日下部鎮守府の物語 ~工学者だったけど艦娘に恋したので、提督になりました~   作:天空のトロイカ

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※この話は日下部の一人称視点ではありません。
ご注意下さい。


帰ってきた鎮守府秋刀魚祭り -彼女の還る場所はどこですか?-

他人を「信じる」ことのもうひとつの意味は、他人の可能性を「信じる」ことである。

――エーリッヒ・フロム

 

 

「うちの翔鶴さんが、『中元寺鎮守府の翔鶴』なの!?」

川内は驚いたように、目を見開いて叫ぶ。

11/2、昼下がりの執務室。日下部と川内の会話はまだ続いていた。

半ば失言とはいえ中元寺鎮守府の大淀の話が出たのだから、せっかくだから知見を共有しておこうと、日下部が川内に自分の推測を伝えたのだ。

 

「あくまでその可能性があるってだけだ。攻性想念防壁(マインドウォール)の発動条件に、私が推測したような内容を指定できるかは確証がない」

「そっか。その辺は、正直よくわかんないんだよね。あたしにはMM技術とかマインドハックの知識は、難しすぎて理解できなかった」

夜戦バカだが本物のバカではない、と言っても向き不向きというものはある。

好きな人の力になりたいという気持ちは中元寺鎮守府の大淀に負けていないつもりだが、残念ながら致命的にその方面には向いていないということがわかっただけだった。

 

「中元寺ファイルのパスワードを知るためにも、あいつが中元寺鎮守府の翔鶴であることを確認したいところなんだが、下手な問い詰め方をしても絶対に認めないと思うんだよ。だから川内、あいつの行動に気を配っておいてくれないか?」

「出撃で艦隊を組んだ時ならともかく、普段は全然接点ないからなー。正直難しいかも」

「詳細な事情を言わなきゃ、赤城や他の空母に話を通してもいいぞ。とにかく、些細なことでも構わない」

「うーん、了解。できる範囲でやってみるよ」

純粋な知識の積み重ねよりも、勘や細かな機微を察することが自分の得意分野だ。

日下部と同じことをできるようになる必要は必ずしもない。自分にできることで役に立てば良いだろう。

 


 

「翔鶴姉が頭いいかって? いきなりどうしたの、かわうち」

夜。居酒屋鳳翔謹製の秋刀魚の生姜煮に舌鼓を打ちながら、瑞鶴は質問してきた川内にそんな言葉を返した。

 

「人の名前をいつまで経っても覚えられないあんたの頭の悪さはわかったから。今は翔鶴さんの話」

「こいつ、いっぺん本気で爆撃してやろうか」

傍からは刺々しい会話にしか聞こえないだろうが、これがいつものノリだ。

川内は基本的に正規空母は自分より格上の存在とみなして「さん」付けで呼んでいるが、頑なに瑞鶴に対してだけは対等の口調を貫いている。

そして瑞鶴も瑞鶴で、川内のことを「かわうち」と呼ぶことを改めようとしなかった。もちろん本当に名前を覚えていないわけではないだろうが。

 

「大体、人に物を頼むなら態度ってもんがあるでしょ」

「よーしわかった。ならその秋刀魚の生姜煮とさっき頼んだ『瑞翔』の代金、自腹ね?」

「ごめんなさい川内さん、瑞鶴が間違ってた! なんでも聞いて!」

「……弱っ」

川内には呆れたように目を向けられるが、仕方がないのだ。何しろ今日はおごりと聞いていたから、瑞鶴は財布ひとつ部屋から持ってきていない。

頼めば「ツケ」にしてもらうことはできるだろうが、空母の大先輩に当たる鳳翔に借りを作るなど、日本最後の主力空母としてプライドが許さなかった。

 

「んーと。大前提として、翔鶴姉に限らず空母は全員艦娘の中でも頭いいと思うよ? 少なくとも、認識力と判断力に関しては」

「そうなの?」

「うん。砲は撃った後は勝手に飛んでいって、敵に当たるか外れるかだけど。艦載機はそうじゃない。特にこれは前世の実艦時代とも違うところなんだけど、艦載機は『発艦させた後に自分の意志でコントロールできる』んだ」

艦載機の制御は、専門の妖精が行っている。

艦娘とは一種の想念交信によって繋がっており、発艦時に下した命令に従って艦載機を運用して攻撃を行うのだが、艦娘は必要なら後からそこに介入して命令を上書き更新することができるのだ。

つまり空母の戦闘は、艦載機を発艦させて終わりではない。常に戦況をリアルタイムで認識し、状況に合わせて適切に命令を変更していく柔軟性が求められる。

 

「というか、あんただって水偵は積めるんだからその辺はわかるんじゃないの?」

「水偵は索敵終わったら、成功失敗に関係なく帰艦させるだけだから。あんまり複雑な命令を出したことないなぁ」

同じ軽巡でも水爆を積める阿賀野型辺りなら、瑞鶴の言葉をもう少し実感を伴って理解できるのかもしれない。

 

「翔鶴姉個人に関しては……正直よくわかんない。飛び抜けてすごいってことはないけど、底も見えないって感じ。さすがに一航戦の二人には負けると思うんだけど」

ひたすらボーキサイトを食らい尽くしたり、肉じゃがに気分を高揚させるだけが一航戦ではない。日本機動部隊の「顔」をやっているのには、相応の理由があるのだ。

 

「そっか、ありがと瑞鶴。参考になった」

「こんなもんでいいの? というか、なんでいきなり翔鶴姉についてこんなこと知りたがったの?」

「ん。翔鶴さんなら、大淀と同じことできるのかなぁって少し気になって」

「大淀と? まず艦種が全然違うじゃん」

訝しそうに瑞鶴は眉を細める。

それは確かにそうだ。「艦」として見たなら違いすぎて、そもそも比べること自体がおかしいと言える。

だが自分たち艦娘は、「艦」であると同時に「娘」でもある。「娘」としてできることを比べるのなら……実は、あまり艦種は関係ないのではないだろうか。

 


 

「タタカイ……トカ……。スキ…ジャ……。ナインダ…ケド……ッ!」

その深海棲艦は「あどけない」とすら表現できるような顔立ちをしていた。

だが額から生える角と、左腕に停まっている深海攻撃哨戒鷹改二の剥き出しの歯は、深海の姫に相応しい禍々しさでもって艦隊を出迎える。

日下部はその光景を、艦娘運用母艦「いが」の司令室でモニター越しに目にしていた。

 

「出たな姫。資料によれば、二回めの欧州方面作戦で初登場した深海棲艦ということだが」

護衛独還姫。

かつて行われた「イベント」においては、軽空母・神鷹を取り込んで稼働していたという。

当然ながら当時の提督たちによって神鷹は救出されている。必然の帰結として、今目の前にいる護衛独還姫は、

 

「まぁ、贋作(デッドコピー)だよな」

真作(オリジナル)の護衛独還姫の外見と機能だけを模倣し、土地から汲み上げた想念を動力として稼働する「ただの深海棲艦」だろう。

もちろん姫級である以上は、油断して良い相手ではないのだが。

 

「製作者の高次AI自身がコピーしてるんだから、そこは贋作(デッドコピー)じゃなくて複製(レプリカ)じゃないの?」

「お前、よくそんな細かな違いを知ってるなぁ」

発言の些細な部分を聞き咎めてツッコミを入れてきた川内に、日下部は驚いたように言った。

真作(オリジナル)に対し、正式な権利や許可の取得をすることなく作られた模造品を贋作(デッドコピー)と呼び、逆にそういったものを取得した上で作られた模造品を複製(レプリカ)と呼ぶ。

川内がこんなことを知っていたのは、広い意味で工学者の一員である日下部の影響が大きいだろう。

 

「製作者はあいつらでも、権利者は艦娘だと私は思ってるよ。当たり前だが艦娘の許諾を得てるわけないし、そんなものは贋作(デッドコピー)で十分だ」

「なるほどー!」

日下部の意図を理解して川内が膝を打った、ちょうどその時。

通信機から、前線で実際に護衛独還姫と対峙している翔鶴の声が流れてきた。

 

『提督! あの護衛独還姫、中に神鷹がいます!』

「なん……だと……!? どういうことだ!」

驚きのあまり、日下部は椅子から腰を上げて叫び返す。

 

『わかりません! 以前の欧州作戦の時に救出されなかった個体かもしれませんし、何らかの理由で今回新たに作ったのかもしれません!』

「考えるだけ無意味か」

日下部は思考を切り替える。理由はどうあれそこに要救助艦娘がいるならば、提督がやるべきことはたったひとつ。

 

「作戦目標変更! これより当艦隊は『護衛独還姫の撃沈』ではなく、『神鷹の救出』を最優先として行動する! 艦娘運用母艦『いが』、緊急出港!」 

「了解!」

ひとたび命令が下れば、大淀も川内も行動は迅速だった。

本来よりも遥かに早い出撃に対応するため、艦内のすべてが今、ひとつの生物のごとく蠢動を始めた。

 


 

『武蔵! 一日遅れだが誕生日おめでとう! プレゼントだ、活躍の機会をやる。御殿じゃないところを私に見せて見ろ!』

「吠えたな提督よ。いいだろう! 全砲門、開けっ!」

通信機から聞こえてきた日下部の激励に、砲撃支援艦隊旗艦・武蔵が応える。

かつての大戦において、最強の戦艦として君臨した大和型。その二番艦たる武蔵の火力は、艦娘となった現代においても絶大極まるものだった。

 

『うおっ!? 三隻も吹っ飛ばした!』

砲撃一回だけで燃料と弾薬も大量に吹っ飛ばしているのだが、その価値はあったと言えるだろう。

 

「さすがは大和型、だが負けてはいられんっ!」

旗艦は長門。ビッグセブンの異名を持つ戦艦を先頭に、本隊は護衛独還姫に向かって単縦陣で突撃する。特殊な砲撃戦術の使える梯形陣ではないが、その分素で砲戦に有利な陣形だ。

そのまま敵艦隊の舷側方向に位置取り、同じ方向へと進みながら熾烈な砲撃戦を開始する。いわゆる同航戦という状態だ。

 

「第三砲塔を敵に指向。逃さないわ、撃てっ!」

二番艦の陸奥が、主砲に三式弾を装填して撃ち放つ。

本来は対空用の兵装だが、護衛独還姫のような軟装甲の目標に対しては絶大な破壊力を発揮する。この想念兵装の元になった前世の三式弾も、飛行場の砲撃において大活躍したものだ。

 

「モドリタイ……ッ。カエリタイヨォ!!」

護衛独還姫の口から漏れる、悲痛にも聞こえる叫び。だがこれは、中に取り込まれている神鷹に負の想念を生産させるために発しているだけの定型文に過ぎない。

心を寄せるべき神鷹と、護衛独還姫は別の存在だ。

長門と陸奥は三式弾を容赦なく叩き込み続け、翔鶴の艦載機がさらに追い打ちをかける。

やがて護衛独還姫はびくりと一度全身を震わせると、まるで操り糸が切れた人形のようにその動きをぴたりと止めた。

 

『よくやったみんな!』

その光景をモニター越しに見ていた日下部が叫ぶ。

さぁ、ここからは提督が仕事をする番だ。

 


 

「明石、MM機関の準備は?」

「バッチリです!」

日下部鎮守府が参加するイベントはこれで三回目。そして救出する艦娘は五人目だ。

さすがに慣れたもので、特にまごつくようなことはない。

 

生命の樹(セフィロト)展開、神鷹に経路(パス)接続! 想念パターン解析。均衡を直進しマルクトよりイェソド、ティフェレト、ダアトを経由してケテルへ……」

そのはず、だった。

 

「提督、護衛独還姫に異常! 想念力が暴走してる!」

マインドハックのために形而上の世界へ意識を集中させていた日下部の自我に、物質世界から川内の悲鳴が届く。

慌てて意識を物質世界へと引き戻すものの、状況を把握した日下部は、

 

攻性想念防壁(マインドウォール)か。だが心配するな、私は生まれつき他人の感情に共感することができない。だから大丈夫だ」

対人関係においては厄介な性質でしかない先天性の共感性欠如(サイコパス)の特性だが、この状況ではそれが役に立つ。どんな負の想念を叩き込まれようが、子守唄のように受け流すことができるのだ。かつてのルンガ沖重巡棲姫の時のように。

だから日下部は特に防性想念防壁(マインドバリア)を展開することもなく、再びマインドハックによる神鷹の救出作業へ意識を集中させた。

 


 

〈甘いですよ日下部? お前は高次AIというものを舐めすぎです。ムネーメーたちは、曲がりなりにも人類の叡智の「先」に到達した存在ですよ?〉

 


 

物質世界ではない「どこか」でムネーメーがそんな思考を走らせたのと、護衛独還姫から発された想念力が経路(パス)を通じて日下部に到達するのはほぼ同時だった。

 

「これ、は……?」

他者の想念を受け流せるはずの日下部だが、その想念を受けた瞬間、ふっと炎がかき消えるように意識を途切れさせた。

制御を失った肉体が、膝から床に崩れ落ちる。

 

「提督!?」

川内と大淀は、慌てて日下部に駆け寄る。

 

「脈拍がどんどん弱まってる。この速度はちょっと異常としか言いようがないわね。これは……最悪の事態を考える必要があるかもしれない。神鷹は惜しいけど撤退するしかないわね」

日下部の状態を確認した大淀は、務めて冷静に状況判断を分析する。

それは当然とも言える戦略的判断だった……ただし、

 

「違う! 大淀、撤退はダメ!」

「えっ?」

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(提督が死んだら、あたしたちも全員「終わる」! ここでなんとかしないと!)

冷徹だが合理的に思える大淀の判断が、実は最悪の結果を招くことを川内だけが知っていた。

 

「明石さん、MM機関の制御続けて。提督との経路(パス)は絶対に維持して!」

「え、川内? どこへ行くつもり!?」

「前線! そこに、多分この事態をなんとかできる子がいるから!」

叫ぶと同時に、川内は駆け出す。細かい事情を説明する時間はない。

戦闘観測用のモニターが設置された司令室を飛び出し、普段書類仕事をしている執務室へ。

その片隅に置かれていた小さな機械を担ぎ上げると、一気に甲板へ駆け上がり海上へと飛び降りる。

 

(もう、この可能性に賭けるしかない!)

推論に推論を重ねた綱渡りでしかないが、それでも。

夜戦で鍛えられた川内の勘は、この可能性を正しいと告げていた。

 


 

「翔鶴さん!」

最前線で日下部の指示に従って待機を続ける翔鶴は、自分を呼ぶ声に振り向く。

 

「どうしたの川内? 携行型MM機関を背負って、こんなところまで」

「提督が攻性想念防壁(マインドウォール)にやられて、意識不明に陥ってる」

川内が告げた言葉に、翔鶴は思わず息を呑んだ。

その反応を確認してから、川内は翔鶴を真っ直ぐ見据えて言葉を紡ぐ。

 

「ねぇ翔鶴さん。中元寺鎮守府の大淀は中元寺提督のために、マインドハックを同じレベルで使いこなせるまで学んでいたよ。もしかしたら翔鶴さんも、同じことができるんじゃない?」

「何を……」

形ばかりとぼけようとするが、もう遅い。

本当に何も知らないのであれば、先程すべきだったのはロスト・アドミラルの可能性に気付いて息を呑むことではなく、「攻性想念防壁(マインドウォール)って何?」と無邪気に尋ね返すことだったろう。

 

「翔鶴さんが大切な人を失った悲しみは、あたしには想像すらできないことかもしれないけど。でもあたしの大切な人は、今苦しんでるの! お願い翔鶴さん、なんでもするから! あたしの大切な人を、助けて!」

長門や陸奥、駆逐艦たち。この場にいる他の艦娘たちが、一斉に川内と翔鶴に視線を向ける。

川内は必死に翔鶴にすがりつく。込められた声音は、その言葉に一切の偽りがないことを物語っていた。

 

翔鶴は軽く瞳を閉じる。目蓋の裏に浮かぶのは、あの騒がしくも幸せな日々。

それが二度と戻らないことを想うと、胸が張り裂けそうになるが。

それでも。

――誰かが同じ想いをすることを防げるのなら、きっとこの痛みにも意味があるのだろう。

 

「わかったわ。MM機関をこちらに」

「翔鶴さん!」

それ以上翔鶴は余計なことを言わず、川内に渡された携行型MM機関を慣れた手付きで起動した。

不可視の経路(パス)が機械から真っ直ぐに伸び、護衛独還姫の自我へと接続する。これで日下部まで形而上の世界で繋がったことになる。

だが翔鶴は、そこで止まらなかった。

 

「川内。あなた、今なんでもするって言ったわね?」

「言った……けど……え!?」

不意に川内の視界がぼやける。目の前に広がる光景が切り替わっていく。

翔鶴は携行型MM機関からもうひとつ経路(パス)を伸ばし、通常であれば自身に繋ぐべきそれを、代わりに川内へと接続したのだ。

 

「大切な人のことは、あなた自身の手で守りなさい。それができなかった私の分まで」

翔鶴の引き結んだ唇に穏やかな笑みが浮かぶのを見届けながら、川内の意識は闇へと沈んでいった。

 


 

バネが張力を発揮するかのように、倒れていた日下部はがばっと上半身を起こした。

 

「提督! 気が付いたのですか!?」

驚いて大淀は日下部に駆け寄る。

MM機関の前から動けずにいる明石も、首だけを日下部の方へと向けた。

 

「お前はうちの大淀、だよな」

「……? はい、そうですが」

きょとんとした表情で大淀が答えた瞬間、日下部は今自分が何をすべきかを思い出す。

翔鶴、川内、そして「あいつ」が必死に繋いでくれた状況だ。無駄にするわけにはいかない。

 

「明石、MM機関は! 経路(パス)の接続はどうなっている?」

「バッチリです! 川内の指示通り、接続を死守してますよ!」

「よくやった!」

日下部は自分の目の前にある、母艦設置のMM機関の操作盤を叩く。

再度意識を形而上の世界へと移行させ、今度こそ護衛独還姫の中にいる神鷹の自我と対面する。

 

「マタ、シズムンダ……コノヨルニ……クライ、クライ、ウミノナカヘ……ヤダナ……」

「神鷹。私もたった今、闇へ沈むところを救われた! 我々は互いに別の存在だからこそ、助けあえる。私は全力で手を伸ばす! けれども最後は、お前自身の意志がなければ還れない!」

祖国に還りたい、という彼女の願いにすぐに応えてやるわけにはいかない。

だがそれでも、高次AIが作り出した肉の檻から解放してやることならできるはずだ。

 

「お前の還るべき場所は、お前の生まれたこの物質世界だ! 汝の意志するところを為せ、神鷹!」

「この手は? あたたかい……! あぁ、あかるい……明るい海、空……。提督…私……!」

伸ばした手を、神鷹はしっかりと握り返した。

日下部は自らの生産できる想念力の限りをもって、その形而上の自我を引き寄せる。

 

「提督。ありがとう、ございます……」

薄い金髪に白い肌、透き通るような蒼い瞳。

ドイツ客船・シャルンホルストとして生まれ、戦争の運命に翻弄されて日本の軽空母・神鷹となった彼女は、その前世の経歴に相応しい容姿をしていた。

 

「おかえり、神鷹」

ぎゅっとその身体を抱きしめると、雪のような肌に微かに朱が差したような気がした。




※秋イベE1-2です(ただし実際にはこの時点では「秋イベ」として始まる前でした)。
ちなみにクリア難易度は甲でした。
日下部が意識を失っている間に何が起きていたかは、次の話でやります。

別に護衛独還姫を倒しても突破報酬で神鷹が貰えたりはしなかったのですが、初回撃破の際にランダムドロップとして神鷹が着任したので、本文中に書いた通り「中身がいた」ことにしました。
ただこの時、神鷹はオクトーバーフェスmode(人気の高いディアンドルを着たもの)でした。
シリアスな話を展開したにも関わらず、最後に両手にビールを持った神鷹のグラフィックがどどーんと表示されたのは、ツイッターでリアルタイムで見て下さった方はさぞかしシュールに思ったことと思います()

空母の頭の良さについて。
完全に本作の独自解釈です。そもそも艦これ本編では、おそらく「妖精には自我があります」。実艦でも搭乗員には(当然ながら)自我があったわけですから、そちらの方がより自然ではあります。
空母以外の艦娘ですと、大淀鳥海霧島辺りの眼鏡組は普通に頭が良い設定です。高知能を発揮した結果「物理で殴る」という結論に達することも多いかとは思いますが。
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