日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~   作:天空のトロイカ

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2045年 3

可能性の限界を測る唯一の方法は、その限界を少しだけ超越するまで挑戦することである。

――アーサー・C・クラーク

 

 

「2045年とはどんな年か」と問われれば。

きっとこう答えるだろう。

――「私が、自分の運命を見付けた年だ」と。

 

新冷戦の終わり頃に生まれ、物心付いた頃は停滞の時代の真っ最中だったから、子供の頃から想念工学は身近な物だった。

同時代の子供ならみんなそうなのだろうが、人生を想念工学に捧げるほどのめり込む者は、さすがにそう多くはない。

まして「想念工学とオカルトの親和性」について、大真面目に研究するような大馬鹿者など。

 

憧れていたフランス、研究において実に有意義だったイギリス。

実のある欧州旅行ではあったが、まさかこのような帰国になるとは誰が予想しただろう。

いち想念工学者として、この技術を生み出したAIたちに感謝の念を抱いていたし、だからシンギュラリティの到来を無邪気に期待していた。

だから2045年の年明けを、この欧州旅行の最中に迎えられるように調整したのは、私にとって自然なことだった。

 

それが良かったのか悪かったのかは、あまり考えたくない。

日本にいたら、少なくとも帰国のために人類統合軍の高速フリゲート艦に乗り込むことは無かった。

けどその代わりに、日本であっさり死んでいたかもしれないし……、

少なくとも、彼女には出会えなかっただろう。

あの夜のことを思い出すと、今でも胸が高揚する。

 

私みたいなのを置いてくれていても、うちの研究所は曲がりなりにも人類統合軍御用達だ。

だから伝手を使って調べれば、「艦娘」の存在についてはすぐ知ることが出来た。

危ない橋も渡ったが……なに。「汝の意志するところを行え」が、私の信条だ。

 

彼女たち自身の語るところによれば、「艦娘」とは第二次世界大戦で沈んだ軍艦の付喪神だという。

「地球意志」によって、人類を救うために派遣された存在。

初めてこの話を聞かされた軍上層部のお偉いさんの表情が、ありありと想像できるようだった。

何しろ、オカルトを大真面目に研究してたこの私が、つい「はぁっ!?」と叫んでしまったくらいだからな。

 

だが、人類には彼女たちの正体を疑うような余裕など無かった。

彼女たちが、人類の技術力では到底不可能な――それこそ、地球意志とやらと接続でもしていないと説明の出来ないような――莫大な想念力を使いこなし、深海棲艦を容易く撃破できるのは事実なのだから、協力してもらわないことには生存すらままならない。

彼女たちが「軍艦」なら全員女性なのは当然だし(軍艦が一般的に乗員から女性として扱われる、のは言うまでもないことだろう)、「付喪神」なら人間を誑かす(愛される、と言い換えてもいい)ために、軒並み美人揃いなのも説明が付く。

いささか強引だが、上層部はそんな風に艦娘を受け入れたようだった。

 

艦娘を指揮する存在として、近々「提督」という名の役職が設けられる……。

この情報を手に入れたその瞬間、私は研究所に辞表を出し、人類統合軍に潜り込む覚悟を決めた。

 


 

そうして、いささかの時間が流れた。

2045年は未だ明けていなのだから、実際は1年にも満たない時間のはずなのだが、体感ではもう8年くらい経っているような気がする。

 

自分で言うのもなんだが「文弱の坊や」だった私が、曲がりなりにも軍属である提督になるのは、いくら伝手があっても苦労した。

というか、その伝手が口を利いてくれる条件が「いざという時に自分の身は自分で守れるくらいに強くなれ」だったのだから、これはもう黙々と教練に励むしか無かった。

 

ようやく伝手に認められる頃には、もう艦娘の存在もだいぶ広く浸透していた。

すでに多くの先輩提督が、深海棲艦に対し戦果を挙げており、あの時あんなに苦労した欧州方面の行き来も、決して不可能な難題では無くなっていた。

どうにかこうにか苦労して、最低限の戦闘力を身に着けた私を見て、くだんの伝手がにこやかな笑みと共に放った言葉は、決して忘れない。

「あら、思ったより頑張りましたね。いいでしょう、大本営に推薦状を書いてあげますわ」

推薦状どうもありがとう。このクソレズ、いつかぶっ殺す。

 

「で、初期艦は誰にするか決めましたの?」

「……川内はいないのか?」

「ぶっ殺しますわよこのクソサイコ野郎。新規着任の提督が軽巡とか、寝言は寝て言いなさいな」

「人間以外にはちゃんと優しくするから安心しろ。で、本当にいないのか」

「最初は駆逐艦を育てて、艦娘運用の基本を学びなさいな。深海棲艦から新しい艦娘の概念核が見付かることもあるし、資源と引き換えにMM機関で既存の概念核を受肉させることも出来るから、その内川内も見付かるでしょう。そんなにレアな子ではないですしね」

「……そうか」

クソレズの言葉もどこか上滑りして、私は思わず俯いた。

 

――そんな私の胸倉を、いきなりクソレズが捻り上げる。

「ひとつ言っておきます。艦娘は同じ軍艦の概念核から受肉していても、一人ひとり違う子です。あなたがこの先、もし川内と出会うことが出来たとしても、それはあなたが帰国の時に見たという『川内』とは別の子です。それを絶対に忘れないように」

 

クソレズの、……長谷川の瞳には、一切の遊びが無い。

だから、私も誠意を以って、

「わかったよ、長谷川」

「……二言は許しませんよ?」

「もちろんだ」

ようやく、長谷川は私の胸倉を放した。

最後まで、その目は笑っていなかった。

 

そうして、私、日下部真琴は。

艦娘を率いる、「提督」になったのである。




※日下部提督は初期艦を結局誰にしたのかは、次の話で書く予定です。
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