日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~ 作:天空のトロイカ
ご注意下さい。
愛は法なり、意志の下の愛こそが
かつての自分に「自我」があったのか、きっと本当のことはわからない。
三水戦を率いていた記憶も、サボ島で吹雪が沈んだと聞かされた記憶も、ブーゲンビルで沈んだ記憶も、ちゃんとある。
けれどもそれは、本当にその時自分が感じたことなのか、それとも後から流し込まれたものなのか。
あたしにはわからない。きっとどの「川内」にもわからないだろう。
けれどもあたしは今ここにいて、そしてやるべきことを知っている。
だからあたしはイ級に向けて、躊躇なく20.3cm砲をぶっ放す。
「提督、1隻撃沈! 雷撃戦に移行するよ!」
「気を付けなさいな。夜戦好きなのは結構ですけど、程々になさい」
「りょーかーい」
ごめんね提督! 多分無理!
あたしは夜戦が死ぬほど大好きだし、他の「川内」も多分そう。
あたしたちは、そういうものなんだよね。
ちゃっちゃっと残ったイ級を片付けて、あたしは半壊したフリゲート艦に飛び乗った。
イ級の攻撃で艦首部分が完全に吹っ飛んでいて、きっと轟沈は時間の問題だろう。
かつてのあたしたちとは似ても似つかないものだけど、艦が沈みゆく光景は……やっぱり少し胸が痛む。
「さてと、生存者は……」
呟いてぐるりと辺りを見渡すと、誰かと目が合った。
若い男の人で、眼鏡をかけている。
綺麗な銀髪が夜風に揺れて、なんだか儚い印象を受ける人だった。
「川内参上! 夜戦なら任せておいて!」
うん、我ながら決まったかな?
などとドヤ顔を浮かべてみたら、不意にその男の人が口を開いた。
「……綺麗だ」
「え……?」
「言葉にすると陳腐だけど、……うん。君は、美しい」
わ、わわわわっ。
思わず胸が、とくんと鳴った。
うちの提督にも似たようなこと言われたことあるけど、あの人の場合は(性別以前に)あんまり本気を感じないんだよね。
夜戦で研ぎ澄まされた川内の勘は、人間関係においても鋭いのだ!
……そして、その勘が告げている。
この人は、100%本気で言っていると。
そりゃもう、嬉しくないはずが無かった。
「え、えっと……とりあえず保護するね? 他に生存者は?」
「あ、ああ。すまない、見ていない」
「そっか。えっと、少しだけここで待っててね」
手早く艦内を見回り、生存者がこの人しかいないことを確認すると、あたしは提督に連絡を取る。
「提督、要救助者一名。座標、追跡できてるよね? 来られる?」
「もう向かっています、沈む前に着くから安心なさいな。ところで要救助者の身元は確認しましたか?」
「……あっ」
慌てて甲板に戻り、さっきの人に事情を説明する。
「というわけであたしの提督がすぐ来るから、もう少しの辛抱だよ。それで、ええと……あなたの名前と身元、聞いてもいい?」
「日下部、真琴。日本想念工学研究所所属、27歳男性」
「うん、ありがと。……提督、身元確認できたよ」
身元報告をした時の提督が息を呑んだことと、その提督と会った時の日下部さんの驚き方は、
……うん。忘れられない。
もちろん、あの時日下部さんが言ってくれた言葉も、ね。
※チョロインすぎ?
艦娘なんて全員チョロインじゃないですか(暴言)