日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~ 作:天空のトロイカ
ご注意下さい。
迷ったときには原点に立ち返ってみることだ。原点とは自分の本心だ、自分の本心に聞いてみるんだよ。
「また面白いこと考えたな?」
「あーん、いいでしょHoney。クリスマスくらいは! 他の日は大人しくしてるから、ね? お願い」
「私には別に損のない話というか、願ったり叶ったりなんだが。赤城との約束だからまずあいつに話を通さないとだな。あと、場所どうするよ」
「場所」
「なんだ、考えてなかったのか日向。うーん……ああでも我々だけじゃなくて、他でも需要ありそうだしな。よし、
「作る……?」
「まぁそっちは何とかするとして、だ。もう一個いいか、トレピー?」
「What? 何カナ?」
「お前、明日の夜は哨戒任務の当直だろ。どーすんだよ」
「………………、Wow」
12月23日、クリスマス・イヴのさらに前日。
昼間に「最初の六人」以外の嫁艦候補たちの陳情を受け、それに対する準備のため妖精たちを稼働させていたら、あっという間に日が落ちていた。
ようやく自由に使える時間を確保して、日下部は秋雲の部屋を訪ねる。
「おーい秋雲ー。やってるかー?」
「あっ提督。こないだはありがとさん、おかげで少しは回復したよ」
「おう。そいつは良かった」
先日の巻雲は言いつけ通り、秋雲を寝かしつけることに成功したらしい。
そう思って見れば、確かに目の下の隈も少しはマシになっているように感じられた。
「艦隊も無事クリスマスを迎えられそうだ。みんなのおかげだな」
日下部は室内に上がり込みながら、差し入れに用意した栄養ドリンクとシュークリームを手渡す。
徹夜作業の定番だ。本当はこんなものに頼らずちゃんと寝ろと言いたいところだが、それは今更言っても聞かないだろう。
「明日はクリスマス・イヴだが、我々は軍だからな。どこの艦隊もいつも通りの哨戒任務だよ。この辺、銃後の民の安寧のためだって割り切るしかないよな」
「まぁ秋雲も艦娘だからね。それはわかってるよ」
イベントを別にすれば、深海棲艦はいつどこに出没するかわからない。だから艦娘たちは交代で海上を哨戒し、深海棲艦の早期発見と撃滅に務めている。
MM技術の発明以降、海運の重要性はそれ以前の時代と比較して相対的に低下しているが、それでも
それにもし比較的安全な空路が確保されていなかったら、横須賀沖のショートランド人工島と九州の佐世保を2日で往復するような真似はできなかっただろう。
「でも、夜は性夜すんぞ」
「あんっ!?」
日下部の口から俗っぽい言葉が飛び出したからだろうか、秋雲は素っ頓狂な声を上げた。
「日本のクリスマスなんざ聖夜ってより性夜だろうが。赤城に言って、明日の夜だけは約束の例外にしてもらうことにした。私のこと好きって言ってくれた子とは、都合の付かなかった子以外とは全員スるよ!」
「うわーすげー! エロ漫画みたい!」
いっそ清々しいまでの乱交パーティ宣言。秋雲が目を丸くしたのも無理はないだろう。
「全部で参加者何人?」
「えっと。川内、金剛、青葉、ゴーヤ、阿賀野、日向、ジャーヴィス、カブール、夕立、曙。私を除いてとりあえず10人」
指折り数えながら日下部は嫁艦と嫁艦候補の名前を挙げる。
「あれ、赤城さんは?」
「相変わらず固辞しやがった」
日下部に対し節制を求める約束を結ばせた張本人の赤城だが、別に本人に性欲がないわけではない。それどころか、その本性はハーレムの他のメンバーに負けず劣らずの淫乱だと思われる。それを理性で制御しているのは驚嘆の一言だが、いい加減限界が近いのか、最近は隠し切れていない言動が飛び出すことが増えている。
そんな中で一日だけという条件でシてしまえば、箍が外れて制御できなくなってしまうということだろう。赤城自身が最大練度に近付いていることもあり、最後まで約束を貫く覚悟を決めているようだ。
「時雨は?」
「あいつは別枠だし。あいつのことは好きか嫌いかって言われたら好きなんだけど、あいつとの物語はちょっと始まり方が特殊すぎたからな。今更普通に愛し合うのは難しそうだし、こういう場ではちょっと」
ただしこちらは、乱交の場には招かないがその前にこっそり使うことに決めている。
赤城とは「12月24日の夜を約束の例外とする」ことにしたのだから、別に乱交パーティの始まる前であっても夜であればシて構わないという理論だ。
「イントレピッドさんは?」
「あいつは……明日の夜の哨戒任務の当直でな。この企画の発起人らしいんだが、すっかり忘れていたらしい。本人めちゃくちゃシたがってたんだけど、さすがに私の都合ばっかり優先して、他の艦娘と愛し合ってる子に負担押し付けるわけにもいかんだろ」
日下部は好きな艦娘は贔屓する主義だが、それにも限度というものはある。
言い出しっぺが恩恵に預けれないのも何とも間の抜けた話ではあるが、こればかりは自業自得なので仕方ない。
「神鷹は?」
最後に秋雲の挙げた名前を聞いて、日下部は唇をへの字に曲げた。
「あいつみたいなタイプと最初にスるのに乱交って、さすがにちょっとどうかと思うんだ」
「でも神鷹も艦娘だし、案外順応するんじゃないのー?」
「かもしれないが、そうだと決め付けて放り込むのもアレだろ。それに何より、まだ好きって言われてないしな」
そうなのだ。神鷹の態度は日下部でさえ気付くほどにわかりやすいのだが、正式にはまだ何も始まっていない。だから神鷹が勇気を出すのを気長に待つことに決めている以上、明日の乱交パーティに招く道理も理由もなかった。
「はー。本当に提督って、一度そういう関係になったらド鬼畜な性格してるくせに、そういう線引きはしっかりするよねー」
「昔は気に入った子には無理やりシてましたよ? 最初は抵抗する子も多かったなー。最終的にみんな喜んでくれたけど」
「眼鏡系クズ……!」
「ははは。確かに」
大学時代。横浜の
マインドハックで3人の女性と強引に恋愛関係になっていた高校時代とどちらがクズだったかと言えば、多分「どちらもクズだった」と言うのが正しいのだろう。
「でもさ、進歩したよ?」
日下部は真正面から秋雲の瞳を見詰める。
酷使されて、お世辞にも状態が良いとは言えないその手を取る。
「『人は誰でも負い目を持っている。それを克服しようとして進歩するものなのだ』だったよな?」
「あ、それ……!」
「そ。あの夜お前が私に言ってくれた、山本元帥の言葉。あれで私は救われたし、お前のことを好きになったんだ。言ってみれば、あれが私とお前の原点なんだよ」
日下部の言葉に、秋雲は真っ赤に頬を染める。直前の眼鏡系クズのエピソードとはあまりにかけ離れた、現在の姿にギャップを感じたからだろうか。
「実は先日、マイッツァーに会ってきた」
唐突に切り出すと、秋雲は驚いたように目を見張った。
「マジで? すげー! ねぇ、誰だったのさ。やっぱり舞津提督?」
「……ではなかった。本人との約束で、正体は秘密」
「えーなんでさー」
「リアルバレは良くないぞ。そこは詮索すんな」
「ちぇー!」
唇を尖らせる秋雲に若干の苦笑を浮かべながら、日下部は言葉を続ける。
「で、モチベーションの上げ方についてアドバイスをもらってきた。なぁ、敢えて聞かなかったけど、進捗は相変わらずだろ?」
「うん。正直、なんで漫画描いてるのかわからなくなってきちゃって……」
「だから、原点だよ」
日下部は微笑を浮かべる。神絵師マイッツァーのアドバイスを、今こそ活かすべきだ。
「お前がイラストとか漫画描くのを好きな理由ってさ。やっぱり、前世のホーネットとの一件だろ?」
「だよなー多分」
ヨークタウン級3番艦
日下部着任前に艦娘にもなっている。舞津鎮守府で初めて見た実物は、身に付けたフライトジャケットにブロンドの長髪が映える美女だった。いつか日下部鎮守府に着任する日も来るのだろうか?
「駆逐隊2隻に正規空母の曳航とか無理言われて、案の定無理だから巻雲が雷撃処分して、その時にせめて沈みゆくホーネットの姿を残そうと、夜中に探照灯付けてスケッチしたんだっけ? サボ島の時の青葉も大概だが、あっちは事故みたいなもんだけど、お前の場合は意図的だからなぁ」
「知らないよ。相馬艦長に言ってよー!」
秋雲は唇を尖らせる。
前世の秋雲に意志があったかはわからないし、あったとしても乗組員の行動を乗艦である秋雲自身がどうこうできるものではないから、この抗議はもっともだろう。
「実際にやったことはアレだけど、少なくとも動機は美しいものだっただろ? それをもう一度思い出すといいんじゃないか」
「それで描いてるのがエロ同人なんだから、世話ないんだけどさー」
「まぁな。でも自分の中に生まれた光景をカタチにしたいっていうのは、きっとどんな創作にも共通する動機だろ」
「そっか……そうだね」
日下部の言葉に、秋雲は静かに目を閉じる。
自らの肉体と概念核を通して繋がっている、形而上の自我に静かに問いかける。
「うん、少しだけなんで『描きたい』って思ったのか、思い出せたよ。提督、あんがとー!」
「よしよし。じゃあ頑張るオータムクラウド先生に、1日早いクリスマスプレゼントだ」
「……ふぇ?」
ぽかんと口を空けた秋雲に、日下部は小さなアルバムを渡す。
「他所の鎮守府のホーネットに頼んで、写真撮らせてもらった」
「ちょ、マジで!?」
「マジマジ。まぁさすがにエロいのは無いし、今回の本は別の内容だから直接の資料にはならないだろうけど、参考資料と……あと、自分の原点を忘れないためのお守りにな?」
中に入っている写真はわずか数枚。
けれども今の秋雲には、間違いなく最高のクリスマスプレゼントだろう。
「て、提督……う、うっ」
「ちょ! 泣くなよ!」
「あ、秋雲のために、ここまでしてくれるのが本当に嬉しくて……」
「まぁ、助けになれたら嬉しいよ。私は提督だし、それ以上にお前の婚約者だからな」
日下部はぐしゅぐしゅとしゃっくり上げる秋雲の頭を優しく撫でる。
あの春の日、逆の立場で秋雲がしてくれたように。
しばし優しい時間が流れ、やがて秋雲の涙が落ち着いたところで、
「よし、じゃあ一応聞くぞ。明日の性夜、参加するか?」
日下部は答えを半ば以上確信しながらも、あえて尋ねる。
「んーん。今回はパス。貴重な体験にはなりそうなんだけど、それ以上に今の秋雲、やる気に満ち溢れてるからね! 原稿やる! ケッコンしたら、夜戦ぐらいいつだってできるっしょー!」
果たして日下部の予想通りのことを秋雲は口にする。
だが、その瞳にはもはや自暴自棄の色はない。別に目の下の隈が消えてなくなったわけではないが、そこには間違いなく力強い光が宿っている。
「よし、よく言った。なら、お前の意志を尊重するよ」
それは日下部真琴という男にとって美しい顔や豊かな胸尻などよりも、遥かに魅力を感じるポイントだった。
「ねぇ提督、じゃなくて。えっと、真琴?」
「お、もう名前呼びか。嬉しいな。うん、どうした?」
「あの、その……愛してるよ!」
頭を撫でるために屈み気味になっていたこともあり、陽炎型の秋雲が背伸びをすればぎりぎり日下部の唇に届いた。
不意打ちで感じた秋雲の唇の感触は、何度も知っているはずなのにとても柔らかくて。
「そういえばあの夜も、お前からキスされたんだっけな。うん。私も愛してるよ、秋雲」
日下部は秋雲の身体を強く抱きしめた。
だが抱きしめるだけだ。ここで流されてしまっては、せっかくの秋雲の覚悟に水を挿すことになる。だから蕩けるような熱いキスをしたいという欲望を、意志力で必死に抑え込む。
人は誰でも負い目を持っているが、それを克服しようとして進歩するものなのだから。
※前話の続きの秋雲マリッジブルー話です。
秋雲の抱えた問題はこれで一応の解決ですが、「カノジョのゲンテン」は間に別の話を2話挟んだ上で、あと1話続きます。ネット上で開催される
赤城との約束について。
ツイッターをご覧いただいている方はご存知かと思いますが、日下部と赤城の約束(ハーレムのルール)は時期によって変動しています。
SS時間軸のこの時期の場合は、
1:嫁艦候補の「最初の六人」全員とケッコンしきるまでは、その他の艦娘とは夜戦しない
2:赤城自身は歯止め役を務めるため、ケッコンするまでは夜戦しない
の2点です。
(ちなみにこれとは別枠として、日下部自身の主義として「艦娘としか夜戦しない」「艦娘でも恋愛感情抜きの夜戦はしない」というものがあります)
12月24日の夜はこれを一日だけ例外としますので、阿賀野以降の嫁艦候補ともシてOKということになるわけです。
ちなみに次話はこの乱交パーティの話です(本作はエロを目的としたR-18作品ではありませんので、本番は書かないんですけどね)。