日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~   作:天空のトロイカ

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適材適所は難しい 表

恋はまことに影法師、いくら追っても逃げていく。こちらが逃げれば追ってきて、こちらが追えば逃げていく。

――ウィリアム・シェイクスピア

 

あれから少しだけ時間が経ち、電以外の艦娘も少しずつ増えてきた。

 

それは、南西諸島沖でのこと。

第六駆逐隊を率いて、駆逐ホ級以下の敵水雷戦隊を撃滅した電が、不意に声を上げた。

「司令官さん、深海棲艦から艦娘の概念核を発見したのです!」

「よし、いつも通り気を付けて回収するんだ」

 

地球意志により生成された艦娘は、その全員が人類の元に辿り着けるわけではない。

中には先に深海棲艦に発見され、その身体を破壊されて捕われる個体もいる。

そのような艦娘を発見・保護することは、提督にとって重要な責務だ。

何故ならこうやって発見された艦娘は、原則として発見した提督の鎮守府に所属することになるからだ。

初期艦である電、そして艤装抜き状態の「アイテム屋」こと明石と「任務娘」こと大淀だけは大本営から与えられた個体だが、それ以外の艦娘はすべて、このような経緯で増えたものだった。

 


 

「それで、明石? 新しい艦娘は誰だ?」

「少々お待ち下さいねっと……」

明石が工廠の中央部に設置された、巨大な機械を操作しながら答える。

 

メンタル・マテリアライズ・エンジン。日本語ではMM機関と呼ばれる装置。

高次AIが発明した、想念工学の嚆矢となった装置。

定量化され集積された想念を物質化させ、無から有を生み出す道具。

人類から資源問題を永久に解決した、科学によって再現された魔法のランプ。

 

「地球意志とのリンク確認、概念パターン解析……ああ、なるほどこう来ましたか!」

「ん?」

意味ありげな明石の言葉に、思わずその顔を覗き込む。

明石はにかっとした笑みを浮かべ、

「提督、おめでとうございます~!」

「えっ……?」

突然の祝言に意味がわからず、思わず聞き返した、その目の前で。

MM機関が動きを止め、肉体を形成された一人の艦娘が姿を現した。

 

オレンジ色のセーラー服に似た衣装。

サイドテールの黒髪。

両腕に砲、足には魚雷を模した装備。

右腕には軍艦の艦橋を模したような構造物。

それはまさしく、あの夜に見たのと同じ。

 

「川内、参上。夜戦なら任せておいて!」

 

私が提督になった理由が、今目の前に立っていた。

 

「せんd……」

思わずその名を呼んで駆け寄ろうとして、長谷川の言葉が脳裏に浮かぶ。

 

「ひとつ言っておきます。艦娘は同じ軍艦の概念核から受肉していても、一人ひとり違う子です。あなたがこの先、もし川内と出会うことが出来たとしても、それはあなたが帰国の時に見たという『川内』とは別の子です。それを絶対に忘れないように」

 

――そうだった。

必死に言葉を呑み込む。拳を握りしめる。

私は、提督らしい顔が出来ているだろうか?

 

「ようこそ川内。私がここの提督だ。これからよろしく頼む」

「よろしくね。私が来たからには、夜戦では負け知らずだよ!」

ああ、やっぱりお前も夜戦が好きなんだな。

「明石は川内の艤装を調整。大淀は、川内にうちを案内してやってくれ」

「……提督が案内しなくて良いんですか?」

ああ、うん。おそらく明石は気を使ってくれてるんだろう。

さすがにこのくらいは、経験で理解できる。

「いいんだ」

でもな、今すぐ抱きつきたい衝動をこらえるのは、これでいてなかなか大変なんだよ。

 


 

「なーんか、気持ち悪いんだよね」

「い、いきなり結構ひどいこと言うなよ!」

執務室に呼び出した川内に新しい命令を下したところ、そんなことを言われて、思わず顔が引きつった。

さすがの私でも、それは傷付くぞ!

「あ、ごめん。でもさぁ、演習でも出撃でもいっつもいっつも私が旗艦だし、装備もなんか他の子より良い物ばっかり回されるし、小破して帰ったら秒でバケツかけられるし。贔屓されるのは悪い気はしないんだけどさ、その理由がわからないっていうか」

さすがに1人目の艦娘を近代化改修の素材にしたりはしてないから、これでも自重してる方だと思うんだがな!

「先に着任してた神通も那珂も抜いて、今や私が鎮守府で練度一位だし。で、挙げ句の果てに今度は……電の代わりに、秘書艦をやれって?」

「そうだ。練度一位の艦娘が秘書艦を務めるのは、別におかしなことじゃないだろう」

「だーかーらー、その理由がわからないって言ってるの!」

 

「あ、あの、川内さん……電は構いませんから……」

「電はいい子だね、よしよし」

川内は電の頭を優しく撫でた後、きっとこちらを睨みつけてきた。

 

「ここまでされれば、さすがの私だって気付くよ。提督に好意を持たれてることくらい。

それは嬉しいよ、……でもね!」

川内はそう言って、机をどんと叩きつけた。

 

「はっきり言う! 提督は、私じゃなくて、違う誰かを見てる!」

 

胸奥を撃ち抜かれたようだった。

自分では、目の前にいる川内を大事にしているつもりだった。

けれども、そんな浅はかな私の考えは、当の川内には透けていて。

 

「……それは、さすがに嫌なんだよね」

 

ああ、まただ。

私は、他人の気持ちがわからない。

だからこうやって、いつも相手を傷付ける。

 

「ごめん提督、命令なんだから従うべきなんだろうけど……秘書艦の件、もう少し考えさせて」

 

艦娘は「人間」そのものを嫌うことができない。

だが、別に特定の人間からの好意に必ず応えなければいけないわけじゃない。

地球意志は、愚かな人間さえ救おうとするほど慈愛に満ちているからこそ……艦娘に対しても、優しい存在だった。

 

「ああ、わかった……すまん電、もう少し秘書艦を頼む」

「はい、なのです」

「川内、時間を取らせて悪かったな」

「失礼します」

 

最後は極めつけの事務的な態度で、川内は執務室を退室していった。

 


 

……そんなことがあったのに。

 

「提督、昨日はごめんね。やっぱり命令には従うべきだよね。秘書艦の件、考え直したよ」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

翌日、あっけらかんと言う川内に、私は素っ頓狂な声を上げた。

いや、上げるよなこれ! 何があったんだよ一体!?

 

「電に説得されてね。提督がここまであたしに注いだ好意を無にするなって」

「そ、そうなのか……」

……あれ? 今何か違和感があったような。

一瞬抱いたそんな疑問を掻き消すように、電がしずしずと口を開く。

「そ、そうなのです。あ、あの……お節介でしたか?」

「いやいやいや。とんでもない! ありがとうな電!」

 

「それにね。今は提督があたしを見てないんなら、もっと頑張って、あたし自身を見てもらえるようにすればいいかなって思った。だから……秘書艦、やらせてもらうね」

「ああ、引き受けてくれてありがとう、川内。これから、……よろしくな」

「うん、よろしくね提督」

 

正直に言って、まだ混乱しているけども。

それでも、こちらに歩み寄ってくれた彼女を、今度こそ大事にしようと思った。




※女心と秋の空……ではなく、ちゃんと理由はあります。
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