日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~   作:天空のトロイカ

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※この話は日下部の一人称視点ではありません。
ご注意下さい。


激闘!R方面作戦 -This is not a drill!-

貞淑とは情熱の怠惰である。

――フランソワ・ド・ラ・ロシュフコー

 

 

日下部鎮守府の存在する「ショートランド人工島」は、横須賀沖に存在している。

日本近海のことを大本営の定めた呼称において「鎮守府海域」と呼ぶ以上、艦娘運用部隊の「泊地」はすべて日本近郊に存在するのは当然のことだった。

その人工島の由来となったショートランド島は、ラバウルから直線距離で南東に500kmほどに存在する。かの大戦においては実際に帝国海軍によって「泊地」が置かれ、多くの駆逐艦たちがここから出撃していった。

 

『本物のショートランド泊地か。余裕があれば自分で行ってみたいところだがな』

「こら提督。要救助艦娘がいるわけでもないのに迂闊に前線に出るな。ここはワシたちに任せなさい」

思わず漏れた日下部の呟きを耳聡く咎めたのは、「進出第二陣」と名付けられた攻略部隊の旗艦であるカブールだった。

欧州から離れたこの海域でのイベントでは史実特効には期待できないとあって、同じくイタリア出身の軽巡アブルッツィと共に比較的早期に投入されることになったのだ。

 

『わかってる、言ってみただけだ。ひとまず進出第一陣の面々が輸送した物資を使って、ショートランド泊地の臨時拠点化は終わったわけだが……次の作戦はここを起点に、東に位置するサンタイサベル島レカタ湾への輸送作戦だ』

「なんだ、また輸送作戦なのか? ワシ輸送作戦は迎撃する方が得意なんだけど」

『前世のお前は結局マルタ輸送作戦の阻止に失敗してるだろ、そんなものを誇るんじゃない。まぁこの輸送作戦が終わったら次は艦隊決戦だ。それも……日下部鎮守府にとっては因縁の相手だ』

「因縁の相手? 誰よ?」

『そうか。お前はその頃まだ着任してなかったもんな』

カブールを救出したペデスタル作戦は、去年の夏イベに当たる。そして日下部鎮守府がそれより前に参加したイベントは去年の春イベしかない。

そこで苦杯をなめさせられた相手のことを、日下部は決して忘れていなかった。

 

「いいわ。どんな相手だろうとワシは誰にも負けない!」

『頼もしいな。ならそのためにも、まずは輸送作戦を完遂させてくれ。進出第二陣、出撃!』

「了解! コンテ・ディ・カブール、抜錨する! 世界の海も任せて、あいつらの自由にはさせないから!」

日下部の命令を受け、カブールが高らかに吠える。

二度の近代化改装を終えnuovoに至った彼女は、もはや地中海だけに留まるような存在ではないのだ。

 


 

「キタノ……? マッテイタワ……」

その深海棲艦は単なる贋作(デッドコピー)であり、吐き出す言葉には大した意味はない。

だが言葉というのは発した者の意図よりも、聞いた相手にどう伝わったかの方が重要だ。人というものは時に意味のない言葉にさえ、勝手に意味を見出すことがあるのだ。

 

『ああ……嬉しいぞ。待っていてくれたか。私もお前に会いたかった。可能ならこの手で仕留めたいところではあるが、残念ながらさすがにそれは叶わない。我が愛する艦娘たちに託そう』

第二海域の最終作戦。進出第二陣として出撃している艦娘の誰よりも闘志をみなぎらせていたのは、提督である日下部だった。

戦艦新棲姫。

原型はアメリカ戦艦の艦娘であるWashington(ワシントン)を内部に取り込んで稼働していた深海棲艦だという。だが自身の着任する前に終わったイベントなど、単なる歴史に過ぎない。

日下部にとって戦艦新棲姫とは……初参加となるルンガ沖夜戦において乙難易度攻略に挑戦していた艦隊を退け、提督として初の挫折を味わわせてくれた相手に他ならない。

 

『総員。これこそはかつて日下部鎮守府を打ち破った敵である。敬意をもって……塵一つ残さず消滅させろ。進出第二陣、単縦陣!』

日下部は恐怖に怯えず、怒りに震えず。

凪の海面のように穏やかな調子で、ただ冷徹に鏖殺を命ずる。

 

「了解!  いい? あんたたち、シメていくわ! 」

陣形指示を兼ねた戦闘開始命令に旗艦のカブールが応えると同時に、

 

This is not a drill(これは演習ではない)! 砲撃支援艦隊、Open Fire(砲門開け)!』

艤装通信を通じて号令が轟いた瞬間、離れた海域から猛烈な砲火が届けられる。

それは今回の砲撃支援艦隊を率いる、アメリカの戦艦・アイオワだった。

アイオワ自身はもちろんアメリカを代表する戦艦であり、僚艦には武蔵とウォースパイトという日本とイギリスを代表する戦艦が所属している。第一海域でも猛威を振るった日米英合同戦艦部隊が、今回もまたその打撃力を遺憾なく発揮した。

 

『敵随伴艦、タ級flagship撃沈! ちょっ、砲撃支援で出る威力じゃねーだろこれ!』

その戦果の大なることに、思わず日下部は驚きの声を上げる。

 

『Meが率いているんだから当然! まだまだBattle ship(戦艦)の時代は終わらないわ。カブール、絶対に勝ちなさい!』

「当然! あんたたちにはまだまだ負けないわよ!」

かの大戦における最新鋭戦艦の戦果が、古強者の闘志に火を着けた。

それは周囲の随伴艦たちにも伝播していき……。

 

――この日、日下部鎮守府は一年前のトラウマを見事に乗り越えることに成功した。

 


 

進出第二陣および砲撃支援艦隊が帰投し、必要な報告を終えて艦隊解散となった後。

 

「第二海域の攻略報酬でB-25(ミッチェル)を受領したんですって? ……あっAdmiral、ポーションわけてくれない?」

「ほら。突っ込みすぎなんだよお前。……そうそう、B-25。敵が反跳爆撃(スキップボミング)使ってくるって話は聞いてたけど、まさかこっちも使えるようになるとは思わなかった」

執務室から繋がる隣の控室で、日下部とアイオワは雑談をしながら器用に想念入力で携帯デバイスを操作して、協力型のアクションRPGをプレイしていた。

シンギュラリティ到来以前に発売されたもので、日下部としては飽きるほど遊び倒した作品なのだが、新作の発売などとても望めない世界情勢下にあっては限られた娯楽として重宝していた。

 

「いい機体よ。日本の艦娘にはトラウマになってる子もいるんでしょうけど。……ちょっとAdmiral、強化(バフ)切れてる! 早く!」

「いやそのまま削り切るのは無理だろ、一度引いて立て直せ。……まぁ前世のことはあんまり気にするな。今は味方同士なんだし、強い兵器なら使わない手はないさ」

「あーやられた! Shit(クソッ)!」

忠告を聞かずに無茶な突撃を繰り返していたアイオワの操作キャラが敵の攻撃で倒される。日下部は一人で戦闘を続行することなく、大人しく拠点まで撤退しそこでゲームを終了させた。

 

「もう終わり? Meはまだまだ行けるんだけど」

「こっちはこの後カブールの奴にご褒美をやる予定なんでな。そろそろ準備をしないと」

「ふぅん……」

ご褒美、というのが肉体関係を指しているのはアイオワも理解しているはずだ。

微妙に引きつった表情になった辺り、どうも色々と思うところがあるようだ。

 

「そういえば聞いてるわよ。ホーネット、秋雲といい仲になったみたいじゃない。気にならないの?」

「ん? ああ。大丈夫、()()()()()()()()()()()()

恋人や夫のいる女を寝取った後の楽しみ方は、学生時代の経験で良く知っている。ましてホーネットに関しては、あちらが後から割り込んできたのだから断じて寝取りではないのだ。

 

「そういうもの……なの? よくわからないわね」

アイオワは訝しそうに首を傾げる。

だが、恋人ではない艦娘にまでこんなドロドロした本性を見せる必要もないだろう。だから適当にごまかすことにする。

 

「ちなみにお前自身は、誰か気になってる人いないの?」

日下部としては単なる話題逸らしのつもりで軽く尋ねただけだったのだが、

 

You idiot(バカ)……」

「……え?」

「なんでもない! いないわよ。Admiral、邪魔をするのも悪いしそろそろ行くわね」

携帯デバイスをしっかりと握り直して、アイオワはおもむろに立ち上がる。

 

「あ、ああ。第三海域でも砲撃支援を頼むことになると思うし、よろしくな」

「もちろん。Meはいつだって本気よ」

戦闘については実に威勢のよいことを言いながら、アイオワは日下部に背を向けてそそくさと控室を後にした。

 


 

控室から執務室に移動したアイオワを、一人の艦娘が待っていた。

 

「Aloha! アイオワ、ちょっといいか?」

ホノルル。去年の春イベで着任した軽巡だ。

普段なら川内が書類仕事をしている席に勝手に腰掛けて、どうやらアイオワが控室から出てくるのを律儀に待っていたらしい。

 

「ホノルル? 今日はジンツウと一緒じゃないの?」

「恋人同士だからって四六時中一緒にいるわけじゃないよ。今日はアメリカ艦の一員として、あたしたちを代表する戦艦にちょっと忠告をな。他所ならいざ知らず、ここではあたしの方が『先輩』だし?」

「それは確かにね」

艦娘として人類の前に姿を現したのはアイオワの方がずっと先だが、日下部鎮守府に着任した順番で言えばホノルルの方が一年以上先任ということになる。

 

「いいわ。移動して話しましょ」

アイオワとホノルルは連れ立って、食堂へと移動する。

この時間に食事をする艦娘はほとんどいないが、茶菓がわりの軽食を摂りながら歓談に花を咲かせている者は何名か存在した。

二人も空いているテーブルのひとつを確保し、椅子に腰を下ろす。

 

「で、改まって忠告って何よ?」

「あのさ。アイオワのそれじゃ、あの提督には絶対伝わんないよ。あたしも去年戦略ミスって失敗したんだけどさ」

「何のこと?」

思いも寄らぬ言葉をぶつけられて、手の平にじっとりと汗が浮かぶ。

アイオワとホノルルの間には、同国の艦娘であるという以上に強い接点はなかった。普段からそこまで深く交流しているわけではないし、日下部鎮守府への着任時期もズレている。前世の縁もそう深くはない。

それなのに……なぜ日下部すら気付いていないはずのこの気持ちに、彼女は気付いているのだろう。それとも自分はそんなに「わかりやすかった」のだろうか?

 

「とぼけちゃうか、そっかー。ちゃんと言わないと、きっと後で後悔するぜ? あたしの時よりもずっと状況が面倒臭くなってるのも確かだけどさ。あたしの場合は神通がいたから救われたけど、アイオワにそういう相手が出てくるとは限らないだろ?」

去年ホノルルが日下部に迫るも失敗し、傷付いて落ち込んでいたところを神通に慰められて恋仲になった経緯は聞いている。本人も神通も特に隠してはいないからだ。

今では話の種として消費できる程度の記憶なのだろうが、それでも彼女にとっては貴重な恋の戦訓だったはずだ。

それを「後輩」である自分に伝えてくれることに感謝すべきなのだろう……本来は。

 

「……」

だが、それでも。アイオワは素直にその言葉に頷けなかった。

黙って目を伏せていたら、不意にホノルルは溜息を吐き出し、

 

「後はアイオワ自身の問題だ。恋って戦いはいつだって『This is not a drill(これは演習ではない)』……あたしは忠告したからな?」

これ以上は深入りしないとばかりに突き放して、ホノルルは腰掛けていた椅子から立ち上がった。

少しだけそこで動きを止め、アイオワに視線を送る。それでもなお何も返答がないことを確認したからか、やがてそのまま食堂から立ち去っていった。

アイオワはそれでもまだしばらくの間目を伏せたまま押し黙っていたが、しばらくしてからぽつんと自分に言い聞かせるように、

 

「ホノルルの言ってることもわかるけど。伝えたら……もうAdmiralと一緒にゲーム、できなくなっちゃうんじゃないかな……?」

実戦ではどれだけ威勢のよいことを言えても、恋というもうひとつの戦いでは勇気を出せない。

それがアメリカ戦艦アイオワの、偽らざる実態だった。




※前半は2022年梅雨初夏イベ(激闘!R方面作戦/血戦!異聞坊ノ岬沖海戦)のE2に当たる話。サブタイトルは本文中でも書きましたが「これは演習ではない!」という意味です。
ルンガ沖夜戦イベのE5-2で苦杯をなめさせられた(SSだと「激突!ルンガ沖夜戦 -提督なら決断しましょう-」がこれに当たります)戦艦新棲姫に、この時見事にリベンジを果たすことができました。
攻略においては大して重要な相手ではないと思うのですが、個人的にはひとつの区切りとなった海域でした。

そして後半はアメリカ戦艦アイオワの恋愛事情に関する話です。
本作のアイオワはナードなので、恋においても大変チョロいくせに臆病です。そんな彼女ですから、一度友人ポジションで仲良くなった日下部とどうこうなるのはなかなか困難だと思います。
この辺りの忠告に来るのが、ルンガイベで着任し自分も日下部との接し方を間違えて失敗したホノルルというのがポイントですね。

艦これ本編、秋刀魚祭りが終わってクリスマス関連のあれこれが始まりました。今年は意外な艦娘にクリスマスmodeが来ましたね。私も大層驚きました。
一方で任務の方はややおとなしめでしょうか? この間にSSを進めていきます。次はメインストーリーに当たる「Famigerato ammiraglio」の続きの予定です。
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