■妖精さん
体長10cmほどの、デフォルメ人形のような姿をした生物。
(・ワ・) ← こんな顔をしています。
魔法的なパワーで、ドラえもん秘密道具レベルの物まで作れます。すごい。
とても人間さんのことが好きなのですが、同時に極度の人見知りでもあるので、知らない人間さんがくると隠れてしまいます。
■ライナー・ブラウン
進撃の巨人に登場する戦士。
正義感が強く、主人公のエレン達を引っ張る兄貴分のようなキャラクターです。
■碇ゲンドウ
エヴァの主人公、碇シンジの父親です。
それ以外の事については、よくわからない。
気づいたときには、変な部屋に閉じ込められていました。
真っ白い壁。真っ白い天井。真っ白い床。出入り口すらありません。
なんだかデジャヴです。前にも同じ事があったような。
具体的には、原作6巻の後半で似たような導入があったような。
そうです。原作6巻の150ページ目から198ページ目までの間、妖精さんの気まぐれにより同類誌の中に閉じ込められて、漫画の登場人物をやらされたのでした。今回も同様の案件でしょう。
経験があるとないとでは、大違いです。かなり落ち着いて物事を考えられました。
いえ。べつに落ち着くだけで、何ら対処はできないのですが。とはいえ、何の手がかりもなく閉じ込められた前回と比較すれば、まだマシな状況と言えます。
わたしは、ゆっくりと周囲を見渡しました。
前回との違いといえば、部屋の天井付近に掲げられた横断幕と、壁に設けられた小さな覗き窓ぐらいのものでしょうか。
物が少なすぎて不安になるレベルですが、たぶんそのうち色々と追加されていくのでしょう。アップデートという奴です。いつものパターンですね。
続いて、一際目立つ横断幕に目を向けてみます。
鮮烈なほど赤い布に、白い文字。さすがは妖精さん、なかなか良い仕事です。
横断幕とは、目立つように文字を書いて、情報を広く伝える目的で作られた物の事です。よって、ここに書かれている文章は、この部屋にいる誰か──つまり、わたしに伝えたい情報が書かれているのでしょう。
そこには、こんな事が書かれていました。
「合コンしないと、絶対に出られない部屋……?」
わたしは、首をかしげました。
意味が分かりません。
いえ、書いてある意味はわかるのですが。脳が理解を拒否しています。
合コンとは、こんな監禁めいたシチュエーションで行われるものなのでしょうか。
理解が及ばなかったので、わたしは犯人に直接伺うことにしました。
「妖精さーん!」
「はーい」「よんだです?」「びびっととうじょう」
3人の妖精さんが、わたしの呼びかけに答えて胸ポケットから飛び出してきます。
いつからいたんでしょう? まぁいいですけど。
「妖精さん、これは一体どういうことですか?」
「ごうこん」「われわれも、たいけんしたいてきな?」「まなつのよるの、あばんちゅーるです?」
「妖精さんが……わたしと?」
「いえ」「それはのーせんきゅー」「ですな」
「ノーセンキューなんだ……」
「はい」
ちょっとショックでした。
「われわれ、にんげんさんのぶんか、しらぬですゆえ」「おてほんになればと、ごうこんをせってぃんぐしました」「にんげんさんのいいところ、みてみたい」
なるほど。妖精さん同士で合コンごっこをしたかったけれど、内容を知らないのでうまくいかなかった、という事でしょうか。
いえ、わたしも全然わからないのですけれど。合コン。そもそもYが勝手に作った言葉ですし。ボーイミーツガールの言い換えでしたっけ?
なんだか違う気がします。理由はわかりませんが、もうちょっとリア充っぽい……男女のグループが、ウェーイと飲んで騒いだりするような。そんな言葉のイメージがあります。
というか、セッティング?
ここに、誰か男の人が来るということでしょうか?
「言葉の意味は、置いておくとして……わたしを見ても、お手本にはならないと思うのですが。別の人にしません?」
わたしは、身の保身に走りました。
初対面の男の人と会話するとか、そういうの好きじゃないので。
なんとか回避したいところ。
「なんと」「しょうげきのじじつ」「ならぬですかー」
「ならぬのですよ」
一人が好きで、半引きこもりのわたし(※放浪癖あり。冒険家レベル50)。それに対して、男女の恋愛的な何かを指し示す、合コンという言葉。
これほど食い合わせの悪い物もないでしょう。
だから、ここは別の人にお鉢を回すべきなのです。
「しかしながら」「もうせってぃんぐずみですゆえ」「どたきゃんは、さけたいところ」
「ドタキャンすると、どうなるんです?」
「それは……」「あれですな」「あれです」
「あれ?」
「……ひどいことに、なります?」「たぶん」「まちがいなく」
「曖昧な回答」
「「ただではすまぬ」」
「怖い」
とりあえず、これからどうすればいいのかを妖精さんに聞きます。
こうなってしまっては、下手に反対するより、適度に乗った方がいい。その方が、自分で状況をコントロールできる分マシです。妖精さんと接する間に身に着けた処世術でした。
「かべのあな、のぞくです」「つぎつぎとうつしだされるだんせい」「おきにいりみつかったら、このへやにひきこみます」
「それって誘拐なのでは?」
妖精さんのやることに今さら文句はつけませんけれど、犯罪に手は染めたくありません。わたしは、清く正しい人間でありたいので。罰として断髪されたりするのは、もう嫌なので。
しかしながら、他に方法はなさそうでした。
まことに遺憾ながら、選ばれた男性には犠牲になって頂くことにしましょう。
前言撤回。わたし、結構得意です。
人生、諦めが肝心なのです。
「では、この窓を覗けばいいんですね?」
「はい。おなやみちゅうのだんせいをさがして、うつしますゆえ」「びびっときたら、ぼたんをおすです」「まっちんぐしすてむ」
「お悩み中の男性……なぜそのようなチョイスを?」
「しょーしんのおとこ、なぐさめると、いちころです?」「ちょろい」「おなやみきくだけで、ほれます」
「思いのほか打算的な理由でしたね」
お悩みを聞いただけで惚れたりはしないと思いますけど。
あと、合コン(ボーイミーツガール?)的な要素もあまり無い気がします。
これって、合コンではなく、お悩み相談室と呼んだ方が相応しいのでは?
「たしかに」「われわれもかんがえました」「だれしもがおもうところ」
「考えたんですか」
「でも」「あたらしいなまえのほうが、たのしいので」「なはたいをあらわす」
「なるほど」
全然わかりませんが、納得しました。自分の心を騙すなんて朝飯前です。
不安こそありますが、今回は妖精さんと一緒なので、それほど危険な目には合わないでしょう。心に余裕も生まれようというもの。
わたしは、意を決して覗き窓に顔を近づけました。
息を呑みます。鬼が出るか、蛇が出るか。まったく予想が付きません。
願わくば、おとなしめの男の子を。間違ってもヤンキー系とか、ウェーイ系とか、俺様系が来たりしませんように。
「まっちんぐがちゃは、5かいまでしかひけませぬゆえ」「かきんせきがたりぬです」「しんこくなおふせぶそく」
「それ、もう少し早く言って下さい」
ガチャとは、古い書物に度々登場する
一時はかなりの大勢力を築いた文明らしいのですが、今は滅んでしまいました。
5回という回数が多いのか少ないのかは、わかりません。
覗き窓の様子に、神経を集中させます。
情報は力です。なるべくお手軽に済ませそうな男性を選んで、さっさと終わらせたい。終わらせて、本の続きを読みたい。わたしの中にある感情はそれだけでした。
妖精さんには悪いのですが、わたしに男女の会話をしろとか無理ゲーです。死にます。
しばらくして。
最初は白一色だった覗き窓の向こうが、徐々に暗くなってきました。
そして、揺れる人影が浮かび上がってきます。
映し出された場所は、かなり暗い場所のようでした。
地下室でしょうか? 窓の無い部屋に、小さなランプの明かりが一つだけ。
人影が揺らめいて見えるのは、炎に照らされているからでしょう。レンガ造りの壁が、黒と赤で彩られています。
その小さな部屋にいるのは、二十歳前後の男性が二人と、十を少し過ぎたぐらいの男の子。
二人の男性のうち体の大きい方が、もう片方──痩躯の男にすがりついて、泣いていました。
「エレン! 時代や環境のせいじゃなくて……俺が悪いんだよ。お前の母親が巨人に食われたのは 俺のせいだ! もう嫌なんだ、自分が……俺を殺してくれ。もう、消えたい……」
おおっと? なんだか、ただならぬ場面のご様子。
こんな場面に「合コンしましょう!」と割って入ったら、殺されてしまいそうです。
場違いもいい所では?
「どうです?」「ゆうりょうぶっけんだとおもいますが?」「おすすめ」
「うーん」
妖精さんの問いかけに、わたしは微妙な反応を返しました。
わたしは、男性達の観察を続けます。
ゴツい男性の方は、なんだか歪んだ性癖をもっている気がしました。きっと、自身を愛せない子供時代を送ったのではないでしょうか? 好きな子から貰った手紙をずっと保管してそうな気持ち悪さを感じます。あまつさえ、たまに匂いを嗅いで恍惚の表情を浮かべていそうです。
痩躯の男性の方は……こちらも危険な匂いを感じます。別れた彼女に「いつまでも俺のことを引きずっていて欲しい!」とか言い放ちそうです。自己中精神、ここに極まれりといった感じですね。
男の子は悪くない雰囲気を感じましたが、流石に純情な子供を謎の部屋に連れ込むのは、気が引けました。
「却下で」
「だめでしたかー」「わからぬでもない」「さくふうがちがいすぎる」
わたしの出した結論に、妖精さんはがっくり肩を落とします。
でも仕方がありません。これは、チョイスが悪いのだと思います。どういう場面ですか、これは。
「では」「つぎにいきましょー」「ぽいっとな」
空中に現れた紐を妖精さんが引っ張ると、大量の水が降って来て、もみ合っていた男達を洗い流してしまいました。
大丈夫なんですかね、あれ。地下室っぽかったですけど、溺れたりしないのでしょうか。
まぁ、妖精さんのすることなので。きっと大丈夫なのでしょう。
水が引くと、いつのまにか場面が切り替わっていました。
次の男性にカメラが移ったようです。さっきので、ガチャ1回分を消費したということでしょうか? あと4回までは大丈夫ですね。
今度は、先ほどと違って広い空間が映し出されました。部屋の大きさは……百メートル四方はあるでしょうか?
そこにデデンと鎮座しているのは、なんと巨大ロボ! 男の子が好きそうです。
はてさて。そんな熱い男のロマンを予感させるロボですが、それに付随する男性は、熱さとは対極に位置しそうな人物でした。
ロボを見下ろせる位置に仁王立ちしているのは、サングラスの男性。
仁王立ちです。なんだかすごく偉そうです。
黒いスーツに赤いシャツ、おまけに白の手袋と、なかなかイカれた格好をしていらっしゃいます。
ここで、中年男性が口を開きました。
「シンジ。エヴァに乗れ」
「チェンジで」
思考より先に、口が動いていました。
「はやくないです?」「せつなのみきり」「あきらめたら、そこでしあいしゅうりょうです?」
「いいえ、彼はダメです。一目でわかります。まるでダメな男、略してマダオですよアレは」
「まだおでしたかー」「うつすかちなし」「はずれがちゃ」
あの人とお話しても、いい結果になる未来が見えません。
死別した奥さんのことが忘れられずに、子供を放置して奥さんの人形を延々と作り続けていそうな薄気味の悪さを感じます。率直に言って、怖いです。
妖精さんが、再び紐を引っ張りました。
どこからとも無く出てきた水が、おっさんと巨大ロボを押し流していきます。
あまりの濁流にマダオの安否が気遣われましたが、まぁきっと大丈夫でしょう。
その後も、覗き窓に映るのは変な人ばかりでした。
「これは?」「わかわかしさあふれる」
「いえ。『新世界の神になる!』とか真顔で言っちゃうような人は、ちょっと……」
「では」「こういうのは?」
「あれが一番ダメですね。喜べ少年っていう言い回しが最高に気持ち悪いです。『どうせ死ぬのなら、妻は私の手で殺したかった』とか言いそうなタイプですよ」
「きゃー!」「こわーい」「りょうきてきです?」
恐怖で股間をじょーっと濡らす妖精さんを尻目に、わたしは目頭を押さえてうずくまります。
ろくな男性がいなかった……
もう一度言います。
ろくな、男性が、いなかった!
「とうとう、最後の1回ですか」
わたしは、窓を覗き込んだまま、場面が切り替わるのを待ちます。
もう、ガチャの残りがありません。
本気でろくな人物がいませんでした。
これは一体、どういうことなのでしょう。
全部外れなら、ガチャを引く必要などないのでは?
歴史の書物を紐解けば、ガチャは悪い文明と明記された物が山のように見つかります。
なんでも、ガチャは人の心と財布を破壊してしまうのだとか。
たしかに、これは良い物ではなさそうです。滅んで正解だったのかもしれません。
「あっ?」
不意に、覗き窓から光が溢れました。
思わず手で目を覆います。指の隙間から覗こうとするも、あまりの眩しさで全然見えません。いったい何なんでしょう。
「きました」「かくていえんしゅつ」「これはあつい」
「なんですか、確定演出って!」
「あたり、ひいたときにでるやつです?」「にじいろ」「ごうかえんしゅつ」
「数秒後には結果が分かるのに、演出いります? というか、そもそも全部当たりにしてくれればいいのでは……?」
「しゃこうしんあおらぬと」「がちゃ、まわりませぬゆえ」「せちがらいよのなか」
全然わかりません。文化が違います。
ガチャとはいったい……
そんなこんなで、わたしが混乱しているうちに。
なにかが弾ける音がしたかと思うと、わたしは光の奔流に飲み込まれてしまいました。
はい、というわけで。
続きます。