日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~   作:天空のトロイカ

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※この話は日下部の一人称視点ではありません。
ご注意下さい。


その比翼に連理はあるか 9

この人にはこれだけしか能力がないなどと決めつけては、能力は引き出せません。

――井深大

 

 

2046年7月も中旬から下旬へと移り変わった、そんなある昼下がり。

 

「いやー川内が復帰したというのに、まさか秘書艦代行を頼まれるとは思いませんでしたよ」

「すまんな、仕事押し付けて」

執務室で書類仕事を片付けていた日下部は、隣席で同じく書類と戦っていた青葉の言葉に手を止めた。

 

「いえいえ、真琴さ……ごほん、司令官と一緒にいられて嬉しいですから」

青葉は一瞬名前を呼ぼうとして、まだ勤務時間中であることを思い出したのか呼称を肩書に変える。

 

「ははは。まぁ川内は今、金剛や秋雲と一緒に松代大本営に行っているからな。概念艤装を他艦隊でも配備するに当たって、あの三人の使っている物のデータを取りたいんだとさ」

艦娘の「艦」としての属性を一時的に弱め、相対的に「神」としての属性を強める。そして他の神との習合を可能とする兵装、概念艤装。

日下部鎮守府では艦隊の運営方針やローカルルールの関係上、ごく限られた艦娘にしか配備できないわけだが、その他の艦娘に運用適正がないわけではない。

性質上どうしても一点物(ワンオフ)となり「量産」には向かないものの、複数の他艦隊で同時に少数ずつ配備を進めることでそこを補う予定となっていた。

 

(あと川内に関しては概念艤装の件抜きにしても、肉体と形而上の自我(タマシイ)の変化について一度きちんと調べた方がいいだろうからな)

先の深海磨鎖鬼との決戦で川内が「深海棲艦化した艦娘」を意図せず習合してしまった件については、すでにモーリアックと夕張には伝えてある。あの二人が調べてくれるなら、日下部としても安心できるというものだ。

 

「概念艤装ですか。青葉用の物もいつかできるんでしょうか?」

「あー。明石が赤城用の物に手こずってるんでかなり先になるとは思うが、漠然と考えてることはあるぞ。なぁ『ソロモンの狼』」

「あ、そっち系なんですね。少し楽しみです」

「繰り返すがまだまだ先になるからな? おまけに専門家不在の問題もあるしな」

青葉用に想定している存在は、清霜が見付けて自身との習合を願った神と同じ神話体系に属している。つまり日下部鎮守府には現時点でその専門家になる艦娘が存在していないということだ。

地道に時間をかけて知識を深めていくとなると、赤城用の物が完成しないことにはまず無理だろう。

と、その時。執務机上に置かれていた時計が、15時を知らせる想念情報を伝えてきた。

 

「そろそろ時間ですね。では青葉は演習標的艦のお仕事に行って参ります」

他鎮守府から演習にやって来た艦娘たちの「的」になるのも、秘書艦の仕事のひとつだ。

これについては実は特に軍規で定められたことではないのだが、多くの提督たちがその役割を採用している。そうやって互いに練度を高めていけば、人類統合軍全体の戦力底上げに繋がるからだ。

 

「ああ、よろしく」

日下部は手をひらひらと振って、執務室を後にする青葉の背中を見送った。

 


 

青葉が去るのとほとんど入れ替わるようにして、一人の艦娘が執務室を訪れていた。

 

「提督。航空母艦神鷹、ここに」

大鷹型航空母艦4番艦、神鷹。

彼女の姿は、今までとは違っていた。これまで無骨な鉄色だった艤装の飛行甲板には迷彩塗装が施され、耳には聴音ソナー用のヘッドホン。首元には袴と同じ色のマフラー。

そして何より違うのが、腕に駐機させた艦載機だ。日本海軍式の塗装こそ施されているものの、逆ガル翼が特徴的なドイツ爆撃機Ju87(シュトゥーカ)の改良機になっていた。

そう、彼女はついに改二への大規模改装を遂げたのだった。その勇姿に思わず笑みがほころぶ。

 

「秋イベから半年以上。待たせたな、神鷹」

「本当にありがとうございます。私なんかのために、貴重な改装設計図と試製カタパルトまで投入していただいて……」

「確かにちょっと重かったのは否定しないが、まぁよし!」

正直に言えば、投入した資材に戦闘力が見合っていると言い難いのは事実だ。地球意志にはもう少しその辺りを考慮して艦娘のデザインをして欲しいところではある。

とはいえ、その非効率を承知の上で改装すると決めたのは日下部自身の意志だ。これによってきっと彼女も、少しは自分に対して自信を持てるようになったことだろう。

 

「さて神鷹。何か私に言いたいことがあるんじゃないか?」

だから日下部は、そんな風に尋ねる。

神鷹は小さく息を呑み込み、軽く拳を握りしめると、

 

「はい……提督、好きです。私を護衛独還姫の中から救い出してくれたあの日から、ずっとあなたが好きでした」

その碧い瞳を決して目を逸らすことなく、最後まで言い淀むことなく。きちんと自分の想いを伝えてきた。

 

「やっと言えました。今も、足が震えてます」

「よしよし。よく言えました」

言葉通り足を震わせる神鷹の傍に、日下部はそっと歩み寄る。

軽く頭を撫でながら、まずは小さな身体で勇気を振り絞った彼女を称賛した。

 

「強くなったな、神鷹。よし、じゃあちゃんと答える。最初の頃はおどおどしてて、他人の心がわからない私じゃこの子と恋愛するのは無理だと思ったもんだけど……私も少しは変わった。人間も艦娘も色んな恋の欠片の上で、少しは他人の気持ちを理解できるようになったと思ってる」

神鷹は頬を紅く染めながらも、食い入るようにこちらの言葉を聞いている。

 

「それ以上に変わったのは、お前だよな。部屋に呼ばれたかと思ったらいきなりママンと同じ服着てた時は、本当に何事かと思ったぞ」

「提督のMutter(お母さん)の勇気、少しだけあやかれました」

「まぁ方向性はともかく、私のために努力してくれて嬉しくないはずがないよ」

日下部は真っ直ぐに神鷹の碧い瞳を見据える。

 

「私もお前が好きだよ、神鷹。ただしたくさんいる『嫁・恋人の中の一人』になるけど、それでいいか?」

「はい。それはもうわかってます。提督がそういう人じゃなかったら、最初から私の席なんてありませんでしたから」

「おっと。耳が痛いがその通りだな」

神鷹の小さくて細い身体に腕を伸ばし、ぎゅっと抱き寄せながら、

 

「なら今からお前は、我が第十六夫人候補だ」

その耳元に向かって情熱を込めた声で囁く。

 

「あっ。て、提督……?」

「昔、惚れた女を大事にし過ぎて失敗したことがあってな。だからこっちから口説いた女はともかく、私のことを好きだって言ってきた女とは、とりあえず身体で繋がってみることにしてるんだ。怖いか、神鷹?」

「はい、少しだけ。でもいいです。みんなそんな風にしてきたんでしょう?」

恋という営みがもうひとつの戦いであることを、神鷹はようやく肌感覚で理解したようだ。

 

「そうだな。一時期ローカルルールの関係でそんな風にできなかった相手はいるが、最近だと清霜ともその日の内にシたよ」

「なら。私も、みんなと同じにして下さい」

そして一度それを理解した以上、彼女はもう迷わない。怯えない。艦娘とは戦うために生まれてきた種族なのだから。

覚悟と共に頷く身体をもう一度ぎゅっと強く抱きしめてから、日下部はいったんその腕を解く。

さて大淀は今から提督代行を頼んで、引き受けてくれるだろうか?

 


 

当たり前だが神鷹の存在は、既存のローテーションにまだ組み込まれていない。

大淀に提督代行を依頼してまで真っ昼間から事に及んだのには、単なる好色だけではなくそういう理由があった。日下部の夜はすでに今いる嫁艦・嫁艦候補たちのものなのだ。

 

「……初めてでここまで乱れられるのは、さすが艦娘だよなぁ」

日下部の部屋、真新しい性の臭いが充満するベッドの上。まだ快感の残り香に身体を震わせている神鷹の髪を、日下部は軽く指で梳きながら呟いた。

日下部の知る限り、艦娘はひとたび事に及ぶと普段の姿からは想像できないくらい派手に乱れる者が多い。有り体に言って種族全体的にドスケベということになるわけだが、大和曰く「本来は数を減らした人間の生殖活動を手助けするのも艦娘の役割のひとつ」らしいので、揶揄抜きで「そういうもの」として生まれてきているのだろう。

 

「すごく良かった、です……これなら私、もっと早く勇気を出せば良かった」

小さな唇から艶めかしい荒い息を漏らしつつ、神鷹はどこかうっとりした表情を浮かべながら言う。

 

「あの、人間だとこんな風にはならないんですか?」

「まぁ人によるが、誰でも彼でもってわけじゃないのは確かだな」

「えへへ、なら私、艦娘に生まれて良かったです」

「ん、そっか。こういうコトを気に入ってくれたなら何よりだ。やっぱりそういう女の方が私は好きだよ」

仮に最初は清楚でもどのみちすぐに染めるわけだが、どうせそうなるなら最初から性に積極的な方が色々と楽しめるのは間違いない。

そして幸いにして神鷹の場合、

 

「あの、提督。もう一回シて欲しい、って言ったら……はしたないでしょうか?」

「ははは。すごい勢いで順応したなぁ」

当初の想定を遥かに上回る積極性に、思わず苦笑が浮かぶ。

 

「はしたないか、はしたなくないかで言ったら、多分はしたない。でもそんな子は大好きだぞ神鷹。まだ時間はある。もう一回なんて言わず、何回だってスるぞ」

「はい……!」

去年のクリスマスイヴ直前に秋雲と交わした会話の中で、「神鷹も艦娘なのだから、いきなり乱交に放り込んでも順応するのではないか」ということを言われたのをふと思い出す。

目の前の光景を思えば、その発言も案外正鵠を射ていたかもしれない。

そんなことを考えながら……日下部は神鷹の唇を塞ぎ、再びその身体へと覆いかぶさっていった。

 


 

「司令官! 青葉、演習標的艦任務より戻りました!」

朗らかな声と共に、青葉は執務室へと戻ってきたのだが、

 

「お帰りなさい。お疲れ様でした」

出迎えたのは日下部ではなく、提督用の机に座って書類の決裁をてきぱきこなしている大淀だった。

 

「あ、あれ? 司令官は?」

「仕事を私に押し付けて、真っ昼間から神鷹としっぽりやってるそうです。あ、先程正式に婚約したようなので、浮気ではないですよ」

そう言いながら大淀は、たった今印刷されたばかりの艦隊内人事広報書類を持ち上げて見せてくる。この後妖精たちが鎮守府内を駆け回り、これをあちこちに貼り出していくのだろう。

あまりに予想外の展開に、青葉は思わずぽかーんと口を空ける。

 

「な、なんですかそれ……改二になったら神鷹は告白してくるというのは予想してましたけど、いきなり今日の今日、それも真っ昼間からシてるんですか!?」

「こっちもいきなり提督代行を頼まれてびっくりですよ。まぁ相手がずっと待ってた神鷹ですし、別に急ぎの用事もなかったので引き受けましたけど」

「艦娘は改二で化けるといいますが、いくらなんでも化けすぎじゃないですか! 大淀、どう思います!?」

母の日に神鷹がシルヴァと同じ服を着てみせた時以来、密かに対抗意識をもっていた青葉としてはついつい愚痴のひとつも吐きたくなったわけだが、

 

「知りません。私にも改二はありませんので」

この場合は言った相手が悪かった。軽巡・大淀、2046年7月現時点で改二は未実装。

一言の下に切って捨てられて、思わず青葉は押し黙る。

 

「いいじゃないですか、あの提督は別に新しい恋人が増えても今までの恋人を蔑ろにしたりはしないと思いますよ?」

「や、それはそうなんですが……」

「今から言ってももうどうにもならないことなので、諦めて秘書艦代行の仕事して下さい」

大淀に促され、青葉はバツが悪そうにぽりぽりと頬をかきながらも、おとなしく秘書艦席へと座った。

15時になる直前まで行っていた、各種書類の仕分けを再開する。

 

「ええと、これは大本営からの任務通達ですか。『「礼号作戦」実施せよ!』……うーん、相変わらずトラウマの真ん中を抉るような任務が多いですねぇ」

「礼号作戦!?」

霞や清霜と同じく、礼号作戦の参加艦である大淀はその言葉に反応する。

 

「指定艦にばっちり大淀の名前もありますよ」

「本当ですね。指定艦は私、足柄さん、霞、清霜、朝霜の五人に自由枠一人ですか。行き先が南西諸島第五海域(沖ノ島沖)ですから、空母を入れるべきだと思いますけど」

「どっちにしろ大淀に出撃されると提督代行がいなくなるので、明日以降に回していいですか?」

「はい、それで」

大淀は通達を任務娘用ファイルの未達成のところに綴じる。いつこの任務に出撃するかは、明日以降に日下部が判断することだろう。

 

――当たり前だが青葉も大淀も、直前までしていた話とこの任務に何か関わりが生じるなどとは、この時点では一切想像していなかった。




※空母の恋愛模様を描く本シリーズ、ようやく神鷹が日下部の嫁艦候補になる話です。
秋イベで着任してからずっと気持ちはバレバレだったにも関わらず、あえて日下部が「待ち」に徹した割と珍しいパターンだと思います。告白成立した直後に早速身体で交わるのは日下部らしいところですが。
そして本作の艦娘はおしなべてドスケベ揃いなわけですが、もちろん神鷹も例外ではありません。

ちなみに本文中にも書きましたが、神鷹は「第十六夫人(候補)」です。ハーレムも大概に増えましたね。イントレピッドの要望で「第十三夫人」は飛ばしてますが、その代わり肉便器扱いの時雨がいますので、彼女を含めれば数字通り16人です。
なおまだ増える予定……(前話で存在感をアピールしたあの艦娘とか)。

艦これ本編、これを投稿している5/29で11周年任務が終わり、梅雨アプデがやって来る予定です。割と大掛かりなものになりそう?
SS、次話は本話の途中で出てきた某任務に関するものになります。お待ち下さい。
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