日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~ 作:天空のトロイカ
ご注意下さい。
友人はそれぞれ私たちの中にある世界を表している。その友人が来るまで生まれなかったに違いない世界である。その出会いによって初めて新しい世界が生まれるのだ。
イベント期間はまだ終わっていないが、日本近海にいる以上母艦暮らしを続ける必要もない。
艦隊は横須賀沖のショートランド人工島に存在する、日下部鎮守府の施設へと戻ってきていた。
「後はここ、執務室で一通り終了よ。何か質問は?」
大淀は冬月に対し、一通り施設内を案内していた。これから彼女の「家」となる場所なのだ、こういうことは疎かにしない方がいいだろう。
「ありがとう大淀。その、提督のことを聞かせて欲しいんだが」
「言っておくけど、あの人のハーレムに入るつもりならかなりの覚悟が必要よ? もう相当な人数がいるし」
「い、いやそんなつもりでは」
「あら、本当?」
実にわかりやすい反応に、少しだけくすっとした笑みが出る。
さらに言葉を続けようとしたところで、執務室へと繋がる扉の向こうから大きな声が聞こえてきた。それも一人だけではない、明らかに複数の艦娘がその向こうにいる。
そしてその声の様子は、ただ会話しているだけではないのは間違いなかった。
「って、ちょっと。何やってるの!?」
本当に何をやっているのかわからなかったのではなく……むしろ
大淀と冬月が執務室前にやって来る、それより少し前。
「防空埋護冬姫戦では大破してまで頑張ったし、パトス戦でも活躍したじゃーん! 活躍したら夜戦ってのがこの艦隊の伝統でしょ! はやくー、やーせーん!」
川内は日下部に対し、夜戦バカっぷり丸出しでそんなことをおねだりしていた。
ちなみに記憶が確かならばそれは今年始めのピーコック島攻略作戦の時に金剛が言い出した、わずか3ヶ月ほどの伝統だったはずなのだが。
「シないとは言わないが、さすがに昨日までは落ち着く余裕もなかったし今はまだ昼じゃん。夜まで待て」
「やだやだ夜戦不足で死ぬ! する! 今すぐする!」
「おい秘書艦、公私の別は付けろ。なんだかんだ普段は真面目なのに、ここぞという時は壊れるなお前」
日下部鎮守府の川内は女子力も理知力も平均的な川内よりずっと高いと思われるが、それでもやはり川内は川内ということなのだろう。
さらには、
「ちょぉーっと待つデース! Hey真琴、ティターニアで頑張ったのは私も一緒デース!」
タイミングよく執務室の扉を開け放って踏み込んできたのは金剛だった。
さらに数名、他の嫁艦たちもいる。
「スキンシップは
「それ言ったら秋雲だって頑張ったかんね! ムネーメーなんて名前の概念艤装使わされて怖かったわ、いきなり馬鹿みたいな量のイラスト描かされて腕が死にそうになったわ!」
「お前がMVPなのは認めるから、頼むから夜までおとなしく静養してて?」
誰もシないとは言ってないのに、なぜ今日に限ってみんなこんなに聞き分けが悪いのか。
「真琴さん、私だって第五海域の第一作戦で……」
「いや赤城、お前とはその時シたじゃん!」
「青葉も第四海域で……」
「お前ともシたじゃん!」
「昭南本土航路から戻ったよ。相変わらず潜水艦に対してだけはブラック鎮守府でち……癒やしにまことのおっきな魚雷を……」
「ねぇわざとタイミング合わせてない!?」
そろそろツッコミが追い付かなくなってきた。
「もうみんなとの夜戦解禁したんだから、阿賀野とだってシてもいいはずよね!」
「Darling、私もスるー!」
「御主人様、僕は御主人様だけの犬だからね」
さらに阿賀野にジャーヴィスに時雨までやって来た。執務室がぎっちりしてきたのでさすがにもう増えないだろうが、これだけでも十分すぎる人数だ。
やいのやいのと、かしましく言いたいことをまくし立てて来る嫁艦たちに、
「……お、お前ら」
ついにぷちっ、と日下部の堪忍袋の緒が切れた。
「せーんだい♪」
「えっ……? あっ……!」
唇を塞いで舌をねじ込みながら、日下部は川内を押し倒した。
実に手慣れた手付きでスカートの中に指を這わせ、履いていた下着を器用に剥ぎ取る。さらに自分のズボンの股間にあるチャックを引き下げ、そこにぶら下がっている凶悪極まりないものを取り出した。
――粘着質で卑猥な音が室内を満たす。
「ちょっ、あっ、んあっ……うあああっ……!」
「い、一瞬で川内を昇天させたデース!?」
金剛が驚愕に目を見開く。まさか本当にヤると思っていなかったとでも言うのだろうか。であれば、この機会にひとつわからせてやる必要があるだろう。
「いいか、ここ執務室だからな? 私は本来TPOをわきまえる人間だからな? それを、お前らが、どうしてもって言うから仕方なくだからな?」
「め、目がめちゃくちゃ据わってマース……」
「いいから黙って腰を振れ。そんでもってとっととイけ。おう、突きこんだらしっかり締めろよ?」
当然ながら一部始終を聞いていたわけではない大淀には、こうなった経緯までは理解できない。
それでもしどもどろにフォローのための言葉を紡ぐ。
「ご、ごめんね冬月。普段はこんなところで始めるような人じゃないんだけど……そりゃプライベートではお盛んだけど、ちゃんと公私の別は付ける人よ?」
「あ、ああ。なんとなくそれは分かる。だとしてもこれは、うん。ちょっと」
冬月の表情は先程までの紅潮から一転して、どこか理解できないものに触れたかのたように青褪めていた。
(これ、フラグ折れたわね……)
さすがにそこまでフォローする気はない。
こうして日下部の知らないところで一人、嫁艦候補が増えることなく消えていったのだった。
なぜか鎮守府に戻ってきた翌日から冬月の態度が少しよそよそしくなっていたが、それでも日下部にはあの小さな約束を違えるつもりはなかった。
艦隊はイベントの残り期間を使って、新たな艦娘との邂逅を求めた反復出撃を行っている。
もちろん第一目標は涼月なのだが、出会える艦娘は他にもいるわけで、
「ホーネット! よく来てくれた、歓迎するぞ!」
今目の前にいるのは、アメリカの正規空母・
前世は南太平洋海戦で撃沈された、ヨークタウン級3番艦。そして駆逐艦・秋雲の乗員が沈みゆく姿を記録に留めようとスケッチを行った相手こそが彼女だ。
秋雲とのケッコンの際には、舞津鎮守府のホーネットに頼んで写真を撮らせてもらった。あの時はいつ自艦隊に着任してくれるかと思ったものだが、思ったより早かったと言うべきだろう。
「貴方が噂の提督なの。よろしくね」
「噂って、いつどこで噂になったんだよ。お前着任したばかりだろ」
「工廠で肉体を作ってからこの執務室に来るまでの間に、早速ノーザに会ったのよ。なんだかえらく喜ばれたわね」
秋雲が彼女の沈みゆく姿をスケッチするよりも前、なんとか彼女を救出しようと曳航しようとしたのは重巡・ノーザンプトンだった。結局それを果たすことはできなかったわけだが、その前世の記憶からノーザンプトンはホーネットに対し大きな感情を抱いている。
「で、なんか理不尽な理由で彼女を振ったんですって?」
「……もう一年近く前の話だし、時効にしてくれないかな」
「別に私は気にしないけどね。ノーザには悪いけど、気になる子は他にいるし」
「あらら。あいつもまた……」
振った身で言うのもなんだが、日下部鎮守府のノーザンプトンは本当に恋愛弱者になる運命らしい。
などと一瞬思ったのだが、
「あ、でもあの子、なんかサラに熱烈に口説かれてたけど」
「サラトガ? それはまた意外な組み合わせだな。お前と違って前世での絡みも特にないよな?」
「そうね。んー、でも他のホーネットに同艦交信で確認したんだけど、サラにしては口調とか雰囲気がおかしかったのよね。もっと蓮っ葉というか」
「……ん?」
ホーネットの言葉に、日下部は思わず硬直する。
蓮っ葉な口調で喋るサラトガ。そんな存在に、心当たりがないわけではない。
「それに『アタシはフォアリバー艦のファンなの。
「あわわ! それ、サラじゃなくてサラだ!」
「……?」
当たり前だがサラ・ローレンスのことを知らないホーネットは、同じ名前を2回続けて呼んだことに首を傾げるばかりだった。
日下部は慌てて事情を説明する。
「艦娘サラトガの中に、人間のサラ・ローレンスって子が……? はぁ。そういうこともあるのね」
「ただ、眠ってるはずなんだがなぁサラ」
サラトガは今回のイベントでは第三海域に出撃してもらったが、その際には特に様子がおかしいということはなかった。
一度機を見て話してみる必要があるだろう。
「ところで話は変わるんだが、ノーザじゃないとしたら気になる子って誰だよ。翔鶴か?」
「空母じゃないわ。確かに翔鶴とはBARで一杯やりたくはあるけどね。そうじゃなくて……前世で私の最期の姿を一生懸命記録しようとしてくれた、日本の駆逐艦。この艦隊にもいるでしょ、秋雲?」
「……いる、が」
予想外の名前を挙げられて、思わず言葉の歯切れが悪くなる。
「話してみたいわ。そして生まれ変わった今度は、最期の姿じゃなくてとびきり最高の私を描いてもらいたいの。それに彼女、右目の下に泣きぼくろがあったでしょ? あれ可愛いわよね」
「そ、そうか」
「……? 何か問題でも?」
こちらの態度の変化に気付くこともなく、ホーネットは無邪気に首を傾げる。
フィン・マックールの3番目の妻グラーニアは、部下のディルムッド・オディナの持つ「魅惑のほくろ」の魔力によって道ならぬ恋に落ちた。そんな逸話が不意に脳裏に浮かぶ。
「いや。その辺はあいつが判断することだからな。まぁ自分から描かれたがるホーネットは、正直珍しい方だと思うが」
「そう? なら今度遠慮なくお願いしてみることにするわ。楽しみね。じゃあ提督、そろそろ失礼するわ」
「あ、ああ」
去っていくホーネットの姿に、軽く溜息を吐く。
別に秋雲を奪われる心配をしているわけではない。自分が14股を掛けている以上、秋雲が自分以外の誰とどうなろうが咎める筋合いはないからだ。まぁ奪えるものなら奪ってみろとは思うが。
ただ、
「秋雲のことといいノーザとサラのことといい、面倒臭くなる予感しかないな……」
新たな出会いで新たな世界が生まれること自体は良いことなのだろうが、それにしたって限度があるというものだろう。
ホーネットの着任から数日。
さらに数名の新艦娘が着任し、そろそろイベントの終わりの足音が聞こえてきた頃……日下部鎮守府に、また新たな艦娘が一人着任していた。
冬月と同じ銀髪を肩までの長さに垂らし、姉妹の中でもひときわ高い身長をすらっと伸ばす、秋月型3番艦・涼月。
日下部は見事に冬月との小さな約束を果たしたことになるのだが……それ以上に、
「うああああっ! お涼さんお涼さんお涼さん! お前に会いたかった! 去年の春イベからずっと会いたかったぁぁぁぁぁぁ!」
2045年の春、ルンガ沖夜戦。立ち上げから数ヶ月の日下部鎮守府では、姉妹に当たる照月や初月とは邂逅できたものの、彼女との邂逅はついぞかなわなかったという経緯がある。
実は冬月以上に、日下部自身が涼月に会いたがっていたのだ。
「そんなに喜んでいただけると嬉しいです。皆さんをいつまでもお護りできるよう、私……頑張ります」
「うんうん、よろしくな!」
感極まった日下部は、思わず涼月をぎゅっと抱きしめる。
「あ、あの? 提督?」
「あ、すまん。ずっと会いたかったもので、つい」
どこか困惑したような声に我に返った日下部は、慌てて涼月を解放する。
これで頬でも染めていればまだマシだったもしれないが、残念ながら彼女には本当に困惑の色しかなかった。どうやら脈なしのようだ。
その時、執務室の扉を空けて一人の艦娘が室内に入ってきた。
「涼……」
それは彼女の着任を待っていたであろう、冬月だった。
「えっ、お冬さん!?」
「この艦隊では、お前の方が着任が遅かったんだよ」
驚いたように目を見開く涼月に、日下部は軽く微笑んで告げる。
「冬月、少しは鎮守府生活にも慣れただろ? 涼月を案内してやってくれ」
「ああ……わかった」
日下部の言葉に促されて、冬月は涼月を伴って執務室を後にする。
「なんだろうな? もっと喜べばいいのに」
負の想念に囚われるほど待望していた相手と会えたにも関わらず、冬月の態度はどこか煮えきらない様子だった。
「Guten Morgen! 私が航空母艦、
「Hi! Meが
着任から4回目となる今回のイベでも、多くの新たな出会いがあった。
中には今後の日下部鎮守府の中核を担うであろう艦娘もいる。そんな艦娘もそうでない艦娘も、誰もが日下部にとっては大切な存在だ。
「軽巡矢矧、着任したわ。提督、最後まで頑張っていきましょう!」
「How is everything? あたしは、
特に軽巡のこの二人については新年早々のアイギス戦以降、ずっと自艦隊へ着任してくれることを願っていた。
ひとつ、またひとつと艦隊が強くなっている手応えを感じて、思わず嬉しくなる。
「そう、貴方が噂の提督なの。よろしくね。私はUSS CV8
「秋月型防空駆逐艦『涼月』です。皆さんを……皆さんをいつまでもお護りできるよう、私……頑張ります。よろしくお願い致します!」
強さに関する話だけではなく、日常においてもまた新しい日々がやって来ることだろう。
すでに幾つかの事件に関する種は撒かれ始めている。日下部の知るところでも、まだ気付いていないところでも。
「戦時大型タンカーとして計画され、特2TL型特設輸送空母として建造が進められた山汐丸であります。提督殿、自分も何卒ご活用を……お願いしたい……です」
「秋月型防空駆逐艦、八番艦、冬月、参る。涼、随分と待たせたな。提督、共に護ろう。大切な……ものを」
冬の名を関する艦娘が着任した頃には、すっかり冬の季節は終わりを告げていた。
そして春がやって来る。日下部鎮守府にとっては二度目の春。けれども今年は去年と比べ、それを迎える艦娘の数はずっと多い。きっと何もかもが去年とは違うはずだ。
それは日下部鎮守府だけでなく、人類と艦娘という種族単位の在り方においても言えることだろう。
「えっ、また横浜に行くの!?」
「そう。だが今度はこっそりじゃない。どういう手段を使ったか知らんがママンの奴、正式に提督5人分の外出許可を取ってきてな」
驚いたように言う川内に、日下部は苦笑を浮かべて返す。
提督5人、イベントの慰労を兼ねて盛大に呑みましょう。そんな平和な時代であれば当たり前に行われていそうな催しを実行するのに、どれだけの根回しが必要だったことだろう。
しかしそれが多くの艦娘の安否と直接繋がっていることを知っていると、馬鹿げた警戒心だと笑うこともできなくなる。
「早く提督も日常を楽しめる世界になるといいのにね。これは真琴さんだけの話じゃなく」
「あー。上の方ではその辺、
「こっそりゴーヤとデートに言った真琴さんが言うと説得力が違うね」
「うっさい。とりあえず出かけるのは明日だ、今日のところは資源ぎりぎりまで最後の出撃をする。編成は……」
――提督が鎮守府に着任しました。これより、艦隊の指揮に入ります。
※2022年冬イベ(発令!「捷三号作戦警戒」)の完結編となる話です。
今回長かったですね。晩冬章に入ったのが今年の1月初頭、冬イベに突入したのが2月下旬。軽く5ヶ月弱かかってます。
リアルタイムとの時間差は1年3ヶ月。まぁもう気にしても仕方ないですね。リアルタイムの方は更新止まってますので、いずれ追い付けるはずです。
このイベでは日下部鎮守府に海外艦、特にアメリカ艦が多数着任したのが印象的でした。
ホーネット、アイオワ、アトランタ辺りが揃ったのは嬉しかったです(特にアトランタ)。一方でコロラド、ワシントン、サウスダコタ辺りは未着任でした。
ところで今話でサラが挙げている名前の中に、現在は艦娘になっている艦がひとつありますが、この時点では未実装でしたのでご注意を。
本話にて「46億年と2046年/晩冬」章が終わり、次回からは「46億年と2046年/春」章が始まります。
イベ間期の日常パートが中心になる話ですが、実は2022年の冬イベと春イベの間が大変短かったこともあり、晩冬章ほどは長くならない予定です。
ただし短いなりに重要な話も幾つか存在します。日下部も言っていますが、人類と艦娘を取り巻く状況にも変化がある予定です。また今後の物語上で重要となる(艦娘以外の)新キャラクターも登場予定です。
一方、リアル時間軸の方はいよいよ7/7で梅雨任務が終わりのようです。すぐに夏イベとはならないでしょうが、7月末頃には始まるかもしれませんね。それまでにはある程度話数を稼いでおきたいところ。
それでは皆様、今後ともよろしくお願いいたします。