Fate/Kaleid Schmetterling 作:ひでぶ
近年、“虫”という超常の怪物の噂が、巷でまことしやかにささやかれている。人がもつ願望、希望、理想と言った類のモノ、すなわち夢を喰うために人間に寄生し、代わりに超常の力を与える存在。その“虫”に取り憑かれた者達を虫憑きと呼びあらわす。これらは単なる噂などではない。虫憑きは現実に存在する。
特別環境保全事務局。通称、特環はその虫憑きを捕獲、管理する役割を担う政府組織だ。では、彼らは一体どうやって虫憑きを捕獲しているのか。
答えは簡単だった。
目には目を、歯には歯を。化け物には化け物を。
いちいち自衛隊を出動させていては人目に付きやすすぎる上に、費用が掛かりすぎるということもあったのだろう。そういった理屈もあり、特環は捕獲した虫憑きをハンターに仕立て上げる事で、同じ虫憑きを狩るというシステムを持っていた。
当然、ハンターとして使役する以上、局員とする虫憑きは結果を持ち帰って来てくれなければならない。害獣駆除のために飼っている猫が、ネズミにかまれた程度で逃げ帰ってこられては意味がないからだ。その為に、特環は出来るだけ強い虫憑きを選定して局員とした。その上で、彼らに自身の力の使い方を指導し、何も知らない在野の虫憑きよりも有利に戦えるように仕立て上げるのである。
ここはそのための空間。
だだっ広い、五十メートル四方はあろうかと言う、電気光で真っ白に染まった四角い部屋に通された士郎と凛は、目を瞬かせた。
士郎と凛は並んで部屋の中央に向けて歩を進めていく。特環支給の黒いブーツが床を叩く音だけが、四方から反響してくる。
ただただ、殺風景である。天井は高く、軽く三十メートルはあるのではなかろうか。特殊素材で出来ているのだろう白い硬質な壁や床、天井は生半可な衝撃ではびくともするまい。確かにここは、戦闘訓練をするのにうってつけの場所と言える。
空戦も行えるようになっている、と言っていたことも納得がいくというものだ。地下にこれほどの空間を作り上げる特環の技術力に感嘆の念が漏れる。
とはいえ、
「五郎丸さんもいっていた“教官”って何者なんだろうな」
この部屋に入る前にばったりと出くわした五郎丸柊子にも聞いてみたのだが、何分新人なので詳しいことはわからない、と煙に巻かれてしまった。慌ただしそうにしていたので、手間をとらせるのも申し訳なくなり、問いただす事も出来なかった。結局、教官なる人物の実態はつかめていない。柊子から聞いた限りでは虫憑きであるようなのだが、昨日の土師圭吾の言葉もあってその人物像に不安を抱かざるを得ない。
だが、凛は既に開き直っているようで、捨て鉢に鼻を鳴らした。
「なんだっていいわよ。一応ここからやるのは訓練なわけなんだし、厳しいこと自体は望むところっていうか」
「いや、俺だって訓練は厳しい方がありがたいとは思うけどさ。それでも、アイツの態度が引っ掛かるっていうか……」
等と会話していると、部屋の入口の金属製の自動扉がスライドする音が耳に届いてくる。
それに凛と士郎が振り返ると、その先に奇妙な風体をした人物がこちらに歩み寄ってきているのが目に入った。
その人物は予想していたよりもかなり小柄で、屋内だというのに黄色い雨合羽なんかを着込んでいる。その背には長い棒状の物を背負っており、近づくにつれ鮮明になってくるその顔はかわいらしい、と形容していいだろう少女のモノだった。その口には棒付き飴が加えられており、童顔のイメージに拍車をかける。
というよりも、この一度見たら忘れられないインパクトを残す姿の人物と士郎たちはすでに接触したことがあった。
「君は、あの時コンビニで会った……」
「ふむ。会うのは二度目になるのかな。ボクは特別環境保全事務局、異種三号指定の“あさぎ”という」
士郎と凛から一間ほどの距離のところでその人物は立ち止まり、やけに偉そうな口調で名乗り上げた。それは紛れもなく、先日の作戦の折、桜の居場所を士郎と凛に伝えたカッパの少女だった。
しかも三号指定。支部どころか特環全体でも上位に入るような大物である。しかし、その肩書きに相反してこの少女の纏う雰囲気は弛緩している。瞼を重そうに持ち上げているその姿は、気抜けする程に幼かった。
その少女に対して、凛が訝しげに問いかけた。
「ここに来たってことは貴女が私たちの教官、ってことになるのね。でも、貴女は東中央支部の局員ではないと思っていたけど」
「そうだね、その通り。ボクは確かにここの局員じゃない。普段は各地を回って特環の虫憑きを鍛えているからねー」
「鍛えている?」
その、おおよそ特環の局員らしからぬ言葉に凛が小首をかしげている。
士郎も同じ心境であった。特環の局員の役割は大まかに三つに分けられる。
一つは戦闘班。文字通り、在野の虫憑きに対して行動を起こす実行部隊である。
次に監視班。これは諜報がメインとなる局員で、虫憑きとなる可能性のある人物を見張ったり、他の勢力にスパイとして忍び込んだりするのが主である。
そして、情報班。特環の機密や情報を管理する部隊で、大体が機械を操るのに適した能力を持った虫憑きが所属していると聞く。
だが、彼女の役割はそのどれにも当てはまらない。おそらくそれが以前の作戦に関与できた理由なのだろうが、一体どういうことなのか。
「ボクの仕事は、各地を巡って有望な虫憑きを特環にスカウトすることなのだよ。それに付随して、虫憑きの戦闘訓練の教官も任されているという訳さ。今回は資金稼ぎのアルバイトみたいなもので、キミたちの指導を任されたわけだ。細かい事情は説明が面倒なのではぶくとするよ」
「なるほどね。土師が教官として有能っていってたのはそういうことか。その道一本でやってるスペシャリストって訳。納得がいったわ」
“あさぎ”の言葉に、凛が感心した様子で零した。
しかし、本人は説明を省いたものの、三号指定という高い階級にありながら戦闘班にも監視班でもない、ということは何か理由があるのだろうか。いずれにせよ、彼女が士郎と凛の戦闘訓練を行ってくれるらしい。
「で、訓練って一体何をやるんだ? 一応、俺も遠坂も戦える用意だけは整えてあるんだけど」
今の士郎と凛は特環の装備を纏った状態である。また、彼の肩に引っ掛けている棒状の入れ物の中には冬木から立つ前に“空架”から受け取っていた新たな得物が収められていた。
凛も出がけに宝石のストックを持ち出していたので、万全と言える状態だろう。
“あさぎ”は勿体ぶるように間を置くと、やおら口火を切った。
「ま、今日は初日だからねー。まずはキミたちの腕前を見せてもらおう」
「ってことは模擬戦をするってこと?」
凛の問いに、“あさぎ”が首肯する。
「そうなるね。形式としては簡単さ。模擬戦の開始時から一定時間、ボクは能力を使ってキミたちから逃げ続ける。時間内にボクに攻撃を防御させるか、当てることが出来れば次からはそれに応じた訓練を用意しよう。できなければ基礎から徹底的にやらせてもらう」
「逃げるって……。それは模擬戦っていうのか? もっと叩きのめされてしごかれていくモノかと思ったけど」
知らず、士郎の口から疑問がこぼれる。
土師の思わせぶりな口ぶりからして、肉体的に痛めつけられるような訓練かと思ったがそういう訳でもないらしい。いや、これは彼の模擬戦のイメージが格上に挑みかかっては打ち倒され、また再度。ということを繰り返すモノ、というイメージが強い所為か。
すると、士郎を見やった“あさぎ”は薄笑いを浮かべてかぶりを振った。
「ただ叩きのめされるだけで得られることは、格上と対峙した時の心構えだけさ。これから教えるのは戦い方だから、その工程はあまり必要ないかな。だから、まずは地力があるかを見させてもらう。なぜボクが逃げ回るかというと、キミたちが相手をすることになるだろう虫憑きもまた、特環から逃れようと必死になっている者が大半だからだよ。まずは、逃げる相手に確実に攻撃を当て、足を止められることが求められるのさー」
「……主旨は理解した」
逃げようとする虫憑きの相手をするのが大半、という“あさぎ”の言葉に若干顔をしかめつつ士郎は理解を示した。
とはいえ、茫洋とした風貌からはあまり想像できないが、それなりに訓練内容は練っているようだ。土師の様子からどんなゲテモノが飛び出すか心配だったが、教官として優秀だというのは間違いではないように思える。
その“あさぎ”は、相変わらず緊張感のない声色で尋ねてくる。
「ほかに何か聞きたいことはあるかい?」
「じゃあ一つ」
どこか品定めするように“あさぎ”を見据えながら、凛が声を上げた。
そんな凛の様子もまったく一顧だにしていない様子で、“あさぎ”は間延びした声で応じる。
「なんだい? 何でも聞きたまえー」
「これは確認なんだけど。地力を測るって言ったわね? そこから察すると私たちは“全力”でかかった方がいいのかしら」
「当然。そうじゃないと意味がない」
むしろそれ以外にどうするつもりだったのか、と“あさぎ”は呆れたように息をついている。それはませた幼い少女が父親に向かって、デリカシーが無いのね、と説教するかのような和やかな姿であった。
だが、その緩みきった雰囲気は一瞬にして豹変する。
「ボクに遠慮している、というのならそれは余計な気遣いだよ。気兼ねはしなくていい、全力で来たまえ」
薄く細められた“あさぎ”の瞳が士郎たちを貫く。
内臓に刃物を押し当てられているかのような感覚に、士郎はおろか凛すら凍りついていた。
見ている空間が歪んでいくかのような錯覚を覚える。凄まじいまでの気迫。舌の根が乾いていくのが分かる。
何だアレは。まるで先ほどまでとは別物。いや、それは間違いか。おそらく、“あさぎ”はアレが素なのだろう。
例えるなら、先ほどまでの彼女はマタタビに酔っていた獅子のソレだ。酔っている間は、飼い猫同様に戯れ、地に転がる。だがそれも酔っている間だけだ。いくらその姿に親しみを感じようが、獅子は獅子。酔いがさめれば、本来の在り方を取り戻す。それと同じである。
空間にべったり糊付けされてしまったかのように、体の自由がきかない。いやな汗が士郎の背を伝って落ちていく。これが蛇に睨まれた蛙と言う奴か。見事なまでに彼は“あさぎ”と言う人物を読み違えていた。素晴らしい猫の被り具合である、と褒めてやりたい気分だ。
固まって動かない。のではなく動けない両者を前に、“あさぎ”は空間を締め付けるほどの緊張をふっと霧散させる。
「そう固まられると、始めるに始められなくなってしまうなー。加減は不要、ということを伝えたかっただけなのだよ。訓練自体はボクが逃げ回るだけだからそう構えなくていい」
「……アレだけの殺気叩きつけておいて構えるなってのが無理ってもんよ。貴女、ほんとに三号指定なワケ?」
胡乱気に目を眇め、凛は口をとがらせた。
彼女の質問は、“あさぎ”は三号指定に足りていない、とするものではない。むしろ、その逆だろう。あの殺気は尋常ではない。三号指定は十二分に強力な虫憑きと言えるが、“あさぎ”はそこに収まっているような人物とは士郎には思えなかった。
「ウソを言っても仕方がないだろうに。ボクは戦士になり損ねた落伍者だからね。これぐらいが丁度いいのだろう」
小さく首を竦めてそう語る“あさぎ”の瞳には、僅かばかりの憂いが混ざっていた。
しかし、戦士になり損ねた落伍者、とはどういう事か。彼女で落伍者なら虫憑きの大半は落伍者以下であるように思えるのだが。
思案する士郎を余所に、“あさぎ”は語を継いだ。
「では、そろそろ始めようか。制限時間は、そうだな」
ごそごそと懐をさぐり、“あさぎ”はそれを取り出した。
小さな白い棒に、丸くて青い球が引っ付いた、いわゆる棒付き飴である。
「ボクがこのキャンディーを舐め切るまで、というコトにしよう」
それまで舐めていた飴が無くなったのを確認した“あさぎ”は、棒だけになったそれを携帯灰皿のような小さい銀色の筒の中に収める。
いや、エチケットとしては正しいのだが、棒付き飴にその入れ物はちぐはぐではなかろうか。
「オーケー、いいわ。やってやろうじゃない。全力って話だし、少し申し訳ないけど力を借りるわ」
誰に対する言葉なのか。それはおそらく“あさぎ”に対する啖呵であり、士郎に対しての信頼であり、“凛”自身に向けた謝罪であろう。宣誓するように口走る凛の傍らに、全身が紅玉石で構築された“虫”が出現する。ベニモンアゲハと呼ばれる昆虫によく似たソレが、重力を感じさせない軽さでゆらゆらと浮遊した。
その様子をゆったりと観察しつつ、“あさぎ”が口を開く。
「分離型。宝石で出来ているね。珍しいタイプだ。中央は表層だけを見て無指定と定めたのか、他に理由があったのかは知らないけど良い力の波動を感じる。育てがいがありそうだ」
「それはどうも」
苦笑を浮かべて凛が返す。
しかし、“あさぎ”の観察眼。いや、彼女の“虫”の能力かもしれないが、中々大したものである。一見、“凛”の“虫”はそれ単体では宝石の頑強さを持つだけの、戦闘能力皆無に等しい存在だ。
だが、その裡に内包した力は尋常ではない。なにせ魔法に指を掛ける神秘を行使する“虫”である。全体の魔力総量は想像もつかない。その上に、ソレが宝石で構築されている以上、宝石魔術を扱う凛はその力を利用できるのだ。そのポテンシャルは相応の物になるだろう。
おそらくそれを、“あさぎ”は漠然とだが感じ取っている。もしかすると、あの作戦の際もこの力で桜の位置を探ったのかもしれない。
二人のやりとりを眺めながら、士郎は肩にかけていた筒状の入れ物から二振りの刃を引き抜いた。
うち右手に握られた一本は、白むほどの純度の鋼に、ほんのりとした桜色が揺らぐように刀身を彩った短刀。さながら、恥じらう乙女が頬を染めたかのような色合いは儚くも美しい。
それと対になるように、もう一本の短刀が左手に提げられた。こちらの刃は目にも鮮やかな紅と、それを呑むような鈍い鋼の輝きが覆っている。既に表面は黒く凝固していながらも、内に灼熱を秘める花崗岩のようだ。
これらを鍛った“さくら”は、銘など無い、と語っていたようだ。だが、士郎がこの二振りを解析の魔術で読み取った時、きちんと銘があるのを確認できておもわずにやけた覚えがある。
右の短刀は
とはいえ、その出来栄えは惚れ惚れする程であった。“さくら”は士郎の想像をはるかに上回る逸品を作り上げたのである。その創造理念は、ただ作りたいから作る。それは、この短刀のオリジナルともいえる干将・莫耶と同一である。加えて、彼女の“虫”の力の象徴である珠鋼を織り交ぜる事でさらに独自のモノに昇華していた。
宝具には劣るものの、それらとも打ち合える程の硬度と切れ味を誇っている。とてもではないが、処女作とは思えない。こんなものを代金はいらん、と無造作に寄越してくるものだからあの道具屋には感謝してもし足りないだろう。
“あさぎ”が彼の持つソレに目を留め、微笑を浮かべた。
「――ほう、いい得物を持っているね。それ、見たところ“さくら”の作品なんじゃないかな」
「そうだけど、よくわかったな」
「当然。彼女もボクの教え子だからね。しかし、随分力を入れて鍛たれているようだ。それなら確かに“虫”を打倒し得る。あとはキミの技量次第だな」
さらっと凄いことを“あさぎ”は言ったような気がする。
確か“さくら”も高位局員だったと士郎は記憶しているのだが。しかし、いずれにせよ“あさぎ”の言葉は真実だ。いくら武器が優れていようと扱う人間がポンコツでは宝の持ち腐れである。
「ま、それもこれから分かる事さ。じゃあ、三つ数えたらボクは飴を咥える。それが開始の合図だよ」
“あさぎ”は顔の横に棒付き飴を持ち上げて、左右にそれを揺らす。
自然、空気が張りつめていく。ピリピリと痺れるような感覚を受け、士郎の両脚に力がこもる。それに比べて、凛は自然体のままだ。特に構えた様子もなく、自身の“虫”に目を向けている。もしかしたら“凛”と会話でもしているのかもしれない。
「―――3」
微妙に間延びした“あさぎ”のカウントが、静けさのつつむ広い室内に広がっていく。
その最中、士郎は短刀の握り、手の内を確かめる。手首のしなりは良好。柄の握り方も、鷲掴みにはなっていない。適度な力加減で握られている。
「――2」
力が抜けるような声色のまま、“あさぎ”の双眸が鋭く細まる。
その笑みも色を感じられない薄笑いではなく、戦いへの高鳴りを湛えるソレへと変貌していく。
固まりゆく下半身とは対照的に、士郎は上半身を弛緩させる。肩から力を抜き、短刀を持つ両の手はだらりと下げられる。衛宮士郎が持ち得る剣技の極致、その一つの到達点と全く同一の構えをとる。
「1」
挑発的に、“あさぎ”は口元に持ってきた飴玉を唇に当てた。
彼女が纏う黄色いカッパの周囲に、紫電が舞う。それが一瞬、アサギマダラと呼ばれる蝶々の姿を描いた。
“あさぎ”の姿を視界に収めながらも、心を無に。この上もなく“あさぎ”に神経を集中させていながら、士郎は同時に内界をも研ぎ澄ませていく。そこで生まれる、彼自身が外側に広がっていくような感覚。内界を外側に広げれば、自己に意識を向けながらその中にあるモノを同時に認識できる。これはあくまで心構えにすぎないが、戦いにおいて精神の在り方は重要だ。
適度な肉体の緊張と安定した精神は、動物的五感の冴えと理性的思考の調和を生み出す。ただ闇雲に剣を振るって敵をなぎ倒せるほど彼の肉体は優れていない。かといって計略を巡らせるだけで勝てるほどの策謀家でもない。だからこそ、戦いの中にあって冷徹に敵の動きを分析し、予測できる思考力を保つことが求められるのだ。
中にはいかなる精神状態であっても万全の戦闘能力を発揮できるような怪物も存在するのかもしれないが、そんなモノは凡才の彼には望めまい。ただ愚直に、積み上げ磨き上げていくことしか道はない。
気勢をみなぎらせ、士郎は“あさぎ”を端倪する。そして、ついに。
「開始」
飴が、“あさぎ”の唇を割って咥内に含まれる。
瞬間、硬いものが弾ける音がした。
「
黒い弾丸が瀑布の如く解放された。
凛である。彼女は“虫”から欠け落ちた宝石を一つ掴み取ると同時に、ガンド撃ちの掃射を放っていた。
わざわざ“虫”の身体を欠けさせてからガンドを放ったのは、“あさぎ”にガンドを“虫”の力の一端だと思わせるためか。流石にそこは抜け目がない。いずれにせよ、機関銃のそれに匹敵する黒い暴威をあいさつ代わりにぶっ放すとは容赦の欠片もない。士郎も出鼻をくじかれた形になり、二の足を踏んだ。
白い部屋の空間を、黒い暴風が蹂躙する。
もはや範囲攻撃ともいえるそれを、容易に躱す事は出来ないだろう。
ところが、
「威勢がいいね。うん、それくらいでないと面白くない」
「っ!?」
声は背後から。
先ほどまでガンドに黒く染め上げていた空間には、なにもない。
驚愕もあらわに振り返った士郎と凛の視線の先には、満足げに口端を吊り上げている“あさぎ”の姿があった。
「嘘、空間転移……!?」
凛が上ずった声を上げる。
士郎とて、動揺を隠せない。確かに、あのガンド撃ちの掃射で“あさぎ”をどうにかできるとは思っていなかった。だが、アレだけの範囲攻撃だ。足を止めさせ、防御させることくらいは出来るだろうとは考えていた。
それをこうも簡単に回避し、あまつさえ背後をとられるとは。
「キミの言葉のニュアンスだと、ボクがワープしたと思っているようだけど。それは少し違うかなー」
愉しげに喉を鳴らすその声を置き去りにし、“あさぎ”の姿が掻き消える。
姿を見失い、周囲に警戒の目を走らせる二人に、
「ほら、固まっていないで早く来たまえー」
それは頭上から。
見上げた士郎と凛は、全く同時に息をのむ。遥か上にある天井に足をつけ、逆さまに立っている“あさぎ”の姿がそこにはあった。
彼女はまるで天井の方こそ正しい地表である、と錯覚させるほどの自然体でこちらを“見上げている”。
「こうしている間にも、飴玉は溶けていくんだからね。時間は有限だよ」
悪戯っぽく微笑する“あさぎ”。
すかさず凛がガンドを放つが、またしても“あさぎ”の姿が消失する。
「おしいな。思い切りはいいけど、狙いが甘い」
突如として士郎の目と鼻の先に現れた“あさぎ”は、もったいない、と言うように嘆息する。完全に虚を突かれ、無様に後ろによろめいた士郎は苦し紛れに刃を奔らせた。
それをあっさりとバックステップして躱した彼女は、からかうように顔の横で人差し指を振っている。
「気を抜くな馬鹿者めー。こっちはこの部屋の大半が間合いなんだ。今回は逃げる事しかしないとはいえ、今ボクが攻撃していたら死んでいたぞー」
「このっ!」
なにくそ、とばかりに士郎は駆ける。
“あさぎ”の状態から見るに、彼女は同化型の虫憑きという訳ではない。時たま彼女が身に纏う紫電の様子からして特殊型。つまり、あの驚異的スピードは身体能力によるものではなく能力によるものと見て良い。ならば、“あさぎ”本人の白兵戦闘能力はさほどでもないはずだ。
さすがに近接戦闘中に転移も出来まい。一度捉えさえすれば、押し切れるだろう。凛も同じ結論に至ったようで、瞬時に身体能力強化の魔術を行使して後を追ってくる。
「なるほど、接近さえ出来ればどうにでもなる、と考えたわけかー」
猛然と迫る士郎と凛を目前にしても、“あさぎ”は全く揺らがない。
能力を用いて逃げるわけでもなく、悠然と立ち尽くしたままである。何を考えているのかは知らないが、好都合だ。士郎は右手の刃を峰に返して振りかぶる。
その軌跡をゆらり、と“あさぎ”の目が追っていた。
「――面白い。試してみたまえ」
僅かな視線の交錯。その一瞬にも満たない時の中、士郎は訳もなく気圧される。だが、ここまで来て引き下がることは出来ない。
放たれる高速の唐竹割り。硬質な床を踏み抜かんばかりの勢いで足を叩きつけ、あらん限りの重力、体重、膂力を乗せて打ち落とされる短刀。
それを、コマ送りしているかのように見えるほど緩慢な動作で“あさぎ”は躱した。上半身を逸らし、半歩後ろに引いただけだが、それで十分と言うように。
それ確かに見事な見切りであったと言えるだろう。だが、致命的に動作の速度が違う。能力を用いていない“あさぎ”の身体能力は魔力を身体に通わせた士郎の足元にも及ばない。その能力もこれだけ距離を詰めれば容易には発動できまい。一度目は後退が間に合った。だが二度はない。
「ってぇあ!」
気勢を放ち、さらに踏み込んだ士郎は左手の短刀を横に薙ぎ払おうとする。
縦の軌道は、威力はあるものの逸らされやすい。だが、それに対して横の軌道は三次元的な動きを行えない人間には非常に躱しにくいモノがある。加えて、身体能力に格段に差があるのだ。“あさぎ”が避けることは至難を極める。なればこそ、背後に背負った長物で防ぐのが精いっぱいだと踏んだのだ。
ところが、
「なっ!?」
くぐもった声が漏れる。
理由は明白、短刀が振るえなかったのである。彼女がやったことは単純だ。短刀が走るその前。まるで士郎の動作を予知していたかのごとく、見惚れるほど流麗な足さばきで士郎の“左手前に踏み出した”。ただそれだけ。その動きには速さも力も何もない。ただ、無駄な動きが一片たりともありはしなかった。
今の士郎の左半身は既に、前に踏み出してきた“あさぎ”が押さえている。後方に流れていた左腕は彼自身の肉体と、“あさぎ”の身体に挟まれて身動きが取れない状態だ。全力で踏み込んだ影響か。身体は既に前方に流れている。右腕は盛大に空ぶったままだ。到底次の動作には移れまい。“あさぎ”の一動作のみで、士郎は己が次に打てる手をなくされたのだ。
「っぐぅ……!」
どうにもならない。その事実に士郎は戦慄する。この少女は、能力はおろか武器すらも用いずに衛宮士郎を鎧袖一触も同然にあしらったのだ。ならばその両方をそろえた時、彼女がどれほどのモノとなるのか想像もつかない。
震える声を残して、士郎は“あさぎ”とすれ違う。
とはいえ、その先にはまだ凛が残っている。
つんのめりながらも後方に視線を投げた士郎が目にしたのは、凛が目にもとまらぬ程の鋭さで上段の蹴りを一息に二発放ったところであった。
連環腿。
八極拳の技の一つであるソレをしかし、“あさぎ”はのらりくらりと左右に上半身をのけ反らせながら後退するだけで躱しきっていた。常人なら反応することすら叶わず意識を刈り取られていただろう錬度の技すら、歯牙にもかけていない。
だが、そこで終わる凛でもないだろう。
「まだまだぁっ!」
声を張り上げた凛は、高々と振り上げられた左足を叩きつけるように振り下ろす。
その踵が稲妻のように“あさぎ”の脳天に落ちていく。それでも、アレだけではおそらく足らない。“あさぎ”に中てたいのなら、避けるスペースを残してはならない。
だとすれば、この機を逃すわけにはいかない。既に体勢を立て直していた士郎は即座に踵を返して疾駆する。既に凛が前方と上方向への離脱を防いでいる。ならば、彼は残る逃げ道を塞ぐだけだ。
走り抜ける勢いをそのままに、士郎は左右から挟み込むように短刀を奔らせる。
縦軸と横軸を塞ぎ、前後からの同時攻撃。如何な“あさぎ”とはいえ何らかのアクションをとらざるを得まい。ところが、
「ほう、いい動きだ」
空気に溶けて消えそうな程小さなそのつぶやきは、しかし確かに士郎の耳に届く。
その瞬きの間に、“あさぎ”の姿が消え失せた。当然、挟み撃ちにする対象物を見失った凛と士郎は、互いを目掛けて攻撃することになる。
「っ!?」
「くそ!」
咄嗟に互いに動きを止めたのはいいが、勢いまでは殺しきれずに激突する。低い姿勢で走っていた士郎の頭が、着地寸前の凛の腹にめり込んだ。
そのまま、体格の勝る士郎が凛を突き飛ばす形になり、もんどりうって転がる。
「ぐっ…! すまない、遠坂。大丈夫か」
呻きつつ先に起き上がった士郎は、尻餅をついた形で倒れている凛に手を差し伸べた。
「つっうぅ~……。ええ、大丈夫。ただ痛いだけよ」
同じく、腹を抑えて悶える凛は、差し出された士郎の手を取った。
凛を引っ張り起こした士郎が周囲を見渡すと、彼らから六間ほど離れた位置に退屈そうに腕を組んで佇む“あさぎ”の姿があった。
「今のは良いコンビネーションだった。ただ、近接戦闘中にボクが能力を使わない、なんてルールはないのだよ」
などとのたまい、“あさぎ”はわざとらしくため息をついて見せる。
いや、士郎とてそれは理解していた。凛も同じだろう。だが、“あさぎ”が能力抜きで近接戦に優れている事。加えて白兵戦中に転移が出来るほど能力の発動が速いなどということは想定外であった。
恐ろしいまでの能力展開速度である。ここまで隙がないとなると、“あさぎ”が自ら攻撃を仕掛けてくるところを狙う以外に近接戦で攻撃を当てる手段が思いつかない。目にもとまらぬ高速移動を繰り返す“あさぎ”には、そもそも的を絞れないからだ。しかし、今回は逃げ続ける“あさぎ”を捕えることが課題である。向こうからの攻撃にカウンターをする手は使えない。
めまぐるしく思考を展開させる士郎を余所に、凛が揶揄するように問いかけた。
「そ。でも今貴女は能力を使う気は無かったんじゃない? 体術だけで避けるつもりだったように思えるけど」
「む、良くわかったね。その通りなのだよー。正直能力を使わされるとは思わなかった。だから、今のは惜しかったと言えるかな」
なるほど。どうやら先の一幕はただ負けただけではなかったらしい。
しかし、ここからどうするか。近接戦でとらえることはおそらく不可能だ。となると、やれることは限られてくる。どうにも八方ふさがりのように士郎には思えた。
ところが、凛はどこか挑発的に口元を歪めて“あさぎ”に宣誓する。
「なら、次は当てるわ。貴女の能力も見えてきたし」
「ほう、言うね。受けて立とう」
“あさぎ”の口が裂けるように、獰猛な笑みを形作る。
それは純粋に、戦いを愉しむ戦士のモノだった。黄色いカッパの周囲に紫電が踊る。どうやら、今の凛の一言で完全に本気にさせたようだ。先ほどまでのように戯れで接近戦をゆるす、なんてことはもうないだろう。
だが、凛が当てる、と宣言したからには相応の策があるはずだ。士郎はただそれを信じるしかない。
「時間も残りわずかなようだし、次で最後かな。じゃあ、始めようか」
その“あさぎ”の言葉を皮切りに、凛が切り裂くような鋭い声を上げる。
「
放たれたのは開幕の時と全く同じくガンドの掃射。
黒い弾丸の豪雨が“あさぎ”を襲う。無論、初めに通じなかったこの手が今になって通じるなどと言う道理はない。弾丸は空を穿つのみで、たちまち舞い散る紫電のみを残した“あさぎ”の姿を見失う。
だが、今回はその先が用意されていた。
“あさぎ”が消えたことを確認した凛が、懐から掴み出した緑と黄の宝石を頭上に投げ放ったのである。
「――
凛の口から重苦しくも厳かな、言霊が発された。
中空に舞った二つの宝石は、それを受けてその真価を見せる。
迸る閃光。深緑に輝くそれは、小石が弾けるような音と、巨獣が咆えるような轟音を撒き散らしながら光り輝く雷の檻を形成する。看守のいない球状の牢獄は、それ自体が囚人を求めるかのように雷の触手を部屋の中に張り巡らせた。
同時に、先ほどまでどうあっても捕えられなかった“あさぎ”が右前方、地上十数メートルの中空に静止している姿が目に入り、士郎は瞠目する。
見えない命綱に捕まるように近場の壁に向かって手を突き出した彼女は、全身に紫電を走らせながら苦悶の表情を浮かべていた。ところがそれも虚しく、宙に浮かびながらも徐々に徐々に深緑の牢獄に引き寄せられている。その様はさながら、自重に耐えかねて千切れかけとなった、地獄に垂れる蜘蛛の糸に縋りつく罪人を思わせた。
「やっぱりね。思った通りだわ」
勝ち誇った凛の声。
もはや“あさぎ”が逃れられないと確信しているのだろう。その顔は自信と確信に満ち溢れた笑みをこぼしていた。
「貴女の能力は磁力を媒体にしている。空間転移に見えるほどの移動速度は、自身を磁性体にして磁力の反発と引き合う力を用いて目的の場所まですっ飛んでいってるから。正直、貴女がわざわざ電気を散らして見せたり、天井に張り付いてくれたりしなかったらわからなかったけど、これで詰みよ」
磁力を媒体とした能力。ならば、それ用いる“あさぎ”を捕えた凛の魔術は電磁場の塊か。ピンポイントだが、“あさぎ”を拘束するにあたってこれほどまで効率のいいものはないだろう。
そうなると、初めにガンドを放ったのは“あさぎ”に能力を用いた瞬間移動をさせるためだったと見て良い。回避のために磁性体になった瞬間を狙うという意図があったのだろう。それに加えて、中空で捕えられれば足場がなくなった“あさぎ”は能力のみで魔術に対抗せねばならない。凛の発言は、この作戦の勝算あってのモノだったのだ。
その凛の言葉を聞くまでもなく、“あさぎ”は観念したようだ。
ふっと口元を緩めると、彼女はおもむろに背負っていた長い棒状の筒に手を掛ける。
刹那、頭上で輝いていた深緑の光球が弾け飛んだ。
瞬きの間に二つに分かたれた雷球は、苦痛にのたうつように姿を歪ませたかと思うと、断末魔を上げるように一際強い光を放ったのち溶けるように消滅した。
「いや、驚いた。まさか磁力の檻を作られるとはね。“虫”の身体から作った宝石であんなこともできるのか」
純粋に感心した、と言う調子の声が立ちすくむ士郎と凛の背後から投げかけられる。
振り向いた先には、白くて長いホッケースティックをくるりと一回転させて肩に担ぎ、満足気な表情で歩み寄ってくる“あさぎ”の姿があった。あの筒の中身は刃のついた長物かと思ったのだが、まさか競技用のモノを入れているとは。
彼には全く何が起こったのかは理解できなかったが、“あさぎ”によって凛の魔術は破壊されたようだ。状況から見て、おそらくあのホッケースティックで叩き割ったのだろう。随分と出鱈目なことをする。ランクAの魔術をこともなげに真っ二つに切り裂くなどと言う芸当を行うこの人物は本当に三号指定に収まるのだろうか、と士郎は疑念を抱かずにはいられない。
そんな彼に反して、凛が晴れやかな表情で“あさぎ”に答えた。
「ま、こんなのは貴女がその気ならさっきみたいに意味をなさないでしょうけど、逃げるのを捕まえるだけなら、と思ってね」
「確かに、ボクに対してあれほど効果的な足止め方法はないな。合格だ。次からの訓練はある程度実戦を想定して行う事にしよう」
既に初めて会った時の緩んだ雰囲気に戻った様子の“あさぎ”は、士郎と凛のすぐ手前で足を止めた。
「さて、改めて次回からキミたちの教官を務めることになる“あさぎ”こと、獅子堂戌子だ。よろしくたのむよ」
やはり戦闘時の息苦しくなるような圧迫感は微塵も感じられない。人懐っこそうに目を細めて手を差し出してくるその姿は先ほどまでとは別人のようである。
その思ったよりも小さく頼りない手をしっかりと握り返し、士郎は軽く頭を下げた。
「ああ、よろしくたのむ」
「よろしい。ビシバシ鍛えてやるから覚悟したまえー」
言葉の内容に反してのんびりした口調で“あさぎ”は頷く。
続けて、彼女は同じように凛にも手を差し出して握手を交わした。
「キミの力は鍛えがいがありそうだ。ボクは楽しみだよ」
「それはどうも。期待してるわよ、教官さん」
“あさぎ”と凛が互いに挑戦的な笑みを浮かべている。
早くもこの二人はシンパシーのようなモノを感じ合っているようだ。“あさぎ”ががんがんと試練を与え、それをすいずいと乗り越えていく凛の姿が士郎には容易に想像できた。
その上悲しいことに、訓練がエスカレートしていく段階に彼自身が巻き込まれていくこともまた、容易く場面が思い浮かんでしまう。これは置いて行かれないように必死についていく必要がありそうである。
「じゃあ、今日はここまでにしようか。翌日の訓練は八時からだ。場所はまたここだから遅刻しないようにしたまえー」
“あさぎ”は気のない様子でそう言い残すと、ゆったりとした歩調で歩み去って行った。
それを見送った凛が、複雑そうな面持ちでぼやく。
「初日からかなり飛ばしてきたわね。厳しいのは構わないけど、やっぱり“虫”の力を行使するのは気が引けるわ」
「それは仕方ないって“遠坂凛”も割り切ってると思うぞ」
あえてフルネームで呼称することで、士郎は区別をつけた。
あの少女とてこの訓練は必要なモノであると理解は示してくれるはずだろう。
「ま、それは理解してるんだけどね。許可自体もとったし。おかげで少しバテ気味よ。世界線を越えて交信ってかなり疲れるのね」
気だるげに目を伏せ、凛は呻く。
どうやら訓練前に本当に“凛”と交信していたようだ。その上であれほどの魔術行使をおこなったのだから消耗するのは当然か。
しかし、と士郎は疑問符を浮かべる。
「世界線を越えた念話ってそんな簡単につながるのか?」
「つなげるだけなら簡単よ。身体から伸びた“虫”とのパスを経由していけば割かし出来るモノなの。大変なのは維持のほうね。この世界の私もよくあんなに長く通信を持たせたもんだわ」
「うーん、良くわからないけど“遠坂凛”と通信することは負担さえ考えなければ簡単ってことでいいのか?」
「それで間違いないわ」
首肯して、凛は士郎を促す。
「そろそろ行きましょうか。ここに留まっていても仕方ないし」
「そうだな」
同意を示した士郎は、剣を収め、凛と共に訓練室を後にする。
自動扉が閉じられる間際、士郎はつと立ち止まって振り返り、訓練室を垣間見る。
明日からここでどんな訓練が行われるか、彼は知らない。だが、“あさぎ”こと獅子堂戌子。彼女の能力は折り紙つきであることは今日、嫌と言う程確認できた。翌日から始まる訓練は容易ではないだろうが、土師の鼻を明かすこと。何より、桜の奪還や始まりの三匹の打倒、といった彼自身の目的を達成する力を得るためには必要な事である。心してかかるべきだろう。
決意を胸に、閉ざされた扉を背にして士郎は再びゆっくりと歩き出した。