日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~ 作:天空のトロイカ
ご注意下さい。
悪人が自分の目的を遂げるのに、善人が袖手傍観していてくれるほど好都合なことはないのです。
「コンテ・ディ・カブール、着任したわ。提督、改めてありがとう」
それは地中海弩級水姫を撃破し、艦隊がカターニアに寄港する少し前のこと。
「うん、良かった。これからよろしくな」
物質世界で実際に顔を合わせた彼女は、想念世界でのイメージよりも遥かに幼い容姿で、駆逐艦と言われれば信じてしまいそうだった。
率直に言って、戦艦という艦種に対する認識が変わったことは否定できない。
「ところでカブール、体調は大丈夫か? 何か顔が赤いみたいだが、熱でもあるのか?」
「な、なんでもない……!」
このにぶちん、と小声で呟くものの、その部分は日下部には聞こえなかったようだ。
ForceHの一員としてその様子を眺めていたホノルルと神通は、思わず頭を抱える。
どうやらノーザンプトンやホノルル自身の時と同じく、深海堕ちから救われたことをきっかけとして、日下部に恋をしたようだ。いずれ波乱の種になるかもしれない。
――そして、その光景を眺める艦娘がもう一人。
「……」
神通率いるForceH第二艦隊の一員として、地中海弩級水姫撃沈に貢献した駆逐艦。
傍から見てもいつも通りの微笑を浮かべているだけなのだが、その視線は間違いなくカブールを真っ直ぐに捉えていた。
「おーい、川内。ちょっといいか?」
「どうしたの? 今日一日難しい顔してずっと考え事してて」
ムネーメーとの激戦の後、日下部鎮守府の艦隊はジブラルタルまで戻ってきていた。
地中海の西の出口に位置し、アレクサンドリアに匹敵する人類統合軍の拠点となっているこの土地で、艦隊は次の作戦に進むための準備を進めている。
あのカターニアでの一件については、大本営宛に報告書を上げているが、不運なことにモーリアック元帥は地中海付近から一時的に離れていた。そのため正規ルートを通すしかなかったわけだが、正直内容が荒唐無稽すぎる。まずまともに取り合ってはもらえないだろう。
よってその件は後日、改めてモーリアックに直接報告するとして。
それとは別に日下部には、あの夜からどうしても気になっていることがあった。
「いやさ、あいつのことなんだけど。なんであいつ、あの時にあんなことに気付けたのかなって考えてた。で、出た結論が……」
日下部の至った結論を聞いた川内は、目を見開く。
「すごい。独力でそこまで分析するとか」
「まぁ、私もどちらかというとそっち側だからな。どうしようもない小物だけど」
「あたしも同意見。あいつ、本性はかなりの根性悪だと思うんだよね。根拠は例によって勘だけど」
「お前の勘は、もはや能力だからなぁ」
その川内のお墨付きが得られたのであれば、この推理に自信を持っても構わないだろう。
「で、どうするつもり?」
「うん、それも相当悩んだ」
日下部は一瞬だけ言葉を切る。
曲がりなりにも麾下の艦娘だ。あまり無碍なことはしたくはないが、
「放置だけはない。気持ちは嬉しいが手段がアウトすぎる。自分でやるならともかく、カブールをそそのかしたのは許せん。舐められるのも困るしな。誰が主人かわからせるために、首輪は付けないとダメだと思うんだが、どうやろうかなと」
だがそれでも、それは日下部にとっては一番やりたくないことだった。
だから、
「川内♪ 赤城との約束破るけど、見逃して♪」
猫なで声と共に川内の身体を抱き寄せ、戸惑っているその唇を塞ぐ。
それはこれから浮気をするという、堂々とした宣言。
そして川内はこの流れで出てきた言葉の意味を、正しく理解した。
「うわ、えげつな。本気で調教する気?」
「あいつも自覚できない首輪よりは自覚できる首輪の方が、まだマシかなーって」
どうせ相手の意志を塗りつぶすのであれば、逆らいようのない艦娘の本能によってではなく、自身のエゴによって成し遂げたい。それが本音だった。
「言っとくけど時雨にとっては同じことだし、ちっとも優しくないからね、それ?」
川内は溜息と共に言う。
「まぁいいよ。見逃すし、赤城さんもごまかしてあげる。けど」
「けど……?」
「明日、あたしにも同じことして欲しいです、御主人様」
ベッドの上では何度も向けられた、とろんとした瞳で懇願されて、日下部は本気で混乱した。
「お前言っとくけど、本気の調教なんだぞ? ましてや艦娘が相手だから、人間に対してはとてもできないような……」
「
言い終える前に、遮られる。
「そんなの、初めて夜戦した時から覚悟してる。あの時は結局、普通のことしかされなかったけど。でもずっとずっと、提督の『そういうもの』を受け入れたかった気持ちはある」
肉体を傷付けて砕いて壊して穢して貶める、「愛」の一言で片付けるには禍々しい性癖。
そんな物を好む獣が自分の中にいることを、日下部は理解している。
そして川内も、理解している。他ならぬそれこそが、二人が結ばれたきっかけなのだから。
どこか乾いた感情が込み上げる。
正直、抵抗感が無いと言えば嘘だったが、
「……、おう、お前もすっかりドMになったなぁ。いいぞ、使ってやるよ」
それでも、ここまで女性に言わせておいて恥をかかせるのは、日下部の趣味ではなかった。
「やぁ時雨。こんな時間に呼び出して悪いな」
業務が終わった後の執務室は、意外なほどに静かになる。
呼び出された時雨は、どこか潤んだ瞳で日下部を見上げながら、
「いいよ。それよりこないだは大変だったね。提督、大丈夫だったかい?」
「ああ、カブールが庇ってくれたおかげで大丈夫だった。と言いたいところだが、実はあれ意味はなかったんだよな」
「どういうこと? 提督が艦娘に近い身体になったからって、轟沈ストッパーは無いんだよね?」
「おう、無傷から一撃轟沈はありえる。だから
日下部はそう言って、懐から小型のAEDパックに似た物を取り出した。それを床に落とすと、たちまち数名の妖精の姿に変わる。
当たり前だが、時雨はそれが何か知っていた。
艦娘にとっての致命傷を最小限に抑え、轟沈から救うための想念兵装。
「……
驚きの声を上げる時雨に、日下部はつらつらと説明を始める。
「艦娘をモデルにした
艦娘が深海棲艦と戦えるのは、ひとえに地球意志の恩恵によるものだ。単純な想念力の数値で見れば、彼我には10倍くらいの差がある。
「でもそれだけなら、慌てて
艦娘には轟沈ストッパーがあるため、実は出撃での損耗率はあまり高くない。
艦娘の損耗率の大半は、ロスト・アドミラルによるものだ。イベントではどうしても、提督自身が前線に出る必要があるため、「ゲーム」としてのルールの外で深海棲艦に襲われて命を落とす提督が、常に一定数存在する。
そのため日下部は提督がダメコンを使えるようにすることを最優先事項として、
「だから実はカブールに庇われなくとも、私は死ななかった」
「……そっか、カブールも無駄なことしたねぇ」
日下部の言葉に驚いたような顔はしていたが、カブールに対する態度はどこか作り物めいて、いかにもわざとらしい。
「まぁダメコン一個節約できたし、何より気持ちは嬉しかったけどな。ところで時雨、……なぁ。なんでお前、ムネーメーの狙いが読めた?」
「なんのことだい?」
眉根ひとつ動かさないのは、肝が据わっていると褒めるところだろうか。
「とぼけんな。カブールが言ってたぞ、『提督が狙われる』とお前が教えてくれたって」
「……」
「だんまりか。なら、私が言い当ててやろう」
そして日下部は、時雨を睨み付ける視線をもはや隠すこともなく、
「――悪人の思考は、悪人にしか読めないからだよ」
「そんな、ひどいや……提督、僕のことが嫌いなの!?」
「いーや? 大好きですよ。水着とか本気で誘惑されそうになったし、根性の悪いところなんか、むしろ好感が持てる。私も善悪で言ったら悪側だしな」
わざとらしく涙目になってすがりついてくる姿を、冷たく見下ろす。
そんな表情を向けられたところで、残念ながら自分には何も響かないようにできているのだ。
「けどな。お前、勘違いしてんだろ? カブールにあれやらせてもいいのは、私だけだ。お前じゃない。自分で庇うならともかく、そそのかしてやらせたのは許せん」
結局何に怒っているかと言えば、ここなのだ。
時雨の行動の理由が、基本的には日下部の身を案じてのことであるのは理解している。多少はカブールへの嫉妬めいた感情があったにせよ。
だがその手段は許せないし、放置すればこいつは同じことを二度三度繰り返す。それは確信を持って断言できる。
何故なら、
「なぁ時雨。今の私の感情が理解できるか? わからんよなぁ多分」
「……?」
「だよなぁ。これだけ艦娘がいるんだから、そりゃあいてもおかしくないよなぁ。私の同類、
他者の痛みを理解できず、ゆえに非情な行いを平気でしてしまえる存在。
「そういうもの」を抱えた輩に最低限の社会性を身に着けさせるには、殴って言うことを聞かせるしかない。かつて、日下部自身が長谷川悠也にされたように。
もっとも別に自分は陵辱されたわけではないから、自分が今からしようとしていることは、それより数段酷いことなのだろうという自覚はある。
あるだけで、止めるつもりはまったくないが。
「提督、その表情に口調。もしかして……怒ってるのかい……?」
「ビンゴ!」
叫ぶと同時に時雨に飛びかかり、全体重をかけて押し倒す。必死に時雨は抵抗しようとするが、日下部も完全な素人ではない。軍隊格闘術なら提督着任前の嘉手納ブートキャンプで、鬼教官に最低限は仕込まれている。
艤装でもあれば少しは話が違ったのだろうが、日下部が怒っていることを察していなかった時雨に、当然ながらそのような用意はない。
そのま関節を極めると……容赦なく、その骨をへし折った。
両腕両足、文字通りの四肢に対して順番にその行程を繰り返す。
「やめてよ、痛いじゃないか!」
「痛いで済む辺りは、さすが艦娘だよなぁ。私も同じようなもんだけど」
逆説的に自分自身がどの程度までなら「痛いで済む」かを体感で理解してしまったから、同種の存在である艦娘の身体を破壊することに一切の抵抗感がなくなっていた。
人間だった頃は、あれだけ「獣」を必死に抑え込んでいたのに。
「ちなみに、私の一晩での射精記録は53発だ。あの時は6Pだったけど、今日はお前一人だ。足腰立てない状態で、足腰立たなくなるまでヤってやるよ」
その絶望的な数字に、時雨の顔が凍りつく。
「なに、心配するな。夏の地中海なんて、誰だってちょっとくらい過ちを犯すものさ」
それは少し前の夜に、時雨が日下部に告げた言葉。
奇しくもあの時の望んだ通り、今から自分は時雨と「過ち」を犯す。
それが時雨自身の望まないカタチにせよ、だ。
「だから安心して、ぶっ壊れろ」
「……ひっ」
時雨の腕の折れた部分に足を載せ、体重と時間をかけてゆっくりと踏み砕いていく。
見た目だけは健気な顔が痛覚に歪むのを見るのは、正直とても気持ちが良かった。
「おーい犬。生きてるか? 生きてるよな艦娘だし」
窓から差し込む光が室内に差し込んできて、日下部は短い眠りから目を覚ました。
夜の早い段階で、日下部の私室に移動している。執務室を汚すのは、さすがに躊躇われたからだ。
床に散らばる「さまざまな」体液。室内に立ち込めるすえた臭い。ドッグボウルによそわれて、上から白濁液のかかったドッグフード。
それらは全て、時雨の自尊心と矜持と価値観が粉々に砕かれたことを物語っていた。
「僕はまだ、ここにいても大丈夫なのかな……僕はまだ、ここにいても大丈夫なのかな……僕はまだ、ここにいても大丈夫なのかな……」
時雨は両手と両足をそれぞれ拘束され、虚ろな目で同じ言葉を繰り返している。
「おい犬、私が声かけてんだろ?」
日下部はにこやかに言い放つと、思いっきり腹部を蹴り上げた。
身体が一瞬だけ浮き上がり、空中で反転して背中から床に叩き付けられる。
「んあっ……! 御主人様、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
一瞬だけ飛び出した声が甘い物だったことを、日下部は聞き逃さなかった。
夜中に3回は入渠施設とこの部屋を往復し、そのたびごとに
その甲斐あって最後には無事、痛覚と快感の区別が付かない身体になれたようだ。
「ま、いい感じに壊れたようだな。これに懲りたら大人しくしてろ」
「……はい」
「よし、いい返事だ。いい子にしてたら、川内たちには内緒でまた使ってやるから、な」
実行したら赤城との約束をまた破ることになる言葉だが、まぁ……雰囲気とか勢いという物もあるのだ。
「じゃあ最後に一発するから、こっちにケツ向けろ」
朝の生理現象でそそり立つモノを向けて言えば、
「あ、ありがとうございます」
時雨は拘束されたままの身体を必死に動かして、じりじりと向きを変えようとする。
あまりにじれったくて思いっ切り踏みつけてやったら、朝から嬉し鳴きと共に盛大に失禁されて、思わず突っ込む前から絶頂しそうになった。
「提督。来ちゃった」
その日の夜、本当に川内は日下部の部屋を訪ねてきた。
妖精の労働力は、昨晩から今朝にかけての痕跡を綺麗に消し去っていた。多少の臭いは残ったが、香水を撒いて誤魔化している。この辺りは過去の経験上、実に手慣れたものだった。
そもそも川内の望み通りにするのであれば、どうせすぐまた盛大に汚れることになるのだ。
「なぁ川内、本気で同じことするのか? 時雨ならともかく、お前に対してはさすがに抵抗感あるぞ」
「ありがと。でも、して欲しいな。あたしに、提督のモノだって傷をいっぱい付けて欲しい。あたしって多分、普通の川内からどんどん離れていってると思うんだよね。『普通の川内』なんてものが、本当に存在するかどうかは別として」
自分のことを「あたし」と呼び、夜戦は好きだけど怖いとも思っており、びっくりするほど女子力が高く、フレンチの
そんな川内が他にもいるかと言われたら、おそらく答えはノーだろう。
「あたしはただの人間でも、ただの提督でもない、日下部真琴って一人の人間を好きになったんだからさ。ただの艦娘でも、ただの川内でもない、今ここにいるあたしを愛してくれるんなら。あたしを、提督専用のあたしにしてよ」
そこで川内は一度言葉を切り、真っ直ぐに日下部を見据えて、
「さあ、あたしと夜戦しよっ?」
「初めてシた時と同じ誘い文句じゃないか、それ」
「あはは、覚えてた?」
「当たり前だ、バカ。それはもうしっかり、お前自身の個性だよ」
ぎゅっとその身体を強く抱きしめる。
以前の非力だった人間の頃は、その身体は引き締まって強靭だと感じたものだ。
だが
「愛してるよ、川内」
けれども。
手折られることを自ら望む花が、そこに咲いていて。
花を手折ることに、愛を見出だしてしまう自分がいて。
「そういうもの」を抱えた両者が愛し合ってしまったのだから。
――いつだったか、モーリアックの語った言葉を思い出す。
『艦娘は、紛れもなく化物だよ。たまたまその意志の方向性が、人間への愛に強く向いているから、そうと気付かない人が多いだけだ』
日下部は考える。
自分だってすっかり性癖を壊されて、艦娘専用になってしまった。
「いいよ。ならどこまでも一緒に歩もう。私の愛する、可愛い可愛い化物たち……」
まだ痛みに耐えている川内が、今朝の時雨のように早くこの行為に快感を感じるようになって欲しいと、今はそれだけを考えながら。
愛を込めて丁寧に川内の肉体を、傷付けて砕いて壊して穢して貶める行為に没頭するのだった。
※今話のタイトルをどうしようかは割と悩みましたが、やはり川内が日下部の「そういうもの」、つまり本性を受け入れる話なので、これが一番妥当ではないかと。
うちの時雨は日下部と同じ、サイコパスなんぞになってしまいました。
何度か言っていますが、サイコパスは容易に悪に走りやすい性質なのは確かですが、きちんと誰か(通常は親だと思います)が自己責任、因果応報、最低限の社会規範を叩き込めば、いわゆる「善のサイコパス」として社会生活を送ること自体は可能です。
ただ昨今はしつける時に暴力を伴うと問題化しやすいですし、本当に問題のある暴力との見分けは往々にして付かないので、リアルでは難しい話だとは思います。
一方で川内については、完全にキャラが勝手に動きました。うちの川内は時々こうして、作者の思惑を超えて行動することがあります(ここまでの話でもありました)。
ちなみにこれが原因で、ちょっと別ベクトルの問題が生じたりしているんですが(赤城に関係しています)、それは「今は語るべき時ではない」ということで。
艦これ本編ですが、12/10で秋イベ終了です。私はどうにか甲乙乙でクリアしてスキャンプをお迎えできました。
クリスマスに向けて何があるか次第ですが、おそらくまた投稿ペースを上げられると思います。
いい加減冬なので、「夏イベの話」は早く終わらせたいですね(苦笑)