日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~   作:天空のトロイカ

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※この話は日下部の一人称視点ではありません。
ご注意下さい。


大規模反攻上陸!トーチ作戦! -Chose promise, chose due-

約束したことは果たすべきこと。

――フランスのことわざ

 

 

インド洋北西部。アラビア海という名前で区切られた海域の西に、アデン湾は存在する。

北をアラビア半島、南をソマリア半島に挟まれた細長い形状のこの湾は、西のバブ・エル・マンデブ海峡を経て紅海へと繋がっている。そしてその紅海と地中海の結節点に築かれたのが、世界二大運河の片割れであるスエズ運河だ。

本イベント第二海域は、第一海域で進出したインド洋中央部付近を出撃地点とし、そこからアラビア海、アデン湾、紅海を抜けてスエズ運河を奪還するまでの戦いとなる。

 

『当然だが甲種作戦を選択した。前段ではここが一番甲で挑む価値があるからな』

インド洋の波濤を切って進む艦娘たちの下に、艦娘運用母艦「いが」の司令室から日下部の通信が入電する。

元々大本営は、この作戦はイベントではなくその準備段階と認識していた。それが急遽イベントの一部だと判明したことで、甲種作戦限定の報酬については惜しみなく大判振る舞いをすることにしたようだ。

熟練甲板要員+航空整備員。最新鋭の妖精を惜しみなく投入した空母用の補助装備だ。これを装備した空母の艦載機は飛躍的に航続力を伸ばすことができ、純粋な運用性能も大きく向上させる。

だが、この装備で最も特筆すべき点はそこではない。

 

『こんなものを()()()()()()()()()()()()()とか。今後の空母の戦いを別のステージに変える性能がある。必ず入手するぞ』

概念艤装はもちろん除くが、通常艤装の範疇においては明らかなぶっ壊れ装備だった。

だが意気込む日下部に対し、

 

「良かったです、湾に突入してから海峡までの輸送作戦で。逆だったら『沈んで来い』という命令だと解釈してましたけど」

「物資輸送がなんとか成功する前提で、18回で終了。道中撤退や輸送失敗があったらもっと回数が増える。こんな馬鹿みたいな量の物資輸送に駆り出されるなんて……不幸だわ……」

辛気臭い声で水を差すようなことを言ったのは、この海域の最初の作戦に挑む「遠征偵察部隊」を構成する航空戦艦・扶桑と山城の姉妹だった。

ちなみに扶桑が言っているのは、前世で自分たちの最期になったスリガオ海峡突破作戦のことだろう。そちらは先にスリガオ海峡を抜けてからレイテ湾に突入する予定だった……実際は突破できなかったわけだが。今回の作戦とは確かに「湾」と「海峡」の順番が逆になる。

 

『確かに甲種作戦としても、過去の傾向と比べ多すぎる気はするが。そこに文句を言っても始まらんさ。焦らなくて良いから、粛々と進めてくれ』

まったく輸送に成功できないようなら考え直すべきではあるが、日下部の見立てでは今の彼女たちはそこまで弱くはない。扶桑と山城はまだ改二に改装できていないことを差し引いても、だ。

イベントの期間や保有資源には、まだまだ余裕がある。であれば長くかかったとしても、いつかは終わる。それが道理だ。

 

「了解しました。はぁ、空はあんなに青いのに……」

「どうしてこんなに不幸なのかしら」

どこまでも辛気臭いことを言い続けてはいるが、それでも決して抗命したり任務を放棄しようとしたりはしない。

そう、彼女たちもきちんと艦娘なのだった。

 


 

山城の懸念通り、出撃は最短回数では終わらなかった。

道中で大破艦が出て撤退を余儀なくされたり、せっかく輸送した物資を敵艦隊に破壊されたりするケースが幾度もあり、ついに総出撃回数が30に届こうかという頃……ようやく遠征偵察部隊は輸送作戦を完遂させることに成功した。

輸送した物資が集積されたのは、湾の名前にもなっているアデンという街のあった場所だ。遠征偵察部隊の艦娘が輸送作戦に続けて周囲の深海戦艦を叩いたことで、日下部鎮守府はこの場所に基地航空隊を進出させることに成功した。

 

『遠征偵察部隊のおかげで準備は整った。後は紅海中央部付近に陣取る戦艦夏姫率いる艦隊を撃滅すれば、スエズ奪還作戦は成功となる』

日下部の通信を受けているのは、このイベント初の連合艦隊編成を組んでいる「遠征艦隊先遣隊」の艦娘たち。主力となる第一艦隊にホノルルを、随伴となる第二艦隊に神通を配置した、日下部鎮守府では捷三号作戦警戒以来の定番となる編成だった。

道中は非常に厳しく、遠征艦隊先遣隊にも中破の艦娘が複数名出ている。それでも大破艦を出すことなくバブ・エル・マンデブ海峡を抜け、紅海の入口でもさらに敵艦隊を一部隊退け、今はスエズ方面に向かって北上中だった。

と、その時。

 

「提督、シーフォックスから入電! 敵艦隊発見だ!」

ホノルルの言葉に、神通率いる第二艦隊が速度を上げる。

やがて艦娘の視力による肉眼が敵艦隊の姿を捉え、その光景が艤装通信を通じて日下部の下へも送られてきた。

 

『ボスは戦艦夏姫だな。なるほど、基地航空隊を使えることを前提にすれば大した編成でもない』

戦艦夏姫は一応は姫級の深海戦艦ではあるが、特定の艦の概念を元に創られたものではない。ル級やタ級とはもちろん性能に雲泥の差があるが、必要以上に恐れるべき相手ではないのは確かだった。

よってこの時、日下部の心には若干の余裕があった。

 

『しっかし去年の夏イベで見た時から思ってたが、相変わらずいいケツしてんなお前』

少なくとも、こんな軽薄な軽口を叩ける程度には。

戦艦夏姫の本体は、長い黒髪の美女のような形状をしている。この本体部分は戦艦棲姫という同種の深海戦艦にも共通するものだが、戦艦夏姫だけの特徴としては服装が水着になっていることと、巨腕を持つ自らの艤装に正面から抱きつくような格好をしていることが挙げられる。

相対するこちらには背中を向けたまま首だけを振り向かせていることとなり、必然的に後ろ姿を晒すこととなるのだが……その尻は大変に豊満かつ弾力的で、お尻星人を公言している日下部にしてみれば、思わずむしゃぶりつきたくなるような魅力にあふれていた。

だが。日下部の言葉を耳にした瞬間、第二艦隊に所属している駆逐艦の一人が声を張り上げる。

 

「司令官、いくら戦艦でもあれはダメー!」

駆逐艦・清霜。日下部の第十五夫人候補。

彼女にしてみれば自分が身体を張って戦っている時に、愛する司令官にそんなことを言われてはたまらないということなのだろう。

 

「清霜のお尻ならいくらでも見ていいから!」

『えー』

改めて送られてきた画像内の戦艦夏姫の尻と、第二艦隊の一員として前進を続ける清霜の尻を思わず見比べる。なるほど清霜の尻も小ぶりで大変に可愛らしくはあるのだが、率直に言ってあれと比べるようなものではなかった。

とはいえこれから決戦という時に水を差すのは、いくらなんでも提督として無能が過ぎる。ここは言わぬが花だろう。

 


 

遠征偵察部隊が輸送した物資で開設された基地航空隊の活躍もあり、遠征艦隊先遣隊の艦娘たちは戦艦夏姫の保有想念力を順調に削っていく。

やはり最初に感じた通り、道中の厳しさと比してボスの強さはそこまででもないようだ。

 

『次が最後の舞踏(ラストダンス)だ、遠慮なく踊ってこい! 遠征艦隊先遣隊、第四警戒航行序列!』

「了解! あいつを脱線させないとな! Open fire(撃ち方はじめ)!」

ホノルルが号令を下すと、第一艦隊の空母たちが一斉に艦載機を発艦させる。

先行する基地航空隊の陸攻に続けて艦載機による第一次攻撃が炸裂し、圧倒的な航空力によって混乱状態になった敵艦隊を、第二次攻撃によって追い打ちをかけて順に撃沈していく。

 

「神通、残りは戦艦夏姫とツ級eliteだけだよ! 後は頼んだ!」

昼戦を通じて第一艦隊が挙げた戦果は多大なものだった。

ただし残っている戦艦夏姫はほぼ無傷だ……そしてそれは、別に焦るようなことでもない。

なぜならここから先は夜戦、水雷戦隊の時間だからだ。

 

『艦隊、夜戦準備!』

「お任せ下さい!」

日下部の命令を受けて、神通率いる第二艦隊が敵艦隊に対して突撃する。

 

「露払い役になるのは、1号と同じで『北上』の運命なのかねー。酸素魚雷、敵ツ級に一斉発射するよー」

僚艦である北上が、やや離れた位置から魚雷を撃ち放つ。彼女はこれまでのイベントで活躍してきた北上……「1号」ではなく、同名艦の概念から生まれた別の個体、通称「2号」だった。

だがもちろん改二まで育っていることもあり、その雷撃は1号にも遜色ないほど的確にツ級を吹き飛ばす。

 

「各艦、戦艦夏姫に向かって突撃! 必中距離まで肉薄しなさい!」

第二艦隊の先頭を行く神通は、果敢にも戦艦夏姫に向かって探照灯を照射する。さらに夜偵が飛び、照明弾が打ち上げられる。それはおよそ夜戦において最高と言える状況であった。

北上がこじ開け神通が導いた戦艦夏姫までの航路を、駆逐艦たちが突き進む。

戦艦夏姫は必死に距離を取ろうとするが、その行き足を霧島の砲撃が止める。

そうして到達する……至近肉薄、それは水雷戦隊の本分たる距離。

 

「1番! 清霜にまっかせてー!」

「2番! 朝潮、突撃します!」

「3番! 綾波、狙いまーす!」

立て続けに放たれた魚雷は的確に戦艦夏姫の急所を捉え、通常の艦娘の上限(キャップ)を超えた攻撃力を発揮する。

まるで天衝くほどの水柱が爆炎と共に上がり、戦艦夏姫の存在を丸ごと呑み込んでいった。

 


 

艦娘運用母艦「いが」の司令室にて、日下部もモニタ越しにその光景を確認していた。

 

「お前たち、よくやったぞ。今回のMVPは綾波だ」

戦いで最も敵艦の保有想念力を削った艦娘には、簡易的な論功行賞をすることになっている。

特に物質的な報酬(インセンティブ)を伴うものではないが、それでも多少なりとも艦娘に対する励みになるのは間違いないだろう。

 

『綾波が一番だなんて、嬉しいです! 司令官の……』

「私より、僚艦たちのおかげじゃないかな」

『……はい!』

案の定、綾波の声はまるで弾むかのようだった。

 

『しっかし提督。今更だけどさ、あたしをここで切って良かったのか?』

ホノルルが言っているのは、恐らく史実特効のことだろう。確かにこの海域においては、ホノルルには特に史実特効は確認されていない。今回のイベントのモチーフと目される海戦において、アメリカの出番はかなり後の方になるのだ。

だが彼女についてはそれ以前の話として、

 

「いいんだよ。お前、もろに太平洋艦隊所属だろがい」

軽巡・ホノルルは太平洋で日本相手に戦った艦だ。アメリカ艦というだけでも若干の史実特効はあるかもしれないが、その程度であれば他にヘレナもいる。よって何とでもなるというのが日下部の判断だった。

 

『OK、いいならいいんだ! じゃあ神通、活躍したから帰ったら部屋行くな!』

「わかりました。準備をしてお待ちしてますね」

『おーおー、相変わらず夫婦仲よろしくて何よりだ』

思わずほっこりした気分で二人を眺めたところで、日下部は嫁艦候補の一人である清霜に声をかける。

 

「清霜は母艦に戻ってきたら私の部屋に来いな」

『え、えっ!?』

Chose promise, chose due(約束したことは果たすべきこと)。有言実行だ、お前の尻をじっくり見てやる。それともシたくないか?」

『……シたいです』

「よしよし」

照れたように顔を赤くしてうつむく清霜の姿には、思わず込み上げてくるものがあった。

 


 

遠征艦隊先遣隊が隊列を組み直し、帰投のため紅海を南下し始める。

それを確認して艤装通信の接続を切ったところで、

 

「提督、第二海域の突破おめでとうございます。いやー新型の空母用艤装、楽しみですねぇ!」

声をかけてきたのは、傍らで一連の戦いを観戦していた工作艦・明石だった。

 

「そうだな……って今気付いたがお前、2号の方じゃないか」

それは第一海域の突破報酬として着任した方の明石だった。

カタリーニ提督のような単艦教の信奉者でもない限り、有用な艦娘は同名の者を複数育成するのはごく当たり前のことだ。たった今出撃中の遠征艦隊先遣隊においても、北上をはじめとして何名かは複数育成している個体だったりする。

 

「あ、気付いてませんでしたか? そうです2号です。1号と話し合いまして、今後は改修工廠とアイテム屋は私が担当して、1号は泊地修理が必要な時以外は概念艤装開発に専念することになりました。それにより作業効率が上がりまして、難航していた赤城用概念艤装の開発も間もなく終了するようですよ」

「お、そうか。あれはかなり難航してたからな。そいつは朗報だ」

何しろ前回のイベント期間を通じてまったく音沙汰のなかったほどの代物だ。

近々明石1号および赤城本人を交えて、この件について話すべきだろう。

 

「それにしてもようやく改になれましたけど、演習とはいえ工作艦に撃ち合いとか冗談じゃありませんよ!」

「えっ!?」

「なんですか、その信じられないものを見るような目は」

どうやら明石の1号と2号はかなり個性に差があるようだった。

 

「そうだよな。お前の反応が普通だよな。どちらかというとトリガーハッピーの1号がおかしいんだ」

「あれと一緒にしないで下さい! 色んな明石と話しましたけど、あんなどんぱち好きの明石は他にいませんでした!」

「探せばどこかにはいるかもしれんが、私も見たことはない。清霜みたく他艦種になりたいと言うならまだわかるんだけど、あいつ『工作艦のまま』『撃ち合いがしたい』って言うからなぁ」

「だから今後出撃が必要な時はあっちを出して下さい! 私は工廠にいます!」

「さ、さよか。まぁ引きこもりにならない程度にな」

どのみち単純な練度は1号の方が上になるので、その点においては日下部にも否やはなかった。

 

「さてそうなると、だ。大淀の奴とはどうなってる?」

「一度夜戦に誘われましたけど、ピンと来なかったので断りました。それ以降は特にアプローチもされていないですね。やっぱりあの子には1号がお似合いですよ」

「ふむ、そっか。ならいいんだ」

どうやら大淀は「1号と2号の区別はきちんと付けろ」という約束をちゃんと守っているようだ。ならば日下部としても文句を言う道理はない。

 

「じゃあお前自身は誰か好きな相手いるの?」

「うーん、いるんですけどちょっとハードルが高そうで。だから気持ちは胸の内にしまっておこうかなって」

「ああ、なるほど」

明石2号の向けてくる視線にどこか既視感があった理由が、これで腑に落ちた。

 

「ん、そっか。それもまたお前の選択だよな」

日下部としてはありがたい話だが、はっきり言って来ないのであればこちらからどうこうするつもりもない。基本的にもう嫁艦たちは十分すぎる数がいるのだから。

 

「聞いてこないんですか?」

「私だって色々と学習してるんだよ」

「そうですか……ちょっと残念です」

明石はどことなく残念そうな表情だったが、「きちんと婚約した相手としか関係を持たない」というのは赤城と交わした約束だ。

清霜や大淀に約束の履行を求めるからには、日下部だってきちんと果たさねばならないのだ。




※2022年初秋イベ「大規模反攻上陸!トーチ作戦!」のE2に当たる話です。
この時の甲報酬の「熟練甲板要員+航空整備員(通称:超長スパナ)」は本当に凄い装備ですね。あれから2年以上経っても、空母の補助装備としてこれを超えるものは出てきていません。
なお超長スパナは後段E5でもう一度報酬として入手するチャンスがありました(乙以上)。

ことわざについて。
「約束したことは果たすべきこと」、これは日本人の感覚としても理解しやすいのではないかと思います。
日下部もそれ以外のキャラも、色々な約束を交わしています。この物語が始まるきっかけも、ある人物が別の人物と交わした約束をどうにか果たそうとしたことだったりします。

サブ艦について。
この頃から日下部鎮守府にもある種の余裕が生まれてきて、いわゆるサブ艦を用意できる艦娘も増えてきました。
イベントにおいては有用な艦娘のサブ艦がいるといないとでは、攻略難度に明確な差があります。特に矢矧辺りは「着任したら全員育てろ」とはよく言われますね。
明石に関してはやや例外で、本格的に育成するのは一人で十分ですが、持参装備の「艦艇修理施設」目当てで二人目を改までは育てた方が良いでしょう。この辺りは大淀も同じで、改で持参する「艦隊司令部施設」を目当てに二人目も改までは育てた方が良いかと思います(2個目は任務で「遊撃部隊 艦隊司令部」に変えられるので)。

艦これ本編、12/3から藤波改二の実装とクリスマス任務が始まりました。藤波改二の任務では清霜電探こと「逆探(E27)+22号対水上電探改四(後期調整型) 」がもらえます。クリスマス任務の方は、目玉は重爆の飛龍なんでしょうかね。当艦隊はSM.79×4をもらう予定ですけれども。
SS、次話はある艦娘が改二になる話です。お待ち下さい。
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