日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~ 作:天空のトロイカ
ご注意下さい。
人に物を教えることはできない。みずから気付く手助けができるだけだ。
「んふふー。ゴーヤちゃん大好きよ♪」
阿賀野は密かに自信のある胸に、ゴーヤの小柄な頭部をむぎゅっと押し付ける。
深夜、ゴーヤの部屋。夜戦を交えて互いに果てた後の
「もう阿賀野、苦しいでちよ」
「あはは。ごめんなさい」
からからとした笑いと共に、阿賀野はゴーヤを解放する。
夜戦というものを教えてもらうためにゴーヤの部屋を訪ねたあの晩秋の夜から、二人は幾度となく身体を重ねていた。
あくまでゴーヤの
「阿賀野。明日はゴーヤ、てーとくに抱かれに行く日だから夜戦できないでちよ」
「……うん」
なのに阿賀野はゴーヤのこの言葉に、寂しげな表情を浮かべてしまう。
同じ嫁艦候補であっても、最初の六人であるゴーヤは日下部との夜戦が許されていて、そうではない阿賀野には許されていない。その立場を考えるなら、ここで阿賀野が抱くべき感情は……嫉妬であるはずなのに。
「阿賀野。てーとくのことはもういいの? ゴーヤは阿賀野のこと好きだけど、でも一番はどこまで行ってもてーとくだよ。阿賀野はセフレにしかしてあげられないよ?」
「ゴーヤちゃん……」
その言葉に、阿賀野は胸を突かれたような気持ちになる。
――お前は目的を見失っていないか。あの時夜戦を教えてもらいに来たのは、誰のためか。
阿賀野の「初めての人」は、そんな風に突き放してくれる優しさを持っていた。
「ありがとう、ゴーヤちゃん。ゴーヤちゃんが阿賀野の『初めての人』で良かった。阿賀野も、ゴーヤちゃんみたいになれるかな?」
「ゴーヤはてーとくに教わったことをそのままシてるだけでちよ。だから阿賀野、いつかてーとくとできるようになったら、いっぱいてーとくにお返しするでち。夜戦の基本はギブアンドテイクでちよ」
「うん……!」
満面の笑みを浮かべて、阿賀野は答える。
「明日からはもう来ないね」
「二度と来るなって言ってるわけじゃないよ。たまになら……ゴーヤも阿賀野との夜戦、良かったでちよ」
「うん……それに、今晩はまだ……」
「そうだね。今晩の阿賀野はゴーヤの物でち」
その言葉に下半身が再び湿ってくるのを感じて、阿賀野はゴーヤの唇に強引に舌をねじ込んだ。
「夜戦ってすごいね。心と心で触れ合う、みたいな……」
「それはいいけど、なんで、ここに来た
ゴーヤの元を卒業すると決意してから数日後の夜。阿賀野は別の艦娘の部屋にいた。
こんな語尾をしている艦娘など一人しかいない。球磨型軽巡の一番艦、球磨だ。
「真っ先に思い付いたのって、やっぱり北上ちゃん大井ちゃんだったのよね。でも北上ちゃんに相談したら、きっぱり断られちゃった」
「いきなり北上に話を持っていったのか。怖いもの知らずクマね」
「そうでもないよ。さすがに提督さんの嫁艦候補の一人の身で、大井ちゃんに相談はできなかったし。北上ちゃんにも断られたけど、代わりに球磨型のみんなのこと教えてくれたの」
「球磨型全員、レズってことをかにゃ?」
阿賀野の言葉に答えたのは、この場にいるもう一人の艦娘……球磨の妹に当たる球磨型二番艦、多摩だった。
「うん。木曽ちゃんとまるゆちゃんは、見てればすぐわかるけど……」
「まぁ前世で縁もあったし、正直他艦隊でも珍しい関係ではないにゃ」
「でも、球磨ちゃんと多摩ちゃんがそういう関係ってのは全然気付かなかった。ねぇ二人ともお願い、阿賀野と夜戦して?」
懇願する阿賀野の言葉に、球磨と多摩は顔を見合わせる。
「能代に夜戦のイロハを教えるために、自分がまずそれを身に着けるのが目的って言ってたけど……それならゴーヤに教えてもらったことで十分じゃないかクマ?」
「多摩も正直、浮気する気はないにゃ」
「ごめんね。阿賀野のことを好きになって欲しいとかじゃないの。純粋に夜戦の技術を磨きたい。ゴーヤちゃんに教わったのは基本中の基本でしかないもの」
「わからない。妹のためとはいえ、なんでそこまで必死になるにゃ?」
当然と言えば当然の疑問に対し、阿賀野は瞳に決意を込める。
「普通に恋の勝負で負けたんなら仕方ないよ? でもポーラちゃんのやってることはズルいと思う。能代にはせめて、互角とはいかなくともちゃんと勝負できるだけの実力を身に着けて欲しい」
「同艦交信を使って、二人分の夜戦の快楽を味わう……か。球磨、正直どう思うにゃ?」
「どうもこうも、そんなの……いや、これは言葉で説明しても意味がないクマね」
「えっ……?」
球磨と多摩の言っている意味がわからず、阿賀野は思わず間の抜けた声を上げた。
だが多摩はその困惑を無視して、
「球磨。多摩は阿賀野を仕込んでやってもいいと思ったにゃ。球磨はどう思う?」
「……正直釈然とはしないけど、能代のためだって言うなら仕方ないクマ。でも球磨の愛しているのは多摩だけクマよ?」
姉というよりは一人の女性として潤んだ瞳を向けてくる球磨に対し、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
「もちろんこれは浮気ではないにゃ。だからスる時は、お互いの目の届くところでやるにゃ」
「ああ、なるほど……って、こないだまで処女だった阿賀野に、いきなり3Pは荷が重くないクマ?」
「さんぴー!?」
意味は知っててもまったく聞き慣れない言葉に、阿賀野は思わず目を見張った。
「何事も経験にゃよ。やるからにはタチネコどっちもイケるように仕込んでやるにゃ」
「わかった。なら球磨も腹を括るクマ」
当事者である阿賀野の混乱を他所に、師匠二人はすっかりやる気になっていた。
「じゃあ阿賀野……早速始めるにゃ」
言うが早いか多摩は阿賀野を強引に抱き寄せ、唇を塞いで舌をねじ込んできた。
ゴーヤと比べると一回り以上大きな舌に口腔内をねぶられると、すぐに下半身から蕩けそうな快感が立ち上ってくる。
不意を打たれて最初はされるがままだった阿賀野も、必死に舌を絡めていく。すぐに唾液を甘く感じるようになり、後は無我夢中で交換しあう。
「……ぷはっ。うん、ゴーヤに仕込まれたっていうだけあって、されるがままじゃないのは褒めてやるにゃ」
「た、多摩ちゃんが……タチなのね……逆だと思ってた」
「ネコじゃないにゃ」
多摩はにやっと笑って言った。
「十九駆でタチは綾波だけなんですよねー。妹たちみんなサれるばっかりで」
「あ、綾波ちゃん……お股のソレ、なに?」
「阿賀野さんは着脱式男性器を見るの初めてですか? バイブとかディルドと違って、本当に感覚があるんですよ。ちゃんと白いのも出ますし。細かい原理はよくわからないですけど、想念工学ってすごいですよねー」
「そ、そんなものがあったの!?」
「明石さんに言えば用意してもらえますよ? じゃあ阿賀野さん、司令官との予行演習だと思って……綾波を受け入れて下さいね。すぐにイっちゃダメですよ?」
「へー、そういうところもあるのねぇ。うち? うちはまったく逆かなぁ……そもそも『挿れない』の。天龍ちゃんああ見えて怖がりだから、挿れること自体に抵抗感があるんだって」
「えっ龍田ちゃん、それでイけるの?」
「うふふー。女の子同士って、別に挿入したりしなくても気持ちよくなれるのよー。『貝合わせ』って知ってる?」
「え、わかんない。なにそれ……?」
「んふふふー、なら新しいことを知るいい機会ねー。いいわよー、教えてあげる。天龍ちゃんには内緒にしてね、あの子すーぐ拗ねちゃうから」
「阿賀野姉ぇ!」
その日の夜。久しぶりに自室で独り寝をする予定の阿賀野を訪ねてきたのは、怒鳴り込まんばかりの勢いで名前を呼ぶ能代だった。
「能代。今、夜だよ。お隣さんに迷惑だから声を落として」
「あ、す、すみません……!」
きわめて真っ当な指摘をされて、思わず能代はしどろもどろになる。
阿賀野はひとまず能代を室内に招き入れ、ついでにしっかりと鍵を掛けた。
「それで? 一体どうしたの?」
「どうもこうも! 良くない噂を聞きました。阿賀野姉ぇが、手当たり次第色んな艦娘を夜戦で食い漁ってるって」
「なにそれ、手当たり次第なんてシてないもん! 全部で20人は行ってないはずよ!」
真顔で返されて、能代は思わずぽかーんと口を開けた。
「ほ、本当なんですか。阿賀野姉ぇ、今自分がなんて呼ばれているか知ってます?」
「どうせ『だらし姉ぇ』とか言われてるんでしょ。阿賀野、そんなにだらしなくないもん」
「……ただの『だらし姉ぇ』じゃないです。『お股がだらし姉ぇ』です」
「ええぇー……?」
能代の言葉に、今度は阿賀野がぽかーんと口を開ける。
それはいくらなんでもあんまりな二つ名ではないだろうか。
「今のところ提督の耳には入っていないようですけど、もし知られたら婚約破棄されるんじゃないですか?」
「大丈夫よ、提督さんそういうの一切気にしない人だし」
自分が
金剛もケッコンを機に身辺整理するまでは妹たち全員と関係を持っていたし、ゴーヤも現在進行系で潜水艦仲間たちとセフレの関係にある。
だからその点については、阿賀野は一切心配はしていなかった。
「そういうものなんですか。ならそこはいいですけど、そもそもそんなにふしだらなのは良くないと思います! ねぇ阿賀野姉ぇ、なんで急にそんなになっちゃったんですか? そんなに、夜戦っていいんですか?」
睨みつけるように言葉を吐き出す能代の表情が、変わる。
激情の赤から、哀しみの蒼に。
「ザラさんみたいに、阿賀野姉ぇも夜戦の気持ち良さに負けて変わっちゃったんですか……?」
「……!」
阿賀野は思わず言葉を失う。今の今指摘されるまで気付かなかったが、なるほど能代の
阿賀野は能代に腕を伸ばす。その身体を強く引き寄せると、力いっぱいに抱きしめた。
「ごめんね能代、心配かけて。なんで阿賀野がこんなことしてるか、最初に言っておくべきだった」
「阿賀野姉ぇ……?」
「夜戦ってそんなにいいかって? うん、すごくいいよ。最高だよ。身体の繋がりを通じて心と心が触れ合ったら、もう頭が真っ白になるくらい気持ちいいの。それを能代にも教えてあげられるお姉ちゃんになりたくて、阿賀野は毎晩頑張ってたんだよ」
驚きに目を見張る能代の唇に、阿賀野は自分の唇を近付けていく。
艶めかしい吐息が頬にかかって、能代は思わず身を震わせた。
「だ、ダメです阿賀野姉ぇ。能代の初めては、ザラさんに……」
「能代。冷静に考えて? 今のままでそれ、できる?」
「それは……」
この世界が物質世界である以上、ココロだけの繋がりは時にモノやカラダの繋がりにあっさり敗北する。高潔な理想論を振りかざすだけではダメなのだ。
――けれども。
「ポーラちゃんのやってること。いくらカラダの繋がりが2倍気持ち良くても、あれは……ダメだよ。
あの日、多摩と球磨の交わしていた会話の意味。
そしてなぜあの二人はそれを言葉で伝えずに、ただカラダを重ねてくれたのか。
今の阿賀野には、すべて理解できている。
「阿賀野が身に付けたこと、全部伝えてあげる。けどこれは言葉で言ったって伝わらないよ。能代が自分で気付かなくちゃ」
阿賀野の瞳が、真っ直ぐ能代の瞳を射抜く。
「だから能代。能代の初めては、阿賀野にちょうだい? その代わりザラさんを取り返せるようになるまで、きっちり仕込んであげる」
言うが早いか、阿賀野は能代の返答を待たず唇を奪った。最初は軽く触れ合うクローズドキス。
果たして、能代は一切抵抗しなかった。
瞳を閉じて身を委ねてくるのを確認してから、阿賀野は舌を突き入れる。ゆっくりと舌を絡めつつ、口腔内をねぶっていく。かつて自分がゴーヤにしてもらったように。
「能代。大好きよ」
この感情はきっと恋ではない。それを十分に理解した上で、阿賀野は能代の身体にゆっくりと触れていく。
少しずつ服を剥ぎ取っていけば、やがて服の上からでは気付きづらい豊満な肉体が露わになった。
「だから能代も阿賀野のこと、好きになって?」
言いながら、自分も一糸まとわぬ姿になる。
豊かな乳房と乳房が増れあうと、そこを起点に微かに快感が走り始める。
「阿賀野姉ぇ……」
切なさに満ちた声で名を呼ぶ能代の唇をもう一度塞ぎつつ、折り重なるようにして身体をベッドに横たえていく。
――その晩。阿賀野は能代の「初めての人」になった。
※阿賀野型の夜戦話、第2弾です。
ツイッター投稿時はこの部分はスルーして、だいぶ後になってから回想という形で触れるに留めたのですが、SSはツイッター投稿の補完作という側面がありますので、時系列に沿ってこのタイミングで書いてみました。
ちなみにこれヤってることは夜戦(意味深)ですが、実はロジックとしてはむしろバトル物でよくある内容の応用になってます。まぁあまり詳しく書きすぎるとネタバレになるので、続編をお楽しみに……(冬章の終わり頃、作中時系列で冬イベの少し前くらいになります)。