日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~   作:天空のトロイカ

6 / 232
提督と艦娘の出航 2

ある程度長く生きていれば、人生で起こることの大半は自分のコントロール外にあるということがわかってくる。しかし、どう向き合うかは自分のコントロール内なのよ。

――ヒラリー・クリントン

 

 

「来客? 誰だ?」

「私も着任したばかりなので、お会いするのは初めての方でして。他の鎮守府の提督ということですが」

 

……!

瞬間、沈みかけた意識が一気に覚醒する。

新米も新米たる私の鎮守府を訪ねる提督など、心当たりは一人しかいない。

 

「名前は? 何と名乗っていた?」

「ええと、長谷川陽菜大佐と……」

 

やっぱりか!

まぁ、あいつが私の後見人なんだから、そりゃあ様子を見に来るよな!

こればっかりは、失念していた私の落ち度だ。

 

「長谷川の奴は、今どこにいる!?」

「それが、来賓室でお待ちいただくように申し上げたのですが、電が出撃中とお伝えしたところ、勝手に港の方に向かわれまして……」

「おい、それを先に言わないか! 大淀、お前でも明石でもいい! 誰か手の空いてる妖精を使って、長谷川の足を止めるんだ!」

 

「え、提督……?」

咄嗟に指示を飲み込めていない大淀に、つい苛立ちを覚える。

それでは実戦で困るぞ!

 

「いいから急げ、電が危ない……!」

叫ぶや否や、私は司令室を飛び出して走り始めた。

 


 

――果たして。

そこには、酸鼻を極める光景が展開されていた。

 

まるで中破でもしたような、大きく乱れた着衣。

かろうじてその全部は剥がされていなかったが、

 

「うふふふぅ……やっぱり雷電姉妹は最高ですわねぇ。髪色も似てますし、わたくし、どうにも他人とは思えませんの」

「はわわ!? 恥ずかしいよぉ……!」

 

押し倒した電のスカートの中に顔を突っ込んでいるのは、幾ら同性と言えども犯罪以外の何物でも無いだろう。

 

「電から離れろ、このクソレズ……っ!」

 

私は腰のホルスターから拳銃を引き抜くと、微塵も躊躇なくぶっ放した。

今なら軍法会議にかけられたとしても、「艦娘保全命令に従った結果だ」と言い訳が立つ。

それ以前に……。

 

「ちっ……無粋ですわねクソサイコ野郎!」

 

直前まで変態淑女極まるムーヴをしていたくせに、長谷川は素早く電のスカートから頭を引き抜くと、その姿を一瞬揺らめかせた。

ぎらりとした銀光が一閃されたかと思うと……、

「甘いですわね。その程度で陽菜を討てると思いまして?」

軍刀を引き抜いた長谷川が、放たれた弾丸を真っ二つにしていた。

 

まぁ、こうなることはわかっていた。

そもそもの話、駆逐艦とはいえ艦娘の身体能力を、生身の人間が圧倒してる時点で普通ではないのだ。

「お前、……艦娘やれよ」

「地球意志と接続できるならとっくにやってますわ」

その言葉に溜息を返して、私は改めてクソレズこと長谷川陽菜の奴を睨みつける。

 

人類統合軍の青い軍帽から除く、ライトブラウンの髪。

前髪はカールボブにカットされており、全体としては波がかって肩の少し上まで伸びている。

やはり青色をした軍服に包まれる胸は、結構な物をお持ちで……。

正直、それっぽい服に着替えて艤装を付けさせたら、そのまま艦娘と言って通用しそうな輩ではある。

 

「う……司令官さん……」

「大丈夫か、電!? 無事か、その、……貞操は」

「だ、大丈夫なのです……ちょっと驚きましたが……」

まぁ、そりゃあ驚くだろうな!

「失礼な。陽菜は合意の無い相手にそこまでは致しません。せいぜいクンカクンカまでですわ」

「黙れクソレズ、今すぐその口を閉じろ。と、とりあえず大淀、電を入渠施設に連れていってやれ。電、本っ当に申し訳ないんだが、犬にでも噛まれたと思って忘れてやってくれ……」

「了解しました……」「はい、なのです……」

 

入渠施設に向かう二人の後ろ姿を見送りながら、溜息をついた。

戦闘終了直後の電の行動に、何とも言い知れぬ感情を抱いた記憶は、この時すっかり消え去っていた。

 


 

「お前、自分のところの艦娘にもあんな感じなのか?」

「自分を偽って生きるのはもう止めた、とあの時言ったはずですが?」

くそう。こいつ、的確に私が追及できなくなる話運びをしやがる。

「それに、あんな風に出来るのはせいぜい駆逐艦までですよ。軽巡以上にあんなことをしようものなら、あっさり返り討ちに遭います」

「……、お前がか?」

「ええ。艦娘とは、そういうものなのですわ」

改めて、自分がとんでもない世界に足を踏み入れてしまったことを実感する。

 

「提督なんて、まともな人間には務まりませんわ。艦娘は人間を愛し愛されるよう、人間そのものを嫌えないように地球意志に『設定』されているようですが……実のところ人間の側には、『艦娘を愛する以外の選択肢は残されていない』のですから。

そんな状況で無邪気に艦娘を愛せるのは、陽菜やあなたのような人格破綻者くらいでしょうね」

 

長谷川の言葉は、……苦しく重い。

 

「まぁ、そんな固く考えなくてもいいのですわ。『そういうものだ』と理解してしまえば、艦娘は最高ですわよ! しかも愛は強い想念を生むからと、大本営がケッコンカッコカリなんて制度を用意して後押ししてくれる! ある意味、あなたの信条には最高に合致してるのではなくて?」

「汝の意志するところを為せ、か」

「これでもね、陽菜はあなたに感謝してるのです。あなたのおかげで、陽菜は女性しか愛せない自分を受け入れることができました。だから、あなたも自分の愛を見付けられるといいと思っていますわ」

そう言って、長谷川は不意にその顔を綻ばせる。

「とはいえ、川内だけを大切にして他の子を蔑ろにするようでは、それはそれで提督としては問題がありますから。だから、今日あなたが電のために怒れたのを見て、嬉しかったのですわ」

こいつ、まさかそこまで考えて……?

 

「ああ、それにしても出撃帰りの電の芳香! 実に芳しかったですわ! 陽菜のところの電も最高ですが、やはり個体ごとに少しずつ違うのですよね……!」

 

「お前、今すぐ5回死んで来い!」

うん、前言撤回。ただ単に欲望に忠実だっただけだな!

 


 

一応、必要な書面をまとめて長谷川に渡し。

自分の鎮守府に帰る長谷川を見送る時に、こんなことを言われた。

 

「きっとこれからあなたの鎮守府にも、少しずつ艦娘が増えてくるでしょう。川内でも他の子でも、好きな子を贔屓するのは構わないと思いますわ。嫉妬する子とか出てくるでしょうけど、それはあなたとその子の問題ですので、自分で解決なさい。

……けど。『嫌いな艦娘』だけは作らないように。

艦娘の本能に関係なく、人類は艦娘を愛する必要があるのです。忘れてはいけませんわ」

 

「……ああ、わかった」

 

体感では8年ほどにもなるこの長い戦いの、その初期から提督として身を置いていた長谷川。

彼女と自分の艦娘たちの間には、どんな物語があったのだろう。

いつか聞いてみたいとも思ったが……

 

「とりあえず今は、自分の艦娘が優先だな」

独りごちて。

私は電の様子を見舞うため、入渠施設に向かって歩き出した。




※はい、またオリキャラメインに戻りました。
にしても、まだメインヒロイン(川内)が出てきて無いんだよなぁ……。

【長谷川陽菜】

【挿絵表示】

性別:女性
年齢:27歳
職業:提督
一人称:陽菜
秘書艦:有明

太平洋戦争を戦った曽祖父を持ち、祖父・父・兄ともども海上自衛隊所属という海軍一家の出身。
シンギュラリティの到来時に、自身を除く一家全員を殺されており、そのため高次AIたちに対して強く復讐を決意している。
艦娘の出現初期から提督を務めており、艦娘運用に知悉している。また新米提督となった日下部の後見人も務める。

先天性の同性愛者(レズビアン)だが、幼い頃は自身の性的指向を自認することができなかった。
そのため感情を押し殺して生きるようになり、一見すると気弱で自分の意見を主張できないような印象を受ける少女に育った。
が、学生時代のとある一件において自身の性的指向を自認できるようになり、今までの反動もあって非常に快活かつ性的に奔放(要するにクソレズ)な人物へと変化した。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。