「ぁ…がっ…ああああ!」
「ヵっ…げほっ、げほ…」
霧子のクロスボウは正確にいろはとあすみを射抜いていた。突如腹部を貫かれた激痛は少女なら、否大人ですら耐えられないだろう。クロスボウから糸が伸び、二人を地面に固定する。悲鳴を聞けど霧子に容赦はない。軋む心を仮面で隠し、冷酷に、無慈悲に、正確にあすみを葬り去るために機動する。
一歩、斜め前に飛び出す。二歩、そのまま直進。目にもとまらぬ速さであすみの視界から出る。三歩。後ろをとり。飛び上がりその剣で命を砕こうと――
ホアアアアア!?おまっ霧子おまっ何してくれとんじゃ!?ふざけんな!(迫真
たしかにさぁ、操作魔法少女がコントロール奪取するのは今までも少しはあったけどさぁ、ここでそれはまずいって!みかづき荘組からの信頼度も杏子からの信頼度もどうなるかわかったもんじゃなくなるぞオイ!
あぁもう何もしないでもあすみに向かって行ってるし、ストレス値も見えたけどこれ【あたしって、ほんとバカ】のさやかちゃんに匹敵するストレス値じゃねぇか。ほんとお前!お前なぁ…
串団子めいたいろあすに剣を振り下ろしてますね。これでソウルジェム砕くんでしょうね。いろはの腹ぶち抜いてましたけどどう言い訳しようか…
あ。
「それ」は突然に表れた。鳥を模した面、ぼろぼろの桃色のマント、白い包帯。その名は沈黙のドッペル。環いろはの絶望の写し身が、主の望みをかなえるために動き出す。
「asumityannwokidutukenaide!」
「ドッペル…!」
「何をしてるの、霧子!?」
包帯の津波が襲い来る。霧子は大剣で捌こうとするも物量には耐えられない。すぐにいろはから離れたが待っていたのは仲間からの追求だった。
「あなた、なんでこんなことを…!」
「そうしなくちゃ、アイツは、アイツだけは…………っ!よけろぉ!」
ドッペルが襲い来る。しかしその軌道は不自然に変えられた。ドッペルがまるですべての力を振り絞るかのように誰もいない虚空に向けて包帯を放っていた。
「これは…?」
すべての力を振り絞ったドッペルは消え失せ、代わりに傷がいえたいろはだけが残された。そして…
「やっぱり、きついかな…」
「お前、どうして…」
精神攻撃の魔方陣が輝いている。しかし故人に罵られる者も、自らの願いの絶望を見せられるものもいない。代わりにその絶望の記憶が拭い去られていく。…ドッペルの力を無駄打ちさせたのも彼女だった。せめていろはが他のだれかを傷つけることがないようにドッペルを操っていたのだった。
「あすみ…ちゃん…」
「ごめん、ごめんね、いろは…いろはが抱きしめてくれて、私のためにやさしさをくれたの、すごくうれしかった。…いろはがつくってくれたごはん、すっごくおいしかった。私、いろはと過ごした時間、とても幸せだった。」
「わかってるよ。…だか…ら、一緒に――」
「でも、ダメなの。私、いっぱいいっぱい不幸にしてきたから、いろはが傷ついちゃうから、とても悪い子だから…っ!サヨナラ、いろは。」
あすみの表情に今までの邪悪はない。そこにいるのはただ自らの間違いを悔いる魔法少女。眼は涙で満ち、そして彼女を喰らうように黒い瘴気が満ち、あすみの姿が掻き消えた。
「これで終わりなのか…?」
「なんでだよ…なんで、アイツは…っ!」
神名あすみは邪悪でなければならない。多くの人を殺してきたから。そうでなきゃ、憎めないから。彼女を悪として倒して初めて、風見野の魔法少女に報えると。これ以上の被害を抑え、みんなを守れると。そう霧子は思っていた。けれどこれはなんだ。ただの、彼女も被害者の様じゃないか。どうしようもない怒りが、悲嘆が霧子の魂に満ちて――
「朝倉さん!環さんを治すのに協力して!」
やちよの声が霧子を現実に引き戻す。彼女も一応は傷を治す魔法が使える。いろはの体に残った損傷を治していくと、ふいにいろはが口を開いた。
「あすみちゃんは…?」
「アンタに謝って、姿を消したよ」
「…っ!」
いろはが立ち上がる。自前の治癒魔法も併せてすぐに傷をなくして夜の街に駆けだそうとした。
「環さん?」
「あすみちゃんを探しに行きます!」
「はぁ!?」
霧子が驚嘆の声を上げる。そしてすぐに止めにかかった。
「何言ってんだ、あぶねぇぞ!?」
「私はあすみちゃんを助けたい、こんなの、悲しすぎます!」
「あ"ぁもう勝手にしろ!」
やちよがいろはに協力を提案した。
「…くれぐれも無理はしないこと、今日見つからなかったらあきらめること。それを守るなら私も行く。」
「アタシは2人のこと見なくちゃいけないからな…」
ももこはかえでとレナを看るために残ることを宣言し、
「…アタシも行くよ」
「おまっ…マジ?」
『あたしって、ほんとバカ…』
『どうすればさやかは元に戻るんだよ!?』
杏子はさやかのために奔走した自分と、これからあすみを探そうとしているいろはを重ねていた。故にいろはに協力しようとしたのだ。
「…俺も行く。やらかした下手人だからな。」
そして事情を知らずともそんな幼馴染を見て無視できるほど霧子も割り切り上手ではないのだ。
「ただ、千里に見てもらえ。一応連絡して呼びに…」
携帯の受信チャイムが鳴り響いた。連絡人はななか。
『霧子さん!』
「ななか?どうしたんだ?」
『ドッペルです!…とても強くて、結界内で分断されました!』
「悪い助けに行くのが先だ!どこで結界にのまれた!?」
「みかづき荘付近!」
「それって、まさか…」
いろはたち4人はみかづき荘に向かい、結界に侵入する。
待ち受けていたのは花嫁のようなドッペル。変化部位は下半身。あすみが吊り下げられたような形でいる。その名は鬱屈のドッペル…あすみの絶望そのものだ。
魔女は生前の考え方、願いに基づいて行動する。そして魔女に限りなく近い性質を持つドッペルも同じだった。
「gomennnasai,gomennnasai,gomennnasai」
「あすみちゃん!」
「動きを止める!」
赤い鎖と黒い糸がドッペルに殺到するが、ドロリ、と身体を変形させそれを躱す。そして体を刃状に変化させて無差別に斬撃をばらまいた。この場にいる魔法少女は精鋭揃い。7年もの時を生き延びた七海やちよ、風見野で固有魔法もなしに生き抜き、戦いにおいては最強クラスの佐倉杏子、修羅の道を歩んできた朝倉霧子。…ただ一人、環いろはを除いては。
「きゃあぁ!」
「いわんこっちゃない!」
スナイパーライフルで銃撃するも今度はドーム状に変形したドッペルに阻まれた。そしてドッペルが広域に展開。彼女の絶望そのものを振りかける。この雨に当たれば精神を蝕まれ、ソウルジェムの汚濁につながる死の雨だ。
「なんだよ、これ…!」
「濁りが加速してる…離れて!」
「少し待ってろ、すぐ守る!」
黒い糸がいろはたちの上に展開。編み合わさって硬質化しドッペルの雨からの守りを形成した。しかし雨は障壁を侵食していく。霧子の補強もあるが決壊するのも時間の問題だろう。さらに斬撃、雨、ドッペル暴発のダメージがかさみいろはのジェムはまた濁り切っていた。
「…そういえば、私、あの時何が起きてたんですか…?」
「…ドッペルを発動していたのよ。この神浜でのみ起きる謎の現象。ソウルジェムが濁り切ったときに起こるの。」
「強大な力を発揮し、ソウルジェムを浄化できる。けど、はっきり言ってリスキーすぎるな。」
「じゃあ、使ったことって…あります…か?」
「そりゃああるが…まさかお前」
「使い方を教えてください!」
面食らったような表情の霧子。しかしこのままでは全滅しかねない。ならば…杏子は賭けに出ることを選択した。
「結界はアタシが維持する。ドッペルの使い方、教えられるかい?」
「おう、まぁいろは次第だけど。」
赤い結界が雨からの防御を展開。やちよと霧子がいろはを支えドッペルの使い方を叩きこむ。
「いいか、まず優先すべきことはだれか出てきても耐えることだ。何言われても心を乱すな、乗っ取られないようにしろ。これだけは守れ!」
「要点は先に朝倉さんが言っちゃったけど、自分のやりたいことを意識し続けなさい。一応はそれで耐えられるから!」
「ありがとうございます…」
「限界だ!」
「ぐっ…ああああああ!」
今一度ドッペルが顕現する。沈黙のドッペルは今、いろはの意思で動いている。
「はあぁ!」
包帯が雨から皆を守り、雨を包み込む。鬱屈のドッペルは己のとらえられた身体を取り戻そうと雨になった体を引き寄せた。包帯を侵食して食い破り、黒い雨があすみに集まりまた花嫁のごとき形になる。
「AAAAAAAAAA!」
再度斬撃。しかしいろははそのすべてを包帯で受け止め、あすみのほうに飛んでいく。
「ごめん、目を覚ましてあすみちゃん!」
包帯を刃となし沈黙が鬱屈を切り裂いた。さらにいろははあすみのドッペルを自身のドッペルで抑え込み、あすみに接近し捕まえる。ドッペルが強いダメージを負うとともに、あすみの顔を覆っていた白磁の仮面が砕け散った。
「なんで?なんでまだ…」
「いったはずだよ。あすみちゃんを助けるって。」
「天乃さんがみんなを保護したわ。ドッペルを引きはがすわよ!」
「「おう!」」
「だから、一緒に帰ろう、あすみちゃんっ!」
「帰ったらお風呂に入って、一緒に眠って、朝ご飯を食べて、一緒に暮らそう?」
赤槍、黒剣、蒼槍。ドッペルが崩れていく。同時にいろはのドッペルも限界を迎えて消滅していった。
「…いっぱい、いっぱいひどい目に合わせてきたんだよ?…人だって殺してきたんだよ?なのに…っいろはっ…なんで、…そばにいられるのっ…?」
「あすみちゃんは、ひどい目にいっぱいあって、苦しんで、だから不幸を振りまいていたんでしょ?なら、目いっぱい幸せにするの。そしたらいい子に戻れる。たくさん間違ってもまだやり直せる。一緒に帰ろう?」
「ぅっ…ぁ…っっぁぁあぁああああ!」
結界が崩れていく。朝日が神浜市をうっすらと照らしていた。
「…一件落着ってとこかな?」
(七海、こっちはかえでとレナを家に帰した。それであすみは…どうなった?)
(いろはが保護したわ。もうこちらに敵意は向けてない。脅威は去ったと考えていいわ。)
やちよはももこからの念話を受け取り、それぞれの無事を確認する。霧子はいろはに謝罪しに行った。
「霧子さん?」
「すまないな、いろは。お前の意思を否定して、お前を傷つけてまであすみを殺そうとして…」
「いえ、私のことはいいです。…まだあすみちゃんを殺そうとしてるんですか?」
「もうそうはしないよ。」
「わかりました。ひとまずそれを聞いて安心しました。あと、ドッペルの使い方教えてくれてありがとうございます!」
いろはの一言に霧子は一瞬驚嘆の表情を見せ…そして目を細めて、いろはから表情を隠し杏子のもとに向かった。
「そういえば杏子はこの後どうすんだ?」
「…あぁ、もう少しこの町をぶらつくよ。」
「そっか…また会えるといいな。今度はまだまともな状況で。」
鈴音たちが少し離れたところから合流する。この状況に面食らった表情のものもいたが、やちよの説明にそれぞれの反応を見せた。そして下した結論は大方似通ったものであった
「まず、彼女を変身させないようにしましょう。」
「そうね。ただ抜けられる危険があるからソウルジェムを持っておくかぐらいにしないと…」
「私がやります!あすみちゃんを助けようとしたのも、私なので…責任は果たします。」
「自分が何言ってるかわかってるの?いざという時は彼女の命を奪うこともありうるのよ。」
鈴音の確認にもいろははひるまない。そして。
「いろはにならいーよ。」
あすみも口を開いた。その場にいる全員の監視のもと、あすみのソウルジェムがいろはにゆだねられる。
「…明日が学校休みでよかったわね。いろはさん、あすみと仲良くできるといいわね」
ホオズキ市の魔法少女である詩音千里は自身の家に帰っていった。それを皮切りに皆それぞれの日常に帰るためにみかづき荘を後にしていく。残ったのはやちよと霧子、いろはとあすみと鈴音であった。
「明日はどうしますか?」
「…謝りに行く、とかは?」
「それがいいわね。」
「…じゃあ、俺は俺の住処に戻るよ。まぁ用があったら呼んでくれ。」
魔法少女でも日常は続いていく。明日からのことに思いをはせ、いろはたちはみかづき荘でひとまずの休息につくのであった。
・プレイヤー
RTA走者よりよっぽど慈悲深い。割と真面目に霧子のストレス値について嫌な予感がしてあすみ戦以前はストレス値をためないように生活させてた。
・神名あすみ
謝罪行脚に出ることになった。
第二部に出てきた『彼女』がヤバすぎるので失踪します。
本編第一部終了後、何が見たいですか?(実現するかもしれないししないかもしれない)
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ハードモード1週目
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第二部徹底抗戦ルート
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第二部
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祈りと弔いのハロウィン城