日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~   作:天空のトロイカ

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※この話は日下部の一人称視点ではありません。
ご注意下さい。


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世界は変化しつづけているんだ。変化しないものはひとつもないんだよ。

――レオ・ブスカーリア

 

 

「な、なんだ……何が起きた……?」

自分の声のはずなのに、まるで別人のようにしか聞こえない。

全身の痙攣は収まっていたが、どうにも全身に違和感がある。

特に胸。身体にフィットした制服を着ていたはずなのに、急に締め付けられるように痛い。

 

「提督、鏡見て鏡!」

川内の言葉に従って、日下部はクローゼットの脇の姿見に目を向ける。

――そこにいたのは、自分ではなかった。

 

【挿絵表示】

 

「えっ? これが、私……?」

明らかに女性にTS(トランスセクシャル)した自分の姿に、呆然と呟く。

一体全体、何がどうしてこんなことになったのか。

日下部は必死に記憶の糸を辿り始めた。

 


 

「というわけでこちら、提督と川内への誕生日&ケッコン祝いです!」

赤と白。異なる色の包装紙に覆われたプレゼント箱を手に、明石が昼下がりの執務室に現れた。

 

「用意するのに手間取って、少し遅れたのは申し訳ありません」

「ああ、いや。ありがとう、もらえるだけ嬉しいよ」

日下部が感謝を述べると、隣席の川内も頷いて同意する。

 

「大淀は、今日は『任務娘泊地合同会議』に行ってるんだっけか?」

「ですね。なのでこれは二人からということで。提督の誕生日は、確か月初でしたよね?」

「そうだな。嫁艦候補たちに祝ってもらったよ」

大々的にイベントにするほど自己顕示欲が強いわけでもなし、親しい艦娘たちとささやかに祝えれば十分だ……というつもりが、最終的に夏以来の乱交パーティーとなったのは秘密だ。

 

「で、川内の誕生日は逆に月末だよね」

「うん、10/30」

「やー、二人の誕生日にケッコン記念日まで10月だなんて、本当にお似合いの夫婦ですねー!」

明石はからからと笑いながらそんなことを言う。

ここまで素直に冷やかされるとさすがの夫婦も恥ずかしくなって、揃って顔を紅潮させた。

 

「というわけでプレゼントを……」

箱を渡そうとして、一瞬ぴくりと明石は身体を硬直させる。

 

「おや、くれないのか?」

日下部は訝しんで声をかけたのだが、すぐに明石は何事もなかったかのように、

 

「ああいえ、失礼しました。はい、提督には白い箱。大淀のチョイスですよ。川内には赤い箱を。こっちは私が用意したよ!」

「おう、ありがとな!」

「ありがとね、明石さん! 大淀にも後でお礼言わなきゃ」

先程の硬直は少し気にならないでもなかったが、こちらはいただく側だ。あまりしつこく追求するのも品がないというものだろう。

そんな風に考えて、日下部は素直に差し出されるまま白い箱を受け取った。

 


 

「あ、提督とお揃いのネクタイだ!」

明石の去った後。嬉々として赤い箱を開封した川内は、中身を見て興奮したような声を上げる。

人類統合軍の発足時、その軍装は既存のどの国の軍隊とも重ならないように新たに制定された。

ただし川内の手にしている水色のネクタイは軍装ではなく、プライベートで着るカジュアルスーツ用の物のようだ。

 

「うーん、あたしにスーツって似合うかなー?」

「めっちゃ似合うと思う。今度、それに合うスーツでも買ってきたらどうだ?」

「うん!」

正直、明石がここまでセンスの良いプレゼントを用意するとは意外だった。

若干サイズが川内には大きいような気もするが、貰い物に文句を言うわけにもいかないだろう。

 

「で、私の方は。なんだこりゃ?」

白い箱の中身は、ラベルの無い瓶に入ったオレンジ色の液体だった。容量は500mlほど。ちびちび飲むには少ないだろう。

蓋を空けてみると、柑橘類を煮詰めたような甘い匂いが漂ってくる。どうやら自家製のジュースのようだ。

 

「大淀のチョイスにしては、謎だねぇ」

「まぁ、でもあいつが選んだんなら、間違いないだろ」

明石と比べると大淀は大変しっかり者だし、センスの良さは十分に信頼できる。

用意するのに手間取ったということだから、もしかしたら街に出た時にでも発見した逸品なのかもしれない。

 

「どれ……お、美味いな!」

瓶の縁に口を付けて一口飲んでみると、その味は想定以上だった。

一般的なオレンジジュースと比べても甘みが濃厚なのだが、不思議なことに嚥下した瞬間にすうっと消えていき、まったく後を引かない。そのため、まるで水でも飲むかのようにごくごくと飲むことができる。

 

「ふぅ、一気に飲んでしまった。ちょっともったいなかったか」

空になった瓶を振りながら、名残惜しそうに日下部は呟く。

とはいえそれだけの価値のある美味さだった。後で大淀と顔を合わせたらどこで入手したか尋ねて、可能であれば自分でも買ってもいいかもしれない。

――そんなことを思った瞬間。

 

「ん、なんだ……?」

日下部の身体が、自分の意に反して細かく震え始める。

寒いわけでも気持ち悪いでもない。どちらかというと、激しい運動の後に筋肉が勝手に痙攣するような震え方で、

 

「提督、身体が!」

「……えっ!?」

川内が驚きの声を上げたその目の前で、日下部の身体が変化していく。

超人(ポストヒューマン)特有の引き締まった筋肉が若干の丸みを帯びる。胸が大きく盛り上がり、制服によって押し潰される。

逆に下半身は妙にすっきりした感じがするのだが、正確にどうなっているかは咄嗟には把握できない。

 

「な、なんだ……何が起きた……?」

吐き出した声は、まるで別人のように高く。

そしてこの直後、川内に促されて鏡を見て呆然とすることになるのだった。

 


 

「ただいまー、明石」

日下部鎮守府の入口付近。

昼の間、所用で日下部鎮守府を離れていた大淀を、明石が出迎える。

 

「お帰り大淀。任務娘泊地合同会議、どうだった?」

「まぁ私たちだもの、みんな真面目だし予定通りに終わったわよ。それより明石、提督と川内へのプレゼント、ちゃんと間違えずに渡してくれた?」

「もちろん! 確か川内に赤い箱だよね? ちゃんとそっち渡したよ」

「え? ということは、提督に白い箱?」

「そりゃ消去法で……」

明石が答えた瞬間、大淀は思わず手に持っていた荷物をぼとりと取り落した。

 

「わ、大淀何やってるの!?」

慌てて明石は代わりに拾おうとするのだが、

 

「おいゴルァ明石に大淀ォ! 何してくれちゃってんだぁぁぁぁ!」

それよりも早く。人類統合軍の男性用制服を無理やり着た感じの見知らぬ女性が、怒声と共にその場へと駆け寄ってきた。

 

「え、恐れ入りますが……どなたですか?」

「お 前 ら の 提 督 じ ゃ あ あ あ あ !」

しっかりと女声なのに、やたらにドスの利いた声だった。

 

「ねぇ、飲んだらTSするジュースなんてどこで仕入れたの大淀!」

日下部は大淀に詰め寄って、がくがくと身体を揺さぶりながら尋ねるのだが、

 

「申し訳ありません、私にも何がなんだか。明石がプレゼントを渡し間違えたのは理解できるのですが。普段から制服で着けられているのと同じようなネクタイを、プライベート用にと思って選んだんです」

「!?」

大淀の言葉に、明石は思わず目を見開く。

渡す際に咄嗟にどっちがどっちだったか一瞬思い出せず、うろ覚えで選んだのだが……もしかしたら川内の制服の赤い色に、意識が引っ張られたのかもしれない。

 

「ってことはこのジュースが、明石の用意した本来の川内へのプレゼントってことか。おい明石、これ何だ?」

「女子力を爆上げするジュースです」

「……C'est vrai?」

明石の返答に、日下部の口から日本語ではない言葉が飛び出した。

 

「えっと、フランス語ですか?」

「『マジか?』と言った。え、女子力ってTSするような概念なの?」

そんな女子力があってたまるかと思ったのだが、

 

「あっ、あの時の!?」

「なんだ。何か知っているのか川内」

「こないだ明石さんに『川内の女子力にあやかりたいから、ちょっと女子力についてイメージして』と言われて、MM機関に想念送り込んだんだよね」

「え、お前が500万イデア使って作りたかったモノって、これかぁぁぁ!」

夏の地中海で超人(ポストヒューマン)について説明した時に、明石がそんなことを言っていた。日本に帰ってから本当に申請書を提出してきたので一応の許可は出したのだが、川内とのケッコン周りで余裕がなかったせいで、細部のチェックがおろそかになったことは否定できない。

 

「これは艦娘の『艦』の部分を相対的に弱めて、『娘』の部分を強化するモノです。元々女子力の高い川内が使えば、提督との愛もめちゃめちゃ深まるんじゃないかと。で、上手く行ったら自分でも飲むつもりでした」

「お、おう」

冗談みたいな効果の割に、原理となった想念工学上のメカニズムは思いの外しっかりした内容だった。

 

「でもなんで艦娘ではない提督に、こんな作用を?」

とはいえこの状況は、製作者の明石にとっても予想外のようだった。

日下部は少しだけ沈黙し、想定できる理由を考えながら言葉を紡ぐ。

 

超人(ポストヒューマン)の肉体は、元々艦娘をモデルに作ったモノだ。もちろん『艦』の概念は無いから、水上を歩いたりボーキサイトを食べたりはできないんだが、『娘』の部分に関して作用したってことだろう」

「え、でも提督は男性ですよね?」

「『アニマ』と言ってな、男性の自我にも女性的な部分はあるんだ。ちなみに逆に女性に存在する男性的な部分は『アニムス』という。今回のコレは女子力という形而上の概念に作用するモノだから、そのアニマに対して効いたんだろう。そして、超人(ポストヒューマン)の肉体の『娘』の部分が影響を受けた」

咄嗟に考えながら導いた推論ではあったが、なかなかどうして的を射ている気がした。

説明された明石も、納得したように頷いている。

 

「想念工学の教師としては教え子の成長を喜ぶべきだと思うんだが、提督として、そして一人の男として言おう。ふざけんなぁ! 何やっちゃってくれてんの明石ぃぃ!」

「ごめんなさいごめんなさい! でもほら、トンチキな発明のひとつやふたつしてこそ明石というか!」

「自分で言ってんじゃねぇ!」

こいつ概念核に毛でも生えてるんじゃないか。などと、普段の自分を棚に上げて日下部は考える。

 

「とっ、とりあえずこれいつ戻るんだ!」

「計算では、一週間ほどで!」

「一週間! うわぁ……長谷川の奴とか元帥とかに会う用事があるぞ。この姿見せるの、ヤだなぁ。なんか恥ずかしいぞ」

「いいじゃないですか、可愛いですし!」

「反省してねーな? てめぇ」

まったく悪びれない明石の言葉に、日下部は思わず頭を抱えそうになる。

とりあえずこのジュースがまだ残っているなら全部没収するとして、それとは別に何か罰則を与えてやる必要があるかもしれない。

 


 

「……。想像以上にヤバいな、女体」

翌朝。自室のベッドの上で裸身を晒しながら、日下部はぽつりと呟いた。

昨晩の記憶を思い出すと激しい羞恥心が湧き上がってくるのだが、それに嫌悪感以外の感情を覚えている自分自身がどうしようもなく怖い。

 

「昨日の真琴さん、可愛かったのはいいんだけど、あまりに可愛すぎてついガン責めしちゃったからねぇ」

ベッドの隣でやはり裸身を晒す川内が、その呟きに反応して言葉を返す。

日下部にすっかりMに調教されたこともあってつい忘れそうになるが、艦娘同士の時の川内はもっぱらスる側(タチ)だった。ケッコン直後の想念交信で、江風を喜んで責める長谷川鎮守府時代の記憶が流入してきたことを思い出す。

 

「よくエロ漫画で『イくの止まんない……っ!』って台詞があるが、あれマジなんだな」

「男性は絶頂後に脳内快楽物質(ドーパミン)が減少するけど、女性は繰り返し絶頂できるから放出されっぱなしになるんだって」

「詳しいな?」

「こないだ真琴さんが快楽堕ちした時に、元帥に脳内快楽物質(ドーパミン)の過剰放出って話をされて、気になって色々調べた」

しれっと言った川内に日下部は驚く。

そういえばいつぞやフレンチレストランでの作法を教えた時も、存外にすらすら飲み込んでいた。夜戦バカであっても、決して地頭は悪くないし知識欲もあるのだなと改めて感心する。

 

「でも正直、ああいう台詞は言わせるより言いたい。というかたまになら女の子とするのもいいけど、基本は男の真琴さんとシたいのー!」

「あー。なるほど。まぁその気持ちは理解できる。あんな気持ちいいなら、そりゃ誰でもされる側になりた……」

そこまでを無意識に言葉にしてから、日下部は自分の口から出てきた内容に気付いて戦慄する。

 

「お、おい、私は今何言おうとした!?」

「ちょっと!?」

「肉体の影響を受けやすい精神してるんだろうな、私」

何しろかつてはあれだけ忌避していた肉体破壊陵辱(リョナ)を、自身が超人(ポストヒューマン)になって「どの程度なら艦娘が『痛いで済ませられる』か」理解できるようになった途端、平気でするようになったくらいなのだ。

 

「今はまだ理性残ってるけど、このままメスイキ繰り返してわからせられると……」

「言い方ぁ!」

「……脳内快楽物質(ドーパミン)の連続放出に慣れすぎると、男に戻れなくなりそう」

傍目にはまるで冗談のように見えることだろうが、本人にとっては冗談では済まない状況だ。

 

「……つまり?」

「元に戻るまで夜戦は自重しましょう」

「ちょっとぉ! こないだ想念交信コントロールできなくて、3日間も我慢したのに! ようやくできるようになったと思ったら、これとか!」

「お前だけじゃないよ! 私だって辛いよ! 一週間とか長いよ!」

日下部の叫び声は、本当に悲痛だった。なまじ超人(ポストヒューマン)として、性的機能を強化してあることもこうなると辛い。

 

「まぁ仕方ないか。完全にメス堕ちされても困るからね」

川内としては先程も言った通り、日下部には基本男でいてもらいたい……鬼畜でドSで、外見からはちょっと想像できないくらい凶暴なモノを持っている日下部が大好きなのだ。

ちなみに日下部の「言い方ぁ!」というツッコミはさらっと流す。先に下世話な物言いをしたのはあちらだ。

それよりもこうなると気になってくるのは、

 

「大丈夫なの明日?」

「なにが?」

「長谷川鎮守府に挨拶に行くでしょ? あたしとあっちの川内の入れ替わりの件も正式に話さないといけないし」

「ああ、そうだな。さすがにちょっとこの姿を見せるのは恥ずかしい。盛大に笑われる覚悟はしていかないとな」

日下部は脳天気にもそんなことを言う。

 

「そういうことじゃなくて。うう……」

嫌な予感に震える川内の姿に、日下部は不思議な物でも見るように小首を傾げる。

どうやら川内が何を心配しているのか、本気でわかっていないらしかった。




※日下部のTS話です。
モーリアック周りで書いた通り、想念工学では完全なTSが可能です(子宮もちゃんとあるので、その気になれば妊娠も出産もできます)。

本話タイトルですが、10年くらい前に「女子力の高い人間は、ツイッターなどのSNSで『><』という文字を多用する」と女性向け雑誌に書かれた記述が元ネタです。
ちなみにこの記述が本当かどうか作者に確証はありませんので、実践する際は自己責任でお願いします。

冬イベ、本日から開始です(これを書いているのは、イベ前メンテの最中です)。
中規模とのことでなかなか大変とは思いますが、開始即突撃はしない予定なので、本格的に攻略開始する前に次の話は書いてしまいたいところです。
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