「どうだ? 綾波レイちゃんは」
「拍子抜け。あんなボーっとしたのがあたしと同じ選ばれたパイロット、ファーストチルドレンだなんて。しかもアル中!」
「予備軍な」
アスカは不満も露わにレイを詰る。
一足先に食堂から抜け出したアスカと加持は甲板へ、潮風を受け欄干にもたれながらレイについて語っていた。
天才美少女パイロットを自認するアスカにとって、同性で同い年のパイロットは特別である自分の存在を脅かす目の上のたんこぶになり得ると警戒していたのだが、それがあの調子である。
伝え聞く起動実験の失敗を周囲から比べられ優越感を得るも、自分も同じ失敗をすればそのように見なされると知り戦々恐々としながら、それでも優秀なパイロットとして在り続けようと努力して来たアスカにとって、緊張感の欠片も感じられないレイの在り方が酷く癪に障ったのだ。
そんな不貞腐れるアスカを横目に加持はやれやれと笑う。
「ちなみに名前以外の過去の経歴は全て抹消済み」
「・・・ふーん」
「何でもジオフロント内の職員用宿舎で暮らしてる男の子、サードチルドレンと仲が良いらしくてな」
「もしかして付き合ってるの?」
アスカにとっては初めてになる同じ立場の人間。それは警戒するべき相手であると同時に、己の理解者足り得るのでは、という期待もあったことを加持はなんとなく察していた。
だからこそ、アスカとレイのファーストコンタクトがそれほど悪いものではなかったと感じた加持は短くない付き合いの少女にお節介を焼く。
エヴァの操縦とは関係のない、レイ個人について興味を持たせようとする。
会話の取っ掛かりにでもなればと、少女が食い付き易そうな話題を与える。
少しでも二人の距離が縮まればと。
少しでも、彼女が少女の友人として、心の支えになればと。
「さあ? 流石にそこまではなんとも・・・だが、さっきリッちゃんがこぼしてた彼との晩酌云々ってやつ。あれは十中八九、サードのことだろうな」
「・・・まさかサードも予備軍?」
「さて、どうだか」
あたしが確りしなくちゃ、という神妙な面持ちのアスカの呟きを聞き流す加持は第三の少年にも期待を寄せる。
アスカのことだけではなく、自身が追い求めているものについての全てを知るであろう人物の息子としても。
「ま、それこそ会ってからのお楽しみってヤツだな」
「加持、さんは・・・ただの友達ですか?」
一方、エレベーターからエスカレーターに乗り換え上へと昇り来た道を戻るレイとリツコは加持について語っていた。
「珍しいわね。彼のこと、気になるの?」
一段上に立つリツコの下で、氷嚢片手に白衣の裾を掴むレイは静かに首を振る。
「その・・・葛城一尉以外の親しい人を知るのが・・・初めてで」
「・・・あなたが知らないだけで結婚式に呼ばれる位の友人は何人も居るわよ?」
友人が一人しか居ないと思われていたことに少なくないショックとイラつきを覚えるも、それは単に自身のプライベートをこの少女が知らないだけであることに思い至るリツコは努めて冷静に、彼はミサトと同じで大学以来の友人であることを語る。
「あの呼び方に深い意味はないわ。彼も、私がそう呼ばれていたのを知って揶揄うように真似しているだけ」
「・・・真似」
「そう。それに、私よりもあの二人の方がただの友達って訳でもないのよ」
いまいちピンときていないのか不思議そうに首を傾げるレイに、たまには専門書以外の本も読みなさい、と呆れるリツコに影がかかる。
「その話も気になるけど、先ずはファースト!」
エスカレーターの出口でアスカが腕を組み待ち構えていた。
「ちょっと付き合いなさい」