我が師への畏敬を胸に   作:岩窟鸚

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二話目にしてタイトルの変更を考える今日この頃です。














 生徒会室を後にして、冥利はのんびりとした足取りで廊下を歩いていた。

 時刻は放課後。部活に参加していない彼は、こうして学校に遅くまで残る事は早々無い。こうして報告書などを出さないならば、残る意味も無い。

 

 

「Give me マネー……ん?」

 

 

 鼻歌交じりに欲望を垂れ流していれば、不意にうなじの毛が逆立った。

 彼の戦闘経験というのは、人間の年数で見れば破格のもの。そして常に命懸けの最前線でも生きてきた。

 それ故か、その身に宿した技術というものもまた、相当なレベルで研ぎ澄まされ前世の時の最盛期を超えているといっても過言ではないだろう。

 そんな研磨された感覚の一つが、違和感を拾い上げる。

 

 

(結構遠いか?……ま、いっか)

 

 

 気付いたからと言って、行動するかは別の話。冥利はそう結論付けて、再び廊下を歩き始める。

 そもそも大前提として、冥利は超人じみているが、不老不死でもなければ強靭無敵のスーパーマンでもない。本質的には、強いだけのただの人間だ。

 大抵の相手には負けることは無いだろう。だからといって次から次へともめ事へと首を突っ込んでいくのは違う話。

 冥利は、自分が出来る事と出来ない事の見極めが既に済んでいた。分不相応な事はしない。

 その基準の一つが、金。

 金になるか、ならないか。そう理由をつける事で、彼は問題から目を逸らす。

 今回は、金にならない。だから関与しない。

 

 ただし、自分が巻き込まれない場合に限る。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 この世界には、神器というものが存在する。

 ソレは、聖書の神が人類に齎したもの。

 異能の一種とされているが、発現するのは人間もしくは人間の血を引く人外。

 重要なのは、聖書の神の信奉者や保有者の善悪の区別などが存在しない点。ついでに、神がもたらしたといっても禍々しものも存在する点。

 

 

「げびっ!?この、人間がぁ……!」

 

「はいはい、その人間がお前を潰すんですよっと」

 

 

 遠心力を乗せた三節棍の先端。それが、対象の頭を砕く、に留まらずその体の上半身ごと叩き潰してしまう。

 完全に相手が沈黙したことを確認し、冥利は得物を手元へと引き戻していた。ついでに、その先端についた肉片やら血やらベタツク何かやらを振り払っておく。

 はぐれ悪魔の討伐報酬は高値ではあるが、だからといって一度熟せば安泰、ではない。

 これはあくまでも冥利の考えでしかないが、稼げる時にたっぷり稼いで貯蓄しておくのが今後役に立つというのがある。

 少なくとも今現在、冥利は調子が良い。故に、稼ぐ。

 

 

「さぁてぇ、次のお仕事は~――――」

 

「……何で、貴方がここに居るのかしら」

 

「おん?……よお、コンバンワ。オカ研の部長じゃねぇか。何してんだ、こんな時か……あー、悪魔にしたら今が昼みたいなもんか」

 

「まあ、そうね……それで?私の質問に答えて頂戴。貴方、ここで何をしてるのかしら?」

 

「はぐれ悪魔退治。俺の収入源知ってるだろ」

 

「……バイザーを倒したの?」

 

「小銭稼ぎにはなるからな。何か、不味かったか?」

 

「不味い……いいえ、そこまでじゃないわ。ただ、貴方の仕事とブッキングするとは思わなかったの……はぁ、それにしても困ったわね。私の新しい下僕に皆の力を把握してもらうつもりだったんだけど」

 

「下僕ぅ?…………って、兵藤じゃねぇか。何、お前悪魔になったわけ?物好きだな」

 

「え、いや……え?沖草、お前って部長と知り合いだったのか?」

 

「おう、知ってる……あ、お前の次の質問当ててやろうか?『お前も悪魔だったのか!?』だ」

 

「お前も悪魔だったのか!?……はっ?!」

 

「はい、正解~」

 

 

 けらけらと笑う冥利。そして、そんな彼を相手にするオカルト研究部の面々はそれぞれの反応を示していた。

 リアス・グレモリーはため息を。姫島朱乃は綺麗な笑みを。木場祐斗は苦笑いを。塔城小猫はジト目を。

 そして、兵藤一誠は驚愕を。

 冥利と関係があるとすれば、同学年の一誠や祐斗だろう。実際、三人は会話した事もあるし、顔を合わせれば挨拶もする。

 だがそれは、あくまでも表の人間関係に過ぎない。裏関係となると話は別だ。

 

 

「にしても、兵藤が悪魔ねぇ……まあ、煩悩の塊だし。悪魔でも、やっていけんだろ」

 

「沖草は、悪魔とか知ってたのか?」

 

「おう。というか、はぐれ悪魔とかを狩るのは、俺の収入源でもあるんだわ」

 

「しゅ、収入源……じゃ、俺達も……?」

 

()()()って言ったろうが。詳しくは、あー……お前の主様に聞けよ」

 

 

 ひらりと手を振って促した冥利は、大きく一度伸びをする。

 話すことは嫌いではないが、だからといって道のど真ん中で話す事でもない。

 何より、冥利はまだ仕事の途中だ。いや、切り上げようと思えば切り上げられるがまだまだ夜は長い。狩れる時に狩っておくのもまた、今後の為。

 

 

「んじゃ、まあ……俺はこの辺で」

 

 

 ひらりと手を振り羽織を揺らして踵を返す。そのまま、彼は夜の闇の中へと電柱の上を飛び移りながら去って行ってしまう。

 

 

「部長、沖草って何者なんです?」

 

「はぐれ悪魔……というよりは、人外狩りのエキスパートかしらね。彼自身は純粋な人間よ。特殊な力はあっても、神器の類は持っていなかった筈だわ」

 

「ええー……アイツって、そんな強いんですか?」

 

「そうね……実際にぶつかったことが無いからハッキリは言えないわ。でも、彼は単身でS級相当のはぐれ悪魔の討伐実績もあるらしいの。強いでしょうね」

 

「はえー……」

 

 

 間抜け面を晒す一誠は、再度冥利の消えた方向へと目を向ける。

 悪魔となった彼だが、その力は未だに下の下。才能もほぼ無いというのが総評だ。

 だからこそ、驚く。少なくとも、表向きの彼に戦いのニオイなど無かったから。

 一方で彼を知るものからすれば、その実力に疑いなど無い。

 

 

「実際の所、どうなんですか祐斗先輩」

 

「そうだね……もしも、僕が本気で沖草君と戦う事になったら、十中八九負けるかな。彼にしてみれば、僕がどれだけ魔剣を創り出しても一発で壊すだろうし、速度の攪乱も意味が無いから」

 

「……私も同意見です。あの人、体格は普通ですけど筋肉の質と密度が半端ないですから」

 

 

 主に近接職の祐斗と小猫からの評価は、そんなところ。

 悪魔が人間に負けるのか、という話だがこの世界には神にすらもその刃を届かせるような猛者が居る。神器があれば猶の事。

 もっとも、

 

 

「まあ、悪い人じゃないからね……お金に少し汚いけど」

 

「そうですね……ガメツイですけど」

 

 

 金の亡者な部分は否定のしようが無いというのが実情であるだが。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 夜の邂逅、もといブッキングから暫く。

 相も変わらずと言って良いのか、冥利は依頼と学生の二足の草鞋を履いて日夜金のために精力的に働いていた。

 既にそこら辺のサラリーマン。その年収を軽く超える程度には稼いでいるのだが、そんな事知ったことじゃねぇと、冥利は今日も金稼ぎの算段に思考を走らせていた。

 そんな彼の昼休み。自炊をする彼は、昼食は自作の弁当を持ってきている。

 

 

「――――うん、今日もいつも通りだな」

 

 

 塩気の利いた卵焼きを頬張りながら、ご飯を一口。

 別段冥利としては、卵焼きの味に対する拘りは無い。ついでに、一から十まで全て手作りのおかずである事にも拘りは無かった。

 冷凍食品だろうと手抜き手料理だろうと、料理に必要なのは美味しさであると思うから。その点、市販品というのは万人受けする可能性を模索して作られている為、外れは少ない。

 タレに浸かったミートボールを食べ、白米の残りを掻き込めば食事も終わり。昼休みの時間は、まだまだ三十分以上残っている。

 今後の事を考えて依頼に唾をつけても良いし、或いは寝てもいいだろう。前世の経験から、この辺りは割と自由がきいた。

 そこでふと、安物端末に一つのメッセージが入った。使い慣れている事と、通信料その他諸々が安いその画面に踊るのは放課後に関するモノ。

 一通り目を通して、冥利は了承の返事を送った。

 情報のやり取りは大切。一方的な関係にならないのも、これも偏に彼の今までの働きによるものだ。

 

 そして、時は流れて放課後。彼の姿は、旧校舎にあった。

 

 

「お邪魔~、もう揃ってる感じか?」

 

「むしろ、貴方が私たちが揃うのを待ってたんじゃないのかしら?」

 

「そりゃ、オメェ。主役が居なくちゃ二度手間だろ?」

 

 

 オカ研の部室に入るなりそんな軽快なやり取りをするリアスと冥利。

 因みに、この二人にその手の感情は無い。ビジネスパートナーの域を出る事は無く、どちらもそれ以上の進展を求めることは無いから。

 そんなやり取りをしながら仕立ての良いソファに座る冥利。直ぐに彼の前に置かれたローテーブルに一杯の紅茶が注がれる。

 

 

「……紅茶か?」

 

「貴方の為に練習したんですよ?」

 

「……苦手って知ってて注ぐのは、どうなんだ?」

 

 

 渋い顔をする冥利だが、そんな事は朱乃には関係のない事。むしろ、彼女の嗜虐性が刺激されてその頬には若干の赤みが差し、期待の目を向けている始末だった。

 事の発端は、しばらく前。彼がここオカ研にも出入りするようになっての事。

 端的に行こう。冥利は、前世、前々世、前前々世含めて紅茶というものが苦手であった。

 本当に美味しいものを飲んだことが無いからそんな事を言う、と人は言うが苦手なものは苦手。この事実は覆る事が無い。

 故に、この部室で紅茶を出された時、彼はポツリと零してしまったのだ。

 

 

『俺、紅茶嫌いなんだけど』

 

 

 と。

 それ以来、朱乃は冥利が部室に顔を出す度に紅茶を飲ませようとしてくる。

 彼としても拒絶すればいいのだが、紅茶を飲むことになれば茶菓子が付いてくる。それが、毎度の事美味なのだ。紅茶にしても苦手ではあるが、飲めない訳ではない。という訳で、冥利は我慢して紅茶を飲み、美味な茶菓子を味わうのだった。

 

 閑話休題

 

 ソファに向かい合うように座る冥利とリアス。そして、リアスの隣には金髪の少女が居た。

 

 

「沖草君。この子が私の新しい眷属よ」

 

「あ、アーシア・アルジェントです!よろしくお願いします!」

 

「うぇ~い、よろしくー……にしても良かったのか、オカ研部長」

 

「何がかしら?」

 

「いや、元々教会側の人間だろ?」

 

「問題ないわ。教会側としても、分かって派遣していた節があるでしょうし。あっちも一枚岩じゃないもの。それに、無理矢理連れて行こうとするなら、こっちも相応の対応をするわ」

 

「こっちに、飛び火させないでくれよ?教会も割と金払いが良いからさ」

 

「……貴方、そっちの仕事も受けてたの?」

 

「まあな。俺は別段、どこかの勢力に加入してるわけじゃない。フリーだからこそのフットワークの軽さも活かさねぇとな」

 

「出来る事なら、こっち側に引き入れたいんだけど……今からでも遅くないわ。貴方、私の所で、眷属やらない?」

 

「断る。会長にも言ってるが、俺は人として死ぬ事を決めてる。ま、百年もしない時間だが、仲良くしようや」

 

 

 不敵に笑い、しかし直後に飲んだ紅茶で顔を顰める冥利。

 リアスとてこの勧誘に色好い返事が貰える等とは思っていなかったが、やはりショックというべきかほしい人材を目の前で逃すのは思う所があるらしい。

 因みに、彼女の眷属に勧誘できる数は残り二人。

 

 この時彼らは知る由も無かった。ちょっとした面倒事が舞い込んでくることなど。

 運命の歯車は動き始めたばかりだった。

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