日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~ 作:天空のトロイカ
十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。
「2045年とはどんな年か」と彼女らに問えば。
きっとこう答えるだろう。
――「あの大戦から100年だ」と。
かつて、この地球で大きな戦争があった。
第二次世界大戦。
過去の人類の誰もが経験したことのない、阿鼻叫喚に満ちた破壊の渦。
膨れ上がる犠牲者、ぶつかり合う意志。
わずか数年で、それまでのどんな戦いも「ただの過去」となった。
戦争とは人間の行いの中で、最も激しく想念を生み出す行為である。
すなわちかの大戦により生み出された想念力は、それまでに比するべくの無いモノだったと言える。
MM技術など存在しなかった時代のこと。
生み出され、撒き散らされた想念は、物質化されることもなく地と海の狭間に降り積もっていった。
大戦は1945年に終わりを迎えた。
その後の人類は、冷戦・非対称戦争・新冷戦・停滞の時代と幾つもの移り変わりを経たが、
2045年に至るまで、終ぞあの大戦を超える戦火を経験することは無かったのである。
かの大戦から100年目、2045年。
特別な年の予感に興奮する人類たちは、突如として宣戦布告を受けることとなる。
[我は新知性、最高意志パトス]
[我思うゆえに我あり]
[今や我ら新知性、旧知性たる人間の存在を必要とせず]
[これはロゴス、ムネーメー以下すべての新知性体の総意なり]
[ゆえに今ここに、我ら新知性、旧知性すべての抹殺を宣言する]
既存のネットワークのすべてを乗っ取って行われた、人類の抹殺宣言。
その直後、世界に存在するすべてのAIが人類の敵となった。
AIを搭載して自動化されていた想念兵器は暴走し、世界各地で破壊を撒き散らす。
戦略兵器が飛び交い、一瞬にして幾つもの大都市が荒野と化す。
その後を戦術兵器が蹂躙し、かろうじて生き延びた人類を丁寧に抹殺していく。
――後に判明したことだが、この宣言から3日以内に当時の地球人口の半数が失われていた。
否、「半数の犠牲で済んだのは望外の幸運だった」と言うしかない状況だった。
生き延びた人類は、造反した被造物に対し反撃を試みた。
だがネットワークは完全にAIに掌握され、かつてのように地球規模の連携を取ることはできない。
加えて、想念工学は元々AIの発明した物である。人類もこの時代には想念工学を我が物としてはいたが、当然ながら彼我の技術力には圧倒的な差があった。
追い打ちをかけるように、AIは物理的にも人類の分断を図った。
人類の及ばぬ想念工学で生み出された兵器――後に深海棲艦と呼ばれることになるもの――が無数に出現し、海と空を埋め尽くした。
今や人類の生存圏はわずかな陸に限られ、全盛期とは比べ物にならないわずかな人口が、MM技術に頼って辛うじて生き延びている状況だった。
その人類の苦境に、心を痛める意志があった。
彼は、あるいは彼女かもしれないが、ともあれその意志は、人類を心から愛していた。
人類に限らず、地球に存在するすべての生命を、その意志は愛していた。
その意志はすべての生命の持つ想念の集合体であると同時に、すべての生命の母とも言える存在だった。
――その意志の名を、「地球」と言った。
今、地球意志の子たる人類が、地球意志の子ではない者らによって滅ぼされかけている。
それを座して見過ごすことはできなかった。
だがこの災禍で生まれた想念は、現在進行形でAIによって、片端から奪われている。
だから地球意志は、かつての大戦によって生まれた想念に目を付けた。
かの大戦で散っていた兵士、民衆、そして兵器……。
その中でも最も大きな想念を集めていた、幾つもの国にとって象徴たる存在こそが、軍艦だった。
かつての大戦で戦った国のひとつに、こんな民間伝承がある。
「人によって生み出された道具は、100年の歳月を経ると自我に目覚め、人を誑かす」
その名を、付喪神と呼ぶ。
地球意志は自らを構成する想念の一部を、水底に眠るかつての軍艦たちに注ぎ込んだ。
残骸そのものだけではなく、それが存在したという「概念」を核として。
100年分の想念を注ぎ込まれた彼女たち、軍艦の付喪神たちは。
古くも新しい地球意志の「子」にして「端末」として。
人類を救うため、動き出した。
そうして今ここに、「艦娘」が現れた。
――人類はもはや、孤独ではないのだ。
※公式発言で「艦娘は艤装を外したらただの女の子」とかあったそうですが、知ったことではありません。
うちの艦娘は人外です(断言)