日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~   作:天空のトロイカ

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※この話は日下部の一人称視点ではありません。
ご注意下さい。


大規模反攻上陸!トーチ作戦! -Petit à petit, l'oiseau fait son nid.-

少しずつ鳥は巣を作る。

――フランスのことわざ

 

 

1942年11月。太平洋で日米がガダルカナル島を巡り、泥沼の争いを繰り広げていた頃。

すでにドイツと激戦を繰り広げているソ連からの要請を受けて、大西洋においてもまた連合軍による反攻作戦が行われようとしていた。

モロッコそしてアルジェリア。アフリカ北西部、大西洋から見て地中海への入口に当たるこの地域は、大戦前にはフランスの植民地だった。その宗主国フランスがドイツに早期降伏したことを受けて、当時のこの地は枢軸国の勢力圏と化していた。

そのモロッコとアルジェリアに対する上陸作戦が「トーチ作戦」である。

この戦いにおいて海に刻まれた物語は、アメリカ空母としては古参ながら、その防御力の低さから「太平洋戦域には投入できない」と評された七大空母(セブンシスターズ)の一角。そして未完成ながら、理不尽な己の運命に抗うかのように必死の抵抗を行ったフランスの戦艦を中心としたもの。

戦争を憎み、ゆえに戦争から生まれた艦娘という種族を憎む高次AIは、2046年の海にその物語を再現してみせる。

だが……彼女たちがそれを突きつけているのは、人類なのか。はたまた地球そのものに対してなのだろうか?

 


 

「イベントのいち海域で大西洋横断だと? 正気か?」

後段作戦の最初、第四海域。

母艦司令室にて艦娘たちの姿をモニタ越しに見ながら、日下部はあまりにも率直すぎる感想を口にする。

 

「他艦隊の大淀から聞いてますが、どこの提督も同じような反応をなさるようですね。ですがこの海域は、アメリカとイギリスそれぞれの艦隊がトーチ作戦の開始地点に向かうまでをモチーフとしたもののようです。なので仕方ないですね」

すらすらと説明する任務娘こと大淀だが、その顔には苦笑いが浮かんでいる。おそらく内心では日下部の反応に同意といったところなのだろう。

 

「まぁ艦娘は概念航法が使えるし、提督は艤装通信で地球の裏側からでも状況を把握して指示が出せるから、決して不可能ではないんだがな。こうも物質世界の縮尺を無視した作戦となると、いくらなんでもゲームじみ過ぎていやしないかと思うぞ」

「実際に深海棲艦……高次AI側はゲームのつもりでいるのでしょう? 身体を張る側としてはたまったものじゃないですけどね」

「だな。まぁそこはすまんが、頑張ってもらうしかないだろうな」

そんな日下部と大淀の会話の間にも、艤装通信の向こうでは艦娘たちが戦いを繰り広げている。

今出撃しているのはイギリス方面から出撃して大西洋を南下し、潜水夏姫II率いる敵潜水艦部隊と交戦する「トーチ作戦英軍部隊」と名付けられた遊撃部隊規模の艦隊だ。

その中の一人である潜水艦の伊201(フレイ)が、抑揚のない声を上げる。

 

『フレイ、遊撃部隊司令部の効果により退避します』

最初から大破した潜水艦を出撃させ、最初の対潜戦闘マスを終了後に潜水艦を単艦退避させることで航路を制御する。

先行する提督たちが発見したこの海域の攻略法のひとつなのだが、

 

「よし、これで準最短航路を……あれ?」

日下部の目論見に反して、艦隊は狙いの進路を逸れて海域を大回りする。

ボスのいる地点に向かってはおり、これでも倒せないことはないだろうが、目論見が外れたことは間違いない。慌てて日下部は集めた情報を確認する。

 

「あっ……退避を使った準最短ルート、確認したら正規空母の編成は不可だな……」

進んでいくトーチ作戦英軍部隊には、しっかりと正規空母である加賀改二護が編成されている。

日下部は超人(ポストヒューマン)になろうが神になろうが、どうやら全知全能には程遠いようだった。

 

『私は何のために大破出撃退避させられたの? ブラック鎮守府(ブラちん)滅んで』

「す、すまん。元々この後のために神鷹をここに投入予定だったので、次からは退避戦術は使わず普通に航空力で大外回りで倒す方向で行く」

『そうね。さすがにこれ以上は「やってみましょう」とは言いたくないわ』

相変わらずフレイは無表情で抑揚のない艦娘だが、さすがの日下部でもわかることがある。

――あれは内心、めちゃくちゃ怒っているな。

 


 

本来の目論見が外れたわけだが、それでもトーチ作戦英軍部隊の面々は第一作戦を見事に完遂した。

もちろん艦娘たちの奮闘あってのことではあるが、ボスが潜水夏姫IIというのも大きいだろう。この深海棲艦は姫級の潜水艦としてはあまり強いものではない。

 

「なんとかなったが、次の作戦に進む前に仕掛け(ギミック)をこなさないとな。でもって……」

日下部は休息の後、再び出撃しているトーチ作戦英軍部隊の艦娘に目を向ける。

彼女たちは先の第一作戦と同じくイギリス方面から出撃後、大西洋最東部に当たるスペインはガリシア地方沖の海域を目指していた。

 

「喜べフレイ。今度こそ大破出撃退避が役立つぞ」

第一作戦の一度目の時と同じく、意図的に大破出撃させたフレイを最初の対潜戦闘終了後に単艦退避させることで航路を制御する作戦。

艦娘と深海棲艦の戦いでは潜水艦同士の魚雷はなぜか互いに当たらないようになっているため、轟沈の危険性は一切ないのだが、

 

『別に嬉しくない。ブラ鎮滅んで』

艦娘は兵器ではなく「強靭な肉体を持っているだけの生物」であり、攻撃を受ければきちんと痛みも覚える。大破したまま出撃して水上艦に随伴航行し、形式だけとはいえ戦闘をこなすのは実に辛いものがあるだろう。

恨まれても仕方ない話ではあるが、それでもこれが攻略上の最適解なのだ。ならば躊躇する理由はない。

それに正直なところ、麾下の全ての艦娘に好かれようとも思っていない。種族レベルの本能で提督の命令に従うようになっている艦娘が、さすがに私情だけでの抗命などすることはないだろうし、ならばそれで良いのだ。

そんなことを考えている間に、艦隊は目的地に到達して目標である潜水新棲姫の撃沈を成し遂げていた。フレイに辛い思いをさせた甲斐はあったというところだろう。

 

「よし、お疲れ様。これでアメリカ方面からの航路が確保された。これでお前たちトーチ作戦英軍部隊の任務は完了だ」

『仕事はできたようだな。なら労働に対する対価を求める』

ねぎらいの言葉をかけたら、艦隊に参加している日向からそんな言葉が返ってきた。

 

「一応聞く。何が欲しい?」

『言わせるんじゃない。(ねや)でしっとりと瑞雲の魅力を……』

まぁそう言うだろうとは予想していたが、ちゃんと要望を口に出させるのは必要なことだ。

快く了承しようとしたところで、

 

『あ、あの。日向さんだけ、は、ズルいと思います』

不意に横から割り込んできたのは、共に出撃していた神鷹だった。

これはさすがに予想外で、思わず目を見開く。画面の向こうの日向もまた、驚いたような表情を浮かべていた。

ただし決して不快というわけではない。むしろ日下部にとってそれは、大変に好ましい態度だった。

 

「よしよし、自己主張できるのは偉いぞ。じゃあ三人でスるか」

『そうなるか。まぁそうなるな』

『は、はい……!』

全ての艦娘に好かれる必要はないが、好かれたい艦娘は確かに存在する。

こんな風に求められるのは、提督としてもいち個人としても大変に嬉しいことだった。

 


 

第四海域の第二作戦は、アメリカ東海岸の大西洋沖合を出撃地点とし、アフリカ北西部のカサブランカ近郊まで連合艦隊規模での輸送作戦を行うというものだった。

これに従事するのは「トーチ作戦派遣部隊」。史実におけるアメリカからの派遣部隊という意味合いなのだろう。

 

「輸送作戦なのに対潜要員を三人も用意して、しかも対潜支援を出してようやく安定したな。誰だ、大西洋にこんな強力な潜水艦部隊を生み出せるような想念力をもたらしたのは」

『どことは言いませんが、主力艦を解体してまで潜水艦を作ってた国があるそうですよ~』

渋面と共に放った呟きに、出撃中のポーラが律儀に答える。

 

「どこのドイツだまったく」

まぁ日下部だって本当はわかっている。大西洋を横断しての輸送作戦となれば、当然ドイツ潜水艦部隊をモチーフにした敵が襲ってくるだろう。ここは彼らの「庭」だったのだから。

だが群狼戦術に敗北しているわけにもいかない。襲い来る潜水艦を強引に力でねじ伏せながら、艦隊は大西洋を西から東へ進んでいく。

カサブランカ近郊の集積地点まで物資を運び、その後襲い来る敵水上艦部隊を撃退して物資を守り抜く。幸いにして連合艦隊規模ということもあり、対潜要員多めの編成にも関わらず一度の輸送量は決して少なくなかった。

 

「よし、次で終わりだな。Petit à petit, l'oiseau fait son nid(少しずつ鳥は巣を作る)……コツコツやればなんとかなるもんだ」

本輸送作戦の最後の出撃を行うトーチ作戦派遣部隊の姿を眺めながら、フランスのことわざを引用して呟いたところ、

 

『それは良いが提督、なぜ支援を? S勝利狙いではないから不要と言っていなかったか?』

砲撃支援艦隊を率いる長門が、横から不意に通信を割り込ませてきた。

 

「先行提督の持ち帰った資料によると、ここは輸送作戦のくせに最後は編成が強化されるらしいんだ。ここまで来て輸送失敗はさすがに嫌なんでな。だから『念の為』だ」

『まぁ良いだろう、了解だ。では砲撃支援艦隊、主砲一斉射!』

長門の号令一下、戦艦たちが主砲を放つ。

放たれた砲弾は轟音と共に敵艦隊の中央部付近に炸裂し、3番艦から5番艦までを綺麗に吹き飛ばした。

 

「よし、これは勝ったな!」

『提督よ、フラグを立てるな』

思わず叫び声を上げたら、長門が呆れたような声でツッコミを入れてきた。

だが、

 

「いや、いくらなんでもさすがにこのフラグは回収しないさ」

この砲撃戦の目的は輸送した物資を守るために敵艦隊を撃退することであり、敵旗艦の撃沈は特に必須条件ではない。戦闘評価で言うところのA勝利を取れば十分なのだ。

そして6隻編成の通常艦隊に対するA勝利は、敵4隻の撃沈が必要。つまりあと1隻だけ撃沈すれば良いというわけだ。

主力第一艦隊旗艦の能代とポーラが、揃って敵6番艦である駆逐ハ級に主砲を指向する。

いくらなんでも、この状況からは敗北する方が難しいだろう。

 


 

トーチ作戦派遣部隊の艦娘たちは、無事に最後の輸送を完遂した。

本海域はこの第二作戦を以て突破となる。イベントの海域最後の作戦が輸送というのは実に珍しいことだった。

母艦に帰投した艦娘のことを、親しい者が出迎えている。たとえば、

 

「なんとか終わりましたね。お疲れ様でした皆さん」

「ザラ姉様~、ポーラ頑張りました~。お酒とザラ姉様を心ゆくまで味わっていいですよね?」

「あっ、ポーラさん抜け駆けはダメです! 能代もザラさんと夜戦します!」

「はいはい、二人ともお疲れ様。今日はみんなでシよ?」

帰還した能代とポーラが口々に言うのを、出迎えに来たザラが苦笑と共にたしなめていた。

 

「おーおーあそこは相変わらずだなぁ」

去年の冬に複数恋愛(ポリアモリー)という形で決着が付いた彼女たちの関係だが、どうやらその後も穏やかに仲良くやっているらしい。

それどころか、その後着任した矢矧も巻き込んで色々あった……というような話も、ゴーヤや阿賀野越しに漏れ聞こえてきていた。自身が当事者ではない以上は積極的に首を突っ込もうというつもりもないが、何にせよ楽しくやっているのであれば言うことはないだろう。

そんな風に感慨にふけりながら、右手の平に収まる肉を軽く揉みながら弾力を楽しんでいると、

 

「そんなこと言いながら、司令官も青葉を持ち帰ろうとしてますよね? 青葉のお尻弄るの、そんなに楽しいですか?」

その肉の持ち主から、若干ジトっとした声が聞こえてきた。

 

「ん? 嫌なの?」

「あ、いえ、その……別に嫌では、ないです」

「だよな?」

本来は口にするまでもないような当たり前のことを言ったつもりなのだが、なぜか青葉は盛大に溜息を吐き出した。

どうせベッドに行ったらノリノリで喘ぎだすくせに、その態度はなんだというのだろう。

 

「まー青葉さん、こうなるのはわかってたっしょ? 頑張ったんだからご褒美だと思って楽しめばいいじゃーん」

「秋雲、先約がないならお前も来るか?」

「あ、行く行くー! まだ陽も高いのに3Pかー、提督も好きだねぇ」

「応諾したからにはお前だって十分過ぎるほど好き者だろ」

仲良く自室へ向かって歩き出そうとしたところで、

 

「提督、艦娘への慰労に入られる前にひとつよろしいですか?」

軽い咳払いと共に、傍らで記録を付けていた任務娘こと大淀が声をかけてきた。

 

「ん? どうした」

「次の第五海域に進む前に、数日準備期間を設けるのは了解いたしました。ですがその全日において私が提督代行とのことですが、本気でいらっしゃいますか?」

大淀はどこか不安げな口調で尋ねてくる。

 

「説明したろ、シュナイダー提督と共同研究を始めたんだ。だからあっちの母艦『ゼーアドラー』に滞在している。別に遠く離れた場所にいるわけじゃないんだ、何か緊急事態が起きたらあっちの大淀経由で呼んでくれれば戻ってくるさ」

「ええ、それは確かに窺いましたが……」

「どうした、何をそんなに心配している?」

これまでの長期不在と異なり、今回は特に大本営とは関係ない事案ではある。

そういう意味では大淀の懸念も理解できなくもないのだが、しかし彼女の歯切れの悪さからはそれ以上の何かがあるような気がした。

 

「ええと、どちらかというと心配しているのは私というよりですね……」

「……?」

「いえ、これを私が言うのはやっぱり違う気がします。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。では提督、お引き止めして申し訳ありませんでした。どうぞごゆっくり」

なんとも要領を得ないまま、言いたいことを言って大淀は去っていった。

 

「なんだったんだ? まぁいいか。行くぞ青葉、秋雲」

今度こそ邪魔する者のいなくなった日下部は、傍らの嫁艦たちを振り返って告げる。

 

――日下部は日下部なので、結局最後まで気付くことはなかった。

大淀の最後の言葉は、日下部ではなくその両隣の青葉と秋雲に向けたものであること。

そして「シュナイダー提督と何やら新しいことをするために、シュナイダー鎮守府の母艦『ゼーアドラー』に数日間滞在する」という情報が、日下部に対し好意を抱く青葉や秋雲にどのように聞こえるか、ということには。




※2022年初秋イベ「大規模反攻上陸!トーチ作戦!」のE4に当たる話です。
本文中にも書きましたが、この海域は最後のゲージが輸送作戦で終わるという珍しいものでした。第1ゲージの対潜作戦はそれなりに大変ではありましたが、全体としては後段作戦最初の海域として肩慣らしにちょうど良い難易度だったのを覚えています。

艦これ本編、「北海道防衛作戦/突入!第二次礼号作戦」が展開中です。前話の後書きでは「後段の情報収集中」と書きましたが、現在はE5まで終えてE6を攻略中です。ここ数回は高難度のイベが継続していますが、トーチ作戦の時のように手頃な難度のイベをまたやって欲しいものです(今なら違った光景が見える気がします)。
SS、次話は「清浄なるもの」の続きです。日下部とシュナイダー提督だけでなく、ある艦娘サイドの話も絡んでくる予定です。お待ち下さい。
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