我が師への畏敬を胸に 作:岩窟鸚
ライザー・フェニックスにとって今回のレーティングゲームは、ちょっとした余興に過ぎないものでしかなかった。十日間の猶予にしても、ハンデにもなりえない一種の戯れ。
何故なら彼は、既に公式でのゲームに参加している。経験値というものは、馬鹿にできないアドバンテージなのだから。
眷属の数にも差があった。全て女性といえども、ライザーの眷属はフルメンバー。対してリアスの眷属は四名。もう一人いるが、そちらは諸事情により不参加。
数で勝り、経験で勝る。実力に関しては、相手は神器持ちで尚且つ神滅具も居るが、リアスを除けば全員が下級悪魔。リアスにしても、上級悪魔ではあるが才能あれども開花には至っていない。
だからこそ、足を掬われる。
「いったい、何が起きている?」
今回のゲームの舞台となった仮想の駒王学園。その校舎屋上を陣地としたライザーは、困惑を隠せなかった。
十日前、リアスの唯一の兵士である兵藤一誠は、ライザーの最弱の駒である兵士にすらも一撃で吹っ飛ばされていた。一誠自身が本気を出していなかったとはいえ、だ。
だが、今はどうだろうか。
ライザーの兵士は既に全滅。戦車、僧侶、騎士が対処に当たっているが、倍の数で相手をしているというのに三人は見事に対処していた。
彼女らも驚いているが、彼女ら以上に驚いているのが地獄の特訓を抜けてきた三人の方。
今もそうだ。ライザーの戦車である雪蘭が両手足に炎を纏い小猫へと殴り掛かるが、当の小猫は涼しい顔でそれらを受け止め捌く事が出来ていた。
彼女は、受け止める両手に薄く、しかし密度のある魔力を纏わせることで即席のグローブの様に魔力を編み上げていたのだ。
何より、冥利の拳の方が重く、鋭く、的確に防御をしても骨を軋ませ体を吹っ飛ばしてくる。それに比べれば燃えている事など些細な事。
木場にしても、ライザーの騎士であるカーラマインとシーリスの二人を相手に互角以上の戦いを演じている。
例えば、打ち合いの結果魔剣が折れても、次の魔剣生成に関するタイムラグは一秒以下。魔剣が砕けて腕を振り切り、再度腕を振るう時には既に次の魔剣がその手には握られているのだ。
加えて、属性が左右の手で違う。砕ければまた違う属性の魔剣が握られており、それがまた相手の混乱を招くことに繋がる。
最後に一誠。
彼も彼で大きな飛躍を見せており、倍化を己に掛け続けながら今も残る戦車のイザベラ、並びに遠距離から魔法を放つ僧侶の美南風の相手をしている。
ボコボコにされ続けた十日間。レベルアップの実感など欠片も無かったが、こうして実戦で実感できれば無駄ではなかったという自信へと繋がる。
本来、この自信が厄介で増長に繋がりやすい……のだが、彼らに限ってはこの可能性は低い。
何故なら、圧倒している現状ですら敵わない人間が一人居るから。寧ろ、彼の動きを知るからこそ、三人は攻撃をここまで捌く事が出来る。
そして、この間にもゲームは進む。
『フェニックス眷属【女王】並びにグレモリー眷属【女王】リタイアです』
アナウンスが流れ、両陣営の女王が相打ちとなったことを知らされる。
これに衝撃を受けるのが、フェニックス眷属であるが、その一方でグレモリー眷属には動揺のどの字も無かった。
あらかじめ、決めていたのだ。女王は、女王が止めると。結果相打ちとなっても、切り替えていく、と。
因みに、女王戦の最後は朱乃が爆発を受けてダウン。消滅間際に、携えた槍にチャージしていた雷の加速による雷速の投槍でライザーの女王ユーベルーナを撃破していた。
「思った以上、だね……君の指南の腕前は、本物みたいだ」
「……」
感心し観戦するサーゼクスの賛辞に、しかし冥利は冷静に事を眺めるばかり。
「何か、気になる事でも?」
「……手足をどれだけ削っても、肝心の頭が潰せなきゃ意味が無いっすからね」
戦争の全てがその限りではないが、末端の兵士をどれだけ削ってもトップが無事な場合はその戦いは終わる事が無い。
冥利の場合は、前々世での戦いが正にソレだ。頭を潰せなかったから、只管に鼬ごっこを続ける羽目になり、結果として多くの命が散っていった。
現状、グレモリー眷属が圧倒的に押している。押しているが、押し切れていない。
もう暫くもすれば、相手眷属を倒しきる事が出来るだろう。だが、その先。ライザー・フェニックスに勝てるのか、と問われれば冥利は分からないと首を振る。
フェニックスの名は、伊達ではない。
業火を操り、炎と共に再生する。上級悪魔としての地位と生まれより持ち合わせた魔力量、身体能力。
努力によって獲得したわけではない、生来の才能。二流であっても、その実力を甘く見ていい事にはならない。
そして、ゲームは佳境を迎える事となる。
***
両雄相対する。少なくともゲームが始まるまでは、片方は予想もしなかった光景だろう。
「……驚いたぞ、リアス。まさか、たった十日でここまで見違えるとはな」
呟くライザーの言葉には侮蔑の色は見られない。純粋な称賛が込められていた。
事実、残るのは彼一人。他の眷属は敗退し、ここには居ない。
一方で、リアス側は、一誠、祐斗、小猫、アーシア、リアスと残っている状態。朱乃が落とされたが、彼女は彼女で仕事を果たした。
「降参はしないのかしら、ライザー。私は、気にしないわよ」
「笑わせないでくれ、リアス。アイツらの王として、俺にも責任があるんだ」
きっぱりと言い切り、ライザーは魔力を昂らせていく。
業火だ。背には炎の翼を背負い、立っている校舎の屋上はどろりと融解を始めていた。
正面から相対するだけでも頬を焦がすほどの熱気に、今までとは段違いの相手であるという理解を無理やりにでもさせられるようなそんな威圧感。
強くなったと自覚できた三人であろうとも、その喉が自然と鳴る事を止める事は出来なかった。
「……兵藤先輩」
「兵藤君」
「木場?小猫ちゃん?」
力の差を理解すれば、採れる手段はそれほど多くは無い。
故に、二人は最善であろう手段を採る事にした。
「僕たちが時間を稼ぐよ。だから、全力の一発宜しくね」
「……頼みます」
言うなり、二人はライザーの元へ。
祐斗は氷雪系と水冷系の魔剣をそれぞれの手に創造し切りかかっていく。もっとも、相手は炎を司る上級悪魔。相殺など出来ず、精々相手の攻撃を弱める程度にしか効力を発揮することは無いのだが。
走る氷と水のラインの隙間を抜けて、両拳を魔力で覆った小猫がライザーへと肉薄していく。
彼女の学びは、駒特性をもってしても抜けない相手が必ず居るという点。同等か、それ以下ならば一蹴することも出来るだろう。そしてそれは、祐斗も同じ事。
裏を返せば、それ以上の相手には歯が立たない。ジャイアントキリングは狙えない。
それでも、足止めぐらいならばできる。
「特攻か。あの小僧に、そこまでの価値があるとでも?」
「価値があるのかどうかは、貴方に決められる事じゃない!」
「……フッ!」
切りかかる祐斗に炎が襲い掛かり、掻い潜った小猫の拳をライザーは受け止める。
「重いな……!だが、この程度で俺はとれんぞ!」
「ッ!」
拳を握りこもうとするライザーだが、間一髪で小猫は腕を引いて最悪の状況を回避。しかしそのまま後ろに下がることなく連打を繰り出していた。
彼女は決死隊だ。折角潜り込んだこの状況を逃す理由は無い。
頬を舐めるような炎の中で、小猫は拳を振るう。祐斗の魔剣が気休め程度にそれらを弱めるが、文字通り焼け石に水。消火など出来ず、下手すれば熱せられた水蒸気が巻き上がる始末。
そしてこの状況、歯噛みするのは一誠だ。
全力全開の一撃を叩き込むには、暫くかかる。そして、戦場における十秒というのは途轍もなく長い。
今も、小猫に火傷が刻まれ、祐斗の魔剣が融解しその体を炎が包む。
二人とも、魔力で全身を覆う事でどうにかこうにか抗っているが、それは言ってしまえば悪足掻き。終わりを先延ばしにするだけの一時凌ぎにしかならない。
「――――遊びは、終わりだ!」
そして、爆炎が周囲を染め上げた。
屋上の凡そ三割を巻き込んだ業火が、一瞬の間に拮抗を保っていた祐斗の魔剣の攻撃ごと二人の体を飲み込んでしまう。
炎というのは、その熱にばかり目が向けられるがそれだけではない。
炎に巻かれると呼吸が出来なくなる。体の末端から炭化していき、呼吸のできない肉体は容易に行動不能へと陥ってしまう。
『グレモリー眷属【戦車】【騎士】リタイアです』
鎮火した後に残るのは、ライザーのみ。しかし二人は、十分に役目を果たしていた。
一誠の目の前に出現する魔力弾。引き絞られる左拳。
「ドラゴン……ショットォオオオオオッッッ!!!」
放たれるのは、人一人を飲み込めるほどの大きさの砲撃。
師事した冥利の指摘を受けて、現状の一誠が出来る砲撃の圧縮、もとい集束砲としての一つの形がこの技だった。
山を丸ごと吹き飛ばすような破壊規模は、得られない。代わりに、分厚い岩盤であろうともまるで熱したバターにナイフを通すように貫く事が可能な貫通性能と、見て回避することがほぼ不可能な速度を獲得していた。
ライザーも咄嗟に回避しようと動いていた。だが、その炎の翼を翻そうとした時には既に砲撃は文字通り目と鼻の先。
「ッ――――!」
叫びすらも砲撃の中へと飲み込まれる。
陰すら消えて、このゲーム会場を囲む結界を揺らして砲撃はやがてやせ細って消えた。
「はぁ……はぁ……!」
文字通りの全力全開。最大限に倍化した力の全てを砲撃として放った一誠は、肩で息をしながら膝をつく。
「イッセー!」
「イッセーさん!」
「部長、アーシア……はぁ……ッ……どう、ですかね?」
駆け寄ってきたリアスとアーシアに一瞬視線を送りながらも、一誠はライザーの居た方向から意識を動かす事が出来なかった。
小猫と祐斗を打倒したライザー。その姿の脅威度は、冥利には劣るもののそれでも一誠にとっては巨大な壁であった。故に、この十日間で刻まれた無意識の警戒が警鐘を鳴らす。
果たして、
「――――凄まじい威力だな」
濛々と立ち込めていた粉塵を踏み越えて現れる、
「並みいる上級悪魔ならば、この一撃で決着がついていた。だが、俺はフェニックス家の人間で、備えは常に怠らない」
「……ッ、まさか、フェニックスの涙を使ったの!?」
「使うつもりなど無かったさ。だが、流石は神滅具だ。破壊力だけで、こちらの再生機能に食らいついてくるとは思ってもみなかった…………もっとも、たった一発で満身創痍のようだがな」
睥睨するライザー。対して一誠はというと、渾身の一撃を完全に殺されて戦意喪失――――していなかった。
震える膝を殴りつけて無理やり殺し、立ち上がる。
息が切れた、魔力は味噌っかす、倍化したところで瞬殺されるかもしれない。それでも、一誠の瞳には一切の諦めも絶望も存在してはいなかった。
拳を握り、無理矢理にでも走り出す。
倍化によって軋む体から目を逸らし、勝つために全力を尽くす。
思い出すのは、冥利に言われた事。
『兵藤、お前に才能は無い。でもな、才能云々で全てが片付けば苦労しねぇんだ。特に、お前の根性は相当なもんだ。折れるなよ?』
根性。泥臭くも、しかし才能と同じように生来の気質が多分に反映される要素の一つ。
鋭さ、手数、技量においては現状小猫の方が上だろう。一誠が勝るとすれば、倍化しきった後の馬力位のもの。
「ぶっ!?ッ、オオオオッ!!!」
燃え盛る拳に殴り返され膝が笑うが、根性で殴り返す。魔力による防御など出来ないから、一誠の体は既に火傷塗れだ。
それでも彼は止まらない。只管に、愚直に、一直線に突き進む。
「稚拙で未熟だ!終わらせてやろう!」
だがそれでも埋まらない差というものは存在する。
一誠の破れかぶれの拳を躱したライザーは、その右手に業火を圧縮した火球を作り上げる。
潜り込んだ懐。そこでライザーは右手を、火球ごと一誠の腹部へと押し当てた。
「ガッ――――!?」
圧縮されていた火炎が接触と同時に炸裂し、周囲を一気に赤と熱気に染め上げる。
そして――――
***
「――――決まりかな」
厳しくも、サーゼクスはこのゲームの結末をそう決定づける。
一誠の成長は目を見張るものがあった。特に、倍化を掛けたうえでの砲撃は上級悪魔も受ければただでは済まないだろう破壊力。実に未来を感じさせる。
だが、ライザーの一撃もまた生半可なものではなかった。
たった一発で校舎の上半分を持って行った。咄嗟にリアスが防御と同時に離脱していなければ、爆発に巻き込まれてその時点でゲームセットだっただろう。
「…………」
しかし、サーゼクスが椅子に座りなおす中、冥利は未だ姿勢を戻すことなく組んだ両手で口元を隠す前傾姿勢を崩してはいなかった。
状況を受け入れられないから、ではなくその瞳は未だ勝負の終わりを映してはいなかったから。
諦めないというのは、言葉にするのは簡単だが実際に行動に移す事は至極難しい。
何故なら、人には諦める為の理由が簡単について回るから。
それは傷みであったり、辛さであったり、疲労であったり、怠惰であったり。人はそれらを理由として、諦める。
諦める事は簡単だ。この場合、それらは妥協という言葉に姿を変える。
だがしかし、冥利は知っている。この世には、どれほどの挫折を前にしても、諦めない馬鹿が居るという事を。
馬鹿は諦めない。諦めないから、前へと足掻いてでも、這ってでも進もうとする。
馬鹿に常識は通用しない。何故なら、常識とは一種の妥協の形でもあるから。要は、レッテルの押し付けでもある。
そして、兵藤一誠は馬鹿だった。
「……沖草君?」
「まだ終わってないっすよ、魔王様。アンタらの尺度で、馬鹿ってのは測れないもんさ。まあ、俺も分かっちゃいないけども」
「何を――――」
意味深な言葉の裏を問おうとしたサーゼクスだが、その言葉は突然の揺れに遮られる事になる。
フィールドに紅蓮の光が走った。
***
全身の痛みの中、一誠は暗闇の中を流れていた。
心は起き上がりたいと叫ぶのに、体が指先一つも動かない。
「――――………っそ……!」
漏れるのは悔やみの声。歯が軋むほどにかみしめられ、歯ぎしりが木霊する。
もっと自分が強ければ。もっと力があれば。この戦いの中で何度そう思ったか、彼自身にも分からない。
それでも現実は、力は強くともそれだけ。当てる技術も無ければ、身を守る術もない。ノーガードでの殴り合いしかできない。
力不足。その事実が重く伸し掛かってくる。
――――力が欲しいか?
「ッ、当たり前だ……!」
――――ならば、お前は何を差し出す?
「何だって、くれてやる!アイツに勝てるのなら……!部長を助けられるのなら……!」
謎の声に、叫ぶように一誠は返していた。
彼の特異性。己の身であろうとも、即座に差し出す事も厭わない精神性。
声は、笑う。
――――あの小僧に感謝する事だな。仮に左腕を対価としても、十秒だが今のお前なら二十秒は持つだろう。さあ、触れるがいい
小僧?と一瞬の疑問が脳裏を駆けるが、その前に体は動く。
持ち上がらなかった筈の左腕が、眼前に現れた紅蓮の光へと触れた。
そして世界は、赤へと染まる。
***
ソレに気が付いたのは、ボロボロの一誠を瓦礫の中より発見し治療していたアーシアだ。
泣きそうになりながら、懸命にその傷を癒す彼女は不意に傷だらけの左腕へと視線が無意識のうちに向いていた。
意識不明と同時に消えていた赤龍帝の籠手。それが今、再び姿を見せる。同時に、完全に沈黙していた一誠の瞼が震えた。
「アーシア……」
「ッ、イッセーさん!まだ動いちゃ――――」
「部長は………」
「う、上です。ライザーさんとの一騎討を……」
見上げれば、炎と魔力弾が空を飛び交っていた。
その光景を視界に収めた一誠は、ある程度回復した体に鞭を打って立ち上がる。
「アーシア……俺、行ってくるよ」
「で、でも……!」
「今行かなきゃ、行けないんだ。だから……!」
アーシアへの謝罪と共に、一誠の体は光に包まれる。
それは未だにたどり着けない極致。疑似であり、代償も大きいがそれでも前に進むために、誓いを果たすために得た力。
禁手化。神器の力を高め、ある領域へと至った者が発現するとされている神器の最終到達点。
だが、一誠は神器を発動して殆ど時間が経っていない。神器の力にしても半分も発揮できていないのが現状だ。
故に代償を払った。
そして現れるのは、紅蓮の全身鎧。
この赤い輝きは、当然ながら空中戦を演じていた二人も気づく。
「イッセー?」
「まさか、あの小僧か…?」
困惑が広がれども、事態は転がり続ける。
時間は僅か、二十秒。この二十秒で、片をつけねばならない。
「ぶっ飛ばすッ!」
「ッ、舐めるなよ!」
ぶつかり合う、赤と炎。
今までネックであった一誠の防御力。それを全身鎧がカバーし、手傷を気にする事なく只管に攻める事を可能とする。
一誠は、攻めた。攻めに攻めた。防御など知ったことかとほぼ一方的に思えるほどにライザーへと殴り掛かった。
もちろん、ライザーもやられっぱなしでは居られない。炎を撒き、殴り、蹴る。
だが、両者は致命的なまでに相性が悪かった。
「ッ!」(耐火性能か!)
龍とは炎を吐くものだ。当然、その体には耐火性を有している。そしてそれは、神器へと落とし込まれても変わらず、全身鎧となった今、その装甲を砕かねば一誠の体が炙られることは無い。
ライザーの体を拳が捉え、そのまま辛うじて原形をとどめていた校舎へと殴り飛ばす。
粉塵が上がり、追撃というように赤が突っ込んでいく。
一誠の学び。吹っ飛ばしたからといって余韻に浸る余裕は無い。
連続で突き出される拳は、まるで流星群。
何とか捌いていたライザーだが、徐々に徐々に防御は間に合わなくなっていく。
「ぐっ!がっ!?舐め、るなァアアアアッ!ゴッ!?」
吠えても、純粋な馬力は現状一誠に軍配が上がる。
ライザーにも潜在能力は確かにある。だが、それらは何もせずにポンッと出てくるようなものではないのだ。天才などはその限りではないが、ライザーはあくまでも生まれが優れた現状は二流。天才には程遠い。
何より、今の一誠は捨て身だ。鎧が砕かれ中身を焼かれようとも、その猛攻を止める事は不可能だった。
一方的、しかし一斉に天秤が傾いているかと問われれば、それは否。
彼の内側では、着々とカウントダウンが進んでいる。
戦場における十秒は長いが、それは圧縮された時間の中に居る為だ。実際、十秒など直ぐに終わってしまう。
残り数秒。妙に冷静な思考の中、一誠は今の自分では倒しきれない事を理解してしまった。
その上で、彼は次へとつなげる動きをする。
そして、その時は訪れた。
鎧の崩壊。猛攻が唐突に止まり、鎧に亀裂が走り光となって消えていく。
崩れ落ちる一誠。だが、ライザーもまた全力で再生に力を割いており直ぐには動けなかった。
『グレモリー眷属【兵士】リタイアです』
アナウンスの直後、顔を上げたライザーは、ソレを見た。
それはバアルに伝わる滅びの魔力。触れただけで対象を滅ぼす力。
リアスのソレは彼女自身の未熟さも相まって、相手の力量次第では意味をなさない場合があった。少なくとも、現状のライザーを完全に滅ぼす破壊力は無い。
だがそれは、彼女だけの力であった場合。
本来神器は一種類の力しか持ちえない。例として、祐斗の魔剣創造。これは魔剣の創造能力があるだけで剣術の腕が上がる事も無い。
だが、神滅具は違う。複数の能力を有している。
赤龍帝の籠手の能力は倍加、そして
連打を見舞う中で、一誠はリアスへと己の高めた力を譲渡していた。そして受け取ったリアスは、その瞬間が来るまで己の力をチャージし続けていたのだ。
放たれるは鮮やかな赤と黒の入り混じった滅びの力により構成される龍の姿。
目を見開いたライザー。最後に見たのは、大口を開ける巨大な龍の