日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~ 作:天空のトロイカ
ご注意下さい。
増援輸送作戦!地中海の戦い -夏の地中海に行きましょう-
情欲に流されるのはいい。だけど、流されているという自覚を持つんだ。
砂漠を超えて乾いた風が、紅海の海面に流れ込む。
もう少し前の季節なら、
だが幸いにしてその時期は過ぎており、眼前に広がる港には、からからの陽気が広がっている。
紅海・スエズ。欧州とアジア、そしてアフリカの交錯点。
人類が深海棲艦に一度は奪われ、艦娘と共に奪還を果たした、
日本近海のショートランド人工島から10日。日下部の鎮守府の艦娘運用母艦『いが』は、はるばるこのスエズまでやって来ていた。
深海棲艦がほぼ季節ごとに起こす「イベント」は、主に太平洋方面で行われるのだが、数回に一度こうして欧州方面で発生することがある。
人類統合軍・艦娘運用部隊の主力は、初期に登場した艦娘が日本艦ばかりであったことから、日本を中心に展開している。
別に世界中の海で日本艦娘は発見されるのだが、艦娘にとっても慣れた海の方が戦果を挙げやすいという事情がある。また艦娘運用体制を確立したモーリアック技術元帥が、日本に所在しているという点も大きい。
後に米艦娘や欧州艦娘が発見されるに従い、現地の艦娘運用部隊も少しずつ拡充しつつはあるのだが、まだまだ日本の部隊には及ばないのが実情だ。
だから艦娘運用部隊の共用語は今でも日本語だし、部隊の根拠地は世界中どこであっても「鎮守府」と呼ばれている。
そんな状況であるから、イベントが欧州方面で起きた場合、現地の艦娘運用部隊だけでは対処が難しい。
そのため、志願した提督を日本から欧州方面に派遣することが慣例となっていた。
その一員である日下部は、ひとまず先行するベテラン提督たちがイベントの情報を集める間、こうしてスエズ港に停泊させた「いが」で待機生活を送っていた。
では具体的には何をしているかというと、
「川内。おはよう」
日下部は目の前で眠る、自分の秘書艦に声をかける。
惜しげもなく晒した裸身。互いの体液で盛大に汚れた寝具。散らばる経口補水液の容器。
そして何より室内を満たす濃厚な臭いが、昨晩の激しい情事を物語っていた。
声をかけられた川内は、ゆっくりとまぶたを開く。
意識が覚醒し、昨晩の記憶が蘇る。
自分の置かれた状況を認識した川内は、
「あっ……御主人様、もう一回……ですか……?」
およそ10年から数年前にかけて。一番女性を喰い荒らしてた時期に、何度も耳にした二人称。
情欲を満たすことしか頭にない、媚態に満ちた表情。
そんなモノに堕した川内の姿を、日下部はどこか冷めた表情で見下ろしていた。
始まりは好奇心からだった。
「ところで提督って、ド変態の性欲魔人だけどさー」
「なんで手作りのディナーをご馳走した夜に、いきなりディスられてんの?」
得意料理のラタトゥイユをラム肉のソテーと一緒に、友人としてホノルルにご馳走してやったら、川内が拗ねた。
なので同じ物を用意してやったのだが、何故こんなことをいきなり言われなければならないのか。
「エロ漫画でよくある『前とか後ろにバイブ入れたまま、出撃させたり日常生活送らせる』とかって、やらせないよね?」
「お前、さっきのロゼワインで酔ったな?」
「……別にそんなことないけど。その、ちょっと……興味あって」
「あのね川内さん、リアルとフィクションの区別は付けましょう」
「わぁ。フィクションみたいな経歴してるくせに、すごく似合わないこと言われた」
余計なお世話だ。
「まず『バイブ挿れたまま出撃させる』についてですが」
「うん?」
「命がけで戦闘してるのに、そんなことするなよ! 深海棲艦舐めすぎだろ!」
バイブで感じて動きが鈍ったせいで轟沈、など冗談にもならない。
「なら、日常生活ならいいかというとですね」
「いうと?」
「ダメに決まってんだろ、そもそもアレでバレないのはフィクションだけだよ!」
実のところ、おそらく艦娘たちの何人かはやっている。それらしき状況を何度か目撃したことがあるが、見ないフリをするのはなかなか大変だった。
「なんかすごく理性的なこと言われた……。お尻ではしたがるくせにー」
「あれだって相手は選んでるよ。お前にはするけど」
「えー、なんでー?」
「お前が
性癖や性的嗜好というモノは、人それぞれだ。およそ知的生命はみんな何かの変態だと思ってはいるが、無理に自分の性癖を強要するのは日下部の流儀ではない。
――調教して強引に堕とすことを好んでいた時期も確かにあるのだが、少なくなくとも今は違う。
「えー、あたしMかなー?」
訝しそうに川内は言う。どうやら本当に自覚がないらしい。
なら、やることはひとつだ。
「よーし、そんなこと言う奴は!」
「脱がされた!」
「こうして!」
「拘束された!」
「これで!」
「目隠しされた!」
「ついでに猿ぐつわして!」
「――!?」
「んで、これを固定して……」
想念動バイブが何故しれっと出てくるかといえば、ここは日下部の部屋だからだとしか言いようがない。
「パワー、『強』と……」
「――、!?」
その絶大な威力は、かつて何人もの女性を強制的に絶頂に導き、抵抗の意志を刈り取ってきた。
艦娘についても川内に使うのこそ初めてだが、秋雲や青葉、ゴーヤとスる時には大変に重宝している。
「おー、喘いでる喘いでる。じゃあ2時間ほど席を外すなー。戻ったら、もっかいさっきの答え聞くわ」
拘束された身を精一杯仰け反らせ、悲鳴とも嬌声ともつかぬ声を上げる川内を、日下部は満足そうに眺める。
2時間後に仕上がっている姿を想像したら、心ばかりか身体までが激しく湧き立ってきた。
部屋に戻った後は、最高に気持ちのいいところに手の届く夜戦ができた。
性癖にはどうせ抗えないのだから、素直に認めて受け入れた方が色々と特だ、というのが日下部の持論である。
――だがそれは、ベッドの上という異世界だけのことであるべきだろう。
「おーい、朝です起きろー。あと理性を回復して下さい。ぶっ壊れたら解体して2人目の川内を育てちゃうよ?」
ベッドの上では御主人様と呼ばれようが、どれだけ隷属されようが一向に構わないが、それはあくまで情事の上での「プレイ」に留めて、日常ではあくまで対等の関係でありたい。
わがままかもしれないが、それが日下部が恋愛相手に求める嘘偽りない本音だった。
「……起きた。久しぶりに提督怖い」
さすがにがばっと跳ね起きた川内の目には、しっかりと理性の光が戻っている。
「おはようございます。昨晩は大変に可愛かったです」
「うー、ドSぅ……」
「私がドSなんじゃなくて、お前がMいんです。理解して下さい」
そんなことないよ、提督だってSいよという声が聞こえてきたが、敢えて無視する。
「別にMいこと自体は悪いことじゃないよ。自分の性癖は正しく理解して正しく付き合いましょう」
「はーい……」
川内は渋々といった表情で頷く。
そうしてしおらしくしている姿は、普段の夜戦バカとは一味も二味も違ったもので。
そんな姿を、日下部は改めてとても愛おしく感じるのだった。
かつての大戦における地中海の戦いは、陸におけるアフリカ戦線での攻防戦と、それを支える要衝マルタ島への補給作戦が中心だった。
大戦勃発時にマルタ島を保有していたのはイギリスだが、当然ながらイタリアやドイツもこの地を占領しようと、補給作戦に対する妨害ををあの手この手で繰り返した。
今回のイベントにおける第一海域は、そんなマルタ島を巡る攻防のひとつ。
船団護衛作戦である「MA3作戦」をモチーフとしたもののようだった。
最初の作戦はスエズ運河を超えて艦娘や基地航空隊を地中海に送り込み、東地中海の要衝であるクレタ島周辺の制海権を握るところから始まった。
おそらくMA3作戦の一環として行われた、エスペロ船団の戦いがモチーフのひとつとなっているのだろう。
作戦そのものは、ノーザンプトン率いる艦隊があっさりと勝利を持ち帰ってくれた。
ここからは遊撃部隊、7隻編成の艦隊で出撃となる。
その日の夜は艦隊編成を行うだけとし、後続の作戦は翌日以降とすることとなった。
そんなわけで日下部は、艦娘たちにその方針を伝えて回っていたのだが……。
「……」
一人の艦娘を前にして、日下部の足は完全に止まっていた。
必要なことを伝えないといけないのに、どうしても目が釘付けになって反らせない。
「どうしたの提督、じっと見て」
白露型駆逐艦2番艦・時雨。比較的初期に着任した艦娘である。
幸運艦として名高い前世の経歴から、艦娘となった現在も水雷戦隊として高い実力を持ち、あのルンガ沖夜戦においても遺憾なく活躍してくれた。
ただ性格がおとなしめのタイプということもあり、艦娘としての運用においてはともかく、一人の女性として意識したことはなかった。……今までは。
しかし今の時雨は、水着を着用している。
白露型の制服に似たデザインのトップスとパレオは、普段の時雨の性格からすると意外なほどに大胆なもので。
たとえば同じ白露型の夕立辺りなら、実に性格相応の格好だと言えるのだが、同じ水着であっても時雨の着るそれは、普段とのギャップが際立つものだった。
さらにとどめとばかりに、
「そんなに見詰められると、ちょっと恥ずかしいよ。ねぇ、僕に興味があるの?」
好きでそんな格好をしているくせにその表情は、ちょっと反則だろうと思う。
「遊撃部隊で川内使うから、演習標的艦は時雨にやってもらうことにしたんだが」
「あ、そうなんだね。いいよ、了解。……それだけ?」
「いや……」
その感情の名前に、本当は気付いている。そこまでウブな坊やではない。
だがそれを言葉にしてしまったら、きっと簡単に一線を踏み越えてしまうことも自覚していた。
時雨は正式な嫁艦候補ではない。手を出してしまったら、それは浮気扱いになってしまう……。
「いいよ、提督。夏の地中海なんて、誰だってちょっとくらい過ちを犯すものさ……」
ささやくような声で言われた瞬間、本当に理性がぶっ飛ぶかと思った。
いいや、実のところぶっ飛んでいた。
だから行動に移らずに済んだのは、
「はい、そこまで。気になって見に来たら」
的確なタイミングで現れた川内から、そんな声がかけられたからに過ぎない。
「あ、せ、川内。別に何もやましいことは」
「うんうん、提督はよく我慢してた。見てたよそこは。あと止めるのが一瞬でも遅れてたら流されてたと思うから、まったく褒めないけどね。赤城さんとの約束、自分の意志でしたんだから守ろうね」
「……」
返せる言葉は何もない。本当はどうであるか、自分自身が一番よく知っている。
すっかり押し黙った日下部を無視して、川内は時雨に向き直った。
「……で、時雨は相変わらずだね」
「なんのことかな?」
威圧するような視線を、時雨は涼やかに受け流す。
「別に。今追及しても、とぼけるだけでしょ? でもさ、阿賀野だって我慢して順番待ちしてるんだから、割り込みは許さないよ。これは嫁艦候補筆頭としてのケジメだよ」
「相変わらず怖いなぁ、川内の勘」
実際は怖がっているというよりは、厄介そうに感じているような声音で呟く。
いきなり展開した修羅場に、日下部は戸惑いを隠せなかった。
自分が責められるのは理解できる。しかし何故川内は、こうも執拗に時雨を責めるのだろう。
時雨はひたむきで健気な子のはずだ。今もたまたま、情欲に流されそうになった自分に応えてくれようとしただけのはず……。
「大体考えてることわかるけど、ツッコミ入れたらあたしが悪者になって時雨の思う壺だから、流すよ? そのうちわかるよ、こいつの本性」
そんな日下部の様子に、やや呆れたような声音で川内は言った。
「やだなぁ本性だなんて。提督、演習標的艦のことは了解したよ。僕、がんばるね」
一方の時雨はそんなことを言い残し、何事もなかったかのように去っていった。
その後ろ姿を見送る日下部の脳裏に、
『夏の地中海なんて、誰だってちょっとくらい過ちを犯すものさ……』
先程の時雨の言葉が蘇る。
――夏の地中海の物語は、まだ始まったばかりだ。
※簡易プロットを切ったところ、思った以上に章数が増えそうですので、急遽本話から章を分けることにしました。
というわけで「2045年の海で/晩夏」編になります。
夏イベの話がメインですが、春イベの時と異なりイベントそのものの話だけではなく、前章からの続きとなる話や新たな余話も挟まる予定です。
時雨について。
日下部の抱いた印象通り、最初はそんなに引っかかる子ではなかったんですが、水着にやられました。この辺は大体日下部と作者の感情はシンクロしています。
二次創作だと「性癖のデパート」とか言われる通り、ヤンデレだったり犬扱いされたり色々とキャラ改変が激しい子ですよね。日下部鎮守府の時雨も……そう…まあ、そうねぇ……。
ただ正直キャラ改変云々に関しては川内や他の艦娘も大概なので、今更ですね。
艦これ本編は秋イベ始まったはいいですが、前段作戦はえらい簡単でしたね。
さくっと甲クリアして、今はゆるゆると過ごしています。
後段作戦始まるまではこんな感じで過ごせそうですので、SSも着々と進めていきたいと思います。
リアルタイム組の皆さんは2ヶ月半前の夏イベのことを思い出しつつ、どうぞお付き合い下さい。