日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~   作:天空のトロイカ

38 / 232
※この話は日下部の一人称視点ではありません。
ご注意下さい。


激突!ルンガ沖夜戦 -暁の水平線に勝利を刻みましょう-

愛に支えられた行動をとれば、生き延びるだけでなく、勝利するだけでなく、成功するだけでなく、それ以上の事が出来る。

――ニール・ドナルド・ウォルシュ

 

 

ドレスにも似た衣装。

レイと呼ばれる、ハイビスカスの花を繋げたような形状の装飾品。

見た目は大変な美少女で、率直に言って日下部の好みには大いに合致している。

だが、もうあれが()()()()()()()()()()を理解している日下部が、そこに可憐の情を抱くことは無い。

 

『あれが今回の最終目標、軽巡新棲姫だな。神通、今回は母体艦娘が存在するな?』

通信機越しに聞こえてくる日下部の声に、

「ええ、きちんと感じます。彼女の存在を」

神通はそんな風に返す。

先の戦いで撃破した南方戦艦新棲姫や、苦渋を舐めさせられた戦艦新棲姫のようなデッドコピーでは無い、紛れもなく艦娘を生体ユニットとして取り込んだ個体。

 

「オマエラノタクラミ……アタシガゼェンブダッセンサセテヤルヨ!」

その言葉は艦娘ホノルルの意志から出ているように聞こえるが、断じてそのようなことは無い。

軽巡新棲姫を動かすAIが、勝手に彼女の記憶から捏造して喋っているだけだ。

 

『脱線、か……』

「鼠輸送、の話ですよね。あの戦いの光景に囚われている姿は、見ていて悲しいです」

『――そうだな。意志とは本来、自由であるべきだ』

三重想念拘束による、自我の剥奪。

軍艦ホノルルと艦娘ホノルル。彼女の過去と現在と未来、すべての尊厳に対する陵辱。

 

『さすがMM技術、想念工学そのものを生み出した高次AIども。完璧な仕事ぶりだ。……見ていて反吐が出そうになる』

通信機越しでもはっきりわかるほどに、日下部の声は怒りに満ちていて。

『――神通! 目標、「艦娘」ホノルルの救出! 過去の妄執など、今を生きる星であるお前たちには通じないということを見せてやれ!』

「了解しました! 旗艦・神通、出撃致します!」

命令を受け。

前世において怪物のごとき戦い振りをした艦娘が、誰よりも人らしい心を持って動き出す。

 


 

友軍に支援を要請した際に来訪する艦隊は、基本的には大本営直属の部隊となる。

だが当番制で、先に攻略を完了させた提督の艦隊から戦力を拠出する場合がある。

……例えば今が、そうだった。

 

「浜風、谷風、雪風。間もなく作戦行動海域だよ! 夜戦準備!」

日下部鎮守府のそれとは比べ物にならない、強力な装備に身を包むその艦娘の名は、川内。

彼女たちは、長谷川鎮守府所属の艦娘。

――そう、つまり元々日下部鎮守府にて発見された川内こそ、彼女である。

長谷川鎮守府にて強力な装備を持たされ、育成に適した海域で積極的に戦った結果、彼女は日下部鎮守府の川内よりも高い練度に到達していた。

 

「懐かしい、って言うほど長くはいなかったかな。こっちに来てからの方がよっぽど長いし」

そもそも、彼女の物語(ナラティブ)においては、日下部鎮守府はあまり良い思い出のある場所ではない。

向けられた愛の向こうに別の川内を感じてしまい、提督と衝突した結果飛び出してきた。

長谷川も長谷川で人格に問題が無いとは言わないが、提督としては掛け値なしに優秀ではある。

もはや自分にとっての「提督」は長谷川一人だと、胸を張って言える。

 

けれども、入れ替わりで日下部鎮守府に着任した川内からは、時折実に幸せそうな――それこそ、少し羨ましくなるくらいの――想念が伝わってくることがある。

だからあの入れ替わりはこれで良かったのだと、今では心から思っていた。

 

と、その時。

『――川内、ちょっといい?』

不意に、同じ艦の概念から生まれた艦娘同士が交わせる想念での通信が飛び込んできた。

川内は随伴艦の駆逐艦に停止するよう身振りで伝える。

 

「日下部鎮守府の川内? ……久しぶり。元気そうじゃん」

『おかげさまでね! その節はありがと!』

「別に、あなたのためじゃないし。私自身のためだし」

半分は照れ隠しで言ったのだが、

 

『そっか。じゃあ今度は、あたしと神通のために……聞いて欲しいお願いがあるんだ!』

 

そんな言葉を、ずけずけと返されて。

川内は元々図々しい艦娘だけど、こいつの場合は図々しいにも程がある……などと、真剣に思った。

 


 

味方は二水戦の六人のみだが、敵は連合艦隊の威容でもって迎えて来た。

その非対称性こそ、場所がルンガ沖であっても、高次AIがモデルにした海戦がコロンバンガラ島沖海戦であることを示している。

 

元になった戦いにおいて、日本側は軽巡1、駆逐艦5。

対するアメリカ艦隊は、軽巡3、駆逐艦10。実に倍の戦力差である。

そしてその圧倒的劣勢を跳ね除けて勝利したのが、前世の神通であり、二水戦なのだ。

 

ただし、

「ま、二水戦つってもあたしはいなかったんだけどね。この頃は北の方にいたからさ」

ルンガ沖夜戦では主役を張った長波ではあるが、これがコロンバンガラ島沖海戦の再現なのであれば、残念ながら彼女の物語とは言えない。

「うちだと浜風も雪風も大して育ってないし、まぁあたしたちがもう一回頑張るのもありかなってさ」

「モデルになった戦いが違っても、ここがルンガ沖なのは間違いないですからね。……撃たれた側で言うのもなんですけど」

長波の言葉を引き継いで、フレッチャーが軽く笑う。

 

そんな頼もしい言葉に、旗艦である神通は改めて随伴艦の面々を眺める。

第三海域のルンガ沖夜戦組から長波、黒潮、フレッチャー。

特に史実特攻とは関係ないが、純粋な戦力の観点から照月、時雨。

長波の言葉を借りれば、清々しいまでの「寄せ集め軍団」だが……。

それでもこの艦隊こそが、間違いなく現代における「二水戦」。

――自分の命を預けるに足る仲間たち。

 

『泣いても笑っても、これが最終決戦だ。二水戦、単縦陣で突撃!』

「「「「了解!!」」」」

日下部の号令と共に、艦娘たちは一迅の風となって突き進む。

 

「ドウダッテイイケドサァ、ウザインダヨ!!」

嘲笑と共に、軽巡新棲姫率いる敵連合艦隊が砲撃を放つ。

それを掻い潜り、歴戦の水雷戦隊は手始めに前衛となる、敵第二艦隊を着実に沈めてゆく。

 

「アハ……ッ! サスガニヤルネェ!」

だが、軽巡新棲姫の顔にはまだまだ余裕の色。

第二艦隊なぞ最初から捨て駒と言わんばかりに、砲撃を返してくる。

 

そしてそのうちの一弾が、黒潮を直撃する!

「あか~ん。こりゃあかんでぇ……」

無傷から一撃で中破。

損傷の大きさに黒潮は思わず、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!」

 

凄絶な笑みで軽巡新棲姫を睨みつけて吐き捨てた瞬間、被弾した黒潮を囮として雷撃に最適な位置まで肉薄した他の面々が、一斉に魚雷を放つ。

ルンガ沖の海面、戦闘で起きた波が荒れ狂うその下で。

ほとんど航跡を残さぬ必殺の長槍(ロングランス)が、敵艦隊に向け殺到する!

 

――爆音。

随伴艦である重巡ネ級二隻が吹き飛び、海の藻屑へと変わる。

 

だが、

「サスガニヤルナァ……デモネ…? コレカラガソロモンノジゴクダヨ!」

レイが吹き飛び、豊かな胸元を露わにしながらも、軽巡新棲姫はまだその動きを止めることなく海上に在り続けていた。

 

「沈めきれませんか……っ! ですが、まだです! 我ら水雷戦隊、本分は夜戦!」

無論、その夜戦で沈んだ記憶も忘れてはいないが。

それでも神通は、自らと麾下の艦娘を鼓舞するように叫ぶ。

 

――そして、運命の陽が落ちる。

 


 

「さすがに昼戦で決着は付かないか。神通の言う通り、ここからが本番だ。川内、友軍は……」

日下部は「いが」の司令室で、傍らにいるはずの秘書艦を振り返り、

「――川内?」

そして、絶句する。

「あなたがここの提督? ()()()()()、長谷川鎮守府の川内参上! ……提督。ここの川内は、なかなかイイね!」

 

……話は少し前に遡る。

 

「お願いって?」

『うん、これから友軍として支援攻撃してくれるでしょ? ちょっとそこ、あたしと入れ替わってくれないかなぁ?』

「はぁぁぁぁぁぁ!?」

長谷川鎮守府の川内は、思わず素っ頓狂な叫び声を上げた。

僚艦である浜風と谷風、雪風が心配そうにこちらを覗き込んでくるが、川内はなんでもないと手を振って交信に集中する。

 

「え、なんでせっかくの夜戦のチャンスなのに、あなたに譲れって?」

『実はね。昨日、こんなことがあってさ……』

日下部鎮守府の川内は、提督である日下部が乙作戦を断念した際に川内を旗艦にと打診してきたこと、そして神通のためにそれを固辞したことを話す。

『神通のことを思ったら、提督の提案は断るしか無かったけど。でも、あたし自身も神通のために、何かしたいと思ったの。あの子、あたしの入れ替わりを知っても、それでもあたしを姉と認めてくれたんだよ? ……それが、嬉しくってさ』

 

それは、本来であれば長谷川鎮守府の川内にとっての妹であるはずの存在。

もちろん全ての川内は全ての神通の姉だから、そんなのは単なるここにいる個体の感傷でしか無いが。

それでも、想いが本当に形にも力にもなるこの時代にあっては、そういう感じ方はきちんと意味があるはずで。

 

「――いいよ。そういうことなら譲ってあげる。一回はやったことだしね。その代わり、そのうちちゃんと返してね、約束よ? 夜戦の借りは軽くないからね?」

『うん、いいよ。約束!』

 

「でも大丈夫? 急に艦隊組んで、浜風たちとの連携取れるの?」

不安に思って、ついそんな質問をしてしまった川内だったが、

『あのさ、誰に言ってんの』

伝わってくる川内の想念は、不敵さに満ちたもので。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

ぐうの音も出ないほどの正論を返されて、川内はつい苦笑いを浮かべた。

 


 

そして、軽巡新棲姫とまみえている最前線において。

 

「三水戦、川内参上!」

「ね、姉さん!?」

さすがは姉妹か。神通はそこに現れたのが、紛れもない自らの姉だと即座に理解する。

「てへっ、友軍の川内にお願いして代わってもらっちゃった! ごめんね浜風、谷風、雪風! あたしの妹のために、力を貸して! さぁみんな、突っ込むよー!」

 

「川内さん、変わっていませんね」

「なんだよ、長谷川鎮守府の呼吸、忘れてんじゃねーかと心配してたら……」

「このままうちに戻ってもやれますね!」

浜風、谷風、雪風が口々に言う。

「ありがと。――でも、これが最後だよ。もうあたしは、日下部鎮守府の川内だから。みんなは、あっちの川内をよろしくね!」

 

川内は真っ直ぐに軽巡新棲姫を見据え、

「あたしはルンガでもコロンバンガラでも、あんたのいた『そこ』にいなかった。クラなんか、あたしがいない間に三水戦の司令部を全滅させられた! ……だから、悔しいけど。『ここ』では、あたしは脇役でいい!」

 

そう。今この場に在るこれは、川内の物語でもない。

脇役たちの攻撃が、軽巡新棲姫の装甲に孔を穿つ。

 

「主役は神通だ! 行っけぇーーーー!」

 


 

姉の切り拓いた道を走りながら、神通は呟く。

「大体、おかしいじゃないですか。長波、ルンガで『彼女』は生き残ったんですよね?」

「ノーザの奴は、陽炎と巻波が沈めたんだけどね。こいつは生き残ってたよ」

 

「フレッチャー、この戦いでも『彼女』は生き残ったんですよね?」

「Yes.艦首損傷はしましたけど、終戦まで生き残って、Battle star(従軍星章)を8個も貰いましたね」

 

「……そうですか」

そして、神通は辿り着く。

至近肉薄、それは水雷戦隊の本分たる距離。

 

かつて高次AIによって作られた、生体ユニットとして神通を取り込んだ上位の深海棲艦の名を、軽巡棲姫という。

その神通が抱いた負の想念を、別に正当化するわけではない。

だが。

 

――戦いとは、最後まで立っていた者が勝者だ。

――敗者の前では傲岸不遜に胸を張れ。それこそが、勝者の義務だ。

コロンバンガラ島沖海戦そのものは、日本の勝利だった。

しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、二人の物語(ナラティブ)に限って言えば、勝者と言えるのは……、

 

「なんで生き残ったあなたが、そんな負の想念に囚われてるんですか! あなたは生き残ったんですから、少なくとも私の前では胸を張って下さい、ホノルルさん……!」

理不尽を糾弾する声と共に、ありったけの想念を込めて放たれた一撃は、過たずに軽巡新棲姫の中枢を射抜く。

 

「ウソダ……コレガ……? ハイボク? コレガ……? シズムトイウコト……イヤダ……ヤダナァ……」

「――いいえ、沈ませません! 提督!」

 

神通の声を通信機越しに聞いた日下部は、

「もちろんだ! 作戦最終段階、ホノルルの三重想念拘束を解除する! DDK-762 いが、距離5000まで微速前進!」 

すぐにマインドハックの有効射程内まで進んだ「いが」の艦首から、白い光の帯が軽巡新棲姫及び神通に向かって伸びる。

 

「提督、地球意志とのリンク、結びました!」

神通は日下部に向かって力強く宣言する。

 

「よし、明石! MM機関フルドライブ!」

少し前にノーザンプトンを救出した時と同じように、日下部は力強く叫ぶ。

 

『記憶』、其は定量性を持った想念。

『思考』、其は蓋然性を持った想念。

『意志』、其は指向性を持った想念。

 

三要件を取り戻した艦娘の自我が、想念装甲の檻を打ち砕く。

 

「エ……? アナタ……ソノテ…掴んでも、良いの? やったぜ! 提督、それに神通、一緒に…!」

「はいっ!」

呼びかけに応え、艦娘ホノルルは手を伸ばす。

 

「Aloha!」

「良かった……」

ホノルルの手を取ると、神通はその身体をありったけの力で引き寄せた。

そのまま、強く強く抱きしめる。

肉体が、自我が、間違いなくここに存在していることを伝えるように。

 

「……なぁ、神通。あたしたち、今度は一緒に戦ってもいいのかな?」

通信機越しに聞こえるそのホノルルの声に。

こちらに背を向けている神通の姿を見て、日下部は思う。

 

――ああ、神通。

ここからは、お前の表情は見えないけど。

 

「はい、もちろんです!」

「そっか! いいね! あたしの事も、よろしく頼むよっ!」

 

――お前の意志という星の輝きは、よく理解できるよ。




※春イベE5-3です。
これにて、ゲームの春イベを元にした話は終わりです。あとは物語上の後始末として1話を用意して、春イベ編の完全終了となります。

ゲームでは夏イベに後段作戦が実装されました。
なかなかの鬼畜な難易度のようで、提督たちの悲鳴があちらこちらから聞こえてきます。
一方で、ツイッターの日下部垢では結構大きな動きを見せています。もちろん順番が来れば夏イベ話もいずれ書きますが、春イベ後~夏イベ間にも色々な話をやりましたので、そちらからになります。
とはいえ春イベ話が終わりましたら、まずは夏イベクリアに全力を注ぐ予定ですので、そこはあらかじめご了承願います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。