日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~   作:天空のトロイカ

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※この話は川内の一人称視点です。
ご注意下さい。


そういうもの 4

愛されないということは不運であり、愛さないということは不幸である。

――アルベール・カミュ

 

 

工廠の裏、鎮守府の隅の一角。

ろくに雑草の手入れすらされていない、そんなうら寂しげな空間を、とぼとぼ歩く。

港の方から吹く風が、微かに胸元のタイを揺らして通り過ぎていった。

 

「提督のバカ……」

呟いて、あたしは足元の石ころを蹴る。

転がった石が別の石にぶつかって、かちんと音を立てた。

俯いた目から、涙が零れ落ちる。

 

驚いて固まってただけってことくらい、本当はわかってる。

だからあそこで走り去ったのは、あたしが悪い。

……でも、すぐに追ってきてくれると思ってた。

 

もしかして、提督、本当に金剛さんに取られちゃうの?

 

――と。

かさっ、と草が揺れる音がして、あたしは顔を上げる。

提督が来てくれたことを一瞬期待したけれど、

 

「Hi、川内。探しましたネー」

「……金剛さん」

「よく考えたら私、この鎮守府のことまだ何も知らなかったデース」

 

茶色いブーツの足元に、ちぎれた雑草の破片がくっついてる。

探したって言葉は、どうやら嘘じゃないらしい。

 

「何の用ですか」

「ちょっと恋するLady同士、本音の話し合いをしまショ?」

 

そう言って金剛さんは、真っ直ぐにあたしを見つめてくる。

「Straightに言いますネ。川内、提督のことは私に譲って下サーイ」

本当に、何の駆け引きもなく、ストレートな言葉だった。

 

「な、なんでそれに『はい』って言うと思うんですか……」

思わずたじろぎながらも答えたけれど、

 

「だって、川内の『そういうもの』は、『夜戦Love』デショ?」

 

ばっさり、と。

言葉の刃が、あたしに向かって振り下ろされる。

 

「川内には大好きな夜戦があるはずデース。いくらでも深海棲艦と夜戦するといいデース。それに、別に秘書艦を辞めろとも言ってないデース」

「それは……」

「でも、でもね、川内」

 

金剛さんの瞳が、真っ直ぐにこちらを射抜く。

戦艦だからとか、元になった軍艦の軍歴だとか、そういう些細な話ではなくて。

――秘めた意志の強さが、あたしを押しつぶそうとする。

 

「金剛の『そういうもの』は提督Loveで、それ以外に無いのデース。

だから、譲って下サーイ」

 

あたしが夜戦を好きなのと同じくらい、金剛さんが提督のことを好きなのだと言うのなら。

後から来ておいて、とか、勝手なことを、とか。

そんな言葉、何の意味もない。

わがままで身勝手で理不尽でめちゃくちゃで。

そんなことは百も承知で、この人は、本気で言ってる。

 

「あたし、は……」

 

思わず目を瞑る。

自分の胸に手を当てて、そこにある暖かいモノを感じる。

瞼の裏に、提督の顔が浮かぶ。

笑顔。真面目な顔。困ったような顔。こないだの夜に見た、恥ずかしい顔も。

 

――ああ。

金剛さんが、どこまでも金剛なのであれば。

 

あたしは川内としてじゃなくて、「あたし」として答えなきゃ……!

 

「嫌です」

 

きっぱりと返して、金剛さんの目を睨み返す。

もう涙は無い。今は泣いてる場合じゃない。

 

「金剛さんには提督しか無いんだとしても、あたしには夜戦があるんだとしても。

それでも、あたしは提督が好きです。その気持ちは、金剛さんにだって負けません!」

 

例え恋の話だとしても、売られた喧嘩はきっちり買うよ……!

 

「川内……強いですネー。さっきは可愛いとか言って悪かったデース」

傲然と見下ろす金剛さんの圧が、不意にふっと緩んで。

そして、傍らに向けて声を張り上げる。

 

「Hey提督ぅ、ありがとうございマース! もうLady同士の話は終わりましター!」

 

「ええええええええっ!?」

驚くあたしを後目に、物陰に潜んでいた提督が、おずおずと姿を見せる。

 

「それにしても我ながら『提督Loveしかない』とか、大嘘も大嘘でシター! 私、紅茶Loveですし、妹たちだってちゃんとLoveデース。そもそも日本の艦娘みんな私の妹みたいなものでLoveデース!

……あ、でもあれで川内が引くようなら、本気で提督を取るつもりでしたヨー?」

 

う わ あ。

「本音の話し合い」ってなんだったの!?

 

「川内は勘が鋭いと大淀たちに聞きましたけど、自分の恋が絡むとさっぱりデスネー! やっぱり、そういうところは少しだけ可愛いデース」

 

……多分、さっきの提督の気持ち、今あたしめちゃくちゃ理解できると思う。

 


 

「じゃあ少し私は黙るのデー、提督はきっちり川内と話すといいデース!」

「ああ……」

金剛さんに促されて、提督があたしに向き直る。

 

「川内、さっきは済まなかった」

「否定できなかったことは、別にいいよ。提督が驚いてたのわかってて、ヒスったあたしが悪い。そこはごめん。

――でも、なんですぐ追っかけてきてくれなかったの?」

 

あたしの言葉に、少しだけ提督は顔をしかめる。

 

「正直に言う。

金剛の在り方に惹かれた。だから、すぐお前を追えなかった」

「そう……」

 

言葉が、胸に突き刺さる。

――けれど。

 

「でもな。気付いたんだ」

提督は、あたしの目を真っ直ぐ見て。

 

「あの時、自分の在り方に悩んでいた私を救ってくれたのは、川内。お前だったんだって」

 

提督との関係に浸っていたから、忘れていたけど。

あれは、ほんのついこの間のことだったんだ……。

 

「先に金剛に出会ってたら、金剛を選んでたのかもしれない。

でも、そうはならなかった。それがすべてだよ。

偶然でも、幸運でも、奇跡でも運命でも、なんでもいいさ。

私が最初に惹かれた艦娘は川内、お前で――他の誰かじゃない。

 

川内、お前は私の一番大好きな艦娘だ。

 

それがようやくわかったから……だから、こんな愚かな私を、許して欲しい」

 

提督の言葉が終わるや否やの瞬間、あたしは提督に飛びついて。

その唇を、塞ぐ。

 

「……!」

「許すよ。だってあたし、とっくの昔に提督のものだもの」

 

提督が考えてるよりも、ずっとずっと前から、あたしは提督が好きだったんだよ。

 

「川内……!」

提督の腕が背中に強く回されて、あたしを引き寄せ……

 

「Heyお二人さん、さすがにその辺にしときなヨー! まだ陽も高いヨー!」

 

う わ あ。

最高というべきか、最悪というべきか、実に的確なタイミングで金剛さんが口を挟んできた。

 

「それにしても、Huuuum……提督、川内は提督にとって、『一番』Loveな艦娘ですネー?」

「あ、ああ……二言は無いぞ」

「OK、わかりましター! じゃあ私は『二番』でもいいデース!」

 

「はっ!?」

「はっ!?」

あっ、提督とハモっちゃった。

 

「お二人さんが話してる間に、他の金剛と色々交信しましター。

提督、ケッコンカッコカリって、別に1人としか出来ない物じゃ無いらしいデース!」

「あ、そ、そうなの……?」

 

待って待って待って。確かにそうだけど!

恋愛感情抜きで、強さだけ求めて手当り次第ケッコンするような提督も多いけど!

 

「川内にはさっき、『本音の話し合い』をすると言いましター。

提督Onlyというのは嘘ですが、私が提督Loveなのは嘘じゃないデース」

 

こ、この人はっ……!

 

「あと、さっきの提督は格好良かったので、金剛としてだけではなく、私自身の意志として好きになりそうデース」

「それは……正直嬉しいかな」

てっ、提督の裏切り者ぉ!

 

「川内、No.1はあなたで良いデース。でも時々でいいので、私にも提督との時間を下サーイ」

「……………………わかりました」

 

すごく、すごく、すごく釈然としないんだけど。

まぁ、しょうがないか。提督が元々、愛の多い人だったってのは陽菜さんから聞いてるし。

 

提督が「そういうもの」なんだったら、受け入れるしか無い……よね。




※単婚提督だと思った?
残念、重婚提督でした!

ちなみにツイッターをフォローしていただいている方はご存知だと思いますが、日下部には「嫁艦候補」が6人います。
とりあえず川内と金剛の話は書きましたが、あと4人の話ももちろん書く予定です。

「あなたがすべて」と「あなたが一番」には、小さいようでいて決定的な差があります。
「あなたがすべて」は、率直に言って大変不健全な台詞です(ヤンデレのキャラならそれでも良いのですが)。
一方で、「あなたが一番」は大変健康的だと思います。自分自身の価値観をきちんと持っていて、その中で自分の意志で恋人を選んでいるということですから。

ハーレムまで行くと逆に(現代日本人的な価値観では)不健全になるのですが、そこはゲームの二次創作ですし、ね?
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