日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~   作:天空のトロイカ

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※この話は日下部の一人称視点ではありません。
ご注意下さい。


司令官に…… 3

直感は、無理に感じようとしてもだめ。答がでるまでには時間がかかるものです。

――バーバラ・ブラハム

 

 

艦娘運用母艦は軍艦でありながらその武装のほぼ全てを艦娘に委ねることで、拠点としての機能に特化した「移動鎮守府」だ。つまり地上の拠点で行えることは、母艦においても原則的にすべて行うことができる。

例えば、概念艤装の新規開発もそのひとつだ。

大和が着任したことでラバウルに留まる理由がなくなった日下部鎮守府の艦娘運用母艦「いが」は、一路日本へ向けての航路を取っていた。

その途上であっても開発はたゆまず継続することができる……のだが、

 

「うーん。やっぱりどうしてもイメージが掴めない……」

自身の工廠の一角で資料となる書物を必死に読み込みながら、明石は絞り出すように呟いた。

秋雲用の「ムネーメー」の次となる赤城用の概念艤装の開発は、困ったことに大いに難航している。これまでの概念艤装とはそもそも用途が違うため、急がなくて良いと日下部からは言われているものの、さすがにそろそろ多少は進展させたいところだった。

とはいえさすがに、このまま書物を見て唸っていても成果は上がることはないだろう。

少し休憩にするか……と、そんな風に考えた時、

 

「明石さーん、今ちょっといいかなー?」

「お、大淀さん来てたりしないよね?」

ドアを叩く音と共に、そんな風に声がかけられた。

 

「秋雲に清霜? 大丈夫だよ、入ってきていいよ」

ドアの外に向かって叫び返しながら、明石はふと半月ほど前のことを思い出す。

第二海域をまだ攻略していなかった頃、発情した大淀に押し倒されて真っ昼間からここで思いっ切りシてしまったことがあった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだが、二人の来訪があの時じゃなくて本当に良かった。いやもう本当に。

――などと、何も知らない明石は呑気にそんなことを考えた。

 


 

招かれた清霜は秋雲と共に、工廠内部へと足を踏み入れた。

室内では壁の一角に据え付けられたMM機関が圧倒的な存在感を放っており、その周囲には調整中の艤装やよくわからない機械の部品のようなものが無数に転がっている。いかにも「工廠」という言葉から抱くイメージそのままの光景だった。

一方でその対角線に位置する一角は負けじと乱雑ではあったが、そこに積み上がっているのは古びた文献や図鑑などの書物。こちらは工廠というよりは研究室と言った方が正確な印象だった。

明石はその、書物が積み上がった一角にある机の前にいた。清霜と秋雲の顔を見ると手に持っていた書物を机上に置き、腰掛けていた椅子から立ち上がる。

 

「明石の工廠へようこそ。提督からちゃんと聞いてるよ、清霜の力になってやれって」

「ありがとう。えっとね明石さん。概念艤装について教えて欲しいなって」

「概念艤装? いいけど、なんでまた」

清霜の切り出した用件に、明石は首を傾げる。

 

「あー、えーと。実はさー」

それに対し、秋雲は事の経緯を順序立てて説明していく。

清霜の漠然とした願いに対し、日下部の示した「宿題」。武蔵、カブール、そして秋雲自身との対話を通じて見付けたひとつの在り方。

そしてそれはそれとして、「清霜は駆逐艦である」という前提を覆しうる特殊な装備……概念艤装について教えたこと。

 

「はー、なるほど。目の付け所はなかなかいいかもね」

一通りの説明を受けた明石は、どこか感心したような様子だった。

 

「じゃあ清霜、まず基本的な仕様について説明するね。秋雲は理解してるとは思うけど」

当たり前だが概念艤装は基本的に一点物(ワンオフ)の装備だ。個々の装備に別々の仕様が存在する。だがそれでも基本となる原理は共通していた。

明石が専門的な知識を使わず、なるべく噛み砕いて説明してくれているのは理解できた。だから精一杯理解しようと真剣にそれを聞く。何しろ自分の夢に関することなのだ。

そして一通りの説明が終わったところで、

 

「簡単に言うと艦娘は一種の『神様』だから、他の神様とくっつけることで普通の艤装じゃできないことをやる、ってこと?」

「そうそう。飲み込みがいいのは助かるなぁ」

自分なりに明石の説明を要約してみせたのだが、どうやら正しく理解できていたようだ。

 

「秋雲なんかムネーメーなんて名前の神様と習合させられたかんね! 初めて使う時は怖くてしょうがなかったよ!」

「その気持ちはわかるよ、私だって提督に仕様書渡された時は戸惑ったし。でも完成させて渡した以上は十分に安全性の確認が取れたってことなんだから、そこはもう少し信用して欲しかったかな」

「う、ごめん……」

明石のもっともな指摘に、秋雲が思わず言葉を飲み込む。

 

「ところでこないだ提督から赤城さん用の概念艤装の仕様書渡されたけど、これ使い途あるのかなぁ。『深海棲艦相手に使えない』って時点で、もう思い付いたモノ作らせてるだけなんじゃ」

「へっ、赤城さんのそんな性能なの? なになに……参考資料『ヨハネの黙示録』? うっひょー厨ニ臭ぇ!」

「いやこれちゃんと聖典だからね?」

秋雲の反応に、明石が思わず苦笑を浮かべる。

 

「うーん。戦艦の神様なんているのかなぁ?」

赤城用の概念艤装も確かに気になるが、それよりもまずは自分の話だ。清霜は少し思案するように尋ねる。

 

「あえて言えば、それこそ前世の日本の艦こそが一番近いとは思うんだけどね。提督によるとあれは『神格化しようとしただけで、本物の神じゃない』んだって。そもそも艦の属性を弱めるって時点で、その辺と習合させるのは無理かな」

「そっかぁ……」

「まぁ厳密に『神』である必要はないんだけどね。なんとなくそれっぽければ。何しろ金剛さんのティターニアなんか『妖精』だし、赤城さんのこれも正確には『天使』だし」

明石は先程まで読んでいた書物を手に取ると、大きく挿絵の描かれたページを開いて見せてくる。

覗き込んでみると、そこには王冠を被った巨大な虫のようなものが描かれていた。

 

「えっ? これ『天使』なの!?」

「そう。確かに姿かたちとか権能を見ると、とても神聖ではないんだけど。それでちょっとイメージを掴みづらくて、割と難航してるんだよね」

一般的に天使と言われて思い浮かぶイメージは、背に白い羽を生やして頭上に光輪(ヘイロー)を抱いた人型だろう。ここに描かれているものは、それとはかけ離れている。その禍々しさを思えば、いっそ悪魔と言われた方がまだ納得はできたはずだ。

 

「逆に言うと、このくらいかけ離れていても概念艤装は成立するからね。そこはある程度拡大解釈でも大丈夫だよ」

「そっか。明石さん、この辺の資料読ませてもらっていい?」

「いいよ。じゃあ私は自分の作業してるから、何かヒントが見付かったら声かけてね」

明石はそう言うと、先程まで腰掛けていた椅子に座り直す。

そして再び、「天使」が載っている書物に目を落とした。

 


 

軽く数時間は経過しただろうか。

秋雲と手分けをして周囲にある書物を調べていた清霜は、不意に立ち上がる。

 

「明石さん。これ……」

その中のひとつ。やはり挿絵の載ったページを見せながら、明石に対して声をかけた。

 

「えーと、エッダの……あーなるほど。確かにこれ神話に出てくるものだし、間違いなく『戦うための船』だ。巨人がわんさか乗り込むって設定だから相当に大きいはずだし。でもすごく邪悪っぽいけど、いいの?」

「そこは別にいいよ。戦艦になれるなら」

「例えばこの神話だと、太陽神のこっちの船なんか『他のどの船よりも大きい』って設定になってるみたいだけど?」

「うん。でもそれ、戦いに使われたって逸話がないみたいで……だったらこっちの方が」

最初に目に着いたものを適当に挙げたわけではなく、ある程度きちんと資料を読んだ上で提案しているのだ。

その真剣さは、おそらく明石にも伝わったのだろう。彼女は真面目に思案するような表情を浮かべる。

そしてどこか言葉を選ぶかのように、

 

「えっとね清霜。夢の入口にたどり着いたことはすごいと思う。でもね、その夢を叶えるためには、あとふたつ問題があってね?」

まるで諭すかのような口調でそんなことを言った。

 

「なに?」

「ひとつめ。この艦隊にはこの神様、というか船の出てくる神話の専門家がいない。なので、その専門家が着任するまでは無理」

表面的な知識ならすぐ調べられるが、概念艤装を開発するとなるとさすがにそれでは足りない。

時間をかけて資料と首を突き合わせ、知識を深めていけばなんとかなるかもしれないが、それについては現在開発中の赤城用の概念艤装で手一杯だった。

 

「そっか。でもそれは外国の艦娘がもっと増えれば」

「そうね。あの戦艦辺りは詳しいんじゃないかなって思ってる」

今のイベントでの邂逅は難しいかもしれないが、次のイベントはおそらく欧州が舞台になるだろう。であればチャンスはないわけではないはずだ。

だが。明石は難しい表情を浮かべたまま、言葉を続ける。

 

「ふたつめ。ごめんね、これ最初に言うべきだった。概念艤装って、ケッコンカッコカリした艦娘じゃないと制御できないんだ」

「……えっ」

「私もヘパイストスとかゴヴニュとかと習合できたら、すごく楽になるんだけどね。いや個人的にはそれよりもアレスとかトールと習合してがんがん戦いたいけど」

明石は幾つかの神の名を挙げながら言う。確かに他の艦娘に概念艤装を用意するなら、まず自分用の物が欲しいというのは自然な感情だろう。

そうしない理由はただひとつ、

 

「うちの提督は『戦力のためのケッコンは絶対にしない。好きな艦娘としかケッコンしない』って人だからね。私は……うん。提督以外に好きな人がいるから、自分用の概念艤装は使えない」

名残惜しさを隠すことなく、それでもきっぱりと明石は自分の意志を告げた。

実際に第一海域の攻略の際に着任したばかりの潜水艦・伊201ことフレイについて、日下部と川内は似たようなやり取りをしたらしい。

将来的には他艦隊の艦娘にも概念艤装を配備する計画が進んでいるらしいが、戦力強化の手段と割り切ってケッコンカッコカリを行う方針の提督であれば、この点は特に問題のないことなのだろう。

だがそれでも、自分たちは日下部鎮守府の艦娘なのだ。ならば提督の方針には従うしかない。

 

「そっか。司令官のお嫁さんにならないと、戦艦になれないんだぁ……」

せっかく見付けた夢への道筋が急に閉ざされたような気分になって、思わず声が震える。

明石と秋雲の前だから、辛うじて泣き出すことは堪えられた。けれども今もし一人だったら、きっと耐えられなかっただろう。

――だというのに。

 

「なんだ。ならそっちは大した問題じゃないじゃん」

あまりにもあっけらかんと秋雲がそんなことを言うものだから、思わずぎりっと睨みつけてしまう。

 

「なにさ清霜、怖い顔しちゃって。あの提督はちゃんと『好き』って告白したら、真剣に好きになろうとしてくれる人だよ。そこは嫁艦の一人として保証する」

「でもさ。夢のために司令官の気持ちを利用しようとするのって、いけないことなんじゃないかな」

日下部が好きな艦娘としかケッコンしないというのは、恋愛に対して真剣だという証拠だ。

だったらそんな、自分の夢のために恋を利用するなんて……。

 

「んあっ? 清霜、まだ自分の気持ちに気付いてないの!?」

だが。その言葉を耳にした秋雲は、心底驚いたような表情を浮かべた。

 

「えっ?」

「じゃあさ、これは秋雲からの宿題。『秋雲がホーネットとイイ仲になってるって知った時、なんで清霜はイラッとしたのかな?』……提督と約束した練度になるまでにちゃんと考えてみなよ。自分の気持ちについて」

「清霜の、気持ち」

秋雲の言葉を、思わずおうむ返しする。

 

秋雲だけじゃない。日下部とケッコンしたことに色ボケしていた日向、日下部との恋愛生活について口にしていたカブールに対しても、つい突っかかりたくなってしまったことを覚えている。

その気持ちを、何と呼ぶのか。

――清霜がその答えを見付けるまでには、もう少しだけ時間がかかりそうだった。




※2024年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さてSSはリアル時間軸とは無関係に、清霜のシリーズ第3話です。第1話の投稿時に「全3話予定」と書きましたが、1話増えて全4話となりました。
前話では思わぬ事故()で果たせなかった明石との対話が、今話では成立しています。いよいよ概念艤装について清霜が踏み込んで参りました。
清霜が見付けたものは「神」ではなくその神の持ち物なので、おそらく実際に開発する際にはその持ち主の神の方になると思います(言い訳の効かない邪神ですが、それを言ったら川内のチェルノボグもそうなので)。
また赤城の概念艤装についても少し触れていますが、こちらの完成もかなり先のことになります。

艦これ本編、新春任務でなんとまた震電改がもらえるようです。なんでしょうねこれ。さすがに行き先の難易度は高いですが、まぁなんとかなるとは思います。
SS、次話はある艦娘のマリッジブルーシリーズです。ちょっとコメディ色強めの話になる予定です。
確認してみたらE4に進むまでにやるべき話がこれも含めてあと3話ありましたので、粛々と進めたいと思います。
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