フィードバック ( ハードモード )   作:沼田もんざえもん

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リョウジ、気の向くまま

 

 

 

 

 

 

「生きてます、間違いなく」

「・・・・・・」

 

 薄暗い司令官公務室内。

 ネルフ本部の総司令と特殊監査官が向き合い、分厚く頑丈なトランク内で厳重に管理保護されていたとある生物の受け渡しが人知れず、密やかに行われていた。

 

「人類補完計画の要、ですね」

「・・・・・・」

 

 神妙な、されど好奇心を隠しきれず口元に笑みを浮かべてしまう監査官、加持リョウジは興味の赴くままにこれを受け取る男がどんな顔を、どんな目をしているのかを確かめるべくネルフ本部総司令官、碇ゲンドウを見詰める。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 見詰める、も。

 

「・・・・・・その」

「・・・・・・」

「え、えーと・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 眉一つ動かさず反応の無いゲンドウと続く奇妙な沈黙に加持は耐え切れず、視線をあちらこちらへと動かしてしまう。

 薄暗い室内で遠目からは気が付かなかったが、数ヶ月前にモニター越しで顔を合わせた時のゲンドウとは明らかに様子が変わっていた。

 乾いた唇にこけた頬、白髪交じりの短髪に不均一な顎鬚。サングラスの隙間から覗く双眸は落ち窪み、浅黒い肌色でなければ病人が歩いてるといっても過言ではない程の憔悴具合だった。

 

「あのー、お加減が優れないようでしたら副司令にでも来ていただいて・・・」

「・・・・・・いや。その必要はない」

 

 漸く反応を示したゲンドウは加持の気遣いに余計だと首を振る。

 

「私の事は気にするな。アダムの件はご苦労だった」

「は、はあ」

「今後は本部付け職員として日本に留まってもらう。・・・ある程度の自由は許すが、それらの件で君が何か問題を起こし巻き込まれようとも我々は一切感知しないだろう。勿論、君も期待してはいないだろうが、庇うということもない」

「ええ、そりゃまあ・・・」

 

 ゲンドウのどうにもやる気の感じられない掠れた声と、その取って付けた様な物言いに加持も頭を掻きつつぼんやりと頷いた。

 

( こりゃあ、期待外れだったかな )

 

 

 

 

 

 

あの(・・)碇ゲンドウも人の子という訳か )

 

 つい先程までの遣り取りを思い出す加持は煙草を取り出す。

 アンビリカルブリッジの上、エヴァ初号機を見上げつつ恐る恐る煙を吐き出し火災報知器が鳴らないことに安堵する加持は古ぼけたスタンド灰皿に灰を落とした。

 

( ・・・・・ここが人類最後の切り札の眠る場所、ねえ )

 

 キャスター付きの椅子を引き寄せ、背もたれを前に腕を乗せ腰掛ける加持はアンビリカルブリッジの上を見渡す。

 ブリッジの縁には真新しく取り付けられた手摺に大きめの革張りのソファが。ブリッジ中央、丁度エヴァの顔の前には古い雀卓が鎮座している。途中で止めたのか卓の上には牌が並べられたままだった。

 足元には小型の冷蔵庫と未開封の酒瓶、積み重なる週刊誌とアダルト誌の束が。野外で見かける様な空き缶用のゴミ箱もでんと置かれ、コーヒー類と酒類の缶が山積みに。

 場末の雀荘よりは小奇麗であるものの、決戦兵器の格納庫としては在り得ないその有様に、加持は雀卓の誰が使っていたかも判らない湯呑に新しく開けた酒を入れ口にする。

 

( ある意味・・・想像以上ではあるが・・・ )

 

 再び煙草を咥え直し、加持はソファの上でブランケットに包まり浅く寝息を立てる存在に意識を向ける。

 覗き込む様に、内側に大きく凹み抉れた右の眼窩とブランケットの端からはみ出た左の丸い足首に張るつるりとした綺麗な皮膚を見詰め呟いた。

 

「・・・確かに、これは酷い」

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