日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~   作:天空のトロイカ

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※この話は日下部の一人称視点ではありません。
ご注意下さい。


カノジョのダイエット

愛をうまく告白しようとか、自分の気持ちを言葉で訴えようなんて、構える必要はない。きみの体全体が愛の告白なのだ。

――岡本太郎

 

 

日本への航海を続けている艦娘運用母艦「いが」の執務室。

日下部は、この日最高練度に達した艦娘に向かって声をかける。

 

「本当に長く待たせたな。阿賀野、私とケッコンしてくれるか?」

「そ、それが……提督さん。ごめん、ちょっとだけ待って?」

「はいはいお前もマリッジブルーですか」

もはやこんな反応をされても、驚きは一切感じなくなってしまった。我ながら実にタフになったものだと思う。

 

「一応聞くけど事情は?」

「そ、そんなこと聞かないで! デリカシーがないよ!」

お前の辞書にデリカシーって言葉あったんだ、という喉まで出かかった言葉を咄嗟に飲み込む。それはさすがに本当にデリカシーがない。

 

「じゃあ、いつまで待てばいい?」

「これは重大なミッションなのです……絶対に成功するって約束なんかできない。でも阿賀野、がんばる!」

「うわぁよくわかんねぇ! ケッコンオコトワリじゃないんだよな?」

「いつだって阿賀野は提督さん、大好きよ☆ でも提督さんに見合う阿賀野でいたいの!」

相変わらず阿賀野は独特の思考全開の言動で……日下部は思考を放棄することにした。

日向の時は金剛に相談したらよくわからない内に解決したものだが、この阿賀野の件については、そもそも誰かに相談すること自体がナンセンスに思える。

あまりにもこれが長引いたり何か状況が変わるなりしたら、その時にまた考えればいいだろう。

 


 

さて、では阿賀野が何に悩んでいるのかというと。

 

「今回ばかりは阿賀野姉には呆れました。まさかケッコン土壇場に来て、今更自分の体型を気にしだすなんて!」

阿賀野の部屋。腰に手を当てて能代が叫ぶ。

室内には他にゴーヤがいた。能代と同じく阿賀野に呼び出されてやって来たらしいが、いきなりこんな話をされたことに困惑を隠せない様子だった。

 

「だって阿賀野、提督さんの物になるんだよ? 初夜でこんなぶよっとしたお腹晒したら、嫌われちゃう……」

阿賀野はいじいじと俯いて、両手の人差し指を突き合わせる。

ある意味でマリッジブルーらしいマリッジブルーなのかもしれないが、阿賀野の場合普段が普段だけに明らかに自業自得だと言えるだろう。

 

「これまでだって何度も晒してるのに、今更嫌われるも何もないと思うんでちけどね」

「それ以前に阿賀野姉、全然ぶよっとしてないじゃないですか」

「本当にそう思う? 触ってみる?」

そう言ってぺろりと上衣をはだける阿賀野の腹に、能代とゴーヤはそれぞれ手を伸ばす。

 

「……だらし姉ぇ! ただの心配性かと思ったら、思ったよりはありました!」

「……大丈夫。てーとくはこれくらい肉付き良くても全然行けるでち!」

「ゴーヤちゃんのそれ、効くぅ! 違うの、提督さんが気にしなくても阿賀野が気にするの!」

「乙女でち。なら、ダイエットするしかないでちね」

半分涙目になりながら訴えてくる阿賀野に、ゴーヤはしごく真っ当な解決策を告げるのだが、

 

「そうなのよ、ダイエット! というわけで……」

なぜか阿賀野は能代とゴーヤの目の前で、いそいそと服を脱ぎ始めた。

 

「ちょ、ちょっと待つでち。さすがにこの流れで脱ぐ脈絡がわからないよ?」

「夜戦はダイエットになる! ついでに血行も良くなるし癌にも効く! 川内ちゃんが言ってたんだから間違いない!」

「あの夜戦バカ何を妄言吐いてるでちーーーっ!?」

絶叫するゴーヤを他所に、全裸になった阿賀野は着脱式男性器を装着する。

ダイエットが目的なのだから、自分で動かねばならない。今回はネコではなくタチに徹さねばならないのだ。

準備万端になったところで、阿賀野はおもむろに目の前の二人に向かって飛びかかる。

 

「ゴーヤちゃん♪」

「も、もういっぱいでち……あっ……」

 

「のーしろ♪」

「そ、そうは言っても軽巡だから……んんっ……」

 


 

「で、そんなバカみたいな理由で球磨たちを巻き込みに来たのかクマ」

その日の夜、阿賀野は球磨の部屋を訪ねていた。

夜戦ダイエットに付き合って欲しいとお願いしたのだが、あからさまに呆れた表情でそんな風に言われてしまった。

 

「能代とゴーヤちゃんとシてる時に、冬の夜戦修行してた頃を思い出したのよ」

「あの時は能代のためと言うから付き合ってやったけど、今回は違うクマ。とっとと帰るクマ」

球磨はすっかり塩対応だったが、阿賀野としてははいそうですかと引き下がるわけにはいかない。どれだけ馬鹿げて見えても、これには日下部とのケッコンがかかっているのだから。

 

「そんなつれないこと言わなくていいじゃない。球磨ちゃんと多摩ちゃんの二人は、阿賀野にとってタチ師匠とネコ師匠なんだから」

必死に言い募ってみたら、

 

「師匠。師匠……悪くない響きにゃ」

阿賀野と球磨の会話が聞こえていたのだろう。部屋の奥から、球磨の妹にして恋人でもある多摩の声が聞こえてきた。

 

「阿賀野の成長具合を見るいい機会にゃ。今晩だけ相手してやるにゃ」

「多摩っ!?」

「球磨。さっさと阿賀野を部屋に入れるにゃ」

「……わかったクマ」

球磨は諦めたように場所を開け、阿賀野を室内に招き入れる。

部屋の奥では、多摩がゆったりとくつろいでいた。シている最中ではなかったようだが、阿賀野が来なければそういう展開になっていたことだろう。

多摩は唇の端を吊り上げるような笑みを浮かべ、

 

「よし球磨。服を脱いでベッドに横になるにゃ」

「……多摩の命令なら。仕方ないクマ」

しずしずとその言葉に従う球磨を横目に見ながら、多摩は今度は阿賀野に声をかける。

 

「ダイエットって言うなら阿賀野自身が動かないと意味がないにゃね。まずは球磨を3回はイかせるにゃ。首尾よくできたら、今度は多摩が相手してやるにゃ」

「えっ、多摩ちゃんネコもできたの?」

「それはお断りにゃ。要は動ければいいんだから……騎乗位でご奉仕させてやるにゃ。普段はディルドゥ派だけど、着脱式男性器を持ってないわけじゃないにゃ」

自分では思い付かなかった方法を提案されて、思わず阿賀野はごくりと唾を飲み込む。

 

「さすがタチ師匠……!」

「ただ闘争本能が高いだけにゃ。それでいいかにゃ?」

「うん、ありがとう! 阿賀野、頑張る!」

力強く頷いたところで、球磨の準備ができたようだ。慌てて阿賀野自身も服を脱ぎ捨て、着脱式男性器を装着する。

 

「よし、その意気にゃ」

タチ師匠が見守る中、阿賀野はまるでナメクジが絡みつくかのように……ネコ師匠に向かって覆いかぶさっていった。

 


 

それから数日後。阿賀野は自室に矢矧を迎えていた。

 

「うーん。さすがに今回は冬の時と違って、あまり夜戦に付き合ってくれる人がいないのよねぇ。師匠たちも結局一晩しかシてくれないし。天龍ちゃんたちは言えば付き合ってくれそうだけど、あそこはどっちも挿入NGでゆっくりイチャイチャが中心だから、あんまり運動にならないのよねぇ」

唇を尖らせながら、阿賀野は夜戦ダイエットを決意してからの動向について語る。

能代とゴーヤはまた機会が合えば相手をしてくれないこともないだろうが、二人とも本命が他にいる以上は阿賀野にばかりかまけていられないようだった。

 

「綾波とか夕立は?」

「自分が攻めるのが好きな子とシても運動にならないでしょ。かと言ってネコの子を攻めさせてって言っても、基本的には断られちゃうのよねぇ」

「まぁ浮気にならないのかって問題もあるしね。スポーツ感覚で夜戦できるところならともかく」

しみじみと呟く矢矧自身がまず、「今日の夜戦は絶対NG」という条件でこの部屋を訪れていた。本命である大和が着任したので、他の相手との夜戦は極力控えたいという意向らしい。

 

「提督みたいに好きな相手が他にも恋人作ろうが、誰と夜戦しようが一切気にしない方がヘキとしては特殊なのよね。あの人寝取られ趣味ってわけじゃないんでしょ?」

「それは絶対にないよ。あれ、自分の竿が一番強いと理解してるから持てる余裕だと思う。阿賀野も提督さんの竿、大好きよ」

以前シた時のことを思い出して、うっとりとした表情で呟く。

そんな阿賀野の様子に矢矧は半眼になって、

 

「今更ですけど阿賀野姉ぇ……夜戦ダイエットって方針自体に無理があったんじゃ」

「矢矧、お姉ちゃんは悲しいです。そんな100%のロジハラをする子だとは思わなかった」

「えっ、これロジハラ!?」

さすがにそれは心外だ、という表情で矢矧は唇を尖らせる。

 

「なら遠慮なく言わせてもらうわね。結局はこれ阿賀野姉ぇの問題だから別にいいのだけど、提督の忍耐だって無限ってわけじゃないわよね。もっとちゃんとどうすべきか考えた方がいいと思うのだけど?」

「……うー」

さすがに正論を吐かせたら矢矧に敵うはずもない。

唸るような声を上げた阿賀野に、矢矧は呆れたような溜息を吐き出した。

 


 

「キラリーン☆ なぁに提督さん、呼び出したりして。阿賀野にご用?」

矢矧にロジハラ(?)をされた翌日。阿賀野は日下部に呼び出されて、執務室を訪れていた。

ケッコンカッコカリを保留させている点についてせっつかれるのだろうと予想して、ある程度の覚悟の上で向かったのだが……そこで待っていたのは、想像よりも遥かに渋面を浮かべた日下部の姿だった。

 

「阿賀野。最近お前、なんか見境なく色んな子に手出しまくってるそうじゃないか?」

「むー、見境なくじゃないもん! ちゃんと同意の上でしかシてないもん!」

「シてること自体は否定しないんだな」

去年の冬に夜戦修行に明け暮れていた頃よりはずっと控え目だったはずだが、どうやら今回はそれでも日下部の耳に入ったらしい。

だが、同意の上であれば嫁艦候補が他の相手と関係を持っても気にしないのが日下部ではなかったか?

訝しむ阿賀野の目の前で、日下部はまるで絞り出すかのような声音で語り始める。

 

「なぁ阿賀野。私とのケッコンを保留して、女の子とばっかりシてるって……正直に言ってくれよ。お前、艦娘の本能に流されて私のことを好きだって勘違いしただけで、本当に好きなのは女の子の方なんじゃないのか?」

「えっ!?」

「だってそうだろ、最近はそもそも夜戦に誘ってもはぐらかされるし」

「それは……」

本当の理由を言い淀む阿賀野の目の前で、不意に日下部の表情が今にも消えてしまいそうな儚さを帯びた。

 

「学生時代に割と本気で惚れた女と強引にシたら、コトが終わった後に盛大に拒絶されたことがあってさ。ガチレズの自分に気付いてなくて、私とシた事実そのものが気持ち悪かったんだってさ……まぁ当時そこまで言っときながら、5年後に私がTSしたら押し倒してきたクソレズだったけど、それはさておきだ」

――知らなかった。

川内なら、あるいは他の嫁艦の誰かなら知っていたかもしれないけども。阿賀野は本当に、日下部にそんな過去があることを知らなかったのだ。

 

「あんな想いをするのは、さすがにもう辛いんでな。なぁ阿賀野、婚約……解消しようか?」

だからこんなのは全部、日下部の勘違いだ。

だけどそう勘違いさせたのは、間違いなく自分の行動が相手にどう映るかを考えなかった阿賀野自身のせいだ……冬の時もそれで、能代に勘違いをさせたというのに。

 

「やだ……」

「阿賀野?」

「やだ、やだやだやだやだやだやだ! 阿賀野、提督さんのこと大好きよ! どうしてわかってくれないの!?」

もう余裕ぶっている場合ではない。反省なんか後でいい。ズルくてもみっともなくてもなんでもいい。

阿賀野は顔を涙でくしゃくしゃにしながら、日下部に対して縋り付く。

 

「じゃあなんで、私をほっぽって艦娘同士でばかりシてるんだよ?」

「それは……」

「なんだよ。理由を言えっての」

阿賀野に別れを切り出すのは、日下部にとっても相応の覚悟が必要だったのだろう。その感情が振り切れて反転した結果、その声音には本気の怒りが込められていた。

日下部にだけは言いたくなかった本当の理由だが、ここで隠したら冗談抜きにすべてが終わってしまうことだろう。

 

「ううっ……、あのね、提督さん……」

観念した阿賀野はおずおずと話し始める。

 

「はぁぁぁぁぁ!? そんな理由だったのかよ! っていうかそんなに太ってるか?」

「触ってみる?」

「どれ……思ったよりはむっちりしてるな」

「うう、提督さんにだけは知られたくなかったのにぃ……」

恥ずかしさと情けなさで消えてしまいたかったが、それでもどうにか誤解は解けたようだ。

 

「でもそのくらい肉付きいい方が、お前は魅力的だと思うぞ」

「違うの、提督さんが良くても阿賀野が気にするの!」

「そ、そうか。で、痩せるための運動として夜戦ダイエットを……?」

「そうよ。でもさすがに相手してくれる子があまりいなくて」

唇を噛みしめる。どれだけ馬鹿げていようとも、阿賀野にとっては真剣で切実な問題なのだ。

だというのに、

 

「なんだ。じゃあ何も問題ないじゃん」

「えっ……?」

日下部があまりにもあっけらかんと言うものだから、思わずぽかんと口を開けてしまった。

 

「私が相手してやるよ。運動になるように、多摩を見習って腰が砕けるまで騎乗位でご奉仕させてやる」

「あれっ……?」

「私はお前の肉付きを別に気にしない。お前は運動できる。まぁ本当に痩せられるほどの運動になるかは割と微妙だと思ってるが、お前が満足するまで腰は振らせてやる。ほら、何の問題もないじゃん?」

「ほ、本当だ!? あんなに悩んでたのが嘘みたい! もっと早く相談すれば良かった」

――何かおかしな気がしなくもないが、まぁ深く考えなければいいだろう。うん。

 

「よしよし、じゃあ問題が解決したところで。改めて阿賀野、私とケッコンしてくれるか?」

「はい、阿賀野は提督さんの物になります。今日は特別な日ね。いっぱいいっぱい、愛してね?」

「ああ、もちろん」

頬を染めて頷く阿賀野を、日下部がぎゅっと抱きしめる。

 

「阿賀野のこといつも大切にしてくれてありがとう、提督さん。ううん……真琴さん」

ラバウルから日本へと向かう航路の途上、艦娘運用母艦の執務室。お世辞にも場所も日取りも何一つ特別なものなんてない。

けれども愛し合う二人さえいれば、それはいつだって特別な日なのだ。




※艦娘マリッジブルーシリーズ、阿賀野編です。
本話はおそらくこのシリーズで一番コメディ色が強かったと思います。阿賀野がいわゆるセクササイズを目論む話ですが、本作に限らず肉体関係が出てくる作品では大抵、登場人物の誰かが言い出しますよね。
ただし後半は少しだけシリアスに。当たり前ですが艦娘は全員女性なので、阿賀野の行動を日下部の物語(ナラティブ)で捉えるとこうなるわけです。
とはいえ、オチは再びコメディに戻ります。ちなみに阿賀野がダイエットに成功したかは……ご想像にお任せします()

艦これ本編、無事に新春任務をすべてクリアして震電改の2機目を入手しました。
嬉しいんですが、次のイベントがどうなるか少し怖くもあります。1月下旬にメンテナンスがあるようなので、早ければそこからイベント開始ではないでしょうか(節分任務かもしれませんが)。
SSの次話はある空母の話です。少し前から別の艦娘の話題に出ていた彼女の、最近の動向に関する話です。お楽しみに。
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