我が師への畏敬を胸に 作:岩窟鸚
「――――まあ、こんなもんだろ」
劇的な幕切れであったレーティングゲーム。観戦していた冥利の感想はそんな味気ないものだった。
名勝負といって差し支えない。特に、最終戦のライザー戦は実際のレーティングゲームで行われたとしても十分に観客を呼ぶ事が出来るだろう。
「君は、この結果が分かっていたのかい?」
「いいえ?生憎と俺は、千里眼なんて便利なものは持ってないんで」
「その割には、驚いていないね」
「どっちが勝ってもおかしくなかった。ただ、フェニックス側がミスしただけっすよ」
「ミス?」
「フェニックスは最初に、アルジェントを落とすべきだった。あの屋上で向かい合ったときに、突っ込んでくる二人と兵藤を無視して、回復役を潰すべきだった。今回は、兵藤たちがフェニックスの兵隊よりも強かったから何とかなっても、実力が伯仲だったなら常に傷を回復できる方が有利だ。継戦能力を削るのは基本中の基本」
冥利の指摘通り、一誠の覚醒にはアーシアの回復が一因となっている。
体力は回復できずとも肉体の傷が回復できれば、精神が肉体を半ば凌駕していた一誠は動けていた。彼を止めるには完全に気絶させるか、或いは緊張の糸を切るしかない。
説明を聞くサーゼクスは、そういうものかと頷く他ない。
戦争経験があれども、彼の場合は膨大な魔力でぶっ飛ばすのが基本。そして、そんな攻撃を敢行すればたいていの場合相手の陣営もろとも消し飛ぶため、そもそも相手の兵科など気にする必要が無い。
つくづく、正反対の二人だ。種族柄という点を差し引いても、歩んできた道がそもそも正反対過ぎる。
だからこそ、サーゼクスは得るものがあり、逆に冥利に得るものは無い。
前者は、強者であると同時に為政者でもあるから。後者は、弱者であると同時に一般人であるから。
「なら、君ならどうしただろうか」
「あん?そりゃ、どっちの目線で?」
「それじゃあ、まずはライザーの方から、かな」
「……兵士が多いのなら、そもそも室内に配置しない。捨て駒にしても相手を一ヵ所に集めるように外に誘き出す。そこを、魔法で高高度からの爆撃。空を迎撃できるのは、姫島かオカ研部長しかいないなら、それだけ警戒しておけば良いしな」
ライザーは、明らかに勝っていた数をもっと活かすべきであった。少なくとも、冥利はそう考える。
非道かもしれないが、王は常に切り捨てる側だ。そして、その素養は決して目を逸らす事の出来る問題ではない。
末端の兵士の為に、王がその身を散らしてしまえばそれこそ兵たちは何のために戦ったのか、という話になってしまうから。
「それなら、リアスの側からならどうだろうか?」
「あの程度なら、俺一人でどうとでもなる」
傲慢で投げやりな物言い。だが、同時に真理でもある。
数で劣るならば、質でどうにかするしかない。そして、今回のゲームを観戦した冥利にしてみれば、相手側は粒揃いであれども等しく原石。磨きが甘い。
そんな相手に負ける程、冥利は弱くないし、彼自身にも自負がある。
因みに、彼がフェニックス眷属と相対した場合、フェニックスの二人は精神が死ぬまでボコボコに殴られ続ける事になるだろう。如何に肉体が不死であろうとも、心が死ねばそれは最早ただの肉塊に過ぎないのだから。
「んじゃあ、そろそろ俺は帰りますんで。というか、帰してもらっても?」
「話してはいかないのかい?リアスたちも、喜ぶかと思うんだけど」
「今顔合わせると、ねっちり至らない点を言いそうですからねぇ」
もしも今回の戦闘が本番であったなら、グレモリー眷属の半分がまず間違いなく死んでいた。
勝利の余韻に浸ていようとも、この事実がある限り冥利は彼らの気持ちに水を差してしまう。
分かっているならば口を閉じろと言う話なのだが、厳しい世界を知っている手前、言える時に言っておかなければ後々言えないことがザラだった経験から、冥利の口は存外軽い。
結局、彼はリアスたちとは顔を合わせることなく帰宅した。全く別の問題がそのころ彼らの下で起きていたのだが、ソレを知るのはまだ先の事。
***
十日間の特訓。それはイコールとして、十日間の休学に等しかった。
一応、単位などに関しては裏から手を回してどうにかなっているのだが、勉強に対する理解度まではそうもいかない。
「ここは、こうなるんです。分かりますか?」
「まあ、大体は」
生徒会室にて、冥利は蒼那に勉強を習っていた。
さすがは、頭脳派というべきか彼女の教え方は下手な教師よりも上手い。今も、複雑な数式をするすると紐解いて、懇切丁寧に理解させていく。
「そういえば、聞きましたよ。リアスが勝ったと」
「ん?ああ、まあな」
「その立役者が、貴方とも」
「俺は、アイツらボコボコにしただけだからな。それに、実質オカ研部長と姫島、アルジェントは見れなかった」
「それは、貴方が魔法関連の知識と技能が無いからでしょう?貴方の指導者としての技量が高い事は否定できないと思いますけど?」
「俺って言うよりも、師匠の指導が良かったのさ。俺のはただの真似事で、たまたま今回アイツらにも当て嵌まった。それだけさ」
冥利の鍛錬方法は、完全なパワーファイター育成法に近い。そもそも、彼の戦術自体がテクニカルに見えての力押しなのだから仕方がないのだが。
補足をするなら、彼自身の指導能力、並びに指揮能力は決して低くない。そも、低ければ前世、前々世において上の階級に上っても下が付いてくるはずもない。
存外、スパルタ気質の彼だったが部下や弟弟子には慕われていた。
肩をすくめてノートを埋めていく冥利。その一方で、蒼那もまた思考を走らせる。
彼女の持ち味は、知力による搦手。詰将棋の様に駒を動かし、相手を策の中に落とし込むのが基本戦術となる。
半面、眷属含めて彼女は力押しを苦手としていた。
元々肉体派でない事。そして、魔力の質なども影響しているのだがバランスを目指す彼女としては一点に特化し続けるのは頂けない。
「……時に、沖草君」
「ん?」
「追加で弟子を採る気はありませんか?」
「……何でそんな発想になったのか、聞いても良いか?」
「第一に貴方の育成能力を見込んでの事です。第二に私を含めて眷属一同近接戦闘に優れている訳ではないんです。どうしても、本職とぶつかる場合不安が残ります。贅沢を言うならば、貴方が眷属に加入してくれる事が一番良いんですけど……嫌なのでしょう?」
「ま、人として死ぬってのは決めてるからな。で、指導か……まあ、会長には世話になってる。特別料金で受けてやっても良いぜ」
「タダではないんですね」
「ないな。俺だってボランティアじゃないんだ。先立つ物が要る」
線引きだけは確りと。親しく、尚且つある程度の恩があれども、ソレはソレ。仕事は仕事であると割り切る事もまた、物事を円滑に進める一つの手段であった。
蒼那もその点は理解している。脳内で算盤を弾き、期間と金額を算出。そこからリターンを計算して、更にタイミングも重要となる。
「では、夏休みにお願いできますか?」
「そんなに遅くていいのか?」
「金銭が掛かるのなら、恒久的に雇い入れる事は出来ません。あくまで私の私費から出すんですから」
「……まあ、会長がそれで良いなら俺から言う事はなにもねぇけどさ」
金銭を払ってくれるのなら、冥利はそれ以上何かを言い募る気は無い。ついでに、勉強に関しても一段落。
ノートを閉じ、開いていた教科書とペンケースを纏めて足元のカバンへと仕舞い込む。
平穏だった。だが、この町には赤龍帝が居る。
次なる闘争は、直ぐ側にまで迫っていた。
「そういえば、沖草君。貴方は、球技大会はどうするんです?」
「去年と同じように、クラスで適当にするさ」
「……何なら、生徒会チームとして登録も可能ですよ?」
「いや、遠慮する。本気出せねぇしな」