日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~   作:天空のトロイカ

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※この話は日下部の一人称視点ではありません。
ご注意下さい。


司令官に…… 2

ほとんどすべての人間は、もうこれ以上アイデアを考えるのは不可能だというところまで行きつき、そこでやる気をなくしてしまう。勝負はそこからだというのに。

――トーマス・エジソン

 

 

2日間の上陸期間が終わり、日下部鎮守府の艦娘運用母艦「いが」は再び洋上へと漕ぎ出していた。続く第二海域を攻略すれば再び数日間の上陸許可が与えられる予定だ。

とはいえ基地航空隊をラバウルに展開した関係上、母艦はそう大きくニューブリテン島を離れることはない。出港を求められたのは、あくまで他艦隊に停泊スペースを空けるための措置という意味合いが大きい。そんなわけで沖合を遊弋しながら、第二海域の攻略編成を練っているのが現在の状況だ。

それはつまり、イベント中とはいえ多少の時間があるということで……自分の願いとの向き合い方を探している清霜にとって、実に好都合な状況だった。

 


 

「ホーネット。ちゃんと拝領してあるよ」

清霜の目の前で、この部屋の主である駆逐艦がブロンドウェーブの長身美女に箱を渡す。

その中身は着脱式男性器らしい。実物を見たことはなかったが、隣にいるカブールが知っていて教えてくれたのだ。

 

「偉いわ秋雲。ふふ、自分を犯すための道具を自分で選んで受け取ってくるの、興奮した?」

「う、うん……」

部屋を訪ねてきたのはホーネットの方なのに、彼女はまるで自分こそが主であるかのように妖艶に微笑む。

そして秋雲の方もまた、そんな倒錯した関係に少なからぬ興奮を覚えているようだった。

ホーネットがちらり、と室内にいる自分とカブールに目を向けてきて、微かに視線が合う。軽く会釈はするものの、正直に言ってあまり仲良くしたい気はしなかった。

 

「いい子ね。じゃあ今晩、たくさん犯してあげるわ」

秋雲の耳元に息を吹きかけるように囁いた後、軽く頬にキスをしてホーネットは去っていく。残された秋雲はどこか蕩けたような表情で、閉まったドアをぼんやりと眺め続けていた。

その背中に向かって清霜は、

 

「……チェンジ」

つい思わず本音を口にしてしまう。

その発言で我に返った秋雲は、ばっと勢い良くこちらへと振り返った。

 

「おいこら! 人がプライベートの時間削って話に付き合ってやるって言ってるのに、なにさーその言い草は! 次回作の題材にすんぞ!」

「いやでもな秋雲、さすがに今のはワシでも言いたくなるぞ。話を始めようとした時に来客で中断したと思ったら、いきなり濃厚な関係を見せ付けられるとは思わなかったわ」

「あーまぁ。そこはホーネットが今日の昼にあれ取りに来る予定だったことを忘れててOK出した、秋雲さんが悪いけどさ」

カブールの指摘に対し、秋雲はぽりぽりとバツが悪そうに頬を掻く。指先の触れるか触れないかの位置で、トレードマークの泣きぼくろが微かに揺れた。

 

「そもそも司令官のお嫁さんなのに、ホーネットさんと浮気してるってどうなのよ」

そんな態度だけでは納得できない清霜は言葉を重ねるが、

 

「あ、いやキヨシモ。あれは」

「提督公認なんだよね、あれ」

カブールがどこか呆れたように言い、秋雲が補足する。

 

「あの人独占欲がないというより、もう変態の域に達してるでしょ。しかもえげつないことにさ、ホーネットに犯された次の日には何されたか全部報告させられて、提督自身の竿で上書きされるんだよね」

「ワシは提督としかシないから知らないけど、いかにもやりそうだなあの提督は」

「えぇ……」

堂々と浮気する秋雲以上に、自分たちの司令官はとんでもない人だったらしい。

たくさん嫁艦がいること自体は提督であればそう珍しいことではない、むしろ日下部はこれでも選んでケッコンしている方だというのはわかっていたが、こんなことをする人だということはさすがに知らなかった。

 

「お子ちゃまの清霜には刺激が強すぎたかにゃ~ん?」

「そんなことないもん! 清霜だって、司令官と夜戦することになったらちゃんとできるもん」

「まぁつってもあの人、ヘキは変態だけど身持ちは固いかんね。遊びでは絶対にシないし、清霜とスることはまずないっしょ」

どこかニヤニヤしたような表情で秋雲に言われて、つい露骨にむっとした表情を浮かべてしまう。

と、そこでカブールが咳払いと共に、

 

「さて、そろそろ気を取り直して中断してた本題だがな? お前さんはよく言ってるよな、『戦艦にも重巡にもできないことできちゃうのよ』って。あの言葉についてだ」

そんな風に仕切り直しの言葉を発したところ、秋雲はどこか遠い目をして、

 

「いや確かに秋雲が嫁艦候補になった頃は、金剛さんも青葉さんも性癖どノーマルだったけどさ……あの人たちも提督に調教されて、今じゃ尻くらいは普通にシてるもんね。まぁ今んとこコスプレHは秋雲さんしかシてないはずだから、うん」

「おい、なんの話をしてんのよ?」

カブールは思わずジト目でツッコミを入れる。何か妙な方向に話が飛んだようだ。しかもさっきまでと似た方向性に。

 

「あ、ごめん超個人的な記憶。えっと……本来の意味的には、要するに大型艦の護衛って駆逐隊の仕事っしょ。対潜掃討とかね」

ようやくまともな方向に話が戻ってきた。秋雲の語る自分の口癖の意味は、やはりと言うべきかカブールの考えとそうかけ離れたものではなかったようだ。

 

「秋雲はさ。自分が戦艦になりたいって思ったことはないの? ううん、この際戦艦じゃなくても空母でもいい。五航戦の二人とか、ホーネットさんみたいになりたいと思ったことは?」

駆逐艦・秋雲はかの大戦の開戦時、第五航空戦隊の空母・翔鶴と瑞鶴の護衛の任に就いていた。そして南太平洋海戦におけるホーネットの曳航失敗とスケッチのエピソード。なんだかんだと空母に縁の深い駆逐艦なのだ。

 

「んー、考えたことないなぁ。つーかそんなの考えるだけ無意味じゃない? だってどうあがいたって秋雲は駆逐艦だったんだし。うちら艦娘は歴史に刻まれた前世の艦の概念から生まれてるんだから、それ以外を求める意味もないっしょ」

「ワシのnuovoみたいな架空の改装とか、前世で計画だけはあったとか、日向みたいに同じ名前の別の艦がいて概念の混同が起きるとかなら可能性はあるかもしれんけどな」

秋雲もカブールも、どこか突き放したようなことを口にする。清霜としては切実な想いなのだが、残念ながらその熱量を共有してもらうのは難しいようだ。

 

「でもせっかく女の子になって生まれ直したんだよ? だからこそ『夢』を追うのってそんなにダメかな?」

「んー。叶わない夢な気がするんだけどなぁ、秋雲さん的には」

苦笑と共に秋雲はそんなことを言うのだが、

 

「あ。いや。そうとも言い切れないかも」

その直後、不意に自分で自分の言葉を否定する。

 

「えっ!?」

それは完全に想定外で、思わず清霜は目を見開いた。

 

「普段は絶対に無理だよ。だって艦娘は『艦』だからその属性に縛られる。けどさぁ……提督と明石さん、妙なモン作ったんだよねぇ」

概念艤装。艦娘の艦としての属性を一時的に弱め、相対的に神としての属性を一時的に強めることで、他の神の概念との習合を可能とする特殊な装備。

 

「それって、こないだの冬イベで秋雲がエロい格好になってたやつ?」

「エロい言うな! ギリシャ神話の芸術の神(ムーサ)なんだから仕方ないじゃん!」

「でも秋雲の場合、コスプレにしか見えない……」

「むきー!  川内さんだって金剛さんだって発動すると格好変わるじゃん! あの二人の場合も大概にコスプレ感強いけどさぁ」

想念工学においてはイメージの共有が重要である以上、艦娘に習合させる他の神も属性を強調した、いわば戯画化(カリカチュア)したものにならざるを得ない。「コスプレのよう」という感想は、ある意味で正しいと言えた。

 

「あれなら『艦の属性を弱める』関係上、普通じゃできないこともできちゃうかもしんないよね。清霜を戦艦にする……なんてことができるかはわからないけどさ」

「それでも。可能性があるなら追いたい!」

ようやく見えた一筋の光明に、清霜は目を輝かせて叫ぶ。

 

「普段は駆逐艦でもいいよ。みんなを守るのが駆逐艦のお仕事ってのは理解できたし。でも……駆逐艦じゃとてもかなわない敵が出てきた時、それでもみんなを守ることができる戦艦になれるなら。それでもう清霜の夢は叶ったって言える!」

駆逐艦の役割の大切さについては十分に理解できた。

だがそれはそれ、これはこれ……だ。

 

「わかったよ。なら次の相談相手はあの人か。仕方ない、ついてってあげるよ。これでも概念艤装の使い手の一人だしね」

「ありがとう!」

「よーし、じゃあさっさと行くよー。早く終わらせてホーネットを迎える準備をしないと」

秋雲は実にそわそわしたようにそんなことを言う。割と本気で今晩を楽しみにしているようだ。

 

「司令官だけじゃなくて、秋雲も絶対変態じゃん……」

お世話になる人に毒を吐くのもあまり良くないとはわかっているのだけど、清霜は素直な感想を述べるのをどうしても抑えられなかった。

 


 

艦娘運用母艦内部にも、明石の工廠は存在する。地上の鎮守府にあるものと遜色ない機能を持っており、艦娘運用体制において必要な作業はすべて行うことが可能だ。

この後用事があるというカブールとは別れ、清霜と秋雲は二人でその工廠を訪ねていた。

 

「明石さん、今いるかな?」

「特にアポ取ってないからなー」

不在を心配して口々に言い合ったところで、工廠の奥からは明石ともうひとりの艦娘の声が聞こえてくる。

 

「ちょっと大淀、まだ昼間だしここ仕事場なんだけど? なんで今日はそんなにサカってんの!?」

「明石……どうもカタリーニ提督がこっちに来てるらしいの。ねぇ二度とあんな気を起こさないように、私が間違いなく明石のモノだってこと、改めてココロとカラダに刻みつけて……!」

大淀は切なさに満ちた声音で訴えかけていた。

 

「ちょ、誰か来たらどうすんのよー!」

明石が抗議の声を上げる。だがその直後に粘着質な音が派手に響けば、すぐにそれは嬌声へと変化した。

そのまま時間も場所もわきまえず、二人分の淫靡な声が工廠の内外を埋め尽くしていく。

明石の危惧した通り実際にここに来ていた清霜と秋雲は、さすがに困惑して顔を見合わせるしかなかった。

 

「……チェンジ」

「あの二人がそういう仲なのは知ってたけどさぁ。うっひょーたまんねぇ、次の新刊のネタは決まりだね!」

「秋雲、さすがに趣味悪い! 出歯亀はダメだよ!」

確かに約束(アポイント)も取らずにいきなり訪ねたこちらが悪いとはいえ、まさかいきなりこんな場面に遭遇するとは思ってもみなかった。

 

「困ったなぁ……」

「2時間もしたら事後のイチャイチャも込みで終わってるんだろうけどさー、さすがにそうなると今日はもう付き合えないかな。ホーネットが来ちゃう」

「そうだね。また今度にするしかないかぁ」

清霜はイベント開始前、日下部に指定された練度にはまだ達していない。そういう意味では、特に今急いで明石と話す必要はないのだ。

それにしばらくは明石と顔を合わせたとしても、今日のことを思い出してしまってまともに会話はできないことだろう。

 

「じゃあ今日は解散ってことでいーかい?」

「うん。秋雲、ありがとう。また今度改めてよろしくね」

「あいさー!」

ひらひらと手を振って去っていく秋雲の背中を見送りながら、清霜はぼんやりと考える。

秋雲とホーネット、明石と大淀のように……自分もいつか誰かと「そういうこと」をするのだろうか。するとしたら、それは誰とだろう?

そんな風に考えていたら、真っ先に頭の中に浮かんできた顔は艦娘ではなく、

 

「……って、わわわわっ! これじゃ秋雲のこと悪く言えないよー!」

清霜は思わずぶんぶんと手を振って妄想を打ち払う。

我ながら安易だなぁと思うのだけど、それでも……浮かんできてしまったものは仕方ないのだ。




※春章最終話から続く、清霜の話第2弾です。
自分の夢と向き合って現実との折り合いの付け方を見出し始めた彼女ですが、一方で本作世界にはその前提を覆すものがありました。
この辺、本文中に書いた通り「それはそれ、これはこれ」なのです。

いつの間にやらホーネットは秋雲とそういう関係になっていました。
とはいえ日下部の竿の方が強いので、本格的な寝取られにはなりません。ディルムッドとグラーニアの悲劇の再現は避けられたわけです。逆にホーネットは少し可哀想かもしれませんが。

艦これ本編、秋刀魚祭りは11/28までのようです。
次はクリスマス任務があることでしょう。さすがに期間限定海域はまだでしょうが、12月はクォータリー任務も復活して少し忙しくなるかもしれません。
SSの方は、次は「激闘!R方面作戦」のE-2攻略の話の予定です。しばしお待ちを。
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