日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~   作:天空のトロイカ

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人より生まれ、その先へ往くモノ 6

方法は見つける。なければ作る。

――ハンニバル・バルカ

 

 

「改まで遠かった……!」

ウォースパイトという艦娘の特徴のひとつに、最初の大規模改装までが長いというものがある。

川内とのケッコンにまつわる騒動が一段落して数日。この日ようやくその練度に到達したウォースパイトに素直な感想をぶつけると、彼女はその碧の双眸に微かな笑みを浮かべて、

 

That will be great(これはいいわね). Thank you very much indeed(どうもありがとう)!」

「ほい、どういたしまして」

この艦娘は一見すると高貴で近寄りがたい印象を与えるが、実際はなかなかどうして気さくな一面も持ち合わせている。そんなところも、彼女の艦娘としての魅力の一環なのだろう。

 

「とりあえずこれで、オールドレディには演習枠から外れてゆっくりしてもらおうか」

空いた枠には、先日大型艦建造で着任した武蔵でも入れようか。

などと考えていたら、

 

「あら、ゆっくりしてていいのかしら? 艦娘としての仕事以外にも、役割があるでしょう?」

「おっとそうだな。私が落ち着いたんで、そちらも動き出すぞ」

Admiral(提督)Marshal(元帥)が開発しているもの……『The shield of Aigis(アイギスの盾)』だったかしら?」

「その通りだ」

アイギスの盾とは、ギリシャ神話の女神アテナが持つ防具だ。

鍛冶神ヘパイストスが鍛造し、あらゆる邪悪や災厄を退ける能力を持つ「完全なる守りの象徴」。

実際は盾ではなく肩当てだったとする説もあるため、単に「アイギス」と呼ぶのがより正確ではあるのだが、私と元帥は敢えて「盾」を付けて呼称することでイメージの強化に繋げている。

想念工学では、細部の正確性よりイメージの共有が大切なのだ。

 

「別に盾形の艤装を作ろうという話ではないわよね。それって、要するにあの戦闘システムのことでしょう?」

「おや。知識はあるかね」

ウォースパイトからオカルトではなく軍事史に属する知識が飛び出してきたことに、思わず驚いた。

彼女は前世において、あの大戦の後も生き残った艦の一人ではあるが、それでもアイギスの盾が実用化される30年ほど前にはその生涯を閉じている。

 

「知識だけはね。……でも、それを『取り戻す』って?」

なるほど、そこは説明が必要だろう。

 

「従来のネットワークは、完全に高次AIどもに掌握されている。ご丁寧に全面禁止ではなく、娯楽目的なら使わせてくれてるが、軍事目的で使うと一発で無力化されるんだ」

統合された情報処理システムによる一糸乱れぬ艦隊指揮など、現代においては夢のまた夢だ。

艤装にも電探や偵察機といった索敵システムは存在するが、それをリアルタイムで共有するような手段は存在しない。せいぜいが情報を得た艦娘に口頭伝達させる程度だ。

それは奇しくも、彼女たちが実艦として戦った100年前の大戦に酷似していた。

 

「つまりアイギスの盾を使うためには、それに代わるモノを用意しなくてはならない。知っての通りアレは複雑なシステムだが、私と元帥はそれを大きく3つ……『通信』『秘匿』『管制』の要素に整理した。このそれぞれにおいて、現環境でも有効な技術で代替しなくてはならない」

戦闘に参加するすべての艦娘同士の間で、リアルタイムに戦闘情報を共有する「通信」。

その通信に対して、外部からの妨害を防ぐ「秘匿」。

そして集約された情報を元に、艦娘の戦闘を一元的に管理する「管制」。

 

「このうち『通信』については、元帥がずっと前から用意していた」

「あら、いきなり3つのうち1つが解決したじゃない」

「まぁな」

初婚用の指輪に仕込まれた「聖守護天使の契約」によって、多くの提督とその嫁艦がもたらしたデータは、実のところこのためにあったらしい。

 

「『秘匿』は例によって、艦娘の生得機能を参考にさせてもらう」

高次AIでも手出しできないであろう存在が、地球意志だ。

その地球意志が生み出した艦娘の生得機能であれば、人類の歴史の「先」に行った高次AIに対しても十分に伍することが可能だろう。

 

「問題は『管制』だ。これが糸口が見付からないでいる。純粋な科学なのか、艦娘なのか、はたまたオカルトにヒントを求めるのか」

システムとしてのアイギスの盾の最も根幹となる部分。

こればかりは、超人(ポストヒューマン)の脳機能を機械的に拡張すれば良いというものではない。容量よりも、大量の情報に対する処理能力が最大の問題なのだ。

元帥には一応の腹案があるそうなのだが、だいぶ前に打った布石を回収する必要のある不確実な方法らしく、実現性には結構な難があるようだった。

 

「なるほどね。って、肝心の火力は?」

「そこは結局、代替手段が無いので艦娘頼みだ」

アイギスの盾はあくまで戦闘指揮を行うためのシステムだ。人類の扱える量の10倍近い想念力を誇る深海棲艦に対して、それだけで有効打を与えられるようなものではない。

そもそも想念工学の発達は、シンギュラリティ到来以前からアイギスの盾をそのような方向に進化させていたのだが、この辺りの細かい事情まではさすがのウォースパイトも知らないだろう。

 

I understand(理解したわ). 戦争が、ざっと40年ほど未来に進むことになるのかしら?」

ウォースパイトの声には、隠しきれない喜色が滲んでいた。技術の発達による新兵器の発明は、やはり戦争に携わる者としてわくわくするものがあるのだろう。

あるいは弩級戦艦(ドレッドノート)や戦車といった新兵器で、戦場の光景を塗り替えてきたイギリスの艦娘だから、という側面もあるのだろうか。

 

「敵が歴史を再現して攻撃してくるのであれば、こちらは仮想戦記で対抗するまでさ。アイギスの盾を持った艦がお前たちの時代に行く話、腐るほどあるんだぜ」

私の言葉に、ウォースパイトは片眼を瞑って応えてみせた。

 


 

さらに数日後の昼下がり。

工廠系任務の達成報告のために執務室を訪れたのは、頭からすっぽりローブを被った艦娘だった。

 

「神州丸。ちょっといいか?」

報告を受け取った後。退出する前に呼びかけると、彼女は小首を傾げてこちらへと向き直る。

 

「本艦に何か?」

焦茶色の瞳には、疑問符が浮いている。

その視線を真っ直ぐに捉えて、私は言葉を紡いだ。

 

「お前が、欲しい」

「!? わ、わたくしを、ですか?」

驚いたような表情を浮かべて、神州丸は目を見開く。普段は「本艦」と硬い口調で自分のことを呼んでいるのに、今は「わたくし」になっていた。

隣ではガタッという音と共に、秘書艦の業務を片付けていた川内が勢いよく立ち上がっている。わなわなと肩を震わせて、必死で言葉を探しているような様子を見せていた。

 

……? 二人とも、何をそんなに驚いているんだ?

 

「ああ。お前のその『秘匿性を極めた艦娘』という特性が必要だ。超人(ポストヒューマン)開発に協力してもらいたい」

「……」

私としてはこの上なくわかりやすくストレートに用件を伝えたつもりなのだが、なぜかいきなり二人の様子が変わった。

川内の動きがぴたっと止まり、代わってわなわなと震え出したのは神州丸。

 

「川内殿、本艦これ撃ってもよろしいでしょうか?」

「いいと思う。ついでにあたしも撃つ」

「いいっ、何故だーっ!? 用件を伝えたらいきなり撃たれるとか、理不尽にも程があるだろう!」

必死に声を上げて抗議したのだが、

 

「「紛らわしい!」」

二人の動きはまったく止まることはなく。

綺麗にハモった声と共に、左右から放たれた砲が綺麗に私の身体を吹き飛ばした。

 


 

「痛い。非殺傷設定で良かった、大破判定出てたぞ……」

その後数発撃たれて、ようやく艦娘二人は気を落ち着かせてくれた。

超人(ポストヒューマン)を大破させるほどの効力射だ。威力は推して知るべし。

 

「自業自得! もうちょっと言い方に気を使いなさい!」

「嫁が厳しい件」

そもそも紛らわしいとは一体何がだ。

 

「それで、提督殿? 本艦の『秘匿性を極めた特性』が必要、とは?」

すっかり硬さを取り戻した……というか最初よりも硬くなった口調で、神州丸は尋ねてくる。

仕方ない。とりあえず必要なことだけ伝えよう。

 

「前世において、お前はほぼ完璧に情報を秘匿した。GLだのMTだの龍城丸だの馬欄甲板だの、それはもう見事なもんだ」

陸軍特殊船・神州丸は、かつての帝国陸軍が自ら開発した軍艦だ。

島国である日本にとって、島嶼における揚陸作戦は必須とも言える戦闘技術だった。だが当時の海軍予算はどうしても戦闘艦に回さざるを得ず、結果として陸軍が自ら揚陸艦を建造することとなったのだ。

苦難の末に生まれた神州丸だったが、その性能は凄まじかった。時代を先取りしたような近代強襲揚陸艦の先駆けとすら言えるだろう。

そして特筆すべきこととして、神州丸はその性能を実際に戦端を開くまで見事に秘匿しきった。幾つもの欺瞞名称。航空甲板を「馬を載せるもの」と偽り、公的には馬匹運搬船として扱われたこと。

ゆえに……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()宿()()()()()

 

「その概念を取り込ませてもらいたい。超人(ポストヒューマン)に次期搭載予定のシステム『アイギスの盾』の構成要件のひとつ、『秘匿』に最適なんだ」

「面白いものですね。100年以上前の技術で開発された前世の本艦が、100年後の現代でまったく違う技術で活かされるとは」

神州丸の表情は、また少し柔らかくなっていた。とは言っても先程とは異なり、どちらかというと未知を前にして心を踊らせるような感じ。

そう、きっと彼女はわくわくしているのだ。

 

「まぁ艦娘だからってのは大きいが。それ以上に、我々は歴史の最後尾を生きている。そして我々の前には紀元前4000年、紀元2045年に及ぶ人類の歴史があるんだ。今まさに存亡の危機にある我々は、先人の知恵を借りることにためらいはないさ」

「承知いたしました。技術開発は戦いにおいて重要なこと。本艦がお役に立てるのなら、喜んで協力いたしましょう」

「ありがとう! 助かる」

一時はどうなることかと思ったが、そこに理解を示してくれたのは本当にありがたい話だ。

近い内に、彼女にも松代大本営に同行してもらう必要があるだろう。

胸を撫で下ろしたのだが、

 

「ですが、誤解を招く言動は本当に控えて下さい。一瞬とはいえ舞い上がった本艦が、馬鹿みたいではありませんか」

「……へっ?」

若干まだ睨みつけるような視線と共に言われて、思わず間抜けな声を出してしまった。

 

(あー、真琴さん。後でじっくり、何が悪かったか教えてあげる)

さすがに見かねたのか、隣で秘書艦業務に戻っていた川内からそんな想念交信が飛んできた。

 

(お、おう……?)

こういう時に想念交信は、実に便利なものだ。

 

――なお、後で川内から説明を受けた私が改めて神州丸に謝罪しに行こうとしたら、「もう終わった話なんだから蒸し返すな!」とさらに怒られたことは、最後に付け加えておく。




超人(ポストヒューマン)開発記の続編です。
夏イベのラストで日下部とモーリアックの話していた「アイギスの盾」について、本格的に動き出しました。

艦これは扱ってる題材が題材なので、軍事史についてある程度以上に知識のある方は多いかと思います。そんな方であれば、この「アイギスの盾」が何のことであるかはすぐお分かりでしょう。
もちろん超人(ポストヒューマン)、つまり「提督個人」に搭載することになりますから、リアルのそれとは色んな部分が違ってきます(そもそも本作、リアルより20年以上未来の話ですし)。
オカルトじみたSF要素と、皆さんご存知の艦これがどのように融合していくか、楽しみにしていて下さい。

間もなく冬イベ開始ですが、それまでにもう少し更新したいと思ってますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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