか試練を用意するとか言ってよかったのか?

 

 

『うん、問題ないよー。言わなくても君にバレるだろうから先にバラしておいただけだからね』

 

 

それもそうだな。俺はアンタと俺の関係性や―――アンタの()()()()も暴かねえとだしな。

 

 

『…………………………え?』

 

 

あん?何呆けてんだよ?

 

 

『あ、いや………私、なんかボロでも出したかなー………って思って』

 

 

………ああ、そういうことか。アンタがウロボロスじゃないってことは気づいてたぜ。金糸雀と違ってアンタは俺と箱庭内で知り合っただけの関係なのに、どうして俺の事を知ってたんだ?答えは簡単だ、俺とアンタは何かしらの繋がりがあるからじゃねえか?全知に〝正体不明(コード・アンノウン)〟と判定された俺に直接干渉出来るのも、つまりはそういうことなんだろ?

 

 

『………ふふふ、成る程ねえ。これは完全に私の失態だなー………あーあ、失敗失敗。その通りだよ十六夜君。私と君は繋がっているんだよ、物的干渉以外を無効化出来る能力を持つ君に直接干渉出来るのも、つまりはそういうこと』

 

 

へえ?物的干渉以外を無効化か。それってつまり物質的な効果を齎す恩恵以外は効かないってことだろ?ならどうしてアンタの―――()()()な効果のはずの恩恵が俺に通用してるんだ?

 

 

『………それは―――』

 

 

「―――十六夜さん?無限王様と見つめ合ったまま黙りしてどうなさいました?」

 

 

今良いとこなんだよ、邪魔すんな駄ウサギ。

 

 

「まさか十六夜―――ウーちゃんのこと好きなの?」

 

 

んなわけあるか。どういう思考回路してんだ春日部。

 

 

「十六夜君って小さい子が好みだったのね。面倒味の良い年長者………成る程、そういうこと」

 

 

何納得してんだよお嬢様。何勝手に幼女好き(ロリコン)にしようとしてんだコラ。

 

 

「えー?残念ながら十六夜君は私のタイプではないかなー」

 

 

そしてお前も乗ってんじゃねえよクソトカゲ。つか俺の方が願い下げだ、 全然好みの〝こ〟の字も入ってねえわ。

 

 

「いや、なに。俺にも超素敵プランを用意してくれねえかなーて思ってな」

 

無限王(あっち)が話をはぐらかしてきたから、俺も変な誤解が確信に変わらねえように誤魔化しとかねえとな。いや、誤魔化すも何も、春日部達の思ってるような内容は一切話してないけどな。

 

「超素敵プラン?」

 

「あー、十六夜君にも強力な敵を用意しろってことだよね?」

 

「ああ。春日部やお嬢様だけ狡いぜ。俺並みか、贅沢言えば俺以上の敵と戦ってみたい」

 

「んー、十六夜君は人間離れした出鱈目な身体能力と強力な恩恵を持ってるからなー。〝神域級(第四桁)〟以上じゃないと君を苦戦させる相手はいないかなー」

 

四桁?つまり俺を楽しませられる相手は白夜叉並みってことか?

すると、俺を見ながら黒ウサギが驚きの声を上げる。

 

「〝神域級〟って、箱庭上層じゃないですか!?十六夜さんってば人間なのにその領域でございますか!?」

 

「そうだねー。下層じゃまず、十六夜君は敵なしかなー。中層クラスなら手応えのある相手はいるかもだけど………苦戦させる相手はいないかなー」

 

「あら、やっぱり十六夜君は別格なのね。私や春日部さんでは足元にも及ばないわ」

 

「ウーちゃんから力を借りないと十六夜並みになれない私も、そうだよね」

 

「んー、飛鳥ちゃんは自分の力を理解したばっかだから伸ばさないと強くはなれないよ。耀ちゃんに至っては、孝明君から譲り受けた力の詳細を教えてないからねー。君達はこれから強くなっていく方なだけだよ」

 

無限王の言葉に、複雑な表情を見せるお嬢様と春日部。

そうだな。お嬢様はそもそも自分の力を誤解してたわけだし、伸び代はまだまだある。春日部の場合は自分の手にした力すら把握出来てないんだからな。こいつらが何れは俺に匹敵する可能性だって0ではないわけだ。

 

「―――ああ、そうだ。耀ちゃん」

 

「なに?」

 

「〝ゆめ〟から覚める時間だよ」

 

「………え?」

 

唐突に無限王が春日部にそう言うと、パチンと指を鳴らし―――

 

「―――――ぁ、」

 

糸が切れた操り人形の如く、春日部は急に倒れ込んだ。

なんだ?何が起きた?無限王は、春日部に何をしやがったんだ?

悲鳴を上げて黒ウサギ達が春日部に近寄ろうとするが、春日部自身がそれを右手で制す。

 

「………ウーちゃん?私に、何を………したの?」

 

「何もしてないよ。ただ、君に見せていた〝ゆめ〟を解いただけかな」

 

何かしてんじゃねえか。見せていた〝ゆめ〟を解いた?それはつまり、春日部が俺並みの力を手にした虎男に勝てる力を手にした自分自身―――その正体こそが無限王の見せていた〝ゆめ〟ってとこか?

 

「どうし、て………?」

 

「たしかに耀ちゃんは私を求めてくれたけど、私の力は簡単には手に入らない上に―――実現不可能に近しいものだからね。本来振るえるはずのない力を使った、その代償をこれから君に支払ってもらうだけだよ」

 

「だい、しょう………?」

 

「そう。耀ちゃんには〝あくむ〟を見てもらうんだよ」

 

「あく、む………?」

 

「うん。しばらくの間ね、耀ちゃんは恩恵を失う。それが君の〝あくむ〟だよ」

 

「―――――っ!?」

 

春日部はその意味を理解して、全身を震わせた。

恩恵を失う、だと?それが無限王の力を使った者の代償だっていうのか?〝ゆめ〟が実現不可能なことを可能にし、〝あくむ〟は手に入れた可能性をも否定し現実を見させるものだっていうのか?

なら今の春日部は、力を手にする以前の春日部ってことか?だが今の春日部はまるで―――両足で立つことすら出来ない病弱な子供じゃねえか?

そんな弱々しい春日部に寄り添い、無限王が優しく抱きしめて耳元で囁いた。

 

「大丈夫だよ。この〝あくむ〟はずっと続くわけではないから。明日になったら、この〝あくむ〟から覚めるからね」

 

「………本当に?」

 

「本当だよ」

 

「本当の本当に?」

 

「本当の本当だよ」

 

「本当の本当の本当に?」

 

「本当の本当の本当だよ」

 

「………分かった。今日のところは、この〝あくむ〟を受け入れるよ」

 

「ふふふ、いい子いい子」

 

春日部の頭を優しく撫でる無限王。

子供扱いされてやや不機嫌そうな顔をする春日部だが、頬を赤らめてるから満更でもなさそうだ。

無限王の力を使うと代償を払う必要があるのか。まあでも、簡単に強力な恩恵を手に入れられたらそれはそれで面白味もねえからな。

 

「ちょっといいかしら、無限王さん」

 

「んー?何かな飛鳥ちゃん?」

 

「あ、貴女にちゃん付けは抵抗があるのだけど………まあ、それは置いておいて。私も貴女から恩恵を受け取ってるのだから、〝あくむ〟を見ないといけないのかしら?」

 

真剣な表情で無限王に訊ねるお嬢様。

成る程な。たしかにお嬢様も無限王から恩恵を貰っていた。春日部のような〝あくむ〟を見せられる対象になりそうだが―――

 

「んー、飛鳥ちゃんの場合はギリギリセーフかなー」

 

「え?」

 

「耀ちゃんの時とは違って、飛鳥ちゃんには〝ゆめ〟を見せてるわけではないからね。可能性を与えてるだけだよ」

 

「………可能性?」

 

「そう、可能性。私の与えたその指輪だけじゃ、戦いにすらならないのが証拠だよ。〝ゆめ〟なら飛鳥ちゃんも単独で十六夜君に匹敵する力を振るえるようになってるからね」

 

「………そう」

 

へえ?お嬢様の場合はギリギリセーフなのか。まあでも、お嬢様の恩恵なしでは使い物にならない力だしな、あの指輪。

………さて、今のうちに無限王の力を把握しておくか。

一、対象に〝ゆめ〟を見させる能力。

二、対象に〝あくむ〟を見させる能力。

三、対象に可能性を与える能力。

〝ゆめ〟は対象が望んだ力を与え、〝あくむ〟は対象が望まない力を与える。そしてどちらでもないあくまでも可能性止まりの力を与える、と。

………〝ゆめ〟と〝あくむ〟は相反した能力だな。この力を言い換えるなら―――理想と現実。ふうん?この能力が無限王の正体を暴く鍵になると嬉しいが………これがどうして俺と繋がりがあるのかは分かんねえな。

理想と現実。〝正体不明〟の恩恵。俺と無限王。………これじゃあまだ核心には至れそうにないな。まだまだ情報を集めねえとな。

 

「あーそうそう。飛鳥ちゃん」

 

「何かしら?」

 

「耀ちゃんの面倒を見るの、お願いね」

 

「へ?」

 

「君は耀ちゃんの、最初の友達なんだからそれくらいはしてあげるよね?私が面倒見てあげたいけど、残念ながら〝ノーネーム〟の一員ではないからさ」

 

「……………」

 

春日部がお嬢様を見つめてる。

対するお嬢様は、頬を掻いて照れくさそうにしてる。

すると黒ウサギが自信満々に主張してきた。

 

「耀さんの面倒はこの黒ウサギに」

 

「やだ。飛鳥がいい」

 

即答。黒ウサギはガクリと膝を突いて項垂れた。

容赦ねえな春日部。

 

「だ、だけど私って非力じゃない?十六夜君なら」

 

「………。十六夜は………なんか危険そうだからやだ」

 

「なんか危険そうってどういう意味だコラ」

 

「あはは、そのままの意味じゃない十六夜君?」

 

そのままの意味って、まさか俺が春日部を襲うとかそんなこと思ってんじゃねえだろうな?

 

『その通りだッ!!』

 

その通りだ、じゃねえよクソトカゲ。俺にそんな趣味はねえよ。もう少し大きくなってから出直して来やがれ。何がとは言わねえが。

 

『十六夜君のへーんたーい♪』

 

………よし、このクソトカゲはスルーしようそうしよう。

 

『あはは、冷たいなー十六夜君は。まあ、別にいいけど』

 

……………。

 

「………わ、分かったわ。そこまで言うのなら、私なんかでよければ春日部さんの面倒を見てあげようじゃない………っ!」

 

「うん。よろしくね、飛鳥」

 

そう言って春日部は両手をお嬢様に差し出す。

お嬢様はそれが何を意味してるのか理解出来ないのか困惑している。

 

「『私、立てないから抱っこして!一生のお願い!』って春日部がおねだりしてるぜお嬢様」

 

「へ?そ、そうなの春日部さん?」

 

お嬢様が訊ねると、春日部は顔を赤らめたまま黙って小さく頷いた。

お嬢様は頬を赤らめると、春日部の前に歩み寄る。

 

「わ、私の力では抱っこは厳しいわ。お、おんぶでいいかしら?」

 

「………うん」

 

春日部が頷くと、お嬢様は春日部をおんぶした。

 

「飛鳥」

 

「何かしら?」

 

「重くない?」

 

「平気よ。春日部さん、ちゃんとご飯食べてる?」

 

「食べてるよ」

 

「そう。それならいいわ」

 

お嬢様が春日部をおんぶし、二人はそんな会話をしていた。

 

ふうん?成る程ねえ。そういうことか。

 

『何がそういうことかなの十六夜君?』

 

いやなに、これがアンタの作戦なんだなあと思っただけだぜ?

 

『あはは、なんのことかな?』

 

惚けるなよ。単独で魔王に立ち向かえる力を持たないお嬢様と春日部の二人の仲を良くするために、わざと春日部の恩恵を封じただろ。

 

『………へえ。面白い解釈だね。それだと私の力を代償なしで使えるってことになるけど?』

 

いいや、流石に代償なしはねえだろ。それらを込みで、仕組んだんじゃねえのか?今回のギフトゲーム。みっちり特訓はフェイクで、二人の仲を深めさせるのが本命………違うか?

 

『ふふふ、まあそういうことにしといてあげるよ。……………まったく、君は本当に聡くて困る』

 

あん?なんか言ったか?

 

『ううん、なんでもないよー』

 

………まあいいや。

 

「さあて、私はラミアちゃんと合流するかな。まったねー」

 

「え?」

 

「うん、またね、ウーちゃん」

 

無限王は手を振ると、パチンと指を鳴らして姿を消した。

あのクソトカゲ、都合が悪くなったから逃げやがったな?ということはつまり、俺の予想は的中したってことでいいんだな?この調子でアンタの化けの皮も剥いでやるから覚悟しとけよ。

 

それから俺達は〝フォレス・ガロ〟が奪った名前と旗印の返還を行い、御チビ様の名前を売って〝ノーネーム〟に戻っていった。




白夜叉→世界(ほし)そのもの
世界龍→世界(うちゅう)が存在するのに必要なエネルギー
双女神→世界(せかい)を構成する片割れ同士

〝ゆめ〟と〝あくむ〟は対極。

〝ゆめ〟の代償は〝あくむ〟。
耀ちゃん一時的に恩恵を失う(もとい封印される)。
可能性止まりはギリギリセーフらしい。
耀ちゃんと飛鳥ちゃんの仲深め計画(百合ではない)。
無限王と十六夜の関係性とは?

次回は吸血姫姉妹の訪問と招かれざる客

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