日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~ 作:天空のトロイカ
ご注意下さい。
人は誰でも、多い少ないは別として、ある一点では狂っている。
暦が7月から8月に移り変わっても、時雨は自分がこの先どうしたいかを未だに決められずにいた。
この一年日下部に使い倒された身体は、どうしたって疼いて仕方ない。だからその疼きを鎮めるために、以前は関係のあった艦娘の部屋を久しぶりに訪れたのだが、
「不幸だわ……去年の夏頃に離れていった時雨に一年ぶりに夜戦に誘われたと思ったら、ちっとも心ここにあらずなんだもの」
「ご、ごめん」
一戦交えた後の穏やかな時間。抱き合いながらもどこか恨みがましい目を向けてくる戦艦・山城の視線に晒されて、直視できずに思わず目を逸らす。
山城は普段から憮然とした表情をしているような艦娘だが、それでも以前のことを思い出してみれば、さすがにこういう時は少しは穏やかな顔をしていたような気もする。
「昔から時雨が私に本気じゃないことは気付いてたけど、それでも以前はもうちょっと目の前の私に集中できてたわよね。私は私で本命は姉様だから、文句を言う筋合いでもないけど」
「えっ、気付いてたの!?」
「当たり前よ。私も姉様も作り笑いには慣れてるの。だから他人の作り笑いもすぐわかる。ここでは作り笑いせずに好き放題不幸だ不幸だって言えて、とても楽ね」
どこか清々しい調子で、山城はそんなことを言い切った。
そんな山城の姿は初めて見た気がする。今までの自分たちは身体を重ねても、心の奥までさらけ出す関係にはなれていなかったのだろう。
「離れていってからの一年、時雨は作り笑いじゃなくて本気で笑ってたわよね。あまり健康的な笑顔ではなかったけども」
「僕、そんな感じだった?」
「自覚ないの?」
その返答がよほど驚きだったのか、山城はどこか引きつったような表情で呟いた。
「それが急にまた作り笑いになって、少し悲しかったわ。何があったか知らないけど、自分の気持ちに素直になりなさいな」
「……」
山城が今まで本当の姿を見せてくれていなかったように、きっと自分も山城に素の姿を見せてはいなかった。
では……この一年の「御主人様」に対しては?
そこに思いを馳せると肉体の疼きがまた強くなった気がして、時雨は思わずぎゅっと山城に強くしがみついた。
時雨と山城の縁は前世の「史上最大の海戦」レイテ沖海戦において、西村中将率いるスリガオ海峡突入部隊で行動を共にしたことにある。
時雨を除く参加艦のほとんどが還ることのできなかったこの「西村艦隊」の所属艦たちは、艦娘として生まれた現代にあっても強い繋がりを有している。そしてそれは、時雨と山城に限った話ではない。
そんな西村艦隊に所属する内の一人が、
「信じらんない……こないだ霞に押し倒されて、さ……最後まで、シちゃった」
先日の出来事を思い出して頬を真っ赤に染めながらそんなことを口にする、駆逐艦・満潮だった。
「な、なんでそんなことに!?」
自分のことを相談しに満潮の部屋を訪ねたはずなのに、いきなりそんな衝撃的な話を振られては、さすがの時雨も驚くしかない。
「色々あって半分ヤケになってたのかもね。それに霞には憲兵隊のお世話になった例の件でずいぶん助けられたし、なら別にいいかなって」
「……」
満潮と霞の恋の相手が誰かについては、もちろん時雨は察している。だから自分が迂闊に何かを言ってはいけないことくらいは理解していた。日下部の周辺では自分の特別な扱いは周知のことだが、その外にいる満潮のような艦娘は、普通に「恋人の一人」だと思っているはずなのだ。
「私が受け入れたのはそんな程度の理由だけど、霞がなんでいきなり私に来たのかまではわからない。あっちも多分大した理由もなかった気はするけどね、押し倒された時にそんな感じのこと言ってたし」
「それはまた、ずいぶん尻軽な話だね。でもある意味で艦娘らしいのかな」
「しょうがないじゃない。私、誰かとシたのあれが初めてだったけど……す、すごかったもの。霞も初めてって言ってたけど。あ、あっちさえよければまたシようかな……」
「ハマったかー。満潮も霞も可愛いね」
「うっさい、皐月みたいなこと言ってんじゃないわよ!」
本当に立場をわきまえようと思っていたのだけど、満潮の反応があまりに初々しかったせいで結局軽口を叩いてしまった。
「はー、あんたはあの司令官に好き放題シてもらえる立場かー。私もおとなしく列に並べば良かったかしら」
「えっ、満潮……?」
「冗談よ、性欲と恋愛は別物でしょ。ただ性欲を満たすだけならともかく、真剣な恋愛だったら
「そういうのは昔にさんざんやって飽きてるんだってさ」
艦娘とはいえ多くの女に同時に手を出しながら、その全員を真剣に愛していると言い切る日下部は、色々な意味でまともな人物ではない。それは間違いないだろう。
「なんなの、その遊びで寝るのも真剣交際するのもきつい話。私とはもう完全に縁がなかったと思うしかないわね……そこ来ると時雨は上手くやったわね。せいぜいあのハーレムの一員として幸せにやりなさいな」
「……」
満潮の自嘲混じりの言葉に、思わず言葉を失う。
その日下部にこの一年、どんな扱いをされていたか。そして自分自身はその扱いをどう思っていたのか。
深く考えると気付いてはいけないことに気付いてしまいそうで、時雨はただ思考を止めて無言でうつむくばかりだった。
ぴちゃぴちゃという粘り気のある水音が、室内に響く。
時雨は自室にて、必死に自分自身を慰めていた。
(どうしよう。僕、あんな酷いことされたのに。あんなめちゃくちゃにされたのに……)
現実から目を逸らすために無我夢中で指を動かしても、ちっとも満たされない自分に気付いて、時雨は切なさに満ちた溜息を吐き出す。
と、その時、
「時雨? お取り込み中ごめんね」
ガチャッという音と共に部屋のドアが開け放たれると、そのまま二つ下の妹が室内へと入ってきた。
「わっ、夕立! 入ってくるならノックしてよ!」
「何度もしたっぽい。……前もこんなことあったよね。確か去年の秋。あの時も時雨、一人遊びに夢中だったっぽい?」
「確かにあったね」
夕立の言葉に、あの秋の日の出来事を思い出す。
「そういえばあの時、確か夕立に……」
「あの時時雨に『提督さんとの夜戦って……そんなに気持ちいい?』って聞いたよね。うん、今は自分でスるようになったからわかるよ。あれは確かに、最高に素敵なパーティっぽい」
日下部との夜を思い出したのか、夕立はどこか蕩けたような顔つきになる。それはきっと、春雨やアトランタといった「日下部以外の恋人」の前では絶対に浮かべないような表情なのだろう。
目の前でそんな顔を見せられた時雨は、少しだけ溜息を吐き出す。
「そう、だね。悔しいけど、そこは認めるしかないかな」
「……悔しい? ふーん? 理由はわからないけど、夏より前の時雨に戻ってるっぽい」
「自分ではわからないけど。そんなに変わったかな、僕?」
「病み目で『単純に気持ちいいとか、そういう話じゃないよ。僕は提督の所有物になったんだ』って言ってたよね」
「参ったな。言った記憶がある」
過去の自分に殴られたような気分になって、思わず頭を抱えたくなった。
「あの時の時雨って、すごく……」
「ダメだよ、言わないで夕立!」
どこか愉快そうに唇を釣り上げながら言葉を紡ぐ夕立に、時雨は必死に叫ぶ。他人の口から客観的にそれを言われてしまったら、きっと自分で自分を騙すことはもうできなくなる。
ああ……でも、もう限界なのだろうか?
「すごく幸せそうな顔してたよね。夕立も今なら気持ちはわかるよ」
決定的な言葉を突きつけられて、
「あああああっ……! そうだよ、僕はあんな風にされて、すごく、すごく……幸せ、だったんだよ!」
もだえ苦しむような絶叫と、あふれる滂沱の涙。ついに時雨は自分の本当の気持ちを口にした。
そう、幸せだった! 日下部に犯され穢され壊され辱められめちゃくちゃにされて……本当に幸せだったのだ。この一年。
「こんなの、こんなの……自分に失望するくらい変態だけど」
ついには認めてしまった心に、身体は忠実に反応する。股の間から流れ出した液体がまるで洪水のように、床の上に盛大に滴り落ちた。
「時雨、あのね。夕立も提督さんもみんなも、どっかしらは変態だよ。変態じゃない人なんて、人間にも艦娘にもいないっぽい。だから自分の『そういうもの』を認めて受け入れればいいんじゃないかな」
「……そっか。そうかな。僕は、提督の傍にいていいのかな」
「いいに決まってるよ。夕立もすぐ追いつくから、先に待ってるっぽい」
涙と唾と別の液体と。色んな体液でぐちゃぐちゃになった時雨のことを、夕立は優しく撫でてくれた。
――色々な人の助けを得て、熟慮の時間は終わった。いよいよ決断の時がやって来る。
「時雨、答えを出したって?」
「うん。自分の気持ち、ようやく理解できたよ」
「よし、なら聞かせてもらおうか」
多目的交流室、というのがこの部屋の正式名称だ。大本営に提出した書類にもそう記載されている。
だが去年のクリスマス直前にこの部屋を建造した日下部も、その時に一度は利用した艦娘たちも、この部屋をより本質的に呼び表すとどうなるかはもちろん承知していた。
「Heyマコト! 時雨とのケッコンを記念したパーティーだって集められましたけど、場所が乱交部屋ってどういうつもりデース?」
今ひとつ状況を飲み込めていない調子で質問を飛ばしてきたのは金剛だった。
周囲には他の嫁艦と嫁艦候補たちの姿もある。さすがに全員ではないものの、それでも半数以上が集まっていた。日下部と時雨を中心として、弾力性のあるマットの上に車座になって座っている。
全員まだ服は着ていた。ここに集まった以上はどうせいずれ脱ぐことになるわけだが、それでも一応は話をすることが第一の目的なのだ。
「そもそもこれまで誰かとケッコンした時に、いちいちパーティーなんかしてませんでしたよネー?」
「そうだな。だが時雨は今まで特別扱いだったろ? この機会に今後のこいつの扱いをはっきり宣言しようと思ってな」
日下部はそう言って、ちらりと川内の方に目を向ける。そもそもこういう形式を取ったのは、彼女から要望があったことが理由のひとつだ。
「結局こうなったかー。そうなるんじゃないかと思ってたんだけどね」
「いやいや、それがなかなかどうして面白い顛末だったぞ……おい犬、皆に挨拶しろ」
日下部は傲然と言い放つと、それまで黙って隣に座っていた時雨に声をかける。
「はい……皆様、このたび正式に
左手の薬指に指輪を輝かせながら、全裸よりも艶かしく肉体を彩る
「こいつは『ケッコンはしたいけど、扱いは性奴隷と同じようにして欲しい』なんて言いやがってな」
そう。日下部の用意した選択肢を、時雨は見事に超えてきたのだ。
「実に嬉しかったから、聞き入れてやることにした。数字の上では空席になってた第十三夫人ではあるが、ハーレムの序列としては『一番下』だ。一番上が川内、時雨以外の全員がニ位で、時雨だけが下だ。そういう風に扱ってやれ」
「御主人様に許可はいただいておりますので、どうぞ皆様の性欲処理にもお使いいただければ幸いです」
改めてマットに額を擦り付けて懇願する時雨に、周囲の艦娘は色々な種類の視線を向ける。
もちろん困惑気味の者もいるのだが、一方で実に乗り気な者たちもいた。
「進水日に三人でシた時から、いつかこうなるんじゃないかと少し思ってマシター。私、ケッコンしてから女の子とは全然シてないので……楽しみデース!」
「率直に申し上げて、私はあなたが羨ましいです時雨さん。私もそういう風に扱って欲しいのですが、そうなるといざという時に真琴さんを諌められる艦娘がいなくなってしまいそうですから。ですので……私がシて欲しいと思ってること、全部あなたにぶつけることにします。Sは慣れていないので、やり過ぎたら申し訳ありませんね?」
「時雨ちゃんとは一度シてみたかったのよね。真琴さん公認だったら遠慮はいらないよね? 阿賀野、嬉しい」
「やっぱり時雨はそんな顔でメス媚びしてるのがお似合いっぽい。お望み通りめちゃくちゃにしてあげるね」
金剛、赤城、阿賀野、夕立が口々に言葉を投げかけるたび、時雨は頬を染め嬉しそうに目を蕩けさせながら身を震わせる。
そんな姿に目を細めながら、日下部が特に声を荒げるでもなく穏やかな声音で、
「おい時雨、お前主人が誰か忘れてないか?」
そんな風に告げた瞬間、時雨はまるで雷にでも打たれたかのようにびくっと硬直する。
「もっ、申し訳ございませんっ!」
「ごめんで済ませるのは普通の嫁艦だけだ。お前の場合は罰が必要だな」
まるで爬虫類のような酷薄さに瞳をすぼめながら、日下部はカチャカチャとズボンのベルトを外していく。
やがて凶悪なモノが姿を現したところで、周囲でこの光景を見ている時雨以外の恋人たちに向かって呼びかけた。
「あー、これからこいつの扱い方の見本を見せてやる。ちょっと刺激が強いかもしれんから、あんまりそういうのに慣れてない奴は見なくてもいいぞ。こいつ以外に無理やりシたりはしないから」
肉体関係は一方的に性癖を押し付けても気持ち良くはなれない。少しずつ慣らしていって最終的に自分色に染めるつもりは多々あるのだが、それにしたって踏むべき手順というものはある。
――彼女の選択は成された。
誰もがどこかしらは狂っている者たちの集うこの物質世界で、今日もまた狂宴が始まる。
※前話から間が空きましたが、艦娘マリッジブルー時雨編の続き。これにて完結です。
満潮に夕立と、ここ数話で出番のあった艦娘たちの物語の集約点となっています。山城はともかく。
時雨は艦これの原作からしてクセ(あるいはヘキ)の塊みたいな艦娘ですよね。二次創作でのアレンジも作者ごとに色々で、ヤンデレだったりドスケベだったりド変態だったりします。
日下部鎮守府の時雨は、自分から再び日下部の竿に負けることを選びました。まぁちゃんとケッコンはしましたので、今後は(今までのような番外枠ではなく)れっきとしたハーレムの一員ですけれども。
艦これ本編、初月改二が来ました。秋月型初の改二にして、なんと4スロット駆逐艦です。色々とまた環境が変わりそうです。
SSの方は、次話から夏章後半のメインストーリーに入っていきます。作中時間も少し飛んで8月中旬、舞台も大きく移動する予定です。
この辺りから本作のカラーがまたがらっと変わる予定です。お待ち下さい。