日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~ 作:天空のトロイカ
ご注意下さい。
一度剣を抜いた以上は、息が絶えるまで勝利を完全に手中に収めるまで剣を捨ててはならぬ。
先月末の時空震から一週間ほど。先行勢の持ち帰ってきたイベントの情報も集まってきており、そろそろ日下部鎮守府も出撃準備を進めている。
そんな中、また一人の艦娘が大規模改装を終えて執務室へと報告にやって来た。
今回の艦娘は特に重要な存在だ。何しろ今回のイベントにおいて中心的役割を果たすであろうからだ。
「提督、改装ありがとう。でも私はすぐに出ずに待機していた方がいいわよね?」
矢矧改二乙。
火力は並の重巡を超え、また先制雷撃を可能とする甲標的や水上戦闘機、特二式内火艇などのさまざまな装備を搭載できる。現時点においては、誰もが文句なしに認める最強の軽巡だろう。
日下部にとっては、新年早々の長谷川鎮守府とのアイギス戦で川内が散々に叩きのめされた記憶が新しい。練度はもちろん違うにしても、あの強さを運用できるというのは戦術の幅が大きく広がるということだ。
「そうだな。お前の出番は後段作戦になる」
先行勢からの情報によれば、イベントの前段作戦は最初に時空震の兆候が観測された南西諸島方面ではなく、南方海域の一角を舞台としているらしい。いずれは南西諸島方面にも深海棲艦の部隊が展開するのだろうが、まずは先にそちらを片付ける必要があるということだろう。
「わかったわ。大和がいないのは少し気にかかるところだけど」
「どうやら今回のイベントで邂逅のチャンスがあるらしい。場合によっては、本格的な攻略前に探してみることも検討するさ」
「そうね。やっぱり『あの作戦』の要は、大和だもの」
そんな風に言って微笑む矢矧のことを、日下部は強いと思う。あの作戦を……日下部に言わせれば「最初から失敗を前提とした史上最悪の作戦」を、当事者にも関わらずそんな風に言ってのけられるのは、間違いなく強さ、だろう。
そんな彼女と大和を、会わせてやりたいと心から思う。
イベントの特効とか戦力の強化とか、そんな理由ももちろんあるが……それ以上に日下部は一人の提督として麾下の艦娘のために、大和の着任を心から願うのだった。
日下部への報告が終わった後、矢矧は能代の部屋を訪ねていた。
部屋には幾人もの艦娘が集まっており、それはそれでありがたい話ではあるのだが、自分と能代の他に4人もの艦娘が集まっているのはさすがに予想外だった。
「能代姉からは私の改二乙改装祝いって聞いてたのに、なんでこんなにたくさん集まっているのかしら?」
「いいじゃない矢矧。にぎやかで悪いことはないでしょ?」
「だって……能代の妹なら、私の妹みたいなものだもの」
「私と矢矧さんではどっちが姉ですかね~? どっちでもいいか~、そんなことより飲みましょ~」
阿賀野がいることはもちろん聞いていた。能代の恋人である、イタリア重巡のザラとポーラが同席しているのもまだ理解できる。
しかしなぜ、
「ご相伴に預かるでちよ。たまにはてーとくや潜水艦仲間以外とわいわいするのも、これはこれで楽しいでち!」
潜水艦の伊58ことゴーヤがこの場にいるのだろう?
着任前の阿賀野と能代の物語を知らない矢矧にとって、その理由はさっぱりわからないことだった。
「そうね。今日は私も固いことは言いっこなしにするわ。みんなありがとう」
矢矧としても、着任早々に阿賀野と能代にきつくあたってしまった件はさすがに反省しているのだ。さすがに今日は無礼講で構わないだろう。肩の力を抜いて、中心となる席に腰を下ろす。
かくして始まったパーティーは、すぐに酒席特有の盛り上がりに包まれていく。
そうなると必然として、
「そういえばこないだ、てーとくがなんかみんなと乱交したらしいでちよ。ずるい……ゴーヤも呼んでよぉ……」
こんな風に恋愛や下半身事情の話が出てくるものだったりする。
ちなみにゴーヤが言っているのは、単発任務を日下部の嫁艦と嫁艦候補を集めて遂行した時のことだ。任務達成のテンションからなし崩し的に乱交に突入したそうだが、残念ながらゴーヤも阿賀野もそのメンバーにはいなかった。
「まぁまぁ。提督さんの竿は一本しかないんだから、いくら元気でも物理的に人数の限界はあるからね。機会を改めてじっくり可愛がってもらえばいいじゃない」
「う……そうでちね。阿賀野の言う通りでち」
自分も参加できなかったのに余裕ある態度で優しく諭す阿賀野の姿に、ゴーヤもさすがに矛を収める。
「今更ですけどうちの阿賀野姉は本当にしっかりしてるわね。私生活は結構だらしないけど、締めるところは締めるというか」
矢矧はそんな光景を目の当たりにして、どこか感心したように呟く。
「まぁ、私とザラさんとが上手くいったのも、阿賀野姉のおかげだしね」
「その節はご迷惑をお掛けしました」
その言葉に能代とザラが口々に同意する。
「まったく。阿賀野がいきなり『夜戦して?』ってゴーヤの部屋を訪ねてきた時は驚いたでちよ」
「だって他に頼れる人いなかったんだもん。その節はありがとうね」
「どういたしまして、お役に立てたなら何よりでち! でも阿賀野がすごかったのはその後だよね」
「ああ。『お股がだらし姉ぇ』の頃ですか」
阿賀野とゴーヤの会話に、いきなり能代が横から首を挟んできた。
思わず部屋にいる大半……阿賀野自身も含めた皆が遠い目をする中、
「な、なんですかそれは!」
その二つ名を初めて聞く矢矧だけが、その響きの不穏さに目を見開きながら叫ぶ。
「去年の終わり頃、阿賀野姉は夜戦技術向上のために手当たり次第百合っ子たち喰い漁ってたらしいです」
「えぇーっ!?」
「手当たり次第は言い過ぎよ、数えてみても20人は行ってないし。多摩ちゃんが本当にネコじゃなかったのと、綾波ちゃんの火力がすごかったのは驚いたけど」
「えぇー……」
嬉々として女性同士の夜戦技法について解説を始める阿賀野に、思わずドン引きした表情が浮かんでしまう。
「そうやった学んだ経験を、阿賀野姉は能代に全部教えてくれました。能代の初めての相手は阿賀野姉です」
能代はそんな矢矧の反応に苦笑しながらも、深い感謝を感じさせる声音できっぱりと告げた。
「教え子の成長に感無量でち……阿賀野、本当に成長したでちね」
大袈裟にわざとらしく泣き真似をして、阿賀野とゴーヤはむぎゅっと抱き合う。
そんな二人の様子を横目に、
「ザラ姉様。あの……」
「うんポーラ、言いたいことはわかるよ」
ザラとポーラは熱のこもった視線を互いに絡め合わせる。
「ねぇ能代、阿賀野の話聞いてたら、ザラ……我慢できなくなっちゃった。昼間からなんなんだけど」
「あっ……。わかりました、ならせっかくですから、たまにはみんなでシませんか?」
「能代、天才でちか!?」
「いいじゃないのー。確か今日は乱交部屋、空いてたわよね」
一瞬にして
「ちょっと阿賀野姉、能代姉! 改になった時言ったわよね、夜戦するにしても乱交は控えてって!」
目まぐるしい戦況の変化に、さすがにたまったものではないと声を張り上げたのは矢矧だ。
着任早々はこれで一時的に気まずいことになったのだが、それでも今は言うべき時だと判断した……のだが、
「言われたのは『3Pは控えて』よ」
「これからするのは6Pなので問題ないわね」
阿賀野も能代もしごく大真面目で返す。
「6……って、私を数に入れないで……!」
「この流れで矢矧だけハブる方がありえないでしょ。大丈夫よ矢矧。阿賀野姉ってば念願の提督との夜戦も経験したし、冬の頃からさらに上手くなってるから。優しく達させてくれるわよ」
どこか据わった目で言い放つ能代の姿は、どこか「覚悟」を感じさせるものだった。いや単にとっくの昔に脳破壊されているだけかもしれないが。
「わ、私を沈めたいなら、魚雷の5、6本くらいは撃ち込まないとダメよ……!」
「あっ矢矧、それ多分フラグ……」
言い返した矢矧にザラがツッコミを入れた瞬間、言質は取ったとばかりに阿賀野が叫ぶ。
「ザラちゃんとポーラちゃんは乱交部屋を確保! ゴーヤちゃんは明石ちゃんの工廠で、着脱式男性器5本拝領してきて! 能代は阿賀野と一緒に矢矧を拘束!」
「了解!」
「しまっ……!」
阿賀野の指示はきわめて的確で、普段のだらし姉ぇっぷりはどこに行ったのだと言わんばかりだった。
「残念だけど、あなたたちは後段作戦になっても参加はできそうにないわね」
あの乱交パーティから数日後の夜。
矢矧は自室に招いた駆逐艦二人を前に、気遣い抜きの率直な感想を述べた。
「そうでしょうね、矢矧さん。私も磯風も改になったばかりですし」
「悔しくないと言えば嘘になるが、こればかりはな」
浜風と磯風。前世においては、最期となる作戦に矢矧と共に参加した身だ。
艦娘として生まれ変わったのは良いが、彼女たちは本人の言う通り満足に練度が上がっていなかった。
「提督も気にしてはいると思うけど、すべての艦娘を育てるのはなかなか難しいということでしょうね」
「そうだな。そこはとっくに司令に育成順序の繰り上げを嘆願し丁寧に謝絶されて、私も浜風も割り切っていることだ。基礎訓練は怠っていないが、それは練度には直接繋がらないからな。今回は他の皆に任せるさ」
「今回のイベントに間に合わないのは仕方ないにしても、そろそろ育成して欲しいところですけどね。磯風と二人で床上の夜戦技術ばかり磨くのも、さすがにそろそろ飽きてきました」
「……んっ!?」
浜風の呟いた内容に引っ掛かりを覚えて、思わず矢矧は素っ頓狂な声を上げる。
「おい浜風、何を言っている」
「そ、そそそうよね冗談よね」
「二人ではないだろう。浦風と谷風もしょっちゅう混ざっているではないか」
磯風は浜風と共に所属する第十七駆逐隊の僚艦二人の名前を挙げた。
どうやら聞き違いや冗談ではなかったらしい。
「っていうかあなたたちも乱交!? 磯風、あなたまで!?」
「なぁ矢矧、戦場と平時の切り替えは大事だぞ」
「ごく最近新興市街地なんてものができるまでは、食事と会話と夜戦くらいしか娯楽と呼べる娯楽はありませんでしたしね」
「それもこれも、出撃させてくれない司令が悪い」
悪びれることなく磯風はびしっと言い切った。
「艦娘なんてこんなものですよ。それにしても矢矧さん、ずいぶん潔癖な反応ですが……自我を獲得して3ヶ月くらいになると思いますが、そっちの夜戦は『まだ』だったりしますか?」
「あ、いえ。先日、阿賀野姉ぇたちに……」
「ほう、興味深い。詳しく」
磯風も浜風も興味津々といった感じで、すっかり真面目な話をする雰囲気ではなくなってしまった。まぁ必要な話はすでに終わっている。ここからは別に
矢矧は先日のことについて二人に話す。
「初めてが阿賀野姉ぇで良かったとは思ったけど、そのままいきなり乱交よ? 5人がかりで代わる代わる挿れてくるのはさすがに反則よ。あの一晩で何回達したかわからない。まぁおかげでそういったことに対する偏見はなくなったけど……私、この先普通の夜戦できるのかしら?」
「さすが阿賀野型。我々とはレベルが違いますね」
「浜風、それ褒めてる?」
「……ふむ。そうなると、矢矧はネコ専か?」
どこか思案顔で尋ねてくる磯風に対し、矢矧は手をひらひらさせながら、
「いいえ。阿賀野姉ぇに教えられたの。夜戦はギブアンドテイク、ひとつ気持ちよくしてもらったらお返しにひとつ気持ちよくしてあげなさいって。だからタチも仕込まれたわよ」
「そうか! いやぁ困ってたんだ。浦風も谷風も浜風もあまりタチしてくれなくてな。たまには私だって攻められたいんだ」
なんとなく磯風の言いたいことがわかった気がして、矢矧は思わず苦笑する。
「いいわよ。そっちの技術はまだ拙いかもしれないけど、精一杯頑張ってみるわね。今からする?」
「矢矧、さっきまでと切り替えが早すぎないか? まぁ望むところだが」
「これが阿賀野型のレベル……」
「だから浜風、それ褒めてる?」
苦笑と共に言いながら、矢矧は駆逐艦二人を抱き寄せる。
確かにあの乱交はとても濃厚な体験だったとはいえ、まだこういうことをするのは二度目だ。それでもどうしたらいいか自然に身体が動くのは、きっと阿賀野たちの教えだけが理由ではないのだろう。
――そして今日も、最新鋭軽巡である阿賀野型の夜戦での活躍が始まった。
※また少し時間が空きましたが、阿賀野型の夜戦(意味深)事情、矢矧編です。
最初は潔癖な反応をしていて、それが理由で着任早々阿賀野や能代と気まずくなった矢矧ですが、本作の艦娘は一皮剥けばこんなものです。伊達にあの二人の妹ではないということで。
ちなみに冒頭の名言をこんな文脈で引用したのは、きっと私だけだと思います。チャーチル首相すみません。
磯風と浜風について。
本文に書きましたが、この梅雨&初夏イベにこの二人は育成が間に合いませんでした。雪風、霞、初霜辺りのフィニッシャーと、冬月、涼月の防空担当だけで手一杯だったのですが、本人たちはさぞかし無念だったこととは思います。
個人的には十七駆としての絡みの方が好きなのですが、本格的に再登場するのはかなり後の章になります。
艦これ本編、南瓜祭りはそろそろ終了しそうです。前話の後書きで「浦波を育成中」と書きましたが、無事に完了いたしましてそのまま清霜改二任務、拡張作戦と完了しております。
11月は間髪空けずに秋刀魚祭りが始まりそうですが、合間を見付けて本作も更新していきたいと思います。