日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~   作:天空のトロイカ

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※この話は日下部の一人称視点ではありません。
ご注意下さい。


女王降臨 3

お互いの愛を信じなさい。

――ケイト・ショパン

 

 

6月中にイベント攻略を終わらせると息巻いていた頃がもはや懐かしい。

ついに7月の足音が聞こえてきた時に、日下部が抱いたのはそんな感慨だった。

あの頃はまだ自艦隊の足元に”D”の陰が迫っているなんて思いもよらなかった。別に朝潮と満潮を必要以上に責めるわけではないが、正直あの件で時間を取られたことは否定できないだろう。

とはいえ別に、7月になったら時間切れというわけでもない。遠からぬ内にイベントの終わりは来るだろうが、その予兆が観測されるまでは諦めるような状況ではないのだ。

戦闘指揮を執るための司令室で、日下部は呟く。

 

「第五海域は坊ノ岬沖海戦の『先』、つまり沖縄を中心とする南西諸島そのものだ。そして第四海域において敵機動部隊を壊滅させている我々を迎え撃つのは、メリーランドを取り込んだ近代化戦艦棲姫。なるほどな、これは確かに『異聞』坊ノ岬沖海戦だ」

モートン・デヨ少将と戦艦メリーランドの物語。過去の歴史において結局成立しなかった艦隊決戦。その当事者であるメリーランドをコアに組み込んで無理やりその「夢」を叶えさせようとするなど、やはり高次AIの所業は日下部にとって許しがたいものだった。

と、そこで本海域における第一作戦に従事している遊撃部隊、「佐世保配備艦隊」の旗艦が声を返してくる。

 

『沖縄方面への航路掃討ってのはわかったけどさ、ここでもう出番なの?』

佐世保配備艦隊、旗艦川内。

驚いたような口調なのは、おそらく最終決戦となる第四作戦に組み込まれると思っていたからだろう。

 

「これはあからさまに大和の物語だからな。その随伴艦は矢矧がふさわしいに決まっている。だからお前は起用できるところで起用することにしたんだ。不服か?」

『ううん、驚いただけ。ルンガ沖の時に「艦隊全体のことを考えろ」って怒鳴りつけたことを思いだしたよ。不服はないから、高角砲積んで対空役に徹してるんじゃん。まぁ小口径砲でも夜戦なら関係ないよね!』

「おう、よろしく頼むぞ」

相変わらずな夜戦バカっぷりだが、それが今は頼もしい。

通信を終了し、ここからは冷静に作戦の推移を見守ることにする。

 

『敵旗艦、ヒ船団棲姫確認! って敵全部水上艦?』

『五航戦の子なんかと一緒にしないで。加賀航空隊、全機発艦』

『サラの子たち、お願いします! サラトガ航空隊、全機発艦!』

『距離、速度、よし! 全門斉射ァ!』

『えっなんで昼戦で終わってるの? 加賀さんもサラも霧島さんも容赦なさすぎじゃない!? っていうか昭南本土航路の方がきつくない? ねぇ夜戦、夜戦……』

ま、まぁ、楽に勝てたのだから文句はない。日下部には。

 


 

作戦進行中も、日々の演習は欠かしてはいない。

その日執務室に大規模改装完了の報告に訪れのは、他と比べてもひときわ大きな体躯をした戦艦だった。

 

「改装ありがとうございます、提督。対空火器を大幅に強化いたしました。対空・対艦、どちら重視かなぁ?」

「おう、おめでとう。まだ一度目の大規模改装だが、ひとまず今回のイベント中にはここが限界だ。だから第四作戦まで進行したら投入するぞ。主役はお前だ」

ほがらかな声音で喜びの言葉を告げる大和に、日下部はそんな風に告げる。

 

「作戦の進行状況はいかがですか?」

「順調だ。第二作戦に当たる連合艦隊編成での輸送作戦も、神通とホノルルのおかげで完了している。あとアイオワも頑張ってくれたな」

「そうですか、アイオワさんが」

大和は目を細めた。ふっと何かが切り替わるように、そのまとう雰囲気が一変する。

それは彼女の着任時にも経験した事象。自分では「大和の女王」と名乗っていたが、ともかくもうひとつの人格と呼ぶべきものが自我の表層へと浮かび上がってくる。

 

「完遂した、ということは帰投後は彼女に出撃の予定はありませんね?」

「ああ、そうだが。何かアイオワに用事か?」

「ええ。私には一度目の大規模改装を迎えたことで、地球意志より開示を許可されている情報がいくつかあります。その内のひとつを伝えるつもりです」

「ふむ……」

日下部は思わず顎に手を当てる。相変わらず目の前の彼女の言動には謎が多い。

そんな日下部の思考を読み取ったわけでもないだろうが、

 

「では彼女の帰投前に。今は王、あなたに向けた情報をお伝えします。着任時にきちんとお答えできなかった質問にお答えしましょう」

「ほう。まぁ実際、あの時は上手くはぐらかされた感じだったからな」

「お気付きでしたか」

「お前が去った後にな。だから自慢にはならん」

思えば唐突に子作りをせがんできたのも、エキセントリックな言動でそれをごまかすためというのもあるのかもしれない。あの時語った「艦娘のもうひとつの役目」そのものは嘘ではないにせよ。

 

「ふふ、ではお答えします。端的に申し上げると私は『神の如きもの』の予備存在として生み出されたものです」

「『神の如きもの』。大天使ミカエルの別名だな、それは」

「はい。神という存在に絶対の権威を置くあの宗教において、それに似ているという二つ名をわざわざ与えられているほどの存在です」

キリスト教に登場する天使において、最高位の存在とされるのがミカエルだ。甲冑をまとって天使の軍団の先頭を行くイメージで描かれることが多く、兵士や軍人の守護者とされている。

 

「言うまでもなく神……つまり地球意志は、すべての艦娘の創造主です。そしてその創造主に似ているのですから、『神の如きもの』もすべての艦娘の属性を有しています」

「ふむ?」

「そしてその予備存在である私もまた、同様にただ一艦ですべての艦娘の属性を有しています。改二になった時の応用性の広さは、その概念が艦娘という形式(フォーマット)を通して具現化しているとお考え下さい」

「つまりお前は概念上、戦艦であり空母であり重巡であり軽巡であり駆逐艦であり潜水艦であるということか」

ではその大和が予備存在なのであれば、オリジナルである「神の如きもの」とは?

 

「実は『神の如きもの』は未だ生まれていません。おかしいのですよね、予備存在の私が先に生まれるのも妙なのですが」

「なん、だと……?」

想定外の発言に、思わずぽかんと口が開いてしまう。

 

「驚かれたかと思いますが、正直私も戸惑っています」

「というか、それならお前自身が『神の如きもの』なんじゃ……?」

「いえ、それは違います。そこは明確に地球意志から啓示を受けていますから。この情報が今すぐ何かの役にたつというわけではありませんが、きっと意味があるのでしょう」

「わかった。覚えておく」

あまりにも雲をつかむような話ではあるが、そもそも初対面で自分をシバの女王、こちらをソロモン王になぞらえてくるような相手だ。今更と言えば今更だった。

 


 

大和の部屋は体格および実艦としての「格」を考慮して、通常の艦娘より広めのものが与えられている。

だが今は集まっている面々のせいか、実際以上に手狭な印象があった。

 

「Hi、大和! 改装おめでとう!」

「着任の時も思ったけど、やはりあなたはとんでもなく強いわね」

口々に称賛の言葉をかけてくるのは、アイオワとウォースパイト。そして少し離れた場所では、ガングートが腕を組んで値踏みするような視線を向けてきていた。

 

「はい、ありがたいことです! 改二になればさらなる強さをお見せできますよ」

「ふん。アイオワはともかく、私とウォースパイトは言い訳のしようもない旧式艦だからな。世界最大の戦艦であるお前とはどうしたって差があるさ、そこは仕方あるまい。別に強さ自慢をするために集められたわけではないのだろう?」

色々と思うところのありそうなガングートの言葉ではあったが、少なくとも最後の一言についてはもっともだ。

大和のまとう雰囲気がすっと変わり、人格が通常の艦娘のものから「大和の女王」のものへと切り替わる。

 

「おっしゃる通りです、ロシアの女王」

「共産国家の戦艦に対して『女王』と来たか。まぁ私は帝政時代の生まれだから構わんが……お前は自分を『大和の女王』と名乗ったということだが、その呼び方はそれと関係しているのか?」

「ご明察です。皆様には自分たちが何者か、知っておく権利があると思いまして」

大和は改めて、今この場にいる三人の顔を順番に見据えて話し始める。

 

「我々は有り体に言えば、『その国を象徴する戦艦』です。まぁすでに艦娘となっている中では、という条件付きではあるかもしれませんが」

「そうね。その基準であれば、ネルソンよりは私が当てはまるかもね」

イギリスの戦艦で艦娘になっているのは、2046年6月現在はウォースパイトとネルソンしかいない。その二人のどちらがよりイギリスという国を象徴した存在かと言われると、ウォースパイトの方がまだしも妥当だと言えるだろう。仮にネルソンの妹のロドニー辺りが艦娘になったとしても、それは変わらないはずだ。

 

「あとは当艦隊には未着任ですが、ビスマルクとイタリア、リシュリューの三名は該当するでしょう。そのような艦娘は『女王』として、同国の艦娘から好意を抱かれるように地球意志に創られました。女王自身もまた、そのような艦娘をはべらせるような本能を持っています。艦娘は人間の繁殖を手助けするため、本来は人間の男性に対して好意を抱きやすい本能を持っているのですが、一方で独自で社会(コロニー)を構成する必要に駆られた時の代替機能ですね」

「それは……Queen Bee(女王蜂)Queen Ant(女王蟻)みたいなものってこと?」

「そうですね、イメージとしては近いかもしれません。もちろん本来の艦娘は女王しか繁殖を行えないわけではありませんので、厳密には違いますが」

アイオワの投げかけてきた疑問に対し、大和は頷く。

女性しか存在せず、妊孕性はあっても自身の種を出産できず、地球意志に大いなる知性による創造(インテリジェント・デザイン)されて繁殖する艦娘という種は、最初から人類の存在を前提としている。

だが同時に艦娘は、完全なる人類への奉仕種族というわけでもない。もしそうならその命令に絶対服従するように創造されていることだろう。実際にそうではない以上、艦娘だけで社会生活を送ることもある程度は想定されているのだ。

 

「……そう、なの」

大和の言葉に、ウォースパイトはあからさまにショックを受けていた。

彼女の話は聞いている。おそらく着任して以降の自分の行動に、全部説明が付いてしまったからだろう。そして自分を慕ってくれるジェーナスの感情がただの「本能」なのだと言われたならば、そんな表情にもなろうかというものだ。

 

「ふぅん? でもMeはアメリカ艦の誰かにそんなにグイグイ迫られた覚えないけどね? それにイギリス艦だってヴィッキー(ヴィクトリアス)はウォースパイトと距離を取ってるように思うけど?」

「はい。もちろん艦娘は蜂や蟻よりも高度な知的生命体なので、常に本能に縛られるわけではありません。本能ではなく自分の意志として誰かを好きになることも当然あるでしょう」

アイオワの気遣いを込めた言葉に対し、大和は正確にその主旨を汲み取って言葉を続ける。

 

「知っておくべきだと思いましたのでお伝えはしましたが、率直に言ってあまり気にしすぎる必要はないかと思います。誰かを好きになり、そして誰かに想われたのであれば、大切なのはその事実だと思いますよ」

「あ、ありがとう大和。今嬉しくて泣きそうになってる。ジェーナス……愛してるわ」

感極まったように呟いて、ウォースパイトは両手の平で顔を覆う。

傍らに寄り添ってその背中を優しく撫でるアイオワは、まさしくアメリカの女王にふさわしい風格を持ち合わせているように感じられた。これで自分自身の恋愛感情に対しても堂々とできるのなら完全に言うことはなかったのだが、その辺りの残念っぷりは大和にまで漏れ聞こえてきている。

 

「ふん。そういう話になると、私にはひとまず無縁だな。そもそも艦娘になっている者が少ないし、その数少ない同志ヴェールヌイ()は私の着任のずっと前に暁と良い仲になってたからな。同志タシュケントか、さもなくば我が妹辺りが艦娘になって着任した時に気にすれば良いくらいか」

一方でガングートは淡々と自国艦娘の着任事情に言及する。言ってみれば現在の彼女は「臣下なき女王」といったところになるだろうか。

 

「ならせっかくだから聞いてやる。お前自身はどうなんだ、大和? 言うまでもなく一番多いのは日本艦だろう。お前の話を信じるなら、さぞかしモテているんじゃないか?」

「さぞかし、というほどでは。提督に恋をしている艦娘や、すでに独自の関係性を構築している艦娘もかなり多いですから。けれどもそうですね、ありがたいことに矢矧からは好かれているようです。女王の特性なのか、ただの恋なのかはまだわかりませんが」

「お前自身の気持ちは? 初対面で提督に子作りをせがんだそうじゃないか」

「こ、この流れでそれを持ち出しますか!?」

予想外の方向からの攻撃に、思わず一瞬だけ素の艦娘の人格が顔を出して叫んだ。

その反応にガングートは、今日初めて愉快そうに笑顔を浮かべた。妙に不機嫌そうな表情をしていることが多い彼女だが、決して冗談を解さない艦娘ではない。

 

「あれはあくまで艦娘の役割を説明したものです。今皆さんにしていることと同じですよ。王は敬意に値する方とは思えましたが、恋かと言われるとこれもまたなんとも」

「ふん、そうか。まぁあの提督のハーレムに今から飛び込んでいくのはなかなか大変だろうからな。と言いつつ、先日それをやった清霜はちっこいのに大したものだが」

「それはぜひ直接本人に言ってあげて下さい。戦艦であるあなたに褒められたら、きっと喜びますよ」

「そうだな。機会があれば」

なんだかんだと面倒見がいい辺り、やはり彼女も「女王」の一角であるのは間違いないのだろう。

 

「私は……大和は、この時に生まれてこれて本当に良かったと思います」

深海棲艦、そしてそれを率いる高次AIとの戦いは未だに終わりが見えない。あちらがその気にさえなれば明日にでも敗北で終わるようなものなのに、なぜだか膠着状態が長く続いている。それは体感では9年以上にも感じられるようなものだ。

一度は種の滅亡の瀬戸際に追い込まれたはずの人類はその状況に慣れきってしまっており、彼らを救うために現れたはずの艦娘もまた、戦闘以外のことを考える時間も多くなっている。

冷静に考えるとどこか作り物めいた地獄ではあるのだが、それでも明日を無邪気に夢見られるのは……あるいはとても幸せなことなのかもしれない。




※すみません、前話の後書きで「早くお出しできると思う」と言いつつ、結局時間かかりました。
というわけで改めて、大和をメインとしたシリーズの第3話です。
今話で彼女は「改」になりました。この時点での日下部鎮守府には必要な素材が(まぁぶっちゃけると改装設計図が)足りていないため、少なくとも当分はこの改のままで運用されることになります。

冒頭でE5の攻略に取り掛かりました。とはいえ今話ではE5-1とE5-2までです(このイベントのE5はE5-4までありました)。解決しないといけない問題もひとつ残っていますしね。
そしてメインとなる部分、まず「神の如きもの」についてはいつぞやの日下部の見た謎の夢ともリンクしています。こちらは今後の物語上で重要な要素になってきます。
もうひとつの「各国の女王」に関するものですが、そういうわけで彼女たちは(同国艦であれば)他のどの艦娘にモテてもおかしくないんだという話です。主にウォースパイトのための設定ですが、ちらちらと他の艦娘にも影響があったりします。
余談ですが長門は別に大和(日本)の女王ではないので、当艦隊の彼女がモテているのは「素」だったりします。本命っぽい相手はアメリカ艦のフレッチャーですしね。

艦これ本編、バレンタイン任務が実装されてさっくり終わりました。拡張任務もなかったので簡単でしたね。
一方で節分任務はまだ続いていますが、イベントの足音が聞こえて来ました。2/29開始だそうです。待ってたよ。
SS次話は、先程書いた「解決しないといけない問題」についてのアンサーを得る話になります。いよいよ新提督が登場する予定です。分量的に2話になるかもしれませんが、いずれにせよそれが終わればいよいよこの初夏章もクライマックスに突入です。
そろそろ「一年半前」から「二年前」になりつつありますが、少しずつでも書いていきます。お待ち下さい。
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