ガイアセイバーズ3-水にふれる闇、闇をとかす水- 作:独楽 悠
影斗は急ぎ学校へ戻ると、少し煩雑にバイクを定位置に停め、校内へと駆け入る。
完全なる私服で来てしまっていたためにまばらに帰宅していく生徒達に振り返られながら、ひとまず一年棟をざっと走って回り、風紀委員の会合が開かれる事務棟の一室をおそるおそるチラ見し、ついでいつもの温室や体育館など蒼矢が居そうなところを片っ端からあたっていく。最後に三年棟の職員室を外観から眺め、すぐその場を離れつつ頭をかいた。
「いねぇかぁ」
「! 宮島」
立ち止まったところで横から声がかかり、振り向くと職員室から化学準備室へ帰るところだった鹿野が近寄ってきた。
「来るの早過ぎだよー。まだ日付変わってないよ」
「うっせー。鹿野ちん、蒼矢見なかった?」
「髙城? だいぶ前に帰らせたよ」
「あー、やっぱりそっか」
どっと疲れが出たのか影斗は大きく息を吐き出しながら、校舎の外壁に背をもたれる。
そんな彼の様子を見、鹿野は腰に手を当てると軽く睨んだ。
「…今日髙城、三年棟歩いてたよ」
「!」
「君が会わなくなったから、いないか見に来てたんだよ。もー肝冷やしたよ! 他の先生方に見られてないから良かったけどさ。…ねぇ、やっぱり話してあげた方がいいよ。彼だってこのままじゃ――」
「そのために戻って来たんだっての」
少し語気を強め、影斗は鹿野に食い気味に返した。
「…言われたんだよ、別の奴にも。…あいつが俺のこと気にしてるみたいだってのも」
外壁に預けた背を丸め、影斗は地面を見つめる。
「その内まともに付き合えなくなるだろうってことはわかってたんだよ。でも、その後のことはあんまり考えてなくてさ…てか、俺から離れてけば自然消滅的に会わなくなるんじゃねって、勝手に思ってたんだ」
「…まぁ、無責任だよね」
鹿野から真っ当な指摘を受け、影斗は少し顔を上げ、ふてくされたような表情になる。
「責任取るよ、ちゃんと」
「どう話すつもりなの?」
「お前に迷惑かけたくねぇから会えませんって言うしかねぇだろ」
「君はそれで本当にいいの?」
「…いいんだよ俺の方は。あいつさえ元に戻ればそれでいいだろ」
影斗のトーンが少しずつ小さくなっていき、そんな彼を鹿野が憂いを込めた目で見やる中、影斗の携帯が鳴る。
苛立つ気持ちを抑えながら相手を確認した後、少し表情を平静に戻して電話に出る。
「…おう、何?」
『あっ、エイト? あんた今どこ?』
この間、蒼矢を交えて一緒に遊んだ女子大生たちからだった。
「ガッコだよ」
『えーっ、学校!? もう、いないと思ったぁ』
『何してんのよぉ、早くN駅来なさいよ!』
「は? ちょっといっぺんに喋んなよ…」
通話口の向こうでキャンキャンわめく女子二人の声に鬱陶しさを感じながら、影斗は話を聞いてやる。
『さっきN駅でね、ソウヤくん見かけたの。あんたのこと探してたよ』
『一人で歩き回ってたよ。何か思いつめた風でさ…元気ないみたいだった』
「…マジで!? どれくらい前?」
『15分くらい経つかなぁ。その時は駅戻って帰るって言ってたんだけど…』
『制服のままだったから、危ないなと思って追いかけたんだけど、駅着くまでに見失っちゃってさ。改札通ったかわかんなくなっちゃって』
「……」
『なにしろさぁ、早く来てよ! 私達ももう少し探すから』
「いや、お前らはいいよ、遅くなるから。俺お前らのことまで責任取れねぇよ」
『…わかった。じゃあ頼むからね!』
電話を切る影斗の背中を、鹿野は怪訝そうな表情でうかがう。
「…何事?」
「…蒼矢が…N駅周辺に制服のまま居たって」
「…!!」
鹿野は目を見開き、腕時計を確認する。表情を強張らせる鹿野へ、影斗が振り向く。
「鹿野ちん…この場は無かったことにしてくれねぇ?」
「…それって、僕にこの事実を見逃せってこと?」
「…頼む、必ず見つけて家に帰すから。…鹿野先生、お願いします」
鹿野は腕を組み、頭を下げる影斗の頭頂部を見やる。
多分彼が自分に向けて頭を下げてくるなんて、出会ってからこれが初めてだ。
「……」
まっすぐ頭を下げ続ける不良生徒を眺めた後、鹿野は目を瞑る。
「……悪いけど、僕も教員の端くれだから、見逃すことはできない」
「…」
「だから、時間はあげる。二時間以内に髙城が家に帰りついたのが確認できれば、僕からは報告しない。…それを超えて君から何もなければ、学校と髙城の親御さんに連絡するよ」
「…鹿野ちん!!」
「どういう結果でも、必ず僕に連絡すること! いい?」
「了解、恩に着るぜ!」
鹿野から了承を得た影斗は、一目散に裏門へと駆けていく。
その背中を目で追う鹿野は、一人で小さくため息をついた。
「…まったく、調子いいよ」