■人類は衰退しました
遙かな未来、人類が衰退した後のお話。
超テクノロジーとクルクルパーな頭を持つ妖精さんが起こしたトラブルを、主人公が解決したり放置したりします。ガガガ文庫から好評発売中。アニメもあるので、次の休日に見るといいです。
■わたし
原作の主人公。清楚な見た目に反して腹黒な様子は、『歩く詐欺』と呼ばれています。
■友人Y
主人公の数少ない友人。奇行に走る癖があります。BL同人誌(作中表記:同類誌)を頒布するのが生きがい。
きっかけは、友人Yの一言でした。
「ボーイミーツガール杯を開催しようと思う」
それを聞いたわたしは、無言で紅茶を口に含みました。
アポ無しで訪問されたので、今日はお茶請けを用意していません。
そのため、紅茶には甘味料を多めに入れています。
口いっぱいに爽やかな風味と、ほんのり暖かい甘さが広がりました。
普段はお菓子作りにほとんど使ってしまう甘味料ですが、たまにはこういう使い方も良いかもしれませんね。
「おいおい、同士よ。無視するな」
「誰が同士ですか」
わたしは、Yの手を払いのけながら、そう言いました。
勝手に仲間扱いされては困ります。
どうせまた面倒臭い事をやらかすに決まっているので、ここは距離を置くのが正解です。
「というか、あなたは男同士でチョメチョメするのが好きなのだと思っていました」
「好きさ! 三度の飯より、男の子同士のイチャイチャを眺めていたい。自分の性癖には抗えない」
「なら、どうしてボーイミーツガールなんですか?」
「ふふ、知りたいか」
不敵な笑みを浮かべるY。
わたしは彼女から目を離し、紅茶を
「いえ、別に」
「なぁーそう言うなよ! 聞いておくれよ、私の葛藤を!」
いつになく絡んできます。ネバネバです。
昔のYはもっと
年齢を重ねると、徐々に面倒な性格になると聞き及びます。どうやら、彼女にもそれは当てはまるようでした。
いえ、まだ若いですけど。わたしとほとんど変わりませんけど。
そうして、つれない態度をとることしばし。
あまり聞きたくはなかったのですが、さしものわたしも、Yのしつこさには心が折れました。
というか、あまりに暇だったので。少しぐらいは、話を聞いてあげてもいいかな? とか。そんな仏心を、一瞬だけでも出してしまったのが運の尽きです。
愚かな。後悔先に立たず。
「まずは、こいつを見てくれ」
そう言いながらYが差し出したのは、何かのチラシのようでした。
どこかで見たようなレイアウトです。
具体的には、Yがボーイミーツボーイ杯を開いた時にも見たような。
<甘く切ないボーイミーツガール>
こんなお話は読みたくないですか?
不意に出会った男女が、激しい恋に落ちる物語。
熱くたぎる思いを、各々の思い描く理想の恋愛を、形にしましょう。
ボーイミーツガール杯、開幕です。(仮)
※企画案出し募集中!
「見ました」
「どう思った?」
「いえ、別段なにも……」
わたしの言葉に、Yは「はぁー」とクソデカ溜め息で答えました。
なんかムカつきます。
「言っておくが、これは私が出した案じゃない。まだ検討段階のようだが、私のボーイミーツボーイ杯を意識した企画なのは明らか……はっきり言おう。これは、私に対する挑戦だ」
「はぁ」
なんでも自分を中心に考える、Yらしい物言いでした。
ボーイミーツボーイ杯があるのだから、ボーイミーツガール杯が開かれるのも当然の成り行きでは?
わたしは、苦笑しながらこう言いました。
「前にも同じような事を言った気がしますけど。そういうものですよ、文化なんてものは」
止めようとしたって、止まらない。
恋は盲目といいます。好きと言う感情は、視野を狭めるのです。だって、他の物に気を向ける必要なんて無いですから。恋が手に入れば、それでいい。それが恋。感情を向ける相手が異性だろうと物語だろうと、それは変わらないでしょう。
「好きという気持ちに、蓋なんて出来ません。みんな、自分の好きな物に全力で向かっているだけなんです。真似されたっていいじゃないですか、同類誌業界が活発になるんですから。周りを気にするより、あなたはあなたが思い描く理想の物語をつづれば良いと思いますよ」
「そんなことはわかっている。だが!」
Yは大仰な身振り手振りで、悔しさを表しました。
その顔は憤怒で染まっています。いったい何が、彼女にそこまでの感情を抱かせるのか。
疑問に思うわたしに対し、Yはこう告げました。
「なんか、私の企画より人が集まりそうじゃないか!」
「そんな理由で」
思ったより下らない理由でした。
わたしは、紅茶をお腹に納める作業に戻ります。次は、フレーバーティーなんていいかもしれませんね。たしか、林檎の皮を乾燥させた物が残っていたはずです。あれを使えば、いい感じに爽やかな風味になりそうです。
「聞け。我がボーイミーツボーイ杯は、第三回を大盛況のうちに終えた。人々は大好きな同類誌と幸せを胸一杯に抱えて、笑顔で帰路についた。だが、私にはわかる。ほんの僅かだが、マンネリ感が出始めている……」
「そうですか」
わたしがせっせと紅茶を入れている間にも、Yは虚空に向かって語り続けています。
いつのまに第三回を開いたのか少しだけ気になりましたが、まぁいいでしょう。
「人々は、新たな風を求めているのだ。この状況でボーイミーツガール杯なんてものが開催されたら、きっとみんな参加するだろう」
「そうかもしれませんね」
「業界の第一人者として、注目度で負けるわけにはいかない」
「そーですね」
「だから!」
バァンと机を叩くY。
そして、おもむろにこんな事をのたまわりました。
「私が先に、ボーイミーツガール杯を開催しようと思う」
「最悪じゃないですか!」
思わず叫んでしまいました。
適当に聞き流していたので忘れていましたが、確かに冒頭のセリフはそんな内容でしたね。
あれだけ真似されるのを嫌がったのに人の真似をしようだなんて、人としてどうかと思います。
「うるさい! 絶対に負けられない戦いが、そこにはあるんだ!」
「あなたは何と戦っているんですか」
わたしの平穏を壊さないで欲しい。
ですが、そんなわたしを尻目にYは語り続けます。
「というわけで、男女の恋愛をテーマにした同類誌即売会を開催する。だが、ボーイミーツボーイ杯の次がボーイミーツガール杯では、あまりにも安直。私にはそう思える。新しい物には、新しい名称が必要だ。今までに無かった、新鮮な響き……私は考えた。この即売会に相応しい名前を」
「もう何でもいいですよ」
「男同士の恋愛がプラトニックな関係だとしたら、男女の恋愛はもっと肉欲的なものになるだろう」
「プラトニックでしたっけ……?」
「
わたしの疑問の声は、エキサイトするYに届きませんでした。
目の前にいる彼女の精神は、どうやら私の手の届かない所まで旅立ってしまったようです。
「決めたぞ。私はボーイミーツガール杯の事を、男女の合体をテーマとしたコンテスト。略して、合コンと呼称することにした!」
「合コン」
合コンという概念の誕生でした。
というわけで、まぁ。
ここまでが、今回のお話の冒頭になります。