日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~   作:天空のトロイカ

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(フネ)より生まれ、神と成ったモノ 1

即戦力になるような人材なんて存在しない。だから育てるんだ。

――スティーブ・ジョブズ

 

 

超人(ポストヒューマン)をTSさせるジュースとはまた、マコのところの明石くんも大したものだなぁ。こういうことがあるから、艦娘のファンは辞められない」

技術開発の定期会合のため松代大本営を訪れた私に、元帥は実に愉快そうな笑みと共に言った。

 

「そうはおっしゃいますけどね、私にとっては冗談では済まなかったんですよ。なんですか、羨ましいんですか?」

「正直に言えば少しはね。だが僕は単にTSしたいわけじゃない。雑なTSでいいなら、とっくにそこらの想念工学者に肉体を作らせてるよ。技術開発部の部下たちもそこそこは優秀だからね、あくまでそこそこだが」

世界一の想念工学者と比べたら、そりゃ誰だってそこそこ止まりだろう。とはいえ、私がそれを指摘するのも藪蛇になりそうなので沈黙する。

 

「あ、でも。一人だけ、現在はともかく将来的な見込みがある想念工学者がいるな」

「おや、そんな人が」

元帥の望みは「自分の認めるほどの想念工学者で」「自分を愛してくれる人に」自分の女性としての肉体をデザインしてもらうことだ。その条件を満たしてくれるなら、細部は相手の要望に合わせても構わないという。何しろ実際にかつて、私はその条件で告白されたのだ。

 

「望みは、叶いそうですか?」

「無理じゃないかな。だってその人、女性だからね。マコも知ってる、大本営直轄の夕張くんだよ」

「ああ……」

春イベの終わり、三重命令(トライオーダー)の説明のために元帥の「実験」に使われたあの夕張か。

 

「彼女は本格的に想念工学を学んでいるが、人間の研究者よりずっと成長著しくてね。あと半年も学べば、僕が認めるレベルの想念工学者になるだろう」

「ほう、それはそれは」

彼女であれば申し分ない。何しろすでに元帥に対して強い好意を抱いている。

 

「何か、悪巧みをしてそうな声だね」

「元帥は想念工学では完全なるTSが可能と知っていたから、私がTSして女性になるという、私と長谷川の間の『完全にして矛盾のない回答』に気付いてたんですよね」

川内とのケッコン前日に交わした会話を思い出す。

 

「まぁ僕が発明してキミにお願いしたことだからね。振られたけど」

「元帥。あなたと夕張の間にも『完全にして矛盾のない回答』が成立することには気付いてますよね? あなたが、そして何より夕張自身が望むなら、私は喜んで介入しますよ」

そう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「もちろん、何か他の理由で彼女を受け入れられないのなら、そこまではさすがに私の担当外です。それも恋の一つの結末でしょう。けれども、そうでないのなら……元帥。あなたは、彼女と向き合うべきだ」

「マコに恋のことで諭されちゃうかー」

元帥は小さく溜息をつく。

だが負い目に怯んで言うべきことを言えないなんて、冗談じゃない。

 

「夕張が成長するまで、じっくり考えて下さい」

「OK、真剣に考えさせてもらう」

「ええ、ぜひ」

私は言うべきと思ったことを、堂々と胸を張って口にした。

 


 

「さて、それはそうと。またキミ問題起こしたんだって? 要艦娘秘の情報をゴーヤくんに知られて、超人(ポストヒューマン)開発に協力する羽目になったというのに」

「今回起こしたのは川内と長谷川ですよ! まぁ提督として責任は取りますが」

正確にはとっくの昔に起きてたことなのだが、それは重要なことではないだろう。

 

「しかし同時に、川内くんがレ級の正体を看破した件についても一定の納得を得られた。なかなか興味深いケースだね」

「そこは信じていただけて、ありがたいです」

「まぁ今すぐ何かできるわけではないのは、マコの見立て通りだ。レ級を見たら警戒しろと言うくらいかな」

我々は戦争をしているつもりでいるが、実はおっかなびっくり高次AIどものやっているゲームに参加させられているだけ、という構図は依然として変わらない。連中が本気で効率的に行動しだしたら、人類など簡単に絶滅させられるだろう。

 

「ただそうなると、ある事件の重要度が変わってくる」

「と、おっしゃいますと?」

「マコも名前は知ってるかな? マコの着任少し前にレ級率いる深海棲艦の大群に襲われて戦死した、中元寺國彦くんという提督がいるんだ」

「ああ。名前だけは聞いてますね」

夏イベ終了直後、欧州提督会主催の慰労パーティーの日にママンと舞津さんから聞いた話を思い出す。

 

「レ級=ムネーメーなのであれば、この件には何か重大な意味があるのかもしれない」

「深海棲艦の大群に襲われ、って具体的にどんな状況なんです?」

「彼は幌筵(パラムシル)泊地に自分の鎮守府を構えていたんだが、そこが奇襲された。6隻編成のルールすらなく、完全なる『戦争』モードだったそうだよ」

「それはなかなか奇妙な話ですね」

通常の深海棲艦は最大6隻を一個艦隊として出現する。それ以上になると土地から想念力を汲み上げて運用する際の効率に影響が出るからだ。

これを効果的に排除するため、艦娘も同様に最大6人を一個艦隊として運用する体制が確立した。

連合艦隊という特殊なケースもあるが、同時に無数の深海棲艦が出現するような状況など、滅多にないのは間違いない。

 

「その中元寺鎮守府は、今は?」

「ロスト・アドミラルで自己解体した概念核はあらかた回収したが、逆に言うとそれだけだ」

元帥はそこまで言うと、よく見慣れたいたずらっぽい笑みを浮かべ、

 

「そうだな、キミとリスブランへの罰則は、中元寺鎮守府跡地の再捜索ということにしよう。キミたちと舞津くんに正式に辞令を出す。当然ながら秘匿度は高い任務になる。投入戦力は提督自身と、それぞれの初婚艦のみとさせてもらおうか」

「軽巡1、駆逐2ですか。深海棲艦の大群に襲われた場所に行くのに、その戦力はあまりにも心細い限りなんですが……」

「本気で連中が襲ってきたら、6人編成だろうが無理なのは一緒さ。まぁなんだ、隠密に徹してくれたまえ」

事もなげに言ってのける元帥に、思わず頬が引きつった。

 

「おう。さすが、かつての枢軸国も真っ青の全体主義体制。容赦ない」

「罰則だからね、一応これ。周囲を納得させるには、それなりに過酷でないといけないのさ」

うわ。舞津さん、とんだとばっちりだなぁ。まぁクソレズの後見人なんだし仕方ないか。

 

「了解しました。正式な辞令が下り次第、調査に向かいます」

「まぁさすがに、マコが元の身体に戻ってからにするよ。あと数日で戻れるだろう?」

「その予定です。しかしまぁ、明石もこんな物をよくぞ作ってくれた物だ。個人的には困りものですが、想念工学の教師としては嬉しい限りです」

明石の想念工学者としての開花を身を以て体感できたのが、今回の件で一番の収穫だっただろう。

実はこの女子力強化ジュースのメカニズム、偶然なのだろうが「概念艤装」に最適なアプローチをしているのだ。

 

「私は『アイギスの盾』に専念して、『概念艤装』については明石に引き継ごうかと。ガングートにも協力してもらいますしね」

「なるほど。いいんじゃないか?」

さすが元帥は、皆まで語らずとも私の言わんとするところを察してくれたようだった。

 


 

数日後。執務室で川内と共に書類仕事を片付けている最中に、その時は唐突に訪れた。

 

「……うあっ!」

全身に激しい熱を感じる。始まった時にはなかった症状だ。

直接炎に炙られているかのような感覚の中、意に沿わない痙攣だけは以前と同じ物で。

しばらくして症状が収まったところで、

 

「提督! 鏡見て鏡!」

「そのデジャブなやり取り……そうか、男に、戻ったか」

いつか聞いたままの川内の言葉で、私はすべてを察する。

ところが当の川内は、なぜか急にこちらに近付いてきて、

 

「どれ。本当だ、戻ってる!」

「お前さ、超人(ポストヒューマン)になった時も思ったんだが、ためらわず人のデリケートな部分触るの止めない?」

「提督だって遠慮なく触るでしょ!」

「そりゃ夜戦の時はな!」

あのな、ここ執務室だぞ。

 

「というか今触られると……」

「わっ、ビンビン」

何しろ一週間もの長きに渡って夜戦を自重していたのだ。

長谷川鎮守府の一件ではクソレズの奴に何回か絶頂させら(イカさ)れたのだが、やはり男と女の性的刺激は違うらしい。我ながらなかなかヤバいことになっている。

 

「ダメだ我慢できない。よーし今日の艦隊運営終わり、さっさと私の部屋に行くぞ!」

「やったぁー、一週間待ちに待った夜戦だぁー! 早くーやーせーんー!」

川内はいつにも増して大はしゃぎだが、今ばかりは私も同じぐらいシたくてたまらない。獣のように腰を振ってしまいそうだ。

手早く書類を収納し、鍵をかけて執務室を後にする。

足取りももどかしく、自分の部屋へと移動してみれば……、

 

「ちょぉーっと待つデース!」

「ぬおっ!?」

赤城以外の嫁艦候補全員が、部屋の前に揃って待ち構えていた。

 

「Hey提督ぅ、一週間ご無沙汰だったのは、別に川内だけじゃないデース! みんな同じデース!」

「そうか、そりゃそうだな」

金剛の目は若干血走っているようにも感じられる。こいつがここまで余裕をなくしているのは、一体いつ以来だろう。

 

「なのデー」

「なのでー?」

「みんなでスるデース!」

「……まぁ、そうなるな」

なんとなく予想はついていた。

 

「提督さぁ。みんな二番だって言うなら、みんな満足させてよねー?」

「さすがに今日は青葉も恥ずかしがりませんよ! 満足するまでシます!」

「てーとく、今日こそ一緒にイこ!」

安定の好きものである秋雲やゴーヤはともかく、青葉がここまで乗り気になっているのは予想外だった。というか自分からこんなエロい表情できたんだな、こいつ。

 

「負けないよっ! 真琴さんの一番は、あたしっ!」

川内が張り合って声を上げる。

 

「あー。まぁ、そうですね。普段からそういうことしてるんですから、こういう時は全員満足させないとダメですよね」

今回ばかりは超人(ポストヒューマン)で良かったと本当に思う。

全員を室内に招き入れ、きっちりと鍵を掛ける。

雑に一人ずつ抱き寄せては、キスと同時に舌をねじ込んで口腔内をねぶっていく。

一通り終わったところで、

 

「よーしお前ら、全員服脱いで四つん這いになれ! お望み通り、満足するまでシてやる!」

命令に従っていそいそと服を脱ぎ始める皆の姿を眺めながら、私もおもむろに制服のベルトを緩めた。

 


 

「提督、元に戻ったんですね。このたびはご迷惑をお掛けしました」

翌日。遅めの時間に執務を開始した私の元を、明石が訪れていた。

 

「ほんとだよ! まさか私の人生で、『女の子になっちゃうよぉ!』って台詞を吐く日が来ようとは」

「そ、それはどんな状況で言ったんですか!?」

「ぜってぇ教えねぇ!」

なんでそんな興味津々でにじり寄って来るんだ。お前、本当に反省してるんだろうな?

 

「まぁでも。おかげでひとつ解決した問題があるのも確かだし、別にいいよ。どれ、女子力強化ジュースの残りも返そう」

明石から取り上げて厳重にしまっておいた瓶を取り出そうとしたのだが、

 

「あ、いえいえ。それはもう私には不要になったというか」

「お、そうなのか?」

意外なことを言われて思わず驚く。

 

「うん、確かに色っぽくなったなお前。前と比べて、良い匂いがしそうな雰囲気がある」

「呼吸するように口説くのやめて下さい!」

少し頬を赤くしながら、慌てて手を振って明石が叫ぶ。

 

「口説くなんて大袈裟な。単に褒めただけだぞ? これで落ちるの、艦娘くらいだろ」

「私は艦娘です!」

「おっと、ごもっとも」

大井の時の失敗を繰り返すわけにもいかない。

 

「まぁそんなわけですから、女子力強化ジュースは提督に差し上げます」

「マジか。これ絶対、半年とか一年後に何かのきっかけでまた飲むやつじゃん」

絶対フラグだよね。

 

「なら想念力がもったいないですが、破棄してしまっても構いませんけど……」

「いや。取っておく。実に貴重なサンプルになる」

私は片手で女子力強化ジュースの瓶を弄びながら、

 

「明石。お前の技術を見込んで、ひとつ仕事を任せたい」

「はぁ、仕事ですか。それは想念工学上の?」

「そうだ。お前の『艦娘の艦の部分を相対的に弱め、別の属性を強化する』という技術、偶然にもその仕事の最適解になっている。私が考案している艦娘用の特殊艤装である『概念艤装』。これの開発を、お前に任せたい」

「概念艤装?」

明石は怪訝そうに眉根を寄せる。

まぁそうだろう、まだ実物はこの世に存在しない言葉だからな。

 

「艤装と付いてはいるが、実はこれは甲標的の『標的』と同じだ。本来の運用意図を秘匿するための名称であって、艦の属性とはほぼ関係ない」

かつての日本海軍が開発した、母艦発進型の小型魚雷艇。開戦までその存在を秘匿するため、海軍はこの兵器の名前を「甲標的」とした。

高次AIに対してこんな初歩的な欺瞞が通用するかと言われると甚だ疑問ではあるが、想いが形にも力にもなるのが現代だ。まず自分たちが信じることがその第一歩だろう。

 

「では何かというと、これはだな……」

私が概念艤装のおおまかな構想を説明すると、明石は大きく目を見開いた。

そこには隠しきれない新技術への憧憬……要するに、わくわくした表情が浮かんでいた。

 

「すごいですね! 興奮してきました!」

「んー。水を差すようだが、お前用の概念艤装って用意してやれないと思うんだ。概念艤装を使える条件には、艦娘自身に一定以上の練度――要するに、ケッコンカッコカリ――を要求するよう設定するつもりでいる。そして申し訳ないが、私はケッコンカッコガチしかする気はない」

こいつが提督Love勢ではなく百合側であることには、とっくに気付いている。

 

「そうですか。それは少し残念です」

トリガーハッピーの気がある明石にとって、それは後ろ髪を引かれる思いだったろう。

だが、

 

「それでも、私にしかできないことでお役に立てるのなら」

「そうか。やってくれるか!」

「はい、ぜひ! お任せ下さい!」

同時にこいつは、やはり技術者でもあった。新技術を自分の手で形に変える喜びも、それはそれで大いに理解できるのだろう。

――よし、言質は取ったぞ。

 

「では早速、ガングートのところに行ってくれ」

「いっ!?」

挙げられた名前が意外だったのか、明石は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。

 

「心配するな、話は通してある。代わりに育成順序を繰り上げることを要求されたが、その程度なら安いものだ。あいつはスラヴ神話に詳しい。これから開発する概念艤装について、十分お前の助けになってくれるはずだ」

「あの方、どうも苦手なんですよね……なんというか楽しく砲を撃ちまくってたら、本気で怒られそうというか」

「そこは怒られておけよ。というか撃つな」

少しだけ不安になったが、まぁ信じて任せるしかないだろう。

 

そういえば想念工学者として、部下に何か任せるのはこれが初めてかもしれない。日想研時代は通常のセクションとは切り離されてたから、後輩や部下を持った経験がまったくないのだ。

案外私自身にとっても、良い学びの機会になるのかもしれないと……明石の自信半分、不安半分の顔を見ながら、そんなことを考えた。




※日下部が元に戻る話、兼、概念艤装開発記の初回です。
タイトルをご覧いただけばお分かりの通り、超人(ポストヒューマン)開発記とは対になっています。
まだ詳細は伏せていますが、どうぞお楽しみに。

艦これ本編、冬イベをゆるゆる進行中です。
E1は甲で突破いたしまして、E2も甲で挑戦中です。着任2年目に入りましたので、そろそろ甲種勲章が欲しいところですが(それをトリガーとする話も考えてありますし)、今回はまだ難しいかもしれません。丙丁では関係なかった札の縛りが後段で効いてきそうな感じです。

次の話もできるだけ早く投稿できるように頑張ります。
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