日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~   作:天空のトロイカ

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※この話は日下部の一人称視点ではありません。
ご注意下さい。


激闘!R方面作戦 -Welcome to Rabaul!-

愛せなければ通過せよ。

――フリードリヒ・ニーチェ

 

 

ニューブリテン島。南洋はビスマルク諸島に属する島であり、日本の九州とほぼ同程度の面積を誇る。

シンギュラリティ到来前はパプアニューギニアという国の領土だったが、残念ながら人類の過半数を喪失したあの惨禍の中で人類の居住地として体裁を保つほどの国力はなく、現在においてはほぼ無人となっている。

その島の北部に、ひとつの都市があった。100年前の大戦において、日本の南洋攻略における物資集積地として、また一大戦力を抱えた「要塞」として知られるその都市の名は……ラバウル。

一世紀を経て失われたはずのラバウルに今、再び多くの命の炎が集いつつあった。

 


 

『ラバウル仮設新興市街地。すごいな、世界企業連合(コーポレート・ユニオン)は本当に無人の廃墟に街ひとつ作ったのか』

艦娘たちの艤装に仕込まれた通信装置から送られてくる光景を目の当たりにして、日下部は驚嘆の呟きを発した。

これまでにもイベントの舞台になった土地に仮設拠点を確保することはあったが、最低限の軍事機能を持たせるのが精一杯だった。だが今回は小規模ながらも、きちんと新興市街地としての機能を備えているらしい。

とはいえさすがに全提督の艦娘運用母艦を停泊させるほどの港湾整備を用意するのは無理だったので、第一海域については島から離れた洋上より遠隔指揮で攻略することを求められている。この作戦は文字通り「ラバウル進出」を目的としたものなのだ。

 

『しかしラバウルか。ここは土地に宿った想念力が豊富だし艦娘運用においても良いとは思うんだが、拠点として恒常確保するには厳しい場所だからな。深海棲艦どもは飛び石作戦どころか好き放題湧くから、地理的な戦略価値はなきに等しいし』

「そ、それはいいとして隊長さん。あの、まるゆはどうして一人だけここにいるんですか?」

心底困惑したような声で尋ねてきたのは、陸軍の潜航輸送艇・まるゆ。

前世における実艦は「潜水機能を持った特殊な輸送艇」でしかないのだが、艦娘として生まれた彼女は潜水艦としての最低限の能力を保有していた。つまり魚雷を撃って戦闘に参加することができるのだ。

ただし本当に「最低限」だ。潜水艦という括りで見た場合、お世辞にも強いとは言えない。ましてや彼女を単艦出撃させるなど、普通に考えたら自殺行為でしかないだろう。

 

『先行提督の情報によると、外郭海域の哨戒は潜水艦単艦でやらせるといいみたいなんでな。よろしくな』

「た、隊長さんって怖くないですか!?」

『大丈夫、轟沈ストッパーもあるし応急修理要員(ダメコン)も持たせたろ? ちょっと爆雷は派手に喰らうかもしれないが沈みはしないさ』

「隊長さん、最近はお嫁さんたちと仲良くしてばかりいたから、まるゆすっかり忘れてました。そういえばこういう人でしたね」

『ははは、先天性の共感性欠如(サイコパス)とはよく言われるな』

当たり前だが艦娘と言えども、攻撃を受ければ痛みもあるし損傷もする。沈みさえしなければいいというのはかなり乱暴な意見だ。

 

「ま、まるゆ、最後までちゃんと運ぶから。まるゆだって活躍できるんですよ……」

小刻みに震えながらも抗命せずに水中を進み始めるのは、曲がりなりにも艦娘といったところだろうか。

――なお哨戒任務を終えたまるゆが死んだ目で入渠施設に飛び込んだ後、血相を変えた木曽が怒鳴り込んでくることになるのだが、それはもう少し後の話だ。

 


 

「大丈夫か提督?」

第一海域攻略の主力、R方面防備部隊の旗艦である長門が心配そうに尋ねてくる。

 

『あ、ああ。あくまで作戦上の最適解であって虐待ではないことを、なんとか木曽もわかってくれた。しっかしあいつバカスカ撃ちやがって』

非殺傷設定であっても中口径砲を連続して叩き込まれればさすがに痛い。戦艦と同等の肉体を持つ超人(ポストヒューマン)であっても、だ。とはいえ「まるゆの感じた痛みを少しは感じやがれ」という木曽の言葉はもっともだと思ったので、あえて抵抗せずに途中から撃たせるに任せていたのだが。

 

「そちらもだが、こんな序盤から私と陸奥を出して平気なのかということもだ」

『それは完全に問題ない。お前たちR方面防備部隊は、第三海域でも出撃できるようだからな』

感謝すべきは提督同士の相互扶助(ソーシャル・コミュニケーション)だろう。こういった情報を先行勢の提督が集めてくれるおかげで、後発の提督は余裕をもって編成を組むことができる。

 

『さてR方面防備部隊、目標は西から迫っている敵艦隊。旗艦は重巡棲姫。随伴艦は水上艦と潜水艦の混成部隊という面倒な構成だが……』

「その点は問題ないだろう。私と陸奥が出るならどうせ特殊砲撃を使うために梯形陣で交戦するだろう? 駆逐艦たちにはそのまま対潜戦闘をしてもらうさ」

『なるほどな!』

思わず膝を打つ。出来過ぎといえば出来過ぎな話ではあるが、利用しない手はないだろう。

やがて西方向、進軍する艦隊の正面海域で水偵が敵艦隊を発見する。

日下部は長門たちに陣形指示を出す前に、別働隊として行動している艦娘に声をかけた。

 

『武蔵! 決戦支援部隊、準備はできているか?』

「もちろんだ相棒」

『よし。では武蔵・アイオワ・ウォースパイト、日米英合同戦艦部隊支援砲撃開始!』

「さて今回のイベでは私の出撃の機会はあるかな。まぁいい、仕事はするぜ。全砲門、開け!」

かつての大戦の時代における海軍大国3ヶ国を代表する戦艦たちが、一斉に砲撃の口火を切った。

猛烈な爆炎が、重巡棲姫率いる敵艦隊に痛打を与えていく。

 

『長門、行け! 梯形陣!』

「了解した、行くぞ陸奥! 待ちに待った艦隊決戦だ!」

「胸が熱いわね!」

重巡棲姫は曲がりなりにも姫級の深海棲艦だ。決して弱いはずがないのだが……この時ばかりは相手が悪かったとしか言いようがないだろう。

 


 

重巡棲姫を稼働させていたAIが搭載されているコア部位が、残骸となって海底へと没していく。

最後までその様子を見届けてから、長門はぽつりと呟くように、

 

「活躍したらご褒美に夜戦というのがこの艦隊の伝統なんだが……」

『ない! 断じてそんな伝統はない! それは今年の初めに金剛が言い出した妄言!』

日下部は必死にその言葉を否定する。実のところその時は金剛の要求通りにしたし、先の「捷三号作戦警戒」でも慣例と化しつつはあったのだが、それでも伝統にされてしまってはたまらない。

何より、

 

『あとお前は嫁艦候補じゃないからシない! そこの線引きはきっちりするぞ。どうしてもシたけりゃ、他の艦娘の誰かとシなさい』

「む、ならば……」

長門は僚艦の方を振り向くのだが、

 

「ごめんねナガト、あたしにはDarlingがいるから」

何かを言われる前に、すげなくジャーヴィスが拒絶する。

 

「ごめんね、私にはレディがいるから」

「ごめん、僕には五十鈴さんがいるから」

続けてジェーナスと初月に流れるように拒絶されると、さすがのビッグセブンも先程までの勇姿はどこへやら、しょげ返るようにがっくりと項垂れるばかりだった。

なお、そんな長門に対して何か言いたそうな表情で陸奥が押し黙っていることに気付いた様子はない。

 

『まぁなんだ。複雑な人間関係はさておき、第一海域の攻略お疲れ様だ。R方面防備部隊、帰投せよ』

「了解した。これより艦娘運用母艦『いが』に帰投する」

返答と共に長門たちが移動を始める。

それを確認して、日下部は通信装置のスイッチを切った。

 

「さて、これでラバウルへの上陸許可が下りるな」

艦娘運用母艦の暮らしは、軍艦とは思えないほどに快適だ。だが新興市街地の登場で娯楽の味を思い出してしまった今となっては、以前は平気だったこの海上生活にさえ辛さを覚えてしまう。

人間とはかくも快楽に弱い生物なのだ。そしてきっとこればかりは、艦娘も大差ないに違いない。

ラバウルに仮設新興市街地を用意するという決断を下した大本営と世界企業連合(コーポレート・ユニオン)には、改めて感謝すべきだろう。

 


 

R方面防備部隊の帰投後。

日下部と川内が執務室で書類仕事を片付けていると、工廠で肉体を新造した艦娘が着任の挨拶にやって来た。

 

「いやまさか、長門の持ち帰った概念核がお前とはなぁ。想定外だが歓迎するぞ、新艦娘」

それはこのイベントにおいて、初めて出現を確認された艦娘の一人だった。攻略中に新艦娘に邂逅できるのはなかなかの幸運だと言えるだろう。

セパレート型の水着に似た制服に身を包み、どこか流線型を思わせる体型をした銀灰色の髪の潜水艦。

 

「伊201よ。私のことはフレイでいいわ」

どこか流水の冷たさを感じさせる声で、彼女は自らの名を名乗る。

潜高型と呼ばれる、大戦後期に水中速度を重視して作られた潜水艦。妹に当たる伊203の方が先に艦娘となっており、日下部鎮守府にも着任している。

彼女の名乗りを耳にした日下部は、思わず腰を浮かせかけた。

 

「えっと、日本艦だよな。ドイツやスウェーデン艦ではないよな」

「伊号だって言ったでしょ。どういう意味よ?」

伊201、改めフレイは怪訝そうに瞳を細めてくる。

率直に言って、この反応は無理からぬものだろう。日本の潜水艦の艦娘は自らの艦番をもじったニックネームを自称する。伊168はイムヤ、伊58はゴーヤといったように。その法則からすれば、伊201がフレイと名乗るのはそうおかしなことではない。

そして日下部も、別にその名乗りそのものに引っ掛かったわけではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()というだけだ。

 

「いや、北欧神話にそういう神がいるんでな」

「……? なんでいきなり神様の話」

「ああ、いや。特に深い意味はない。単に思い出しただけだ」

さすがにいらないことを言ってしまったことに気付き、日下部はひらひらと手のひらを振る。

そう、深い意味はない。少なくとも今この時点では。

 

「まぁいいわ。提督、とりあえずやってみましょう?」

「おう。よろしくな」

日下部は特に何事もなかったかのようにフレイに声をかける。

だがその隣の席で、秘書艦である川内が眉根を寄せていることには気付いていなかった。

 


 

「……で? 嫁艦候補に加えんの?」

フレイが去った後、扉を閉めるなり川内が言い放つ。

 

「なんだよいきなり」

「北欧神話の神様ってあれ、概念艤装のこと考えたでしょ? 概念艤装はケッコンしないと使えないんだから、ケッコンするつもりなのって聞いたんだけど?」

「おっと」

こうまで完璧に思考を言い当てられてしまっては、さすがに舌を巻くしかない。艦娘フレイにもし概念艤装を用意するのであれば、どの神と習合させるか迷う必要は一切ないだろう。

北欧神話の豊穣神フレイは「勝利の剣」をはじめいくつもの魔法の道具を持つ強力な神だ。もし実際に用意すれば戦力としては大いに期待できるだろうが、

 

「名前が同じってことで一瞬考えたのは事実だ。だけど練度上限開放、つまり戦力強化のためのケッコンはしない主義なんだから、概念艤装だって同じだよ」

それをするのであれば、助言者(オブザーバー)として協力してもらっているガングートやウォースパイト、伊勢、あるいは実際に概念艤装を製造している明石と先にするのが筋だろう。

それらをすべて蹴っている以上、フレイだけを例外とする理由はなかった。

 

「そっか。でも恋愛的な意味で好きになったりは?」

「んー、見た目は相当好きなんだけどさぁ。『ケッコンを前提としたお付き合い』をするのに見た目だけって色々とアレだろう」

「ヤリチンとは思えない発言……」

質問に対して率直な気持ちを答えたら、川内がどこか意外そうな物を見る目を向けてきた。

 

「ヤるだけならいいんだよ見た目だけでも。でも嫁艦候補以外とヤるとお前ら怒るじゃん」

「まーね!」

「自然にそういう気持ちになる可能性までは否定しないが、実際にそうなるまでは保留だ。いくら概念艤装が強力でもこればかりはな」

160年前に神の死亡宣告を出した哲学者の言葉を思い出す。

愛せないなら、その関係は通過(スルー)するしかないのだ。




※2022年梅雨初夏イベ(激闘!R方面作戦/血戦!異聞坊ノ岬沖海戦)のE1に当たる話です。サブタイトルは「ラバウルへようこそ!」、ラバウル進出を目的とした海域の話ですので。
なお厳密には「激闘!R方面作戦」が梅雨イベ、「血戦!異聞坊ノ岬沖海戦」が初夏イベという扱いでしたが、章構成としてはまとめて初夏章として扱います。
リアルタイム(2023年11月)からするともう1年半近く前のことで、懐かしいを通り越して忘れている方も多いかと思います。作者も当時のツイッター(現X)の投稿を確認しながら、必死に思い出しつつ書いています。

フレイについて。
このイベの時に新登場した艦娘なのですが、書いた通り攻略時に着任してくれました。
日下部も言ってますが、潜高型姉妹の見た目は本当に好きです。自称する愛称についても、この名前を聞いた瞬間に真っ先に北欧神話の豊穣神のことを思い出したのはガチだったりします。
それにしても、この2つ後のイベであんな大活躍してくれるというのはかなり予想外でしたね。

艦これ本編は絶賛秋刀魚祭り中です。今回の報酬は10周年の震電改に匹敵する強装備のようで、必ず確保したいところです。
SSはここからは合間に違う話を挟みつつ、イベの攻略話を少しずつ進めていきます。もうリアルタイムとの乖離は気にしない方向にしましたので、気長にお付き合い下さい。
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