ガイアセイバーズ3-水にふれる闇、闇をとかす水-   作:独楽 悠

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第16話_牙を向く夜の街

N駅へと到着した影斗は、行きつけのショップに断って適当にバイクを停めると、急ぎ蒼矢と遊んだエリアへと走り出す。

――エイトのこと探してたよ――

女子大生が蒼矢を見かけた時間からだいぶ経ってしまっている。ここからまだ離れてないと仮定して、彼が自分との足跡を辿っているとすると、おそらく今はもうこの近辺にはいないだろう。

とりあえずあの日寄ったショップのある通りを抜けつつ、駅から最も遠いビリヤード場へ行ってみることにする。

足を進める度に辺りが薄暗くなっていく。繁華街は刻一刻と"夜"に向かっている。

この辺りに不慣れな学生がひとりで制服で歩いているとなると、何らかの勢力に捕まるのは時間の問題だ。

可能性としては、不定期に不特定箇所を張っている警ら。

あるいは、適当にフラつきながら弱者をカモにする不良連中。

影斗の脳裏に、それら危惧が津波のように押し寄せる。そんな不安感を振り払うように影斗は頭を振ると、方々を確認しながら遊技場を一路目指した。

「! おー、エイト!」

駆けていると、丁度路地裏のライブハウスから出てきた男に声をかけられた。

こんな時に…と若干苛立ちを覚えながらも、現状を気取られるのも面倒に思い、ぴたりと止まって振り返る。ギターケースを背負ったバンドマンらしき男は、緩慢な動作で影斗に手を振っている。

「久し振りぃ。なに、何か急いでんの?」

「いや? ちょっとこの先の店に忘れ物。お前は? ここのライブハウス使ってたっけ?」

「いーや。いつものとこは使えなくなっちゃったからさ。…その件で聞いてくれよー」

長くなりそうだ…とげんなりする影斗だったが、仕方なしに彼の話を聞いてやる。

「いつものとこでさ、あいつらが暴れたんだよ、さっき」

「あいつらって?」

「ダイキ達だよ、R高の」

「…!」

「マスターに俺達にも使わせろって言ったり、使用料が高いって詰め寄ったりして、しまいにマスターキレちゃって。しかもあいつら俺の紹介で来たとか勝手に言って回ってたみたいで、こっちにも飛び火してきてさ、俺もあそこ使えなくなっちまったんだよ」

バンドマンは、しょげた風に肩を落とす。

「あいつらがこの辺うろつくようになってから、どこも居辛くなっちまったよなー」

「…そうみたいだなぁ」

「最近じゃ、ますます調子づいちゃってるんだぜ。…エイト、あいつら何とかしてよぉ」

「はぁ? 俺にどうしろってのよ」

「えー? だって、お前喧嘩強いって聞いたからさぁ。でも最近ご無沙汰だったみたいじゃん? だからあいつらもお前がいる間は大人しくしてたんだろうって、皆そう言ってるよ」

「…どこの風の噂だよ。誰も構わなきゃあいつらもその内飽きるんだから、しばらくほっとけ。…残念だけど、今回は諦めろ」

「…わかったよ。エイトも今日は気ぃつけろよ、居る(・・)からな」

「了ー解」

不満気だが一応納得したバンドマンと分かれ、影斗は先を急ぐ。

蒼矢といるところを遭遇した、あのR高の連中が、今日もこの近辺をうろついている。

危惧すべきことが増えてしまい、影斗は内で頭を抱えた。

…頼むから、鉢合せないでいてくれよ…!

 

 

 

その頃蒼矢は、あの日影斗と最初に行った遊技場前にたどり着いていた。

女子大生達には帰ると言ったものの、やはり後ろ髪引かれるものがあり、N駅周辺をしばらく歩き回っていたのだ。遊技場は、巡った場所の中では最も駅から離れていて、辺りを確かめながら歩いていたら、いつのまにやらだいぶ陽が傾いてしまっていた。

何度目かの期待を込めながら恐るおそる店に入り、すぐ落胆しながら退店する。

「…今日は、先輩はN駅(ここ)にはいないんだな…」

そう小さく声を漏らすと、蒼矢は顔をあげる。そして気がついたように、辺りの景色をしっかりと視界に捉える。

「……」

すっかり暮れた夕闇の中、乱雑に並ぶ繁華街の看板の明かりがひとつひとつ灯っていく。

立ち尽くす路地裏からメインストリートを眺めると、街灯の光を浴びる黒い人影が、左右に何度も行き交っていく姿が目に入る。

ミニ丈のワンピードレスから惜しげもなく生足を見せつつ、ヒールを小気味よく鳴らして歩く若い女達。

何事か大声で笑いながら、群れをなして通り過ぎる体格のいい男達。

N駅は、昼間の様相から少しずつその姿を変え始めていた。

ふと背中に緊張が走り、蒼矢は肩の通学バッグをかけ直す。

…帰らなきゃ…

ひとまず人通りの多い方を目指して、メインストリートへ歩を進める。

前方から路地裏へ入ってきた集団が目に入り、蒼矢はすれ違おうと端を歩く。が、目の前へ塞ぐように立たれた気配を感じ、うつむき加減だった彼は顔をあげる。

「はい止まってー。通行料」

「?」

「ココ通るの、俺らの許可制だから。一万円出して」

眉をひそめながら、蒼矢は目の前の男を見上げる。いつの間にか、影斗ほどの背格好の男達三,四人が囲うように距離を詰めてきていた。体格差に気圧され、ビルの外壁に追いやられる。

男達はニヤニヤ笑いながら、蒼矢へ向けて手のひらを差し出すように振ってくる。男達の後方にはもう一人男がいて、集団から少し離れ、ポケットに手を入れたまま真顔でこちらをじっと見やっていた。

「早く出せよ、一分毎に超過金千円」

「出しません。公道で市民が通行料を取るなんて聞いたことがありません」

「はぁ…?」

大人しく即金を渡してくるか泣いて許しを乞うてくるかとたかをくくっていた男達は、蒼矢に毅然とした態度で断られ、やや面食らったように呆けた声を出すと、ついでぎゃははと笑いだした。

「じゃーもう何でもいいよ。金出せよ。ほら、財布」

「あいにく持ち合わせてないので、お断りします。…通して下さい」

「…お前本気で言ってんの? さすがに笑えないよ?」

彼らの顔から笑顔が消え、真正面に立つ男が胸を押す。突き飛ばされた勢いで蒼矢は背中を側壁に打ちつけ、よろめいたところを衿を掴まれ、強引に引き寄せられた。

「っ…!」

「? …なんかこいつ、妙に顔可愛くねぇ?」

「は? …ホントだ」

蒼矢の容貌に気付いた男は、掴んだまま顔をまじまじと見、上から下まで眺め始める。目くばせされた周りの連中も彼の顔に見入り、若干毒気を抜かれたような表情になる。

「…待って、こいつ本当に男なん?」

「さすがに男だろ、制服着てるし。…え、これってT大付属のじゃなかったか?」

「マジかよ、あそこってめっちゃインテリ集団じゃん! えぇ、この顔で野郎なの!? 結構信じられねぇよ?」

などと蒼矢を囲ったまま男達が好き勝手に考察を連ねていると、後方から見ていた男が近付き、連中を割って入る。正面に立っていた男をどけると、蒼矢の顔をじっくり眺め始めた。

「ダイキ?」

「…あぁ、わかったわ」

集団の中心人物らしい、その"ダイキ"と呼ばれた男は、口元をわずかににやつかせると、蒼矢の眼鏡を取りあげた。

「お前、この前エイトと一緒にいたやつだろ」

「へ? ……えぇ!?」

ダイキの言葉に、男達は一瞬目が点になるが、眼鏡のない彼の顔を改めて見てすぐに記憶を洗い出せたのか、驚愕の声をあげる。

「えー!? マジ!?」

「マジだ…! あん時のコ、いや…、コ!?」

「どういうこと? なんであん時とこんな違うの、こいつ」

蒼矢も、ダイキの顔が近寄ってきてようやく数日前に影斗と二人で遭遇した男グループだと思い出す。が、影斗の名前が出たところで反射的に察し、口は出さずに見返すだけにとどめておくことにする。

銘々に感嘆したり混乱したりと騒がしくなる男共を尻目に、ダイキは依然蒼矢をじっと観察し続けていた。

「…なーんか引っかかんねぇか?」

「? 引っかかるって?」

「あん時の、こいつに対するエイトの態度がさ。なんとなく庇ってたような気がしたんだよなぁ…だから勘違いしたわけよ。でも、こいつが男だったらあの態度はおかしくね?」

「…確かに。あいつがすげぇ女好きなのは間違いねぇらしいしな」

「じゃあやっぱ女ってこと…?」

「えー、さっきの声は男な気がしたけどなぁ…」

ダイキをはじめ男達の視線が再び蒼矢に集まり、ぞろっと取り囲んだ。

「おい、もっかい声出してみろよ。お前わかりにくいよ」

男の一人が蒼矢に凄み始めたところでダイキが止め、彼に目線を合わせるようにかがんで顔を近付ける。

その、好奇を晒け出して見世物を眺めるような視線に、蒼矢は負けじとダイキを睨み返した。

「名前は?」

「……」

「エイトとどういう関係?」

「……」

「だんまりか。…ちょっと来いよ、嫌とは言わせねぇぞ」

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