日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~ 作:天空のトロイカ
悲観主義者はあらゆる機会の中に問題を見いだす。楽観主義者はあらゆる問題の中に機会を見いだす。
「うん、とっても可愛かったよ、青葉」
「す、すごく恥ずかしい顔、見せちゃいました……」
「それはお互い様だし。そもそも、これってお互いの恥ずかしいところを曝け出しあって、本当の自分で交わる行為だから、恥ずかしいけど気持ちいいんだぞ」
「う、た、確かに頭が真っ白になるくらい良かったですけど。でも本当の青葉なんか、あまり見せたくないです……」
「やれやれ、しょうがないな。あんなに可愛かったのに。でもそれがお前の意志するところなら、尊重するよ。今日以降は、あんまり頻繁には求めないでおくよ」
「は、はい……って、ひゃっ。言った傍から、どうして押し倒すんですかっ……?」
「だってまだ昨日の30時だし。昨日はまだ、終わってないし」
「あんっ……ずるいっ……」
「……という顛末がありまして」
「なぁ日下部。そのピロートークまで話す必要はあったのか……?」
「あんたが10分に1回は『朝潮たんとハァハァしたい』とか『朝潮のちっぱい舐めたい』とかキチ発言してるから、こっちだって少しはやり返したくなるんですよこのガチロリコンがぁぁぁぁぁっ!」
応接室の壁を震わさんばかりに、目の前の男に言葉を叩きつける。
一応ここは軍隊で相手は上官?
知ったことか、キチ発言の連発を聞かされるこっちの身にもなれ。
「あ、すまん。また声に出てたか……」
「本当、大本営のお偉いさんに報告する時とか大丈夫なんですかマジで」
男はぽりぽりと、気まずそうに頬を掻いている。
その仕草だけ抜き取れば可愛らしいものだが、やっているのが熊のようなむくつけき大男となると、さすがにそんな印象では無くなる。
鍛えられた鋼のような胸板。
海防艦娘の胴回りほどもありそうな太い腕は、私のようなにわかとは違い……彼がシンギュラリティ到来以前から防衛職にあった、本物の「プロの軍人」であることを示していた。
人類統合海軍・艦娘運用部隊、佐世保鎮守府所属の提督。
私の後見人が長谷川であるように、その長谷川が提督となった時の後見人であり、長谷川の兄である悠也さんが存命だった頃は、親友でもあったという。
提督としては大先輩に当たる存在で、艦娘運用の戦果においては文句なしに提督全体の中でも頂点に近い場所にいる人だが……まぁ、ご覧の通り性癖にはちょっとどころではない問題を抱えている。
「しかし舞津さんと朝潮だと、絵面的な犯罪臭は半端ないですね。正直、長谷川のアレが可愛く見えるレベルだ」
「ああ、よく言われる。しかしあのくらいの年の人間の女の子だと、犯罪以前に身体構造的に無理も無理だからな。そこ来ると艦娘はいいぞー日下部」
「私はロリコンではないんで。あしからずです」
まぁ駆逐艦でも陽炎型や夕雲型くらいなら、ぎりぎり欲情できるかな?
「そんなことより、ほれ。頼まれていた資料だ。しかしこんな戦争初期の記録、何に使うんだ?」
「最近心を入れ替えて、きちんと提督の勉強してましてね。とりあえず提督としての綱領とか規範は一通り読みましたので、次は私の着任前のことを学ぼうかと」
「そうか……なら言っておく。覚悟して読め」
不意に、舞津さんの表情が引き締められる。
一瞬でその顔つきが、軍人の物になっていた。
「鎮守府と海と艦娘しか見ない生活をしていると、つい忘れがちだが。
ここの外の光景は、結構ひどいことになっている。何しろ、人類の半分以上が死んでいるわけだからな」
シンギュラリティ到来直後、高次AI率いる深海棲艦の奇襲で、人類の約半分が3日で死に絶えた。
世界規模での連携を絶たれ、バラバラながらもどうにか人類は反攻を始めたが……。
文字通り桁外れに高度な想念工学を操る深海勢に対し、人類の軍事技術はほぼ無力だった。
艦娘が到来して連携をある程度回復し、ようやく深海棲艦に対して有効な反撃手段を確立するまでに、人類はさらに少なくない犠牲を積み重ねることとなったのだ。
「艦娘到来前、つまり人類が自分たちの力で深海棲艦と戦おうとしていた時期は、それはもう人類は『勝つためならなんでもやった』。人類ってのはそういう生き物だからな」
「なんか、不吉な言い方をしますね」
「まぁ、読めばわかる」
「でも、今は違いますよね。艦娘という、深海棲艦への対抗手段ができたわけですし」
「そうだな。かつてのような無茶をする必要は無くなった」
そこで不意に、舞津さんは言葉を切った。
どこか遠い場所を見るような視線で、ぽつりと呟く。
「かくしてやることと言えば、艦娘のご機嫌取りを全力で行うだけの、『立派な軍隊』の出来上がりだ」
「……そんな言い方」
「事実だろう? 作戦の立案・策定も提督の仕事ではあるが、大淀任せでも最低限の運用はできる。そんなことよりも、艦娘の士気を保ち適切に督戦して、『気持ちよく戦っていただく』のが、提督にとっては最も重要な仕事だ」
かつての長谷川の言葉を思い出す。
――人類には、艦娘を愛するしか選択肢は残されていない。
――提督など、まともな人間には務まらない。
為す術もなく人類の半数以上を殺され。力の限りの反攻はまったく通じず。
突如として現れた謎の少女たちに頼るしかなく、上層部からは「彼女たちのご機嫌取りをすることがお前たちの仕事」と宣告された。
矜持もあれば覚悟もあった、そのすべてを粉々に打ち砕かれて、なお戦っている「プロの軍人」たち……。
……私には舞津さんの気持ちはわからない。
だが、なら一体誰であれば、彼らの気持ちを理解できるのだろう?
「がはは! なーんて、辛気臭い話をしちまったな!」
不意に舞津さんは豪快に笑って、私の背中をバンバンと叩く。
率直に言って痛い!
「別に嘘を言ったつもりは無いが、みんなとっくに割り切った!
割り切れずに『真面目に戦争をやろうとした』奴らもいたが、そんな連中はもうあらかた死んだ。
深海棲艦に殺されたか、……大本営の粛清でな」
ああ、本当に人類は「勝つためならなんでもやった」のだな。
「それに俺個人に限って言えば、こんな俺のどうしようもない性癖を受け入れてくれた艦娘に感謝してる。おそらく長谷川の奴もそうだろうな。
……だからな、日下部。こんなどうしようもなくぶっ壊れた世界で、『艦娘に惚れたから』なんて理由で提督になったお前には、結構期待してるんだぜ?」
「別に顔も知らない人間が、何十億人死のうがどうでもいいですし。好きな人、大切な人、あと自分が死ぬのはそりゃ嫌ですけど」
「がはは! 相変わらずだなお前!」
全部が狂ってしまっていて、狂気こそが正気となる時代。
そんなどうしようもない世界だけど、それでも私たちは今日を生きているのだ。
「あーヤバい。朝潮たんの顔を思い出したら急に勃ってきた。早く帰って朝潮たんに中出ししたい」
「資料ありがとうございました丁重にお預かりしますだからとっとと帰れ!」
「こりゃまた、舞津さんがああ言うだけあるな」
くだんの戦争初期の資料は、言われた通りなかなかきつい内容だった。
さすがにすんなり読むには辛く、脳がエネルギーを求めて悲鳴を上げている。
「間宮にでも行くか……って、こういう時に限ってだーれもいないんだよなぁ。せっかくデートのチャンスなのに」
川内は吹雪と一緒に夜戦訓練に出ている。金剛は今日の出撃で大破して入渠中。
青葉は……まぁ、あいつを捕まえる方が難しい。
仕方なく一人寂しく甘味処・間宮に出向くと、そこには先客がいた。
「いやー今日もマイッツァー先生の絵はキテるわー! 秋雲も負けてらんないなー!」
携帯用の小型タブレットを弄ってインターネットを閲覧しているのは、陽炎型駆逐艦・秋雲だった。
史実で長い間夕雲型と混同されていたという逸話に基づくのか、着ているのは臙脂色の夕雲型の制服。
栗毛の髪をポニーテールにしており、オリーブ色の瞳がせわしなく動いている。
ふむ、なんだろう。興味を惹かれるな。
アイスクリームと焙じ茶を注文してから、私は秋雲の隣に座って声をかける。
「よぉ秋雲。何を見てるんだ?」
「あ、提督! 見てよ見てよ、マイッツァー先生の新作! すごいよーこれ」
そう言って秋雲が見せてきたタブレットの中には、一人の艦娘のエロ絵が表示されていた。
描かれているのは駆逐艦・朝潮で、竿役の男にずっぷりと突かれて恍惚とした表情を浮かべている。
「ちょ、おま、なんつー物を。つか、これ朝潮本人に見せんなよ?」
「見せない見せない。個人的に参考にするだけだってばー」
「……しかしまぁ、確かになかなか上手いな?」
私は絵は門外漢もいいところだが、その私から見ても確かに結構上手い。
プロのイラストレーターとして通用するほどではないだろうが、アマチュアのレベルで言えばかなりのレベルだと思われた。
朝潮の表情も淫靡に満ちたもので、その方面の性癖を抱えた人物であれば、十分に実用に耐える物だろう。
加えて、身に付けている制服の再現度も……
「……うん? 再現度高すぎないかこれ」
艦娘の存在は、別に一般人に秘されているわけではない。
軍事用の交信は軒並み高次AIにハッキングされて使い物にならないのに対して、何故か娯楽で使う分にはAIどもは一切ハッキングをして来ないので、艦娘のファンアートはネット上に結構氾濫している。
だが当然ながら服装や艤装の詳細はいい加減なことが多く、艦娘の実物を目の当たりにしている我々から見ると、あからさまにでっち上げとわかる絵が多いのだが。
目の前のこの絵は、明らかに朝潮の着ている(半分脱がされた)制服が「本物」なのだ。
「秋雲ー、この作者なんつったっけ?」
「マイッツァー先生。結構艦娘エロ絵界隈では有名な人だよー?」
「マイッツァー……舞津……まさかな」
一瞬、昼間に顔を顔を合わせた、むくつけき大男の顔が脳裏に浮かぶ。
……いやぁ、あの人が絵師? 想像できないぞ。
「よーし、インスピレーションが湧いてきたー!」
不意に叫んだ秋雲は、私の顔をまじまじと覗き込んできた。
「な、なんだよ……?」
「へへっ、提督ってこうやって見ると結構整った顔してるなって。ちょっとナルシストっぽいけど、そこがまた適任かもねー!」
「おい、適任ってなんだ……?」
思わず呟いたものの、秋雲はそれに答えず、
「間宮さんご馳走さまー! 提督、先に失礼するねー。よーしやるよー!」
……うん、嫌な予感しかしないぞ。
※舞津提督はフィクションであり、実在する艦これ絵師とは一切関係ありません。
【舞津武雄】
【挿絵表示】
性別:男性
年齢:35歳
職業:提督
一人称:俺
秘書艦:朝潮
シンギュラリティ到来以前から海上自衛隊に所属しており、その後も第一線で戦っている生え抜きの職業軍人。
艦娘出現前の戦争を知る数少ない生き残り。
長谷川陽菜の兄である悠也とは親友だった。その縁で、艦娘出現当時から提督となった、陽菜の後見人も務める。
先天性の小児性愛者(ペドフィリア)。
(※俗語的に「ロリコン=ロリータコンプレックス」とも言わるが、実際に朝潮に手を出しているのでペドフィリアが正しい)
自身の性的指向を理性でコントロールして日常生活を送っていたが、駆逐艦や海防艦といった身体の小さな艦娘に対し性欲を抱く。その中でも、最も自身を慕ってくれた駆逐艦・朝潮と結ばれる。
ネットに艦娘のエロ絵を上げている絵師「マイッツァー」と同一人物ではないか、と噂されているが、真偽のほどは不明。