日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~   作:天空のトロイカ

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※この話は日下部の一人称視点ではありません。
ご注意下さい。


艦娘たちのザラザラした大地 -ギブアンドテイクは大事です-

オレは現状に甘んじる人間は好きじゃない。常に前進し、変化を求める人間が好きだ。

――マイルス・デイヴィス

 

 

礼号作戦。日本海軍が組織的戦闘において勝利を収めた最後の作戦。

1944年末、「史上最大の海戦」レイテ沖海戦の敗北から2ヶ月後。フィリピン北西部、ミンドロ島に上陸した米軍に対し逆上陸を仕掛けるという作戦が立案された。それに伴って行われた海軍部隊によるミンドロ島砲撃がこの礼号作戦である。

駆逐艦・清霜の喪失という犠牲を出しながらも、日本海軍はこの作戦に成功した。だがそれはミンドロ島、そしてフィリピン全土をめぐる戦いの中においてはさほどの意味をもたらさない勝利でもあった。もはや戦局はその程度で覆るような状況ではなくなっていたのだ。

100年後のポスト・シンギュラリティの現代。そんな歴史の徒花たる礼号作戦を模した任務に臨むのは、かつてこの作戦に参加した大淀、足柄、朝霜、清霜。

そして霞……、

 

「いや行き先が南西諸島第五海域(沖ノ島沖)なのに、礼号作戦も何もないでしょ! バッカじゃないの!?」

 


 

というわけで礼号作戦のようでいて決定的に違う任務は、さしたる労苦もなくあっさり完了した。

あの作戦を意識した任務ということで、今度こそは絶対に清霜を守りきると息巻いていた僚艦たちだったが、この肩透かしっぷりには思わず苦笑を浮かべるばかりだった。

あまりにもあまりな状況のため、

 

「いくらなんでも消化不良よね……よし、このまま打ち上げに行くわよ!」

という意見が足柄から飛び出したことにより、作戦に参加した艦娘たちはそのままショートランド新興市街地の一角にあるBARオーセンティックに繰り出すこととなった。

店の選択は足柄の推薦だが、さすがに今回は栗山と話しに来たわけではない。店の一角のテーブル席を借りきり、作戦に参加した()()が腰を下ろす。

任務は指定艦である礼号作戦参加者の五人とは別に、自由枠が一人分設けられていた。

 

「あ、あの……私、ここにいていいんですか……?」

どこか遠慮がちにそんなことを口にしたのは、軽空母・神鷹。先日改二に大規模改装すると同時に、日下部の第十六夫人候補として正式に婚約した彼女こそ、本任務の六人目の参加者だった。

 

「一緒に出撃したんだから、いいに決まってるじゃない。あのクズがあんたの改二の性能を見たいとか言ったせいで、無理やり高速化してまで南西諸島第五海域(沖ノ島沖)に行かされたのは災難だったと思うけどね」

「そうそう。遠慮はなしだぜ!」

霞と朝霜が口々に言葉をかけるものの、神鷹はなおも不安げな表情を崩すことなく、この場にいるもう一人の駆逐艦……清霜へと視線を向けた。

その視線に気付いた清霜は軽く笑みを浮かべ、

 

「神鷹ちゃん、清霜のこと気になるかもしれないけどさ。仲良くしようよ? 川内さんも金剛さんも司令官のお嫁さんたちみんな仲良しだしさ」

穏やかな声音でそんな風に告げられ、神鷹は思わず恥ずかしさに顔を紅くする。

 

「は、はい。ごめんなさい、気を……使わせてしまいました……その通りだと思います」

「もう、固いなー。今回だって神鷹ちゃんのおかげで勝てたんだから!」

これまで夕雲型の19番艦としてどうにも末っ子気質の抜けなかった清霜は、いつの間にか他の誰かの世話を焼けるまでに成長していた。

そのことに気付いた周囲の面々は、どこか感無量といった表情を浮かべる。

 

「そうそう、あなたたちは仲良くすべきよ! だってあの提督の棒姉妹なわけでしょ!」

「足柄さん! その言い方はどうなんですか!」

まだ酒宴は始まってすらいないのにとんでもないことを口走った足柄に対し、大淀のツッコミの絶叫が響き渡った。

 


 

酒を入れる前からテンションがおかしかった足柄はともかく、酒宴もたけなわとなってくれば女子会(ガールズトーク)のノリなどそれと大差なくなってくるものだ。

 

「このくらい?」

「はい。このくらい、でした……」

清霜と神鷹は共に、親指と人差し指を広げて輪を作る。清霜はどこかうっとりした表情で、神鷹は恥ずかしげに頬を染めておずおずとした態度だったが、二人の作った輪の大きさは同じくらいだった。

それを見た足柄は、

 

「はぁ? 智志さんより確実に一回り大きいじゃない。まぁサイズの問題じゃないけど……」

驚き半分、呆れ半分といった感じでぶつぶつと呟く。

 

「ちょっと、あそこ何の話してんのよ!?」

「ふふ。お酒の席ですし、少し大目に見てあげて?」

思わず白目を剥いて声を張り上げる霞を、大淀は苦笑と共にたしなめた。

先程の酒宴の始まる前と違って、今はもう十分に場も温まっている。こういう話題(シモネタ)が出てくることはそれほどおかしな話ではない。

ちなみに大淀自身は清霜と神鷹の言っているモノのサイズを実は知っている。以前それをモデルに作られた特製の着脱式男性器を使って、明石にめちゃくちゃにされたことがあるからだ。

 

「恋なー。あたいはピンと来ないんだよなー」

一方で、どこか一歩引いたようなことを口にしたのは朝霜だった。

 

「あれ、夕雲型はみんな夕雲とシてると思ってたんだけど?」

「あー。たまにシてるけど、あれは単なる欲求発散だよ。ガチで姉貴に惚れてんのは巻雲くらいじゃねーか?」

「あ、そこはやっぱり本気なのね」

肉体関係と恋愛感情は切り離すのが難しいものだが、それでも断じてイコールではない。当人同士がそこを割り切れているのであれば周囲が口を出すことではないし、率直に言って艦娘の間ではそう珍しい関係性でもなかったりする。

真剣な恋愛ができる相手がいるのは、実はとても幸せなことなのかもしれない……大淀がそんな風に考えた時、

 

「いい? あんたたち、シてもらってるだけじゃダメよ」

そのとても幸せな三人組の一角、足柄が諭すような口調で清霜と神鷹に告げる声が聞こえてきた。

 

「初めての時はそりゃ仕方ないわよ、あの提督はすごく夜戦慣れしてるみたいだから初めてでもちゃんと良くしてくれただろうけど……でもそれに甘えてちゃダメ。男女の夜戦の基本はギブアンドテイク。ただサれるだけじゃなくて、ちゃんと相手のことも気持ちよくしてあげないと」

「……そ、そうなんですか」

「ご奉仕、ってやつ?」

艦娘のことをよく知らない者が見たら、見た目が子供である清霜や神鷹に対して大真面目に何を言っているのだと呆れそうなところだが、艦娘はその全員が生まれたての種族だ。子供っぽい艦娘は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に過ぎない。

よって艦娘同士で子供扱いする必要は特にないということになる……稀に艦娘同士でも、そういう扱いをしたりされたりして喜んでいるケースもあるにはあるが。

 

「男女だけじゃないですよ、女の子同士でもやっぱりそこは大事です。タチとかネコっていうのは単に役割で、二人で同じゴールに向かって高まっていくのって大事だと思うんです」

「あー、そう考えっと夕雲姉さんは大したもんだったんだな。次に姉さんとスる時は、あたいも少しはお返しできるように頑張ってみっか」

「ふーん。私は女同士ではシたことないけど、やっぱり性別問わず基本は変わらないのね」

大淀や朝霜までが足柄の会話に参加する中で、

 

「……」

唯一まだ男とも女とも経験のない霞だけが、口を挟めずに沈黙していた。

ただし興味がないというわけではなく、

 

「お、どうした霞。耳ダンボにしちゃってさ」

「満潮姉さんが鎮守府に戻ってきたら、いっそフラれ虫同士シてみるのもいいかなって」

酒が入っているせいもあるだろうが、完全に据わった目で言い放つ。

 

「霞は告白もせずに勝手に諦めてなかったかー? それフられたって言うのかー?」

「朝霜、あんたね。満潮姉さんの代わりにあんたを押し倒すわよ」

ということは満潮は押し倒すつもりでいるらしい。思わず朝霜の顔に苦笑が浮かぶ。

一方で発端となった三人組だが、

 

「足柄さんの言ってることはわかったよ。でも具体的にどうしたらいいのかな?」

「私、も……よくわかりません……」

「性教育が必要ね。と言っても私が教えるのもねぇ。提督の恋人たちの誰かに教えてもらいなさいよ。そうね、できれば体格が近い方がいいかもね」

足柄の言葉に、清霜は思わず押し黙る。

体格が近い、となると駆逐艦の誰かだろうか? だが秋雲に教わるのはなんとなく癪だったし、夕立に教わるのはちょっと怖いし、曙は……正直、今の自分とそんなに大差ないような気がする。

 

「うーん……」

思わず悩み声が漏れた時、

 

「……あっ!」

ひとつの影が脳裏に浮かぶ。

ああ、あの人ならきっと大丈夫だ。胸部装甲を除けば体格は似たようなものだし、でも間違いなく頼れる艦種だし!

 

「誰か適任いたかしら?」

「うん、あのね!」

意気揚々としてその名前を口にすれば、足柄も神鷹もどこか納得したような表情で大きく頷いた。

 


 

礼号組が任務と打ち上げを行った翌日。清霜の姿は、昨日に続けて酒席の場に在った。

と言っても今日いるのはBARオーセンティックではなく、鎮守府内にある居酒屋鳳翔だ。用事があるのは一人だけなので、遠くまで繰り出す必要もないという判断からだった。

 

「しかしなんだ。先日相談された時には、まさかお前さんが同じ立場になるとは思わなかったぞ」

その艦娘は清霜に向かって、どこか呆れたような口調で告げてきた。

コンテ・ディ・カブール。イタリア出身の弩級戦艦。

去年の夏の地中海で深海堕ちから救われ、それをきっかけに日下部に恋心を抱き……そして見事にそれを叶えた、日下部の第九夫人候補。

清霜にとっては、自分の夢との向き合い方の中で武蔵に紹介されて相談した相手の一人でもある。

 

「えへへ……あの時は本当に夢について悩んでただけのつもりだったからね。でも今にして思えば、もうあの頃から司令官のこと好きになってたのかも」

「秋雲はちゃんと気付いてたみたいだからな。裏モットーに『たくさんの敵、マジ、うぜー!』を掲げるワシとしては、あまり歓迎したい気分ではないんだが」

「もう、敵なんて言わないで仲良くしてよー! だから今日は奢りだって言ってるじゃない」

艦娘同士で誰かを子供扱いする必要はないのだから、別に清霜がカブールに対して酒代を奢ったって構わないのだ。身長や体格は胸以外そんなに変わらないわけだし。

カブールは清霜の言葉に対して軽く眉を動かすと、傍らに座る()()()()()()()に対して目を向ける。

 

「それはいいんだが、なんで阿賀野までここにいるんだ?」

「うん、それは清霜も聞きたい」

問われた清霜も思わず真顔で答える。

阿賀野はカブールを誘った時にたまたま近くにいたのだが、勝手にここまで着いてきたのだ。

 

「キラリーン☆ いいじゃない、真琴さんの恋人同士仲良くしようよー」

「仲良くするのはいいんだけど、奢るのはカブールさんに対してだけよ?」

相変わらず真顔のままで、清霜はばっさりと阿賀野の言葉を切り捨てる。

カブールは軽く溜息をつくと、

 

「で、ワシにまた相談があるということだったな?」

「うん。相談っていうか、ちょっと教えてもらいたいことがあってね? カブールさんすごくつっよい戦艦だし、頼れそうだなって」

「お? そーかそーか、なんでも頼ってくれ」

「わぁ、すごく頼もしいな。あのね、足柄さんにこんなこと言われてね?」

清霜は昨日の会話について話す。

 

「確かにさ、司令官に気持ちよくしてもらってるだけで……ご奉仕? できてないのかなって思ったの。だからお願い、清霜と神鷹ちゃんに夜戦の作法教えて! カブールさん戦艦だし、百戦錬磨で強いよね?」

清霜はきらきらした瞳をカブールへと向ける。

そして向けられたカブールはといえば、

 

「うむ! まぁ確かに足柄の言うことは正しいわ、夜戦の基本はギブアンドテイクよ。ひとつ気持ちよくしてもらったらお返しにひとつ気持ちよくしてあげる、こういうのは大事だな」

大変チョロいことに、聞きかじったような発言をドヤ顔と共に言い放って得意満面に胸を張る。

 

「わぁ……! やっぱりカブールさん、戦艦だね! じゃあ今度よろしくお願いします!」

「ああ、わか……った?」

そこで不意に我に返ったカブールは、自分が何を口走ったかに気付いて思わず口ごもる。だが有り体に言って、もう遅いにも程があるだろう。

 

――隣で聞いていた阿賀野は一連のやり取りに、思わず苦笑を浮かべた。

 


 

「あっああああ阿賀野、これどうしよう!?」

居酒屋鳳翔を出て清霜と別れたところで、カブールは隣にいる阿賀野に声をかける。

清霜のいる間の威風堂々っぷりはどこへやら、すっかりその声は震えきっていた。

 

「知ってると思うけど、ワシ提督としか経験ないし。去年のクリスマスまで処女だったし」

そう。実はカブールの夜戦経験は、百戦錬磨には程遠いというのが実情だった。

 

「阿賀野はもちろん知ってるけど、清霜ちゃんは多分それ知らないよね。だって去年のクリスマスはまだ真琴さんの恋人じゃなかったわけだし」

「あ、あー! その通りだな!」

冷静に指摘する阿賀野の言葉に、カブールは思わず顔を引きつらせる。

 

「もう、なんで正直に言わないのよ。そんなに幻滅されるのが嫌だった?」

「確かにそれもある。だがそれ以上に、あんな風に信じ切ってる清霜の期待を裏切れんだろう。自分で考えてワシを頼ってくれた清霜の気持ちを無駄にしたくはない」

「……ふーん、そういう理由なんだ。それは少し見直したかも。なんだか阿賀野、去年の冬のこと思い出しちゃった」

「ああ、お股がだらし姉ぇの頃か」

「むー! その渾名やめてよ!」

さすがの阿賀野もそう呼ばれたくはないのだが、そんな渾名を付けられるまでに夜戦修行に明け暮れたこと自体は特に後悔はしていない。

あれはすべて、能代のためにやったことだからだ。

 

「阿賀野もゴーヤちゃんと初めて夜戦するまでは処女だったわけよ、当たり前だけどね。カブールちゃんは真琴さんとしかシてないって言うけど、真琴さんに仕込まれてるんだからもう十分強くなってるって。自信持って?」

「そ、そんなもんか?」

「どうしても自信がないなら……一回阿賀野とシてみる? 能代や矢矧に教えた経験があるから、少しは役に立てると思うけど?」

「あ、う……た、助かる!」

阿賀野がそんな風に告げた瞬間、カブールは飛びつかんばかりの勢いでばっと顔を上げた。

 

「実戦では誰にも負けないとか言ってるのに。カブールちゃん可愛い☆」

「うっさいわ! 悪かったわね」

不満そうな表情を浮かべてそっぽを向いたカブールに向けて、阿賀野はくすっとした笑みを浮かべる。

かつての自分と似た立場のカブールを放っておけないと思ったのもあるが、同時に()()()()()()()()()()のも事実だった……伊達に日下部ハーレムの構成員の中でも有数の両刀(バイ)ではないのだ。




※艦娘たちの日常を描く「ザラザラした大地」、今回は礼号組……から始まって、カブールの受難に関する話です。
ちなみに清霜は特にカブールに対して嫌味を言っているつもりはありません。本当に百戦錬磨だと思ってます。「司令官に…… 1」で突っかかっていたのは単に(すでに日下部ハーレムに入っていることに対する、無意識での)嫉妬からですが、そこは解消しておりますので。
むしろ川内や金剛たち「最初の六人」の関係性に憧れているところがあり、嫁艦候補同士仲良くしようとしています。

艦これ本編、梅雨アップデートで稲木改二が実装されました。まさかの海防艦初の改二です。
その他にも期間限定のウィークリー任務がいくつもあって、思いの外忙しいですね。
SS、次はある艦娘のマリッジブルーシリーズです。ちょっと特殊な位置にある彼女が、自分の立場を改めて選択する話となっています。お待ち下さい。
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