ガイアセイバーズ3-水にふれる闇、闇をとかす水- 作:独楽 悠
件のR高の男達に捕まった蒼矢が連れて来られたのは、遊技場近くのとある路地裏だった。
近辺の主たるアパレル系ショップは軒並み廃業し、一階部分から階上や地下の飲み屋に続く雑居ビルの薄暗い入口ばかりが立ち並ぶ袋小路になっていて、人がまばらにしか寄り付かないため、半ば彼らの溜まり場のようになっていた。
明かりの少ないこの暗い空間へ引きずり込まれ、男の片腕で投げるように解放されると、軽い蒼矢の身体は簡単に後方の袋小路へ飛ばされ、よろめいて尻もちをつく。
ダイキは、蒼矢から取り上げた通学バッグの中を確認し始める。中身を手にとっては地面に捨て、財布を広げると舌を出した。
「げー。本当にチャリ銭しか入ってないでやんの」
「…返して下さい!」
視界の悪い蒼矢は、眼鏡だけでも取り返そうと起き上がってダイキに駆け寄ろうとするが、男の一人に阻まれ、そのまま後ろ手に羽交い絞めにされる。
ダイキは鞄を投げ捨てると、動けない蒼矢に近付いていく。
「見れば見るほど不思議。何でお前みたいな隠キャっぽいのがエイトと繋がりあんの?」
ダイキは背を丸め、変わらず鋭い視線を向けてくる蒼矢に顔を寄せる。考えを巡らす彼へ、男の一人が鼻で笑いながら口を挟む。
「…顔じゃん? 下手な女より可愛いし」
「まーそれも考えられっけど。でもこいつ結局男だろ?」
「脱がしたら違ったりして」
別の男がポロリと漏らしたその言葉に、身の危険を感じた蒼矢は逃れようと身をよじり出す。
「! あ、このっ暴れんなっ…」
その様子に、ダイキは何か思いついたように自分の携帯を取り出した。
「おい、ちょっと持ってろよ」
「? 何?」
「こいつ、写真撮れよ。動画がいいや」
そう隣の男に携帯を渡して指示を出すと、ダイキは蒼矢のすぐ目の前に立つ。
「こいつがエイトの特別な何かだってことは確かだ。あの時のあいつの態度からして間違いない。…つまり、こいつはエイトの
「…ダイキ?」
「こいつ脱がして動画撮って、エイトに
ダイキのその台詞に、呆けていた周りの男達の顔色が徐々に変わる。
「え…」
「…ダイキ、それマジで言ってんの?」
「マジだよ。…この辺の連中、二言目には決まって"エイト"って言いやがる…イケメンだか何だか知らねぇが、最初会った時から気に食わねぇ奴だった。弱み握っておけば顔広いあいつも大人しくなるだろうし、そうすりゃあとは雑魚だけだ。
「…下らない」
「あ?」
男の手により固く拘束される小さな身体から漏れた声に、ダイキは片眉を上げる。うつむく前髪の隙間から、蒼矢は鋭い視線を彼に注いでいた。
「あなた達の下らない理想に巻き込まれる影斗先輩は、言われのない被害者だ。…そんな馬鹿げた脅迫をしようとするあなた達に抵抗できない俺は、先輩に謝らなければならない」
「……」
ふいな獲物の口上に沈黙した後、ダイキは蒼矢の髪を掴みあげた。
「っ…!!」
「…とりあえずお前が男だってことは確定したわ。そこまで腹が決まってんなら、剥かれたところで痛くもかゆくもねぇよなぁ! …そうだろ?」
ダイキは目を見開きながらそうまくし立て、脇の男に目で指示を送る。指示を受けた男が蒼矢のブレザーのボタンを外して前を開けると、ネクタイに指をかけて弛め始める。
「やめろ!! 触るな!!」
蒼矢は悲鳴に似た大声をあげ、男の手の中でもがく。
「おい、口塞いどけ。そっちちゃんと撮ってるか?」
「お、おう…!」
ダイキは指示を送りながら自分も蒼矢の下半身に手を伸ばし、ベルトのバックルを外してシャツの裾を引っ張り出す。
「んー!!」
「あんまり俺ら画角に入れんなよ、ネットに上げるってなったら編集面倒だからな。…おい、しっかり押さえてろよ」
「わかってるよ、あ、うわ」
暴れる蒼矢の足が押さえつけている男の足の間に入り、バランスを崩した男は蒼矢を地面に取り落とす。
背中から倒れた蒼矢は、地面に頭を打ち付ける。
「っ……」
一瞬動きの止まった身体から力が抜け、それきり動かなくなった。
仰向けに寝転がる彼を男達は囲い、真上から眺める。
「…動かなくなっちまったぞ」
「頭打ったんじゃねぇか…?」
「…やばくね?」
「……」
ざわつく周囲と同じく若干動揺したダイキだったが、身をかがめ、再び蒼矢に手をかける。
「続けるぞ。もう少し近くで撮れ」
「えっ、続けんの? …こいつこのままで?」
「…ここまで来て引き下がれるわけねぇだろ!」
怖気づく男の一人に投げやりにもとれる口振りで返すと、ダイキは蒼矢のシャツのボタンに触れる。隠せない動揺で指先が震え、煩わしくなり思い切ってシャツの前を引き裂く。
そうして現れた彼の上半身にはたとダイキは手を止め、目を見開いて少し身を引いた。
撮影するスマホのライトの中で浮かび上がる、
その、美麗で艶やかな上半身が、背徳感を抱えた男達の目の中に飛び込んできた。
その場にいた全員が、思わず息を飲んでいた。
「…すげぇな」
「男…なんだよな…?」
「…俺、勃っちゃった」
周りがぽつりぽつりと本音を漏らす中、ダイキは意を決して蒼矢のズボンのファスナーに手をかける。
「…いいな? 撮ってるな?」
「…っ…おう…」
カメラ係の男が、震える手で携帯を構え直す。と、するっと手から携帯が抜かれ、視界から後方へ消えていく。
「あ?」
呆けた声を出しながら後ろを見た男の息が止まる。振り返った先には、街灯の逆光を浴びた黒髪とバイクジャケットが闇に消え、片耳に下がるフープピアスと眼光だけが浮き上がっていた。
「…え、エイ、ト…」
消え入りそうなその途切れ途切れの声に、R高の連中が一斉に振り向く。彼らの視線を浴びる中、影斗は黙ったまま取り上げた携帯の中身を確認すると、彼らを一瞥する。
「――お前ら、何してんの?」
「……」
沈黙したまま返答できない彼らの間から、後方に半裸で横たわる蒼矢を見る。傍らには蒼矢のズボンのファスナーを指でつまんでいるダイキがいて、彼もまた影斗の方を凝視したまま固まっている。
その光景をじっと眺めると、影斗は再び口を開く。
「…俺のツレに何してくれちゃってんの?」
真顔で問いかける影斗の語尾に、幾分か力が込められる。
「…っエイト…ちょっと待てって、落ち着けって!」
「っこれはなんていうか、興味本位というか…さ…、てか、勘違いさせたお前が悪くねぇか? か、彼女だって思うじゃん? あんなん」
「そ、そうそう! だから確かめてみたくなった…みたいなさぁ」
彼から滲み出す激しい怒気を浴び、我に返った男達は引き腰のまま数歩後ろに下がっていく。
影斗は蒼矢の動画が収まった携帯を両手で持つと、ミシッと音を立てて真っ二つに折り曲げる。
スマホだったものを足元に投げ捨てると、漆黒の両眼で彼らを睨んだ。
「――お前ら、覚悟出来てんだろうな?」