日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~ 作:天空のトロイカ
ご注意下さい。
美しい女性を口説こうと思った時、ライバルの男がバラの花を10本贈ったら、君は15本贈るかい? そう思った時点で君の負けだ。ライバルが何をしようと関係ない。その女性が本当に何を望んでいるのかを、見極めることが重要なんだ。
「改阿賀野型軽巡二番艦、能代。配置につきました」
その日、大規模改装の完了を報告しに執務室に現れた軽巡を見て、日下部は思わず舌を巻く。
「かいあがのがた。いや、つえぇなぁ」
「語彙力の低下が深刻ですね」
能代改二は火力や雷装など、軽巡として求められる能力がきわめて高いバランスでまとまっている。
嫁艦である川内を馬鹿にするつもりはないが、概念艤装抜きの単純な艦娘としての強さでは、練度差を考慮してもまったく勝負にならないだろう。
「ちなみに提督。矢矧は私以上らしいです」
「みたいだなぁ……ぜひ探さんとな」
サラトガを巡る一件で見た長谷川鎮守府の矢矧は、目の前の能代どころか下手な重巡すら凌駕するほどの能力があった。
とはいえ矢矧は通常海域では邂逅しようのない艦娘だ。無闇に不在を嘆くよりも、今持っている手札を研ぎ澄ませた方が戦力の向上に繋がる。
だからこそ今日の大規模改装においては、能代だけでなくもう一人を改二にしていた。
「提督、能代。ザラ級重巡一番艦ザラ、配置につきます! これからもよろしくね」
能代に続けて執務室に姿を現したのは、重巡・ザラ。
その姿を見た瞬間、これまた日下部は舌を巻いた。ただしこちらは能力にではない。
「うわ、化けたな。うん、とても綺麗になった」
「もー、提督ったら!」
それまでのどこかあどけなさを感じさせる顔立ちと違い、改二に当たるZara dueはぐっと大人びて妖艶な雰囲気をまとっていた。
「提督? ダメですよザラさんを口説いたら」
そこで呆れたように、能代が口を挟んできた。
「いいですか。一回しか言いませんからね? ザラさんは、能代とポーラさんの物です! だから提督にはあげません!」
「もう、能代。提督の前でそんなハッキリ言われると、さすがに恥ずかしいかも」
しれっととんでもないことを言い出した能代に対し、ザラは照れたように染まった頬に手を当てはしたが、一切否定することはなかった。
つまり本当にそういうことになったらしい。自分では
「おーおー、イチャついちゃってまぁ。しかしお前たちの三角関係、どうなるかと思ってたらそんな解決をしたかぁ。ちょっと興味が湧いた。私も休憩にするから、隣の控室で詳しく話を聞かせてくれないか?」
「は、はい。真っ昼間からするには少し恥ずかしい話ですが」
「どうしても夜戦の話になりますからね。でも、構いませんよ」
日下部の誘いに対して躊躇気味のザラを促すように、能代は力強く頷いた。
「ザラさん。能代はあなたのことが好きです」
久しぶりのザラによる能代への料理指導が終わった後の、鎮守府の
能代の翠色の視線が、自分の紫色の瞳に真っ直ぐ注がれている。
ああ、ついにこの日が来てしまったか……と、ザラは思わず唇を噛みしめてうつむいた。
「能代。なんで言っちゃったの?」
今にも泣き出しそうな半笑いを浮かべて、責めるような口調で返す。
お互いの気持ちなんて、とっくの昔に気付いている。けれどもそれに気付かないフリをし続けていれば、今まで通りの二人でいられたのだ。
この言葉を能代が言ってしまった以上、どんな形であれこの関係は終わってしまう。
そして……自分がポーラから離れられないことは、嫌というほどカラダに刻みつけられている。
「もう自分に嘘をつくのに我慢できなくなったんです。能代は、ザラさんが欲しいです」
「無理よ。だって……」
自嘲気味に拒絶の言葉を吐こうとしたら、能代に強引に抱きしめられて唇を奪われた。そのまま舌が歯頸を割り込んで、口腔内をねっとりとねぶり始める。
正直、驚いた。ポーラにサれる時と同じぐらい、能代のキスは濃厚で甘かった。絡まる唾液に概念核を蕩かされ、身体の秘芯から蜜がせり上がってくるのを感じる。
ああ、けれど。
「の、しろ……これ以上は、ダメだよ」
「ザラさん」
「だって能代、ポーラと同じことはできないよね? 能代と夜戦して、ポーラと比べちゃったら……きっと私、能代のことを好きでいられなくなっちゃう」
同艦交信を駆使して、通常の夜戦の2倍の快感を味わう。艦娘という種族だからこそできる、悪魔的で暴力的な
ザラと愛し合っているポーラはいなくもないが、ザラと愛し合っている能代は日下部鎮守府以外でまず見付かることはないだろう。だから能代には、ポーラと同じことはできない……はずだ。
ああ。だが、ならばなぜ、
「ザラさん。あれはダメですよ。あんなのは本物の夜戦の良さには程遠いです」
能代は、こんなに自信満々なのか。
「能代……?」
「本当の夜戦の良さを教えてあげます。今晩のザラさんは、能代の物ですよ」
強く抱き寄せられて、耳元で囁かれて。ザラの全身からくたっと力が抜ける。
自分が快楽に弱くて流されやすいことなんて、とっくに気付いていた。
だからこの能代の言葉にも……きっともう、逆らえないのだ。
「通常の2倍の快感ってのはすごいけど……それって結局、
ザラが連れ込まれた能代の部屋の前。
まるで門番でもするかのように控えていた阿賀野は、予想通りやってきたもう一人の艦娘に相対する。
「どういう、ことですか~?」
阿賀野の目の前にいるのはポーラ。おそらくザラが
「夜戦って、二人の共同作業だよ。お互いにココロでもカラダでも触れ合って、一緒に高まっていくから気持ち良くなれるんだよ。仮に
日下部に抱かれたあのクリスマスの夜を思い出す。あの人は生意気なことを言って挑んできた夕立を手荒に犯す最中でさえ、彼女に何度も「愛している」と言っていた。もちろん阿賀野自身とする時だってそうだ。
日下部に夜戦を仕込まれたゴーヤ、そのゴーヤに夜戦を仕込まれた阿賀野自身、そして阿賀野の仕込んだ能代。日下部と関わりのないところでも球磨と多摩、龍田と天龍、綾波……阿賀野と身体を重ねてくれた艦娘たちはみんな、その「夜戦で一番大切なこと」を心得ていた。
だが翻って、ポーラは?
「同艦交信でもう一人のポーラちゃんの快感と同調して気持ちよくなるのはいいけどさ。シてる最中、ポーラちゃんはザラちゃんのこと、見てた?」
「……そ、それは」
「最初は見てたかもね。でも昂ぶってきたら、意識はどうしたって目の前のザラちゃんじゃなくてもう一人のポーラちゃんに引っ張られるよね。ザラちゃんはザラちゃん同士で気持ちよくなるだろうけど……そんなの、本当の夜戦の快感じゃないよ」
阿賀野の声音は淡々としていて、特に声を張り上げるではない。だがその目は間違いなく笑っていなかった。
「で、でもザラ姉様は、すごく満足してくれて~」
「ポーラちゃん、自分でもわかってるよね。さっきから聞こえてきてるでしょ、ザラちゃんのすごくえっちな声」
艦娘運用母艦の個室と比べれば、地上にある鎮守府の個室の壁はよほどしっかりしており、防音効果も十分すぎるほどに期待できる。だがその壁でも吸収しきれないほどに、室内のザラの上げる嬌声は大きなものだった。そして能代の囁く愛に応える声も。
阿賀野に事実を指摘されたポーラは、がっくりと廊下に膝を着く。
「なん、で……なんで、こんなことするんですか。ポーラ、ザラ姉様が好きなだけです! 能代さんに意地悪をしたかったわけじゃありません! お二人がそんな関係だったなんて知ったのは、ザラ姉様と初めてシた後でした! ずるいです、ポーラより先に同時期に着任したってだけで、こんなのずるいです~! ポーラのザラ姉様、取らないで下さい!」
ついに感情を抑えられなくなったのだろう、堰を切ったような滂沱の涙と共に、ポーラは言葉を紡ぎ出す。
同情はしない。恋も戦いなのだから、勝者と敗者が生まれるのは仕方ないことだ。それに本当にポーラが能代に対して一切の優越感を抱いていなかったというなら、あの晩秋に母艦の
けれども、
「ポーラちゃん。それ、ザラちゃんに直接言ってあげたら?」
「……阿賀野さん?」
「ポーラちゃんがザラちゃんのこと、本気で好きってことは伝わったよ。だから阿賀野はこれ以上邪魔しない。決着は能代と、ザラちゃん自身に任せることにする」
折しも、二人の夜戦は小休止に入ったようだ。あれだけ漏れ聞こえていた嬌声も今は止んでいる。
ぐっと拳を握りしめて、ポーラは立ち上がった。
彼女もまた、戦うために生まれてきた存在であるのは間違いないのだ。
「ポーラさんが踏み込んできた時は、正直轟沈させられるかと思いました。夫に不倫してることがバレた間男って、あんな気持ちなんでしょうか?」
「バレたことないからわかんないなー」
能代の言葉に、日下部はなかなか鬼畜な言葉を返す。
「ポーラに泣いて縋りつかれて……あの普段は傍若無人なポーラにですよ? ザラ、どうしたらいいか本当にわからなくなっちゃって。情けないんですけど、能代もポーラも選べなくて。本当にどうしたらいいのか悩んでたら……」
「阿賀野姉ぇが提案してくれたんです。提督を見習って3人で付き合ったらどうかって。ポーラさんも交えて話し合って、最終的にそうなりました」
「阿賀野が?」
日下部鎮守府の阿賀野は能代着任までは割としっかりしていたが、それ以降は妹に日常的にお世話をさせる標準的な「だらし姉ぇ」になってしまったという印象しかなかった。
だが去年のクリスマスの乱交の時、処女はゴーヤにあげたなどと言っていた。知らないところでヤることをヤっていたのだから、自分の知らない阿賀野もいるということなのだろう。
と、その時。執務室の方から、どことなく間延びしたような声が響いてきた。
「能代さん、ザラ姉様~。まだ報告終わらないんですか~? ってあれ、いない。提督もいませんね~」
考えるまでもなくポーラの物だった。
「すまんすまん、今能代とザラからお前たちの顛末を聞いてたんだ」
日下部は執務室に繋がるドアを開け、呼びかける。
「あ、提督。そうでしたか~、えへへ。さすがに照れます~」
「脱ぐのは一切照れないのにこれは照れるのかよ」
思わず半眼になってツッコミを入れてしまう。
「提督。今日はこの後、能代とポーラと3人で過ごす予定なんです」
「せっかく『3人で恋人』になりましたから、ザラさんだけじゃなくてポーラさんにもいっぱい気持ちよくなってもらおうかと思いまして」
「何にでも挑戦したいお年頃ですからね~。でもでも~、能代さんには負けませんよ~」
かしましくも仲睦まじい様子で口々に言う3人。
これはもう、その後を心配するだけ野暮というものだろう。
「わかった、引き留めてすまなかったな。ごゆっくり」
笑って能代とザラを控室から送り出そうとして、
「あ、そうだ最後に能代。あいつは今晩空いてるか知ってるか?」
不意に思い付いたことがあり、声をかける。
「あいつ……って、誰のことですか?」
小首を傾げて聞き返してくる能代に、日下部はその名を告げる。
それはもちろん……。
「という話を聞いたんだ。私の気付かないところで阿賀野、頑張ってたんだな」
能代に教えられた通り、今晩の阿賀野の予定は空いていた。
「これでも阿賀野、能代のお姉ちゃんだもん。普段世話させてる分、こういう時くらいはね。ココロってカラダの気持ちよさには勝てないのかなって考えてた時に、阿賀野はそもそもカラダの気持ちよさを知らないことに気付いてね? ゴーヤちゃんに教えてもらったの」
「あいつにか。初めてあいつとシた時のことを思い出すと、なんか成長したなぁって感じ」
「無知シチュ堪能したんだよね?」
「言い方ぁ!」
まぁ間違ってはいない。その結果何やら覚醒して、艦隊全体でも上から数えた方が早いレベルの性豪になってしまったのは、嬉しい誤算ではあるけども。
「あの3人、上手くいくといいな」
「ほんとにね。心置きなくお世話してもらうためにも」
満足そうに呟く阿賀野に、日下部もまた微笑を浮かべる。
「そんな阿賀野にご褒美だ。ゴーヤ、そろそろいいぞ」
日下部は
そこから姿を現したのは、下着だけを身にまとった半裸のゴーヤだった。
「阿賀野、お疲れ様でち。よく頑張ったね」
「ゴーヤちゃん!? ねぇ、これどういうこと?」
状況が呑み込めずにいる阿賀野を日下部が抱き寄せると、ゴーヤも寄ってきて阿賀野を挟み込む位置に座る。
日下部を、ではなく阿賀野を挟み込んでいるのがこの場合のポイントだろう。
「だから、ご褒美だよ。今日は本当は『ゴーヤの日』なんだ。
「
二人が口々に言うと、阿賀野はぽかんと口を開けた。
「なにそれ……! 赤城ちゃんにそれ、通用するのかな?」
「いいんだよ、お前はれっきとした恋人の一人なんだから。さっさとゴーヤまでケッコンしたら堂々と抱いてやれるようになるけど、今はまだこんな機会でもないとダメだからな。それとも嫌か?」
「そんなわけないじゃない!」
阿賀野はぎゅっと力の限り、日下部にしがみつく。
「よし。じゃあベッドに行くぞ」
日下部は立ち上がる。
そのまま阿賀野の首と脚に手を架け、いわゆる「お姫様抱っこ」で持ち上げた。人間だった頃の貧弱な肉体ではこんなことはできなかっただろう。
「提督さん、大好きよ。いっぱい愛してね?」
答えるかわりに唇を唇で塞いでから、日下部はゴーヤを伴って寝室へと移動する。
――そして今晩もまた、最新鋭軽巡である阿賀野の夜戦での活躍が始まった。
※秋、晩秋、冬とそれぞれ1話ずつ書いた能代とザラ編、これにて完結です。
ただし阿賀野型姉妹の新規着任に伴って、少し形を変えてこの辺りの関係性に関する話は今後も続きます。
このシリーズは
昔のバトル物では、チートな手段でパワーアップした敵は地道に修行して強くなった主人公の地力に敗れ去るのがお約束でした。今は主人公こそがチートを使うので成り立たない法則ですが(日下部もその類ですし)。
バトル物なら師匠と戦って修行するわけですが、では夜戦の修行は……。貞操観念ガバガバですが、本作はもともとそういう作品なので何の問題もありませんね。
ちなみに結末部分は、ツイッター投稿時より少し変えてあります。こっちの方がそれっぽいかなと。
艦これ、1/20から節分任務が始まるようです。逆に言うと期間限定海域はまだということになりますので、この間にSSを進めていきたいと思います。
早く去年の冬イベ(発令!「捷三号作戦警戒」 )に入りたいのですが、あいにくその前に片付けるべき話がもう少しあります。お待ち下さい。