「先の戦闘、お疲れ様」
会議室に集められた全身包帯だらけの少女二人が並ぶ席の前で、ドアを鳴らし入ってきたミサトが腕を組み切り出す。
「本来ならば次の戦闘に備え療養に専念して欲しい所だけど、生憎そんな余裕は皆無と言っていいわ」
「・・・らしいわね。というか、あんたも大丈夫なの?」
荒れた肌に艶のない髪。化粧もせずに隈が出来た目元を晒したままのやつれたミサトの姿に、再会の挨拶も無く始まった報告会について噛み付くことも忘れたアスカは困惑をそのまま口にする。
「あんただけじゃなくて本部全体の雰囲気もちょっと・・・というかかなり変だし」
それは先日の戦闘後、レイが施した応急処置のままジオフロント内の医療用施設へ急いで運び込まれた際に感じた諸々の手際の良さ。
剥がされるダクトテープの下、ホッチキス針で綺麗に縫い止められていた傷痕に、飛び出た筈が確りと押し戻されていた左足首の骨。
局部麻酔により開かれ取り除かれる針と細かな骨片。
皮膚を縫う医者の横で未成年二人に缶ビールを手渡す作業着姿の男性。
処置後、医者や看護師も一緒になって始まる無言の乾杯。
アスカは下着姿のままということも忘れ、リツコが現れるまで半ば本気で変な宗教施設に預けられたと内心慄いていた。
この日も部屋に着くまでの間、松葉杖を突く二人へ擦れ違うネルフ職員達から向けられる憐憫の視線に無言で手渡されるサワー缶。
感謝を述べるレイ。
やはりネルフ本部は変な宗教団体に乗っ取られているのではと疑うアスカ。
「レイがアル中なの「予備軍」・・・なのも周知の事実みたいだし」
アスカの話にミサトは頭を掻き毟る。
「・・・気にしないで。大部分の職員は真面な筈よ」
「だと良いわね」
二人の話を他所に、レイは早速一本目のプルタブを起こそうとするも流石に今は止めときなさいとアスカに取り上げられてしまう。
「取り敢えず、お酒に関しての説明は後でも構わないから」
アスカは網目状のギプスで固定された右腕を掲げ尋ねる。
「あたしだけが知らないエヴァの秘密、話してくれるんでしょうね?」
『ぐっ・・・うあぁっ?!』
『シンジ君、落ち着いて!あなたの腕・・・じゃ・・・・・・うそ』
『ああああああああ!!』
モニターに映し出されるのは発令所内を俯瞰で見た記録。
プラグの中、叫びのた打ち回る少年に絶句する職員達。
漂う左腕と赤く濁る L C L 。
人型の使徒の攻撃で貫かれる紫色のエヴァの頭部。
途絶える映像。
「・・・死んだの?」
「いいえ。攻撃は眼窩を貫きはせず眼球と頬骨を抉るだけに止まったわ。脳にも異常はなし」
遅れて現れたリツコがアスカの呟きに応えモニターの映像を切り替える。
「この後はエヴァの暴走により使徒殲滅。暴走時のフィードバックはみられないわ」
「そう・・・」
「ミサト。見せるなら編集したものを使いなさい」
次に映し出されたのは赤黒いエビともイカともつかない使徒との戦闘映像のみで、プラグ内はおろか音声さえも入っていないものだった。
「対策として中遠距離からの攻撃・・・・・・も、使徒の鞭、触腕?からの攻撃で・・・か」
腹部を貫かれたまま使徒を片腕だけで殲滅し停止した紫色のエヴァの映像にアスカはリツコを見やる。
「生きてるわ。胃の四分の一と小腸を三十センチ程摘出。左足首と右手の小指は炭化、切除」
淡々と答えるリツコは映像を切り替える。
青い正六面体の使徒から発せられる加粒子砲で黄色のエヴァの胸部装甲が融解していく映像に、アスカはモニターに顔を向けたまま先程取り上げた缶を隣へ押し戻す。
静かにプルタブを起こしたレイは一口だけに留めた。
再び切り替わり夜間、加粒子砲を盾で受け止めるも融解し、結局体で受け止める羽目になった紫色のエヴァにアスカはレイへ視線を向ける。
首を振るレイは口を付けた缶をアスカの前へ。
「下顎、首、胸部から腹部にかけて三度の火傷。沸騰した L C L により気道熱傷のため失声」
缶を呷るアスカに聞かれるでもなく、説明するリツコの顔も何所となくやつれたものだった。