合コンしないと絶対に出られない部屋   作:ぽぽりんご

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第4話 エピローグ的なアレです

 

 

 ピアノの鍵盤を、指で押し込みます。

 ポーンという音が鳴りました。滅多に使われていない代物ですが、壊れてはいないようです。調律なんかは狂っているのかもしれませんが、正直よくわかりません。

 

 ポロン、ポロン、ポロンと。続けて弾いてみます。

 黒い鍵盤部分だけを使えば、初心者でもそれっぽく演奏できるという話は聞いた事がありました。確かに、何だかよく分からないけどそれっぽくなります。わたしに解説するだけの音楽知識はありませんが。

 

「意外と簡単……?」

 

 すみません、調子に乗りました。

 

 

 調子に乗りつつ、演奏を続けます。

 わたしが唐突にピアノなんて引っ張り出したのは、先日わたしに子育て相談をしてきた少年君の呟きを耳にしたからです。

『子供と一緒に何かをしてみればいいですよ』というわたしの言葉に、彼は色々とブツブツ呟いて考えをまとめていました。その中に『ピアノを一緒に弾いてみたい』のような趣旨の発言があったのです。

 

 なんとなく。それだけの理由。

 はい。暇だしお菓子作りの材料もないので、遊んでいるだけですね。わたしはワーカーホリックではないので、こうした息抜きは必要なのでした。倉庫整理のついでのようなものなので、許されると思います。

 

 

「20点」

「まぁひどい」

 

 いつのまにか背後に迫っていたYが、わたしの演奏を採点してきました。演奏に点を付けるなど、旧時代の悪しき風習だと思います。

 Yは、ピアノに腰掛けるという行儀の悪い行動をしつつ、わたしに話しかけてきました。

 

「なんでまた、ピアノなんて引っ張り出してきたんだ? 埃まみれになってたじゃないか」

「とある男の人から『可愛らしい男の子と一緒にピアノを弾いてみたい』という話を聞かされまして。その影響です。たまには良いじゃないですか、新しい事に挑戦してみるのも」

「挑戦はいいけどさ……なんだ、そのBLの設定みたいな話は。君もBLに目覚めたのか?」

「BLとか言わないで下さいよ。あの男性が語ってくれたのは、家族愛なので」

「それもBLの一つの形なんだよなぁ」

 

 駄目です。Yの脳は完全に汚染されているようで、彼女の耳を経由した愛は、全てBLに変換されてしまうようでした。どうしようもありません。

 

 詳しく聞かせてよ、とせがむYに、わたしは嫌そうな表情を返しました。

 人の悩みなんて、吹聴するものではありません。適度にぼかして、当たり障りのない回答に留める事にします。

 

「別に、面白い話ではありませんよ。ただ単に、親御さんから『小さい子供と仲良くするにはどうすればいいか』と相談されただけです。わたしは、それに回答しただけ」

「しょ、ショタと仲良く!? なんたる不埒な。君はその問いに答えられるほど、手練手管だとでもいうのか?」

「いえ、わからないので当たり障りのない回答をしただけですけど。一緒に何かをして、褒めてあげればイチコロですと答えました」

「なるほど。それでピアノを一緒に弾くという話になったのか」

 

 Yは口元に手を当て、ブツブツと呟き始めました。考えをまとめているのでしょう。

 その仕草は、どことなくあの少年を思い起こさせます。彼とYは、同タイプの人間なのかもしれません。髪の色も似ていますし……すみません、適当な事を言いました。

 

「良い……」

「はい?」

「良いじゃないか! 美少年がショタ属性持ち美少年と共に、ピアノの連弾。ショタは、恐る恐るといった様子でピアノを弾き始める。そして、それをリードする美少年。次第に楽しくなってくるショタ! 彼の内気な心は次第に解きほぐされ、やがて二人だけの世界へと没入していく……」

「はぁ」

「二人でなら、どこまでだって舞える。心の解放! 攻めと受けの逆転は荒れやすいが、ショタの成長を見せるためにも、最後はショタがリードする形にまとめても美味しいな」

 

 親子と言ったはずですが、当然のように美少年二人に置き換えられています。さすがとしか言いようがありません。

 

 確かに、わたしはシンジ君の年齢を聞いていません。

 聞いていませんが、その子の親になりたいという彼の発言から考えるに、近しい年齢のはずがありません。常識的に考えて。

 Yの発言は、彼らの関係を(ないがし)ろにしているような気がしました。

 なので、話を変える事にします。

 

 

「さっきから男の子同士のチョメチョメについてばかり話していますけど。ボーイミーツガール杯を開くという話はどうなったんですか? そちらの準備をするべきでしょうに」

「ああ、あれは止めてしまった」

「えっ」

 

 猪突猛進のYが、考え直すなんて。今までになかった事でした。彼女も成長したという事でしょうか。

 いえ、とてもそうは思えません。疑問に思ったわたしが理由を尋ねると、Yはこう答えました。

 

「やはり、私の魂は男同士の純愛に囚われている。気づいたんだ、私が真に求めるものは何なのか。ただ人気を取りたいわけじゃない。心の奥底に眠る衝動、その解放……そう。私は、人々に啓蒙したいんだ。妖しくも淫らなサブカルチャーを」

 

 どうやら、成長したわけではなく、スタート地点に戻っただけのようです。

 

「君も覚えておくといい。人は、容易に道を踏み外してしまう。初心を忘れてはいけない」

 

 Yは既に人の道を踏み外しまくっていると思うのですが、口には出しませんでした。

 どうせ、言っても聞きませんし。

 

「この話のタイトルは、どうするか……普段ならキャッチーさを優先してタイトルを付けるが、美少年の繊細さを表すには相応しくないかもしれない。難しいな……ひとまず、エレン君(仮)の静かな変化……vary、quiet……略して、『エヴァQ』と呼称しておこう」

「何でもいいですよ、もう」

 

 また話が戻ってしまいました。

 こうなったYは止まらないので、放っておくしかありません。

 面倒臭い事件さえ引き起こさなければ、何でもいいです。既に妖精さん達の同類誌ブームは終わりを迎えているので、いつもと同じことをするだけなら、特に問題は起きないでしょう。

 

 

 わたしは、ピアノを弾き続けます。

 慣れてきたので全ての鍵盤を使い始めましたが、やはり難しいです。ピアノは伴奏に徹して、主旋律は歌にしたほうがいいですかね? いえ、歌いませんけど。恥ずかしいので。

 

 

 わたしは、ピアノを弾き続けます。

 いつのまにか、Yの姿が見えなくなっていました。

 きっと、妄想がまとまったので原稿を描く作業でも始めたのでしょう。

 彼女は好き勝手する生き物なので、妖精さん達を刺激しない限りにおいては、放置が安定です。

 

 

 わたしは、ピアノを弾き続けます。

 誰もいないし、まぁいいかと思って歌い始めてみました。

 歌詞は適当です。歌とか、よく知らないので。

 

 

 わたしは、ピアノを弾き続けます。

 気づけば、わたしの足下で妖精さん達が楽器の演奏を始めていました。

 タンバリン、トライアングル、カスタネット。三人の妖精さんが、ピアノの音に合わせて音を繋げていきます。わたしも含め、みんな滅茶苦茶な演奏でしたが、けっこう楽しいかもしれません。

 

 

 わたしは、ピアノを弾き続けます。

 子育てについて相談してきた彼のことを思い浮かべました。

 彼は、シンジ君と仲良くなれたのでしょうか? 

 わかりません。結果を聞くことは出来ないでしょう。たぶん、わたしと彼が会う機会は、もう二度と無いと思うので。

 

 

 

 しばらくして。わたしは演奏を止めました。

 さすがに疲労困憊です。伸びをすると、肩からポキポキと音が聞こえました。慣れない動きを続けたせいで、体が凝り固まってしまったようです。

 

 妖精さん達に目を向けてみます。

 いつのまにか、五人に増えていました。わたしが演奏を止めた後も、彼らは思い思いに音を奏で続けています。未経験者に音楽は難しいのではないかと思っていたのですが、彼らの様子を見る限り、経験の有無は関係なさそうですね。

 

 

「……慣れないことをしたついでに、もう一つだけ。慣れないことを、してみますか」

 

 わたしは薄情な人間なので。人の幸せを願うことなんて、滅多にないですけれど。

 たまには、やってみるのもいいかもしれません。そう思いました。ほんの気まぐれです。

 

 妖精さん達の方に向き直り、手を合わせます。

 祈りの作法は、知りません。

 神様がどこにいるのかも、知りません。

 なので、とりあえず妖精さんに向けてお祈りをすることにしました。

 彼らに願っておけば、間違いはないでしょう。たぶん。

 

 

 一つ、深呼吸をして。わたしは、静かに口にします。

 これだけ口にしたら、今日の休憩はおしまい。

 倉庫整理の続きをして、日が暮れたら帰って寝ます。そう決めました。

 

「──願わくば」

 

 願わくば。

 彼らが、仲良くなれますように。

 

 

 

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