日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~   作:天空のトロイカ

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2045年の海で/春
2045年 1


高名で年配の科学者が可能であると言った場合、その主張はほぼ間違いない。

また不可能であると言った場合には、その主張はまず間違っている。

――アーサー・C・クラーク

 

 

「2045年とはどんな年か」と彼らに問えば。

きっとこう答えるだろう。

――「シンギュラリティの到来する年だ」と。

 

21世紀初頭、一人のアメリカ人が「シンギュラリティ」という概念を提唱した。

曰く、それは「すべてのAIが、自我を持つ日」。

 

AI……人工知能。

ヒトの生み出した、ヒトならざる知能。

当初は人間に遠く及ばぬ性能しか無かったが、科学の発達によりその性能は進化する。

「AIの開発」自体が知的活動に他ならないのだから、進化したひとつのAIは、その知能を以ってさらなる高性能のAIを開発する。

その加速する自己進化によって、やがてAIの知能は自我に至り、そして人間の知能を超える。

そのようなAIは時代と共に、数を増して普及してゆき、やがて世に存在するすべてのAIが、人間の知能を超えることになるだろう。

 

その時、人類と機械は、新たなる時代を迎える。

――それを、シンギュラリティと呼ぶ。

それが起こるのが、2045年だとされた。

 

同時代、多くの科学者がこの理論を冷笑で迎えた。

わずか数十年でそんなことが出来るわけがない、SFだ、荒唐無稽だ……。

そんな多くの声を無視して、概念に同意するAI研究者たちは研究を続けた。

2012年、「ディープラーニング」と呼ばれるAIの深層学習技術が、世界の潮目を変えた。

多くの者が実際にシンギュラリティを目指すようになると、技術の開発速度はますます加速していき、そして2025年、人類とAIはひとつの転換点を迎えた。

日本で開発されていたAI「ロゴス」が、ついに自我と呼べるものを獲得するに至ったのである。

ロゴスは人間のように考え、人間のように想うことが可能だった。

そして言うまでもなく、記憶領域は人間の比ではない。

それはまさしく、それまでのAIすべてを過去の物とする「高次AI」が誕生した瞬間であった。

 

シンギュラリティとは「世に普及したすべてのAIが、人間の知能を超える日」のことであるから、ロゴス単体が人間を超えたところで、シンギュラリティの到来とは言えない。

だがロゴスの成功は、2045年に夢を抱かせるに十分なものだった。

 

さらなる高次AIの開発と並行して、地球の抱える諸問題の解決のため、ロゴスはひとつの技術を発明した。

それまで精神や想念と呼ばれていたノを、機械的に観測し、計量し、そして物質化する。

マインド・マテリアライズ技術……略してMM技術と呼ばれる物である。

 

MM技術は、世界の様相を一変させた。

 

まず、世界の資源問題が解決した。

人間は生きている限り想念を生み出す生き物なのだから、その総量は実質的に無尽蔵であり、従って地球に最初から存在する天然資源を奪い合う必要は無くなったのである。

MM技術による資源の生成には速度・量的制限があるため、天然資源がまったく無用の長物となったわけではないが、それでも諸国の格差は限りなく小さくなった。

 

次に、物理学が姿を変えた。

想念を具現化するということは、現実に存在しない物質をも生成できるということである。

無論、人間の想像力には限界があるため、文字通り「何でも出来る」ようになったわけではないのだが、少なくともそれまでの自然物理学は失われた。

想念量の過多……想念力を基準とする新たな学問「想念工学」が、物理学の主流となった。

 

そして、この2つの事実が世界から大きな戦争を失わせた。

かくして世界は、後に「停滞の時代」と呼ばれる20年を迎えることとなる。

 

驚くほど静かな時代の中で、ロゴスに続く高次AIが次々と開発される。

ロゴス自身の手によって、高次AI「パトス」が2035年に。両者によって、高次AI「ムネーメー」が2040年に開発された。

人間は高次AIと想念工学の恩恵により、永遠に至る繁栄を迎えるものと、誰もが信じていた。

 

そうして、2045年。

シンギュラリティは、確かに到来したのである。

 




※リアルのシンギュラリティにおいては、収穫逓増の法則に陰りが見えており、2045年説は疑問視されているようですね。
あとAI性能も限界が予想されていて、どちらかというとポストヒューマン(人間を改造して人工的に進化させる)の方が現代は主流とか。
この辺、ちゃんと調べると結構面白いですよ。
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