百合ゲー世界に転生したらなんかちょっと思ってたのと違った件について 作:アークフィア
「よーし、紡ぎ手ちゃんを加えたところで、台本作成やってくどー!」
「おー!」
紡ぎ手ちゃんが 加わった!(ファンファーレ)
……というわけで、いい加減に文芸部の本懐かつ目標である、演劇祭向けの台本製作に入っていこうと思う。
そういえば部員数が五人になったから、一応部活として認められる状態にはあるんだよね。
演劇祭自体もこなさなきゃいけないのは変わらないから、やることはあんまり変わんないんだけどね。
なお、紡ぎ手ちゃんは原作通りプロット担当になった。
……いや、私としては最後のまとめの部分をお願いしたかったのだけれど、「
なので、最終的な執筆部分は私が行うことになったのだった。
「それで、具体的にはどんな話にするつもりなの?」
「さっき紡ぎ手ちゃんの作品を読ませてもらって決心が付いたよ。我が文芸研究会は勇者と魔王の恋物語で行く。今の流行りがなんぼのもんじゃ―い!」
「おお、先輩が燃え上がってます!やりましたねつむちゃん!」
「
そして、悩んでいた題材部分も解決した。
……あんな濃厚なラブストーリー見せられたら、自分も発奮するしかないじゃない!
なので、当初の予定通り勇者と魔王の恋物語で行くことにした。
……いや、あれだね。私は常々ゆりゆりしたいって言ってるけれど。男女の恋愛のやきもき感も好きだったなぁと思い出したのだ。……あ、見るほうね、見るほう。
そうして自分の中に溢れたパトスを形にしたいなという思いが、紡ぎ手ちゃんの創作を見ることによって発露したわけだ。
「まぁ、確かにアレを見てしまうとなぁ」
「刺激された創作意欲の方向性が、ある程度補正されてしまう……と言うのもわからないでもない名作だったものね」
「
「あ、つむちゃんが凄く照れてます!」
「
……男女の恋愛もいいなぁって言ってる人の前で女の子同士でてぇてぇするの止めない?決心が揺らぐんだけども。
珍しく副音声側に寄った感じの照れを見せながら、後輩ちゃんから逃げる紡ぎ手ちゃんを見つつ、私は小さくぼやくのだった。
「……ふむ、ここはこうした方がいい、かな」
「
「あ、はい。そこに置いといてくれる?」
「
カリカリと原稿用紙に文章を書き込む音が部室内に響く。
ふと視線を室内に巡らせれば、みんなが思い思いに作業を進める姿が見えた。
「……ロケーションの資料があれば便利、かしらね」
転校生ちゃんはパソコンに向き合ってなにやら検索をしている。……呟かれた言葉から察するに、風景などを中心に画像類を集めているようだ。
確かに、実際に背景設定があると、描写するときに楽になるよね。
逆にそれがないと構図を脳内で考えないといけなくなるから、調子が悪いときにやるといつの間にか人がテレポートしてたりして、後から読み直して「あれ?」ってなることもあったり。
みんなも行きあたりばったりに書くのはやめようね!……いやみんなって誰さ?
「幼馴染みさん、今日はおやつどっちにしますか?」
「んー、今日は緑茶にするつもりなんだが……和菓子とかあるか?」
「それでしたら、栗羊羹がありますよ!」
「じゃああわせて茶でも点てるか」
「……?!幼馴染みさん、それ家庭的スキルの範疇なんですか!?」
「……え?違うのか?」
後輩ちゃんと幼馴染みは、今日のおやつの相談をしているらしい。
……なんか同胞の謎スキルがまた開示されてない?
いや、お茶を点てるのって一応そこまで難しいものではないらしいけど。
……それでも、茶道部でもないのにお茶の点て方を覚えてるっていうのは、なんというか家庭的なスキルに対しての、同胞の謎のこだわりが見えるような……。
い、いや、難しく考えるのはやめよう。今日は栗羊羹だやったー!……と喜びつつ観察に戻る。
「
「あー、えっと。なんでもないよ、なんでも」
そうして視線を移した先にいる、机に戻ったばかりの紡ぎ手ちゃんは、さっきの箇所とは違う場面のプロット作成に着手していたようだった。……のだが。
こちらに観察されていることに気付くと、顔をほんのり赤く染めながら、照れるようにこちらをチラチラ見返してくるのだった。
……中二キャラになってもそういう可愛さは変わらないんだね、とにっこり。正直見てるとすっごい癒される。
だからいつまでも観察していたい気分なんだけど、そうするとなんにも進まないので、涙を飲んで執筆作業に戻る。……つもりだったのだけれど。
「
「ん?どしたの紡ぎ手ちゃん?」
さっきまで観察していた紡ぎ手ちゃんのほうから声を掛けられて、ボールペンを持った右手をそのまま下ろした。
はて、なにか急を要する用なことでもあったのだろうか?例えば設定に破綻があったとか。
……行きあたりばったり……思いつき進行……う、頭が!?
「
「……あー、わざわざ原稿用紙に書いてることが気になった、と?」
「
そうして聞かれたのは、何故原稿用紙を使うのかということについてだった。
確かに、私の机にもパソコンは置いてある。
使ったほうが便利なのに、文明の利器を使わない理由なんてあるのか?……という疑問が浮かぶのも、ある意味当然だと言える。
……まぁ、別に大したことじゃないんだけど、と前置きして理由を説明する私。
「単純に、紙に物を書くのが好きなんだよね。カリカリ音をさせながら物を書いてると、なんとなく気分が上向くというか」
「
「そうそう、創作は基本的に気分に左右されるものだからね。辛い時になにかを作ろうとしても、同じように辛いものしか生まれないよ」
まあ、自分を追い込んだほうが良いものが作れるという人もいるから、これはあくまでも私がそう思う、っていう以上の意味はないんだけども。
楽しいときに辛いものを書ける人とか、苦しいときに楽しいものを書ける人とか、書き手によってベストコンディションが違う、なんてことも普通にあるだろうし。
──私にとってのベストコンディションに、上手くあわせるための一工程。だから、大した理由じゃないんだけどと前置きしたのだった。
……まぁ、未だにパソコンの操作にいまいち慣れてない、っていうのも理由の一つにはあるんだけどね!多分キーボードで文字打つより、スマホでフリック入力するほうが早いよ私?
いやはや、初めて触った時は絶対テンキーのが楽だよ、とか思っていたものだけど、今じゃフリック入力より楽な入力とかあるの?って感じだから慣れって恐ろしい。
時代が進めば「フリック入力とか古い古い」みたいなことを言い出す日もくるのかも知れないけど、その時私は、加速し続ける世界についていけるだろうか……なんて、よくわからないアンニュイな気分に浸っていたところ、紡ぎ手ちゃんから衝撃的な言葉が飛び出した。
「
「……ガラケー知らない世代だった」
紡ぎ手ちゃんの言葉に、思わす愕然とする私。
そう言えばそうか、今の時代の子だとテンキーなんてパソコンでしか見たこと無いのか……。
というか場合によっては、テンキーがないパソコンしか使ったことがない、みたいな人がいる可能性もあるのか……。
流石に死語にはならないだろうけど、デジタルネイティブには色んなものが通じなくなるんやね……、と余計にアンニュイな気分になる私なのだった。
「栗羊羹うまうま」
「おい、幸せそうに食うのはいいが、口元にあんこくっついてんぞ」
「うむ?同胞ー、拭いてー」
「ガキみたいなこというなよ……。ほれ」
待望のおやつタイム!
宣言通りに今日のおやつは栗羊羹とお抹茶だった。
……抹茶のほうも宣言通りに同胞が点ててたんだけど、メイド服のままやるものだから、なんというかミスマッチ感がすごかった。……いや、場所が茶の間じゃないだけマシかな……?
なお、抹茶そのものは結構なお点前でした。
……関係ないけど、ちゃんとしたお茶会だと「結構なお点前で」なんて言わないらしいね?茶の間の侘び寂びとかは詳しくないんで、又聞きでしかないんだけど。
なんて風におやつタイムを楽しんでいたところ、幼馴染みから口元にあんこが付いてると指摘が飛んできた。……試しに拭いてと頼んでみたら呆れられた、解せぬ。
まぁ、そんなこと言いつつもしっかり拭いてくれるあたり、流石同胞だなって感じだけどね!
……なんか周囲から生暖かい目で見られてるんですけど、なんなんですかこれ?
「いえ、別に?ねぇ後輩ちゃん?」
「はい!特になにかがあるわけではありませんよ?」
「
周囲の三人に聞いてみたところ、みんな黙秘を選択していく。……紡ぎ手ちゃんだけ可愛いかよ?
ん?黙秘が三人?……来るぞ同胞!
……なにが来るんだよと冷静に返されてしまった。んー、三人だから……色彩を束ねる者とか?
「禁止カードでジャッジキルだな。この羊羹は没収されます」
「なして?!使ったん私ちゃうやん、向こうやん!?」
「半端な気持ちで決闘の世界を持ち出したお前が悪い」
「……こんなんじゃ満足できひん……」
謎の冤罪により没収された羊羹を眺めつつ、甲子園のグラウンドで完敗を喫した球児のような面持ちで悔しがる私。
そこに、一つの救いの手が差し伸べられる。あ、貴方は……!?
「どうしたのよ、あの頃の貴方はもっと輝いていたわよ」
「転校生!お前だったのか!」
「私のことは謎の
「みんなには内緒なんですか?秘密でエックスしちゃいますか?」
「
唐突にみんな大好き転校生ちゃんにメタモルったけど、なんかそのまま自分以外の転校生を吹っ飛ばしそうな存在にさらにメタモる転校生ちゃん。
……いや、周囲が勝手に変化させたような気がしないでもないけども。
それにしても、話題が飛び地と化しても拾ってくれるあたり、みんなノリがいいと言うかよく知ってるなぁというか。
……いや、そういう話題を振ってる私が言うべきではないかもだけどネ?
「
「……同胞!同胞!すっごい真面目に返されちゃったんだけどどうすれば!?」
「俺に振るな、と」
文学少女らしい意見を返された私は、思わず自身の所作を正してしまうのだった。