日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~ 作:天空のトロイカ
ご注意下さい。
恋をしても賢くいるなんて、不可能だ。
オアフ島の新興市街地は、シンギュラリティ到来時に破壊されたハワイ州都ホノルルの一角を再建して築かれている。
日下部、川内、阿賀野、そしてゴトランドの四人は一通りの買物を終えた後、市街地中心部から海の方へと向かう道を歩いていた。
「ねぇ。この水着、ちょっと派手すぎじゃない……?」
恥ずかしさに頬を染めながら、TSした日下部は先を行く艦娘たちにか細い声をかける。
その身体には、先程買ったばかりの水着が身に付けられていた。肩紐なしのチューブトップ、いわゆるバンドゥビキニと呼ばれるタイプのもので、色はやや灰色に近い明るい黒。
着る前はこんなもの絶対に歩いている内にずり落ちると思ったものだが、実際は着てみると意外なほどにしっかりと身体に密着していた。
「そんなことないって。ここハワイだよ? このくらい普通普通!」
自分も水着姿を晒している川内にそう言われてしまっては、さすがに返す言葉もなかった。どう考えてもあちらの水着の方が派手な上に、腹部には相変わらずボディピアスが光っているからだ。
「ふふふ。照れてる提督さんって新鮮。かわいいー!」
「ゴトは黒より暖色系の方がいいと思ったんだけど、川内が譲らなかったよね。でもこれはこれで!」
阿賀野は白のトップスと赤のボトムスで構成された、ビスチェタイプの水着。ゴトランドは無事に経費で落とすことのできた、出撃用の制服でもある茶色いビキニとパレオ。
二人とも川内に負けじと、水着姿で堂々と街中を練り歩いているのはさすがの一言だった。
「なんか道行く人に見られてる気がするんだけど……?」
去年の秋にTSした時は鎮守府引きこもり生活の真っ最中であり、街に出て不特定多数の人間に見られるようなことはなかった。
だがこうして街中に出てみると、いかに女性の肉体が視線を集めやすいか嫌でも理解できてしまう。
「自意識過剰だなぁ。みんなこの程度には見られるし、逆に言うと別に注目されてるわけでもないから安心しなって」
「あ。でも提督さん美人だから、もしかしたらそれで見られてたりしてね。ふふっ」
「うん。私だったら遠慮なく見るだろうから、見られること自体は仕方ないと思うんだけど。あの、あのね、見られてるとなんだか恥ずかしくて、身体の奥がむずむずしてきて……」
素直に思ったことを口にしたら、艦娘三人は驚いたように顔を見合わせた。
「こ、これは」
「提督さん、もしかして女の子の素質ある?」
「その内段々とそれが気持ちよくなってくるよ。しょうがないよね、今の提督ってドMだし」
揶揄なのか本気の忠告なのか今ひとつ難しいところだが、ともあれ口々にそんなことを言われる。
「男に戻れなくなっちゃたりしてね。ゴトはそれでもいいけど」
「ゴトちゃん。確かに女の提督さんも可愛いけど、それは一度男の提督さんの主砲を経験してから言った方がいいよ?」
「そうだねぇ。人のこと散々調教しといて、今更ネコ専になられても困るんだよね」
当事者放置で本当に言いたいことを言いたい放題言われて、思わず苦笑する。
「そこは大丈夫。マウナケアから帰ってくる途中の空き時間で、まだ肉体の影響が大きくなかった時点での自我状態をIRコードに出力して保管してあるから。肉体さえ男に戻れば、すぐにでも以前の私になれるよ」
去年の秋は女子力強化ジュースという加工品を使ってTSしたわけだが、その時でさえ肉体の影響は決して小さくなかった。ましてや今回は川内の女子力をそのまま取り込んでいるのだ。
この程度の対策、想念工学者であればしておいて当たり前だった。
「そっか、なら一安心だ。身体の方は最初に夜戦した日にとっくにメス堕ちしてるんだから、もう諦めなって。可愛かったよ? それとも今の自分がメスになったこと、身体に思い出させてあげよっか?」
「あっ、そん……な……」
妙に凛々しい声音で川内に耳元で囁かれて、意志と関係なく身体が勝手に反応する。お腹の奥の方が熱くなって、脚から力が抜けてぺたりと地面にへたり込んでしまう。
いかにもドMといった姿に、艦娘三人が呆れたような視線を向けてきた……その時、
「いくらここがハワイだからって、往来の真ん中でそこまで白昼堂々猥談に耽るのはどうかと思うのですが」
横合いから不意に声をかけられた。
そちらに視線を向けると、そこにいたのは長谷川だった。いつぞやも見た純白のビキニとサマーハットを身に着けている。
おまけに傍らには、薄緑色のセパレート水着を着たエミリーの姿もあった。
「ひいっ、長谷川! ご、ごめんなさい……っ」
「……調子が狂うどころの騒ぎではありませんわね。というか、これを見てて犯したくなる気持ちは理解できますわ」
「こらそこ、クソレズ禁止! というか一瞬前の自分の発言を忘れんな!」
川内が威嚇するように、自分と長谷川の間に割って入る。
そんな両者のやり取りに、エミリーが苦笑を浮かべて、
「大丈夫よ、オフとはいえさすがに憲兵隊として見逃さないから」
そんなことを言ってくる。
なお以前ショートランド新興市街地のBARオーセンティックにて、栗山に鏢を投げつけられて殺人未遂が起きた時に「オフだから」という理由で完全スルーを決め込まれたことがあるので、まったくもって信用はできなかった。
「しかしヒナから話には聞いてたけど、本当にマコトが女の子になってるのねぇ」
「え、エミリー……」
「うーーーん。ごめんね、解釈違い。マコトはあの"Big Magnum"あってこそのマコトよ。早く元に戻って?」
「うわぁぁぁん、元レズのバイに振られたー!」
別に今更どうこうなりたいわけではないので構わないと言えば構わないのだが、悔しくないかと言われたら嘘にはなる。
「ちょっとー! 昔の恋人ズの出る幕じゃないよ! 今の恋人はあたしたちなんだから、勝手なことばかり言ってないで!」
引き続き威嚇姿勢を崩さない川内の言葉に、両脇をしっかり固めた阿賀野とゴトランドが同調して深く頷く。
「はいはい。たまたま通りがかっただけだし、もう行くわよ。ほらヒナ、先に有明と春風がレストランで待ってるんでしょ?」
「そうですわね。そうそう、乱交ならアラ・モアナのモーテルがお勧めですわよ。日本のラブホテルに近い設備を揃えてますし」
「いいからさっさと行けー!」
捨て台詞なのか助言なのか今ひとつ判断しづらいことを言いながら去っていった二人の背中に向かって、川内が鼻息荒く吐き捨てた。
アラ・モアナ・ビーチに存在する、とあるモーテルの一室。
白と青を基調とした内装に、明らかにダブルサイズよりも大きくて頑丈なベッド。その脇に置かれたソファーに腰を下ろしながら、
「まさか本当に連れてこられるとは思わなかった」
どこか引きつったような顔で日下部は呟いた。
先程ここを勧めてきた長谷川に対する反応からして、てっきり反発して無視するのかと思ったのだが、あの後川内が他三人を先導してアラ・モアナに真っ直ぐ足を向けた時は本当に驚いたものだ。
「別にこの場所に罪があるわけじゃないし? 他に当てもないからね」
悪びれることもなく、川内は堂々と言ってのけた。
そしてそのまま、室内の様子を興味深そうにきょろきょろと眺め回す。
「へー、本当に日本のラブホテルそっくりなんだ。って言っても、一月に松代で真琴さんと入った時しか知らないんだけどね」
往来から室内に入ったからか、川内はこちらを肩書ではなく名前で呼んできた。
「ああ、そういや確かに日本のラブホそっくりだな」
つられて室内を眺め回しながら、日下部もその言葉に同意する。
本場アメリカにおけるモーテルとは、本来は「自動車旅行者向けのホテル」だ。自動車社会であるアメリカにおいて、主要な幹線道路沿いに築かれた駐車場完備のリーズナブルなホテルは大変重宝するものだった。
しかしその文化が
一方、日本ではいわゆるラブホテルと呼ばれる施設が独自の発展を遂げたこともあり、「連れ込み宿としてのモーテル」と「駐車場付きのラブホテル」との境目はどんどん曖昧なものとなっていった。
そして21世紀。想念工学の発達により世界の技術・文化の中心地がアメリカから日本に移った「停滞の時代」を通じて、ラブホテルとほぼ同義化した日本式モーテルの概念は、本場であるアメリカへと逆輸入されていくこととなる。
もちろん本来の「自動車旅行者向けのホテル」としてのスタイルを貫いている宿もあるにはあるが、逆にここのように、完全に日本のラブホテルを再現した上でモーテルを名乗っている施設も少なくない。
「新興市街地だもんね、ここも。艦娘で一番多いのは日本艦だし、そりゃ日本式の施設が受けるよねぇ。さすがに阿賀野も何度も入ったことはないんだけどね?」
「ゴトなんか自我を獲得してからずっと鎮守府か母艦か海にいただけだから、こういうところは初めてかな」
「まぁヤる相手が私や他の艦娘だったら、別にわざわざラブホに来なくともいいからな」
艦娘の大半は相手が日下部であれ他の艦娘であれ、シたくなったら場所については互いの部屋が最初に出てくるはずだ。それは生活圏が重なっている以上、ある意味当たり前の話だった。
例外と言えるのは、鎮守府の外にそれぞれ恋人がいる妙高型姉妹くらいだろうか。
「でも今日は別だよ、デートなんだから。よーし、じゃあさっき水着と一緒に買ったアレに着替えよっか?」
川内がどこか弾んだような声で告げてくる。
「アレ、か……今着ている水着も水着で大概だが、アレも相当だよなぁ」
「いいから着替えた着替えた! あたしも着替えるからさ!」
言うが早いか。川内は自分の荷物から買ったばかりの衣装を取り出すと、おもむろに着ている水着を脱ぎ始める。
「川内ちゃん、豪快ねぇ」
阿賀野は呆れたように言うと、続けてじっとこちらに視線を向けてくる。
どうやら日下部に、拒否権などというものは存在しないようだった。
「こ、この格好……我ながら可愛すぎないか!?」
日下部は姿見に写った自分自身の格好を見て、思わずそんなナルシシズム全開な感想を口走る。
肉体が一時的に女性化して意識もそちらに引っ張られているとはいえ、基本的に日下部は「男性の異性愛者」であり、つまり性的指向は女性に向いている。
であれば、そこに写っているのが自分自身であっても可愛いものは可愛いのだ。
「ほら、着替えて良かったじゃーん? こっちもお揃い!」
得意満面に言う川内もまた、今の日下部と似たような服に着替えていた。
身体にぴっちりと合った肩出しボディスーツに、太ももから下は網掛けのタイツ。そして最大の特徴は、頭に付けたヘアバンドから伸びる造り物のウサギの耳。
そう、二人はいわゆるバニースーツに着替えていた。黒を基調とする日下部に対して川内は赤という違いこそあるが、差と呼べるのは色くらいだろう。
「二人とも可愛い! 阿賀野も買えば良かったかな」
阿賀野が当事者以上に喜色に満ちた歓声を上げた。
ちなみに日下部としては、阿賀野型で最もバニースーツが似合うのは阿賀野ではなく能代だと思っている。この場で言うと面倒なことになりそうなので自重するが。
「うん、可愛いわね! でも川内、なんでいきなりバニーなの?」
ゴトランドが首を傾げながら尋ねてくる。
「そんなの決まってんじゃん。今日は8月21日だよ?」
ゴトランドがAndraに大規模改装したのは8月20日だったので、翌日である今日は確かに8月21日だ。
「ん? まぁ確かにそうだけど……それが何かバニーと関係あるの?」
「あー、日本語の語呂合わせだからね。自我を持って長い陽菜さんとこのゴトならともかく、うちのゴトはまだピンと来ないか」
「あのねゴトちゃん、今日は『バニーの日』なの。8月21日でバ・ニ・イ。日本にはこんな風に決まった記念日がいっぱいあるのよ」
「あっ! なるほど」
「よし、せっかくだから記念写撮影しようか。阿賀野にゴト、よろしく!」
川内はノリノリで隣に座ると、写真映えを意識したポージングを決める。
阿賀野とゴトランドが携帯デバイスを取り出してカメラを向けて来ると、
「あっ、これ男に戻ってから黒歴史になっちゃうやつ。ダメなのにぃ……」
今自分が何をしているかをどうしても意識して、羞恥心が身体の奥から溢れ出してきた。
「なーに? こんな格好写真に撮られて興奮しちゃってるんだ」
「う、うん」
「本当は男なのに、恥ずかしくないの?」
「や、やだぁ……言わないでぇ……」
川内の一言ひとことに、下半身の帯びた熱が際限なく高まっていく。
「そんな子はしっかり、自分がメスだってことわからせてあげないとね」
言われた瞬間、頭の中が真っ白になった。
自分が今どんな顔をしているかは大体想像できる。だが、今までそんな顔は常に相手に対してさせる側だった。
そんなだらしなさ極まる顔をばっちり写真に撮られると、もうそれだけで絶頂しそうになる。
「まったく、こういう機会でもないと真琴さんを言葉責めなんてできないもんなぁ。でもたまにはいいよね」
「せ、川内。お願い、意地悪しないで」
「なに、もう欲しいの? じゃあなんて言えばいいかはわかるよね」
こちらの下半身がどうなっているかを完全に把握した上で、川内はなお無情にも宣告してくる。
ああ、本当に……何もかもが普段とは真逆で、そのことに一層の興奮をかき立てられる。
「は、はい……」
浅ましい願いを欲望のまま、隠すことなく口にする。
その瞬間、それを待ち構えていた三人は獣となり……どうしようもなく上気した肢体を、好き放題に蹂躙し始めた。
※というわけで前話の続きに当たる水着回です。ついでに8月21日、バニーの日ということでバニー姿もですね。
なお挿絵は日下部と川内に絞りましたので、残念ながら阿賀野の水着modeについては用意していません。お腹回りを隠しやすいビスチェタイプを用意しているところがポイントですね。
ちなみにゴトランドは公式で水着modeがあるので想像しやすいかと思います。
艦これ本編、これを投稿している翌日10/18にリアル2024年のハロウィン関係の更新があるようです。貴重な運改修を行える南瓜の入手機会ですね。
SSは夏章の終わりに入っていきます。あと残り2話の予定です。お待ち下さい。