「こちらが非常用電源 ──── 」
「 ──── その万一の事態に備えて、 ──── 」
艦橋内で行われるエヴァ運用についてのやり取りを横目に、アスカは隣に立つ顔を真っ赤にした少女、綾波レイの様子を窺う。
顔だけではなく首から腕からと赤く染めているレイはふらふらと、危なげに頭を揺らし時たまたたらを踏んでいる。
( アルコール依存症・・・ねえ )
一見、熱中症かのようにも見える少女の容体だが、彼女の手から提げられたレジ袋の中身を知るアスカとしてはわざわざ心配してやる義理もなく、呆れた視線を送っていた。
( 度数たかだか 3 % で酔っぱらうだなんて・・・日本人は肝臓が弱いって話、本当だったのね )
自分の上司となる女性の酒豪っぷりを思い出し、あれを基準に比べるのも日本人全体に失礼かとアスカは首を振り、手元の缶のプルタブを上げ口を付ける。
「あっま?!何これただの炭酸ジュースじゃない!!」
「・・・アスカ、貴女も大人の前で堂々と飲酒しないでちょうだい」
「あっ、もう話終わったの?」
「まあ、取り敢えずといったところかしら」
缶へ手を伸ばすリツコに、ドイツは十四才から O K よ、と軽く身を躱すアスカ。
先程、握手のために伸ばしたアスカの右手に握らされたのは手ではなく缶だった。
訳が分からず缶を持ったままポカンとするアスカに、首を傾げるレイは何を思ったのか自分の持つ缶をアスカの缶に軽く打ち付け、
『乾杯?』
『・・・か、かんぱい』
『二人とも、ふざけてないでさっさと行くわよ』
何故か自分まで一緒にふざけていたことにされてしまったアスカは機嫌を損ね、手渡されたサワー缶をこれ幸いと返すことなく飲むに至っている。
「だとしても、日の高いうちから飲むもんじゃあないな」
「加持先輩!」
「あら。居たのね」
ろくな大人にならないぞとアスカから缶を取り上げ口を付ける加持に意地汚いわよと更に取り上げるリツコはその匂いに興味が湧いたのか一口含むも予想以上の甘ったるさにを顔を顰めそのままレイへ手渡し、丁度手持ちが空になったレイはそのまま飲み始める。
「・・・ネルフにろくな大人はおらんようだ」
「・・・みたいですね」
艦長と副長の溜息に答えたのは少女の小さなしゃっくりだった。
ぎりぎり余裕のあるエレベーターに乗り四人は食堂へ。
「・・・ワインとシャンパン、あとカクテルを二つ」
「勝手に注文しないでちょうだい。コーヒー二つにオレンジジュース一つ、ミネラルウォーターを大き目のマグカップで・・・ああ、あと出来ればボウルに氷を沢山」
「・・・まだ一日の摂取量上限に達していません」
「帰ってから彼の晩酌に付き合わなくてもいいなら止めないけど。どうするの」
「・・・・・・ぅ~~~」
「唸らないの。すみません、ここに空き缶を置いていっても?」
先に席へ着き、受け取り口に並ぶ二人の後ろ姿をぼんやりと眺めるアスカは思わず呟いてしまう。
「・・・仲、良いんだ」
「ああ。親子、というよりかは年の離れた姉妹みたいな感じだな」
何時の間にか隣へ着いていた加持に驚くも、こちらを見ずに二人を眺めたままの彼に倣いアスカも視線を戻す。
「けっこう甘やかされてるみたいね」
「だな。俺もびっくりだ」
「あんなお子ちゃまが同じエヴァのパイロットだなんて、まったく、たまったもんじゃないわよ」
「ま、子供舌には違いないか」
白衣の袖を細い小さな手で引き尚も食い下がろうと見上げるレイにリツコは振り払いもせずそっぽを向くだけ。
そんな二人のやり取りにアスカは鼻を鳴らす。
「ファーストがこの調子なら司令の息子だっていうサードはとんでもないお坊ちゃまね」
「・・・それは会ってからのお楽しみだな」
何かを知っているような口振りの加持だったが尋ねる前に二人が、アスカの前にリツコ、加持の前にレイが飲み物とボウルを持って席に着いてしまう。
「ほら、レジ袋かして、氷詰めるから。酔い覚ましは先に呑んじゃいなさい」
「何錠?」
「二・五よ。割るぐらいは自分でしてちょうだい」
まだ続くやり取りにアスカは長い溜息を。
加持はコーヒーを口元に笑い声を溢す。
「かわったなあ、リッちゃん。良いお嫁さんになりそうだ」
「リっちゃん?!」
加持の軽口に真っ先に反応したのはアスカだった。
「残念ながらしばらくそんな予定はないわ。それとも、リョウちゃんが貰ってくれるのかしら?」
「リョウちゃんんんッ?!」
「あだ名。愛称。特に親しみを込めて相手を呼ぶために用いる本名以外の呼称・・・二人はそいう関係?」
「そいう関係ってどういう関係よッ!?」
目を丸くして噛みつくアスカにレイは気にも留めず酔い覚ましをミネラルウォーターで流し込みレジ袋で作ってもらった氷嚢を額に当て、たっぷりと間を取り呟く。
「親しい間柄・・・友達?」
「妥当ね」
「ま、そんなところだな」
「・・・もうそれでいいわよ」
マイペースな三人に一人で騒ぐのも馬鹿らしくなりがっくりと肩を落とすアスカだった。