日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~   作:天空のトロイカ

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人より生まれ、その先へ往くモノ 5

一度ドアが開かれれば、どの方向にも進むことができる。

――ジャンヌ=アントワネット・ポワソン(ポンパドゥール夫人)

 

その艦娘が現れたのは、ノーザンプトン率いる第一特務艦隊がクレタ島周辺の制海権を確保している最中だった。

 

「我が名は、Queen Elizabeth class Battleship Warspite(ウォースパイト)! Admiral……よろしく、頼むわね」

肩まで伸びた金髪に、きめ細やかな白い肌。

人間であれば間違いなく貴種(ブルーブラッド)に属するであろう優美さが、碧い双眸に満ちている。

提督の前だというのに椅子型の艤装に座してはばからぬその姿は、まるで英国女王のような威厳に満ちていた。

 

「む、いかにもイギリスって感じの艦娘だな。よろしく頼む」

「ええ、おっしゃる通り、私は大英帝国の一つの側面を象徴する艦娘と言えるでしょうね。あら、ところでそれは……」

と、そこでウォースパイトは、艦内を行き交う小さな姿に目を止める。

 

「ああ、これは」

説明しようとしたのだが、それよりも早く、

 

「表象は艦娘をモデルに改造しているみたいだけど、ベースになる概念はBrownie(ブラウニー)Dwarf(ドワーフ)、それにSpriggan(スプリガン)……? つまりfairy(フェアリー)、妖精ということ?」

放たれた言葉に、思わず目を見開く。

 

「なん……だと……? 見ただけでそれが分かるのか、ウォースパイト。はっきり言ってこいつら、もう『妖精』の見た目なんか、一つも残っていないのに」

日想研時代のモーリアック元帥の発明した「ゴーレム」の発想を継承し、私が改良して作り出した「妖精」は、今や艦娘運用部隊になくてはならない存在になっていた。

とは言ってもその姿は、私が発明した頃とはずいぶん違っている。

当初の妖精は昆虫のような羽根を持っていたり、異形の怪物だったりと、伝承通りの姿をしていた。また一度与えた命令を変更することができないため、それが必要な場合は一度純粋な想念力に「解体」して、生産し直す必要があった。

 

それを地道に改良したのは、他ならぬモーリアック元帥だ。

曰く、艦娘という「全身を想念力で構成された生物」のサンプルを得られたことが大きいそうだ。あの与太話がまさか現実になるとは、さすがの元帥も想定外だったことだろう。

現在では妖精というよりは小人といった感じであり、艤装の整備や艤装制御の補助を中心として、艦娘に似た容姿のものも多く使われている。

与えられる命令もかなり高度になり、さらに使い捨てではなく命令の上書き更新も可能になった。

日常生活での掃除や洗濯などの雑用はおろか、拠点や設備の拡充、艦載機や基地航空隊などの搭乗員、果ては艦娘運用母艦の船員に至るまで、ほぼすべての労働力が妖精によって賄われていた。

 

ウォースパイトは私の言葉に対し、実に心外といった表情で、

 

「当然でしょう。私はイギリスを象徴する艦娘。イギリスは霧と魔術と異郷から生まれた国よ」

欧州本土から隔絶した島ゆえに、数々のオカルトが生まれては伝承されてきた国。

魔女禁止法なる法律が2008年まで大真面目に存続し、それが廃止されてからは魔女を名乗る者が多数姿を現した国。

世界でいち早く産業革命を果たし、一度は七つの海の支配者となったイギリスではあるが、そういった一面を持ち合わせていることは否定しがたい。

 

「ふむ。ウォースパイト、どうやらお前には、いち艦娘として以上に活躍してもらう必要があるようだ」

私は彼女の碧眼をのぞき込む。その眼光は鋭いが、胸を張って受け止める。

彼女はあくまで艦娘だ。女王のようであっても、そのものではない。

 

「――ようこそ、形而上学が完全勝利した時代へ」

私をどこか値踏みするように見ていたウォースパイトは、その言葉に微笑みを浮かべた。

 


 

それからまだ一週間ほどしか経っていないのに、彼女はもはや我が艦隊になくてはならない存在になっていた。

 

Spriggan(スプリガン)の概念を用いるのなら、murrian(ムリアン)も用意しなさい。本来のスプリガンは、ムリアンの呼びかけに応じて現れる妖精なのだから」

というアドバイスを元に戦闘用の妖精を改良した結果、運用効率が劇的に向上したのだ。

私や元帥にとってのオカルトは、あくまで想念工学という科学の補助知識だ。特定の分野において、専門家に及ばないのは仕方ないだろう。

 

そんなウォースパイトが今、私を見てまじまじと呟いた。

 

「Admiral、また凄まじいモノになったものね。表象は日向、つまり艦娘だけど、ベースになっている概念は、……Homunculus(ホムンクルス)。フラスコの中にいなくて良いの?」

「ははは。ホムンクルスと言っても別に本物ではないからな。オカルトの概念を使っていても、これはあくまで超人(ポストヒューマン)。どこまで行っても科学に属するモノさ」

この肉体は艦娘の強靭な肉体を、十分に再現することに成功している。

だがそもそもの前提として、深海棲艦は艦娘やその他の人間の用意できる想念兵装と比べ、数値にして10倍近い想念力の差で構成されている。

それが嘘偽りのない彼我の技術力差なのだ。

 

「艦娘が深海棲艦と戦えるのは神の加護――つまり地球意志との接続があるからだ。この肉体にはそれがない以上、深海棲艦との戦いは依然お前たち艦娘頼みになる。そこは変わらないよ」

「結構よ。問題ないわ」

ウォースパイトは力強い表情で頷いた。

この辺り、やはり彼女も艦娘ということなのだろう。

 

一方で難しい顔を浮かべているのは、この肉体の原型となるデータを用意してくれた日向だ。

夜の約束をして嫁艦候補を全員返した後、私はこの二人を自室に呼び出していた。

 

「本当に瞳の色が、私そっくりだ。提督、君は……」

「ああ。日向、お前のおかげでひとまず完成させられた。もちろんこれは第一段階でしかないが、それでも、お前のおかげだよ。ありがとう」

あの時日向が扉を空けて進むことを選んでくれたから、ここまで来られた。

心からの感謝の言葉を伝えたつもりなのだが、当の日向はといえば、妙に難しい顔をして押し黙っている。

 

「日向? どうした?」

「いや、なんでも……無い」

少し気にはなったが、こちらは感謝している立場だ。そのように言われてしまっては、それ以上追及するのは憚られる。

そんな様子を隣で眺めるウォースパイトは、

 

「……」

あくまでも無言のままだった。

 


 

日向とウォースパイトの次に私が呼んだのは、明石と夕張と大淀。

この鎮守府の運営を補佐してくれる艦娘たちだ。

 

「というわけで、ちょっと人間を辞めてみた」

「うわぁ……相変わらず提督のくせに、私や夕張より技術力がありますね」

明石のその感想に、思わず苦笑が漏れる。

 

「仕方ないだろう、前職はれっきとした技術者だったんだし。まぁなんだ、私や元帥は戦争に勝つための発明を一生懸命するんで、お前と夕張には艤装の改修とか、もう少し気楽な発明を任せるよ」

「了解です! じゃあ早速ですけど提督、作ってみたいモノがあるので、500万イデアほど想念力の使用許可をお願いします!」

はっはっは。

明石め、愉快なことを言う。

 

「それ二つ返事で許可出せる量じゃないよね!? さすがにちゃんと申請書出して!」

「はーい……」

500万イデアといえば人類のMM技術において、一度のMM機関作動で扱える上限値だ。

翔鶴型正規空母の概念核を受肉させるのに必要な想念力が、約240万イデア。大和型の肉体ですら400万超と、500万には届かない。

要はそのくらい途方もない数字なのだ。

 

と、そこで夕張が声をかけてきた。

どうやら私が不在の間に改二に大規模改装したらしく、大胆な水着に着替えている。

 

「ところで提督、その身体の実証試験とかしますよね?」

「ああ、うん。するぞ」

運動能力や反射能力といった一般的な肉体性能について、実証試験をして報告しなければならない。

当たり前だが確認しないといけない肉体性能は、性的なものだけではないのだ。

 

「私も混ざっていい……?」

夕張が手伝ってくれるなら、実験はスムーズに行えるだろう。

願ったり叶ったりと答えようとして、そこで違和感に気付く。

「混ざる」、だと?

 

「えーと。一応訊くけど、どういう実証試験のこと言ってる?」

「私も、夜は……また別の顔なんだから!」

「うわぁ。理解して言ってたか」

さすがに驚いて、思わず目を見開いた。

 

「お前、私のこと好きなの?」

「いえ、全然?」

「……だよねー」

私がうちの夕張から好かれる理由が特に思い当たらなかったので、この反応は予想通りだった。

 

「でも、純粋に実験として興味があります。いいじゃないですか、普段と違う艦娘とスるチャンスですよ?」

「そういうビッチな発言は嫌いじゃないんだが、でもダーメ。愛のない人とはしたくないの」

「そんな、ただのチャラ男みたいな顔になったのに、すごく違和感……」

「言い方ぁ!」

ひ、酷くないかこれ。確かに以前の知識が滲み出ていた顔と比べたら、いわゆる陽キャ寄りになった自覚はあるけども。

 

「そういうのは、昔にヤり飽きてるの」

学生時代、悠也さんに更生させてもらう前の自分だったら、二つ返事でOKしていた自覚はある。

だが今はそうじゃない。スるのは好きな人とだけでいい。

 

「好きって言ってくれたら、考えるけどな」

「提督みたいなこまごました改良が得意な人より、もっと大胆で斬新な発想する人の方が好きなんです。平賀さんみたいな!」

おう。言うと思った。

夕張という艦娘は、本当に平賀譲のことが好きだよなぁ。

一人心当たりはいるが、あの人はずっと傍にいる大本営の夕張でも落とせなかった難攻不落のガチトラップだし、そっちを差しておいてうちの夕張と結ばれる可能性は正直ないだろう。

 

「ま、なら不成立ってことで。そっちじゃない方の実証試験には、付き合ってもらうよ。私みたいなのが艦娘と殴り合って勝てるのか、とかも調べないといけないだろうし」

「はーい」

渋々といった様子で、夕張は頷いた。

 

「ところで大淀は、なんでさっきから黙ってる?」

「いえ、眼鏡仲間が一人減ったのは少し寂しいですね、と」

なに、こいつ眼鏡フェチだったのか。

 

「あー。まぁ私も好きで眼鏡掛けてた部分はあるしな。そのうち、伊達眼鏡でも掛けるかなぁ」

「本当ですか?」

「んー。でも正直子供の頃からずっと眼鏡だったんで、裸眼でよく見えるのが新鮮なんだよ。やっぱり飽きるまでは当分このままかな」

「残念です……」

大淀は露骨に落胆した様子を見せる。

――それを見る明石がどんな表情を浮かべていたか、この時の私はまだ知らなかった。

 


 

他の艦娘たちにも一通り超人(ポストヒューマン)の説明をしていたら、すっかり日が暮れていた。

 

「川内参上! あたし一番乗り?」

案の定と言うかなんというか、最初にやって来たのはこいつだった。

 

「いや、青葉は放っとくと逃げるから、ずっと一緒にいた」

「うわ、もう出来上がってる。鬼畜ー」

ベッドの上に裸で失神している青葉の傍に、先日自分をさんざん責めた想念動バイブを発見した川内は、そんな非難じみた言葉を上げた。

だが声が上擦っているのは聞き逃してないぞ。羨ましいと思っているな、このマゾめ。

 

「提督ー、ゴーヤと一緒に準備してきたよー」

「あんな準備してまで、後ろでする意味ってあるんでち……?」

続けてやって来たのは秋雲とゴーヤ。

うん、さすが。今回は回数こなすのが目的なところがあるから、じっくり目の前で準備させてられないからな。その辺わかってるのは偉いぞ。

 

などと言っている内に、金剛もやって来た。

 

「Hey、みんな早いネー! 青葉に至っては、もう出来上がってマース」

「お前に後ろの準備させるの、初めてシた時以来だけど、やり方忘れてなかった?」

「忘れようにも忘れられないデース……」

少しだけ遠い目をされる。

 

「すまんな、初めてでいきなり後ろに挿れたりして。川内とシた時に『もっと性癖ぶつけてきていいよ』とか言うからね? 艦娘みんなそんなもんなのかなって。正直、あの時は艦娘それぞれ性癖やら嗜好やらあるよなって思い至ってなかったよ」

「Hmm...提督、本当にここにいる全員とシてるんですネー」

「……まぁ」

私はここにいる全員の痴態を知っているが、皆は当然自分のことしか知らないか。

一部はガールズトークで話したりもしているだろうが、今日はがっつりそれを共有してもらうことになる。

聞くと見るとでは大違いだろう。

 

と、そこで失神していた青葉が意識を取り戻した。

 

「司令官……はっ、みんな揃っちゃってる? ねぇ本気ですか、恥ずかしい顔司令官以外に見られるんですよー!」

「おう、もちろん。しかも回数をカウントして報告する必要があるから、動画も撮るぞ。提出はしないが」

別にエロ目的のハメ撮りではない。あくまで実証試験のための映像記録だ。

まぁ後で個人的に鑑賞はするかもしれないが、これは言わぬが花だろう。

 

「さて、じゃあそろそろ始めるか。一番はもちろん、川内からな」

「ん、りょーかい。さすがにちょっと恥ずかしいかも」

「大丈夫、すぐに良くなるって。あー、お前たち、見ててノってきたら好きに絡んでいいぞ。今日はなんでもありだ」

そう言って私は、ぐるりと5人の嫁艦候補たちを見渡す。

この実証試験をすることを告げた時と同じ、羞恥と期待の入り混じった表情が、……正直とてもそそる。

 

「じゃあ川内。おいで」

「んっ……」

抱き寄せた川内の唇を奪い、ねっとりと舌を絡ませる。

 

かくして、狂宴の幕は上がった。




※ウォースパイトの着任話と、超人(ポストヒューマン)開発記の続きです。
ちなみに先に言っておきますが、この後の6P本番は描写しません。いや一回書いたんですが、これ載せたらR-18タグ不可避と判断しました。
日下部鎮守府はエロを目的とした話ではないので、R-18タグは付けたくないですし、断念です。

ウォースパイトについて。
イギリス王権の象徴である「レガリア」を身に着けている辺り、イギリスそのものを代表する艦娘として扱われているのは間違いないでしょう。
イギリスという国は産業革命を真っ先に達成して、19世紀~20世紀初頭(第一次世界大戦まで)の世界の支配者になった国ですが、一方で世界屈指のオカルト大国でもあります。
本作は艦これ二次創作としては珍しくオカルトに寄った作品ですので、ウォースパイトにはこういう役回りを担ってもらうことになりました。
なお、こんな感じで「オカルトの専門家」役をしてもらう艦娘は、他にも何人か登場予定です。
ちなみに本文中に書いた魔女禁止法の件、正確には「魔女禁止法」という法律は1951年に廃止されていますが、置き換えで「詐欺的霊媒法」という法律が成立しており、魔女を自由に名乗れるようになったのが2008年ということになります。

明日11/19から秋イベの後段作戦が始まります。「文字通り小規模」とのことであと2海域のようですが、難易度についてはあまり期待しない方が良いとは思っています。
季節ズレが激しいので、夏イベの話はなるべく早く終わらせたいところですが、ちょっと難しいかもですね。
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